浮遊砂は鉛直方向の上昇流によって河床近傍から離脱していきます。このとき、流れの上昇速度と砂粒子の沈降速度の関係が砂粒子の浮遊条件を決める重要なパラメーターとなります。砂粒子の沈降速度は静水中を沈降するときの最終沈降速度で表されます。これは、沈降する砂粒子の重力と周りの流体の抵抗力が釣り合うときの速度であり、砂粒子を球体とみなしたときの式は次のようになります。
このとき、wfは最終沈降速度 [m/s]、CDは球の抗力係数です。
また、レイノルズ数が1より小さい場合、球の抗力係数はストークスの式から次式によって表されます。
このとき、νは動粘性係数 [m2/s] です。
レイノルズ数が1以上になる場合は繰り返し計算により最終沈降速度を求めることになるのですが、いくつかの実用公式も提案されています。その一つにルビーの実験式があります。
上方への砂粒子の移動速度は摩擦速度に比例するといわれており、次の関係が理論的・実験的に確認されています。
このとき、usは砂粒子の移動速度 [m/s] です。
その結果、浮遊・沈降条件も計算することができます。
従って、掃流砂と浮遊砂の領域は次のようにまとめることができます。
浮遊砂量は浮遊砂濃度と速度があれば求めることができます。
このとき、qsは浮遊砂量 [m2/s]、Cは浮遊砂濃度、bは基準点濃度の高さ [m] です。
浮遊砂量は浮遊砂濃度と基準点濃度の高さの算定の出し方が問題となってきます。一般的に基準点濃度の高さは水深の5%すなわち0.05hが採用されています。一方、浮遊砂濃度は水深方向の拡散方程式から求めることができます。
このとき、Dは拡散係数です。
では、拡散方程式を積分していきます。
ここで、河床上の濃度を基準点濃度と考えれば、積分定数は基準点濃度となり、浮遊砂濃度は次式によって表されます。
このとき、Cbは基準点濃度です。
ラウスは流速分布を粗面乱流の対数則と仮定し、拡散係数に渦動粘性係数を用いました。また、渦動粘性係数を一定と考えると、次のように式変形できます。
このとき、εは渦動粘性係数 [m2/s]、κはカルマン定数です。
基準点濃度を表す式としては板倉の式があります。また、基準点濃度から求められる浮遊砂量を浮上砂量といい、次式で求められます。
このとき、qsuは浮上砂量 [m/s] です。
この二つの式を合わせると次のようになります。
上式を解くためには次の式も計算する必要があります。
この式を解くのは時間がかかるため、近似式を使用する場合が多いです。
では、例題を1問解いていきます。
例題1:砂粒子の粒径を1.0 [mm]、無次元掃流力を5.0としたときの浮上砂量を理論式と近似式で求めよ。ただし、砂粒子の水中比重は1.65、動粘性係数は0.01 [cm2/s] とする。
まずは、ルビーの実験式から最終沈降速度を求めていきます。このとき、掃流砂領域にある場合は浮上砂量は0とします。
計算の結果、浮遊砂領域にあることが分かりました。次に、無次元限界掃流力を求めていきます。このとき、無次元限界掃流力が無次元掃流力より大きければ、砂粒子は流送されないので浮上砂量を0とします。
計算に必要な諸量を求めていきます。
このとき、a'が負の値となっているので、Xは1から引いてあげる必要があります。では、浮上砂量を求めていきます。浮上砂量が負の値になった場合は0とします。
同様に、近似式を使って浮上砂量を求めていきます。
まとめとして、浮遊砂の移動の有無は摩擦速度と最終沈降速度によって判別できます。また、浮遊砂量を求めるためには浮遊砂濃度が必要であり、浮遊砂濃度を求めるためには基準点濃度が必要となってきます。また、基準点濃度から求められる浮遊砂量を浮上砂量といいます。