河川の水文・水理資料が十分に得られれば、基本高水を決定しなければいけません。基本高水は人工的な施設で流量調節が行われていない状態、言い換えると流域に降った降雨がそのまま河川に流出した場合の河川流量を表しており、ハイドログラフによって描かれます。
基本高水を大きく設定すれば、それだけ河川の水害に対する安全度は高まることになります。しかし、その分事業費が必要であり、公共事業の性質上好ましくありません。逆に、基本高水を小さく設定すれば、事業費は抑えられますが、頻繁に水害に襲われるようになります。そこで、水害が発生する可能性を考慮した確率年がよく利用されます。例えば、確率年100年は100年に1度の確率で起こる降雨を意味しており、超過確率は1%、非超過確率は99%となります。
我々が観測で得られる情報は母集団の中から無作為抽出された一部の情報に過ぎないため、ある確率密度関数に従っていると考えることができます。一般的な確率密度関数としては正規分布(ガウス関数により表された確率分布)が挙げられます。正規分布は左右対称な分布であり、次式によって表されます。
このとき、σは標準偏差、μは平均値です。
しかし、降雨や流量などの水文量は左右対称な正規分布よりも、非対称な確率分布に従うことが多いです。代表的なものとしては、対数正規分布、Gumble分布、一般極値分布(GEV)などがあり、対数正規分布は次式によって表されます。ちなみに、正規分布は誤差について考えるときに使用されます。
また、超過確率と非超過確率は次式によって求めることができます。
このとき、F(x)は非超過確率、W(x)は超過確率です。
データから超過確率または非超過確率を求める手法は様々提案されています。有名なものとしては対数正規分布を利用した岩井法、一般極値分布のL積率法などがあります。ここでは、手間がかからず、直感的で分かりやすい図式解法と岩井法について述べていきます。
①図式解法
図式解法は降水量のデータを小さい順に並べ、i番目のデータにおける非超過確率を次式から求めていきます。
②岩井法
岩井法は確率年を求めるときに広く用いられている方法であり、次式によって確率密度関数、非超過確率が表されます。
このとき、xsは降雨量を大きい順に並べた値 [mm]、xtは降雨量を小さい順に並べた値 [mm] です。
では、例題を1問解いていきます。
例題1:下表のような降雨量のデータがあるとき、降雨量が200 [mm] のときの確率年を図式解法と岩井法を用いて求めよ。
まずは、図式解法から求めていきます。降雨量の値を小さい順に並べて非超過確率を求めていくのですが、計算が簡単なため、今回はワイブル、ハーゼン、カナンによる計算結果を下表にまとめておきます。
次に、降雨量を横軸、非超過確率を縦軸に両対数グラフにプロットしていきます。このグラフから降雨量300 [mm] のときの確率年を求めます。
グラフから読み取ると非超過確率が約90%ほどであることが分かります。従って、確率年は以下のように計算できます。
では、岩井法からも非超過確率を求めていきます。まずは、定数x0を求めていきます。
次に、定数βを求めていきます。
このとき、雨量のデータ数の10%を定数βの算出に用います。今回データ数は20個なので、定数βの算出に用いるデータ数は2個となります。2個のデータは番号の小さいところから選んでいくのですが、定数βの負値は負の雨量を意味するためにありえない値であり、データから除く必要があります。従って、定数βの算出に用いる値は番号4、5となります。
さらに、定数βが求まりましたので、定数αを計算していきます。
計算の結果、ξの式は次のようになります。このξの値から確立年を求めることができます。
では、降雨量200 [mm] のときの確率年を求めていきます。
従って、図式解法、岩井法ともに確率年は10年であることが分かりました。
まとめとして、水害の発生確率の単位としてを確率年があります。降雨や流量などの水文量は非対称な確率分布(対数正規分布、Gumble分布、一般極値分布(GEV)など)に従うことが多いため、確率年の算出には非対称な確率分布が使用されます。確率年の計算手法としては、古典的な図式解法、対数正規分布を利用した岩井法、一般極値分布のL積率法などがあります。