河床変動は断面間の流砂の不均衡によって引き起こされ、大規模河床変動、中規模河床変動、小規模河床変動の三つに大別されます。
①大規模河床変動
大規模河床において河床が上昇するときの要因としては、表面侵食、山崩れ、地すべり、土石流、ダム堆砂などがあります。ダム堆砂はダム建設によって貯水池内に土砂が堆積し、その結果上流域の河床を上昇させる現象をいいます。このダム堆砂は世界的にも問題となっており、様々な対策がとられています。河床が減少する要因としては、ダム建設による下流域への土砂供給の遮断、川砂利・川砂の採取が挙げられます。日本の河川の90%以上が河床低下傾向にあるため、現在は川砂利・川砂の採取が規制されています。ちなみに、採取した川砂利・川砂はコンクリートの粗骨材・細骨材として使用されていました。
大規模河床変動の計算には、一般に一次元解析法が用いられます。この方法は河床変動を長期間かつ広範囲にわたって予測する際に有効となります。また、河床砂の粒径は一様としています。
このとき、λは砂の空隙率、oは下流側、iは上流側です。
砂の空隙率は一般的に0.4の値が使用されます。掃流砂による河床変動の式は次式によって表されます。
また、浮遊砂による河床変動の式は次式によって表されます。
このとき、Cは浮上砂濃度です。
②中規模河床変動
中規模河床の形態には交互砂州、複列砂州があり、河川幅と水深によってある程度決定されます。河川幅水深比が10以下の場合は砂州は発生せず、10〜20程度になると交互砂州が形成され始めます。形成された交互砂州は50年から150年ほどかけて移動しており、段落ち部(落差工)があっても途切れることなく移動します。
一方、河川の湾曲部で停止することがあります。砂州を停止することができれば、河川の維持管理はしやすくなります。三輪・木下の調べによると、流路の蛇行角度が20°付近で交互砂州が停止するようです。
河川幅水深比が70〜100と大きくなると複列砂州が発生するようになります。また、100を超えると規則的な形状を持たない複雑なうろこ状砂州(複列砂州の一種)が現れてきます。
実河川における複列砂州の河川幅水深比は非常に有用なのですが、室内実験における複列砂州の河川幅水深比はあまり意味をもちません。同じ河川幅水深比を与えて実験しても時間経過に従って次第に単列砂州になるからです。そのため、河川幅水深比に代わる新しい定義として、以下のものが提唱されています。
このとき、lは砂州の波長 [m]、Zは砂州の波高 [m] です。
③小規模河床変動
小規模河床は河床波(底に形づくられる砂礫の波)によって分類することができ、低水流領域(ロワーレジーム:流速が小さくフルード数が0.8以下の領域)と高水流領域(アッパーレジーム:流速が大きくフルード数が1.0以上の領域)に大別されます。
低水流領域は砂漣(リップル)と砂堆(デューン)に分けられます。砂漣は河床波の波高と波長が砂粒子の大きさによって決まり、波高は数mmから数cm、波長は数cm程度になります。一般的に、砂漣の波長は砂粒径の500〜1500倍、波高は30倍〜150倍程度の値になることが知られています。
一方、砂堆は河床波の波高と波長が水深の大きさによって決まり、河床形状と水面形状が逆位相となります。一般的に、砂堆の波長は水深の4〜10倍、波高は0.1倍〜0.5倍になることが知られています。また、河床波の上流側で侵食、下流側で堆積するため、河床波の形成は緩やかに下流側へ進行します。
ちなみに、粒子レイノルズ数が20以下で砂漣、20以上で砂堆になるともいわれています。
このとき、Lは河床波の波長 [m]、Hは河床波の波高 [m] です。
高水流領域は平坦河床と反砂堆(アンチデューン)に分けられます。平坦河床は流速が大きくなり、河床波の波高が低くなることにより平坦になった状態です。
反砂堆は砂堆と同様に、河床波の波高と波長が水深の大きさによって決まるのですが、河床形状と水面形状は同位相となります。また、その河床形状はsin曲線に近くなります。河床波の形成は下流側に進行するときもあれば、上流側に進行するときもあります。ただし、ほとんどの場合においては河床波の上流側で堆積、下流側で侵食するため、緩やかに上流側に進行します。このとき、砂粒子は下流へ移動し続けていますので、注意して下さい。
河床波による流水抵抗は、①粘性によるもの、②河床砂の凹凸によるもの、③河床波の形状によるものの三つに分けられ、①と②を合わせて摩擦抵抗、③を形状抵抗と呼びます。また、この抵抗力は作用反作用の法則から掃流力で表すことができ、次式で表されます。
このとき、τ0は掃流力 [N/m2]、τ'は有効掃流力(摩擦抵抗) [N/m2]、τdは形状抵抗 [N/m2] です。
河床波の種類による抵抗力を表したのが下図であり、砂堆が形成されると形状抵抗が大きく、平坦河床や反砂堆が形成されると形状抵抗が小さくなることが分かります。
では、例題を1問解いていきます。
例題1:下図のような勾配をもつ河川幅100 [m] の長方形河川に流量1000 [m3/s] が流下しているとき、断面②の砂粒子による河床変動量を求めよ。ただし、掃流砂の粒径は1.0 [cm]、浮遊砂の粒径は0.1 [cm]、砂粒子の水中比重は1.65、マニングの粗度係数は0.02、水の動粘性係数は1.0×10-6 [m2/s]、砂の空隙率は0.4、⊿tは600 [s] とする。また、不等流ではあるがi b≒ ie ≒ I と近似してよいものとし、下流端水深は等流水深として計算せよ。
まずは、下流側水深を求めた後に、逐次計算により他の水深も求めます。ここでは、計算結果のみを書いておきます。
次に、掃流力と摩擦速度を計算していきます。
掃流砂の河床変動から求めていきます。限界摩擦速度を岩垣式から求め、掃流砂が流送されるか確認します。
また、最終沈降速度から掃流砂領域に入っているかの確認を行います。
さらに、無次元掃流力と無次元限界掃流力を求め、掃流砂量を計算します。
では、掃流砂による河床変動量を計算します。
続いて、浮遊砂による河床変動を求めていきます。掃流砂と同様に限界摩擦速度から求めていくのですが、単位は [cm] で計算していきます。これは浮上砂量の式が近似式であり、[cm] しか使用できないことが原因です。
また、最終沈降速度から浮遊砂領域に入っているかの確認を行います。
次に、無次元掃流力を求め、浮上砂量を近似式から計算します。
では、浮上砂濃度を求め、浮上砂(浮遊砂)による河床変動量を計算します。このとき、上流側の浮上砂濃度は浮上砂量を最終沈降速度で割ることにより求めます。
まとめとして、河床変動には大規模河床変動、中規模河床変動、小規模河床変動の三つがあります。大規模河床変動は表面侵食、山崩れ、地すべり、土石流、ダム堆砂などが原因であり、掃流砂と浮遊砂に分けて計算することができます。中規模河床変動は砂州が主な原因であり、砂州は交互砂州と複列砂州に分類されます。小規模河床変動は河床波が原因であり、河床波は低水流領域(砂漣、砂堆)と高水流領域(平坦河床、反砂堆)に分けられます。