侵食や崩壊、土石流などによって河川に供給された土砂は河川の流れによって運搬されていきます。これを流砂といいます。流砂は移動と堆積を繰り返しながら流送されるベッドマテリアルロードと微細な粒子が河川水と混合して流送されるウォッシュロードに分かれます。さらに、ベッドマテリアルロードは輸送方法の違いから掃流砂と浮遊砂に分けて取り扱われます。掃流砂は河床の近傍で移動する砂粒子のことであり、運動形態として滑動、転動、躍動があります。一方、浮遊砂は河床から離れたところで水中を浮流しながら流下する細かい砂粒子のことであり、流れが弱くなると浮遊砂は河床に堆積します。また、流れが強くなれば再び浮遊します。
掃流砂の限界状態は砂粒子に働く力(流体力)と抵抗力が釣り合っているときに起きます。これらを式で表すと次のようになります。
このとき、CDは粒子の抗力係数、vaは粒子近傍の代表流速 [m/s] です。
しかし、粒子の抗力係数と粒子近傍の代表流速は値を求めるのが面倒であるため、現在は摩擦速度を使って限界状態の判別が行われています。摩擦速度および限界摩擦速度は次式によって表されます。
このとき、u*は摩擦速度 [m/s]、τ0は掃流力(壁面のせん断応力) [N/m2]、u*cは限界摩擦速度 [m/s]、τcは限界せん断応力 [N/m2] です。
従って、砂粒子が移動するかどうかは次の不等式によって判別できます。
また、せん断応力と限界せん断応力を無次元化したものを無次元掃流力(無次元せん断応力)、無次元限界掃流力(無次元限界せん断応力)といい、次式で表されます。
このとき、sは砂粒子の水中比重、τ*は無次元掃流力、τ*cは無次元限界掃流力です。
シールズは摩擦速度から求めたレイノルズ数(粒子レイノルズ数)と無次元掃流力に関係式が成り立つと考えました。その結果、下図のような関係式が得られ、この式をシールズ曲線といいます。また、岩垣は理論的に導いたシールズ曲線を5分割に分け、それぞれを近似式で表しました。これを岩垣式といいます。
その他にも様々な研究者が実験的、理論的に研究を進めてきましたが、現在は岩垣式が最もよいとされています。砂粒子の水中比重を1.65、動粘性係数を0.01 [cm2/s]、重力加速度を980 [cm/s2] として岩垣式を限界摩擦速度に書き表すと次のようになります。ちなみに、dの単位は [cm] です。大半の河川では0.3030≦dとなります。
掃流力が限界掃流力を超えると、河床の砂粒子は移動を始めます。単位時間あたりの掃流砂の容積を掃流砂量といい、実験結果に基づいた解析の試みが行われています。現在は、ブラウンの式、芦田・道上の式、土研式、マイヤーピーター・ミューラーの式、アインシュタインの式と様々な公式が提案されていますが、いずれも経験による定数を多く含んでおり、推定値と実測値は必ずしも一致しません。ここでは、ブラウンの式、芦田・道上の式、土研式、マイヤーピーター・ミューラーの式について説明しておきます。
ブラウンの式は次式によって表されます。
芦田・道長の式は次式によって表されます。
土研式は次式のように関数を含んだ式なのですが、近似することにより実務レベルでも使用することが可能となります。
マイヤーピーター・ミューラーの式は無次元有効掃流力を求める必要があります。河床波(底に形づくられる砂礫の波)がある場合の抵抗は摩擦抵抗と形状抵抗に分けることができ、有効掃流力は砂粒子の摩擦抵抗を表しています。従って、河床波がない場合はτ*'=τ*となります。
このとき、τ*'は無次元有効掃流力、nbは砂粒子の抵抗を表す粗度係数(ストリクラーの粗度係数)です。
ちなみに、通常の流れでは理論的な対数流速公式としてマニング-ストリクラーの式があり、この式を変形することによりマニングの粗度係数との関連性が見えてきます。
このとき、kは相当粗度 [m] です。
では、例題を1問解いていきます。
例題1:河川幅 200 [m]、河床勾配 1/1000の広幅長方形断面水路に流量 500 [m3/s] が等流状態で流下しているときの無次元掃流力、無次元限界掃流力を求め、河床砂が移動するか判別せよ。ただし、粒径は1 [cm]、砂粒子の水中比重は1.65、マニングの粗度係数は0.02とする。また、河床砂が移動する場合は粒径がどのくらいの大きさであれば移動しないか、流量がどのくらいであれば移動しないかを確認せよ。最後に、マイヤーピーター・ミューラーの式を使って全掃流砂量を求めよ。
まずは、等流水深、掃流力、摩擦速度を求めていきます。
次に、岩垣式を使って限界摩擦速度を求めていきます。このとき、使用する式は0.3030 < dとなります。また、摩擦速度と限界摩擦速度が分かるので、砂粒子の移動の判定も行います。
計算の結果、河床砂は移動することが分かりました。さらに、無次元掃流力と無次元限界掃流力を求めていきます。
では、粒径がどのくらいの大きさであれば砂粒子が移動しないかを確認していきます。このとき、u*cがu*より大きくなれば移動しないことを利用して岩垣式から求めます。
同様に、流量がどのくらいであれば砂粒子が移動しないかを確認していきます。このとき、u*がu*cより小さくなれば移動しないことを利用して求めます。
最後に、マイヤーピーター・ミューラーの式から全掃流砂量を求めます。
まとめとして、掃流砂の移動の有無は摩擦速度と限界摩擦速度によって判別でき、摩擦限界速度は岩垣式から求まります。また、掃流砂量を求める式にはブラウンの式、芦田・道上の式、土研式、マイヤーピーター・ミューラーの式と様々な式がありますが、いずれも無次元掃流力と無次元限界掃流力が必要となります。