河川の移動現象は生産、運搬、堆積の要素からなります。土砂の生産は裸地斜面の侵食(表面侵食)、山崩れ、地すべり、土石流などによって行われ、河川の流れに伴って土砂は流送されます。流送された土砂量が河川の土砂運搬能力を超える場合には土砂の一部が河川に堆積し、河床や河岸の材料となって河川を構成していきます。
表面侵食が発達するのは主に樹木や植生によって被覆されていない急傾斜の裸地斜面となります。裸地斜面に落下した雨は一部が地下水、残りが表面流となって土粒子を地表面から剥離させます。この土粒子の剥離・運搬の現象と面上侵食と呼びます。また、面上侵食が発達すると、リル(細溝)と呼ばれる小さな流路を形成し始めます。さらにリルが発達すると、ガリ(雨裂)と呼ばれる大きな流路を形成します。このリルやガリによる侵食を流路侵食といい、面上侵食と比べて侵食の範囲が著しく大きいのが特徴です。このように面上侵食や流路侵食による表面侵食は降雨強度、斜面勾配、土粒子、植生などと密接な関係があり、侵食量は経験則によって次式で表されます。
このとき、Eは侵食土砂量 [kg/(m2・s)]、CAは被覆されていない斜面の割合、fは流出係数、rは降雨強度 [mm/h]、Lは斜面長 [m]、Iは斜面勾配、dは土粒子の粒径 [mm]、CEは侵食形態による係数で面上侵食は1、リルによる侵食は5、ガリによる侵食は10となります。
山崩れは降雨に伴う浸透流によって比較的短時間に急な斜面上の土塊が崩れ落ちる現象です。その発生は突発的であり、崩壊した土砂の移動速度も大きいです。また、風化した地盤であれば土質に関係なく生じます。一方、地すべりは傾斜角が5°から20°の比較的緩やかな斜面上で、特定の土層が長い時間をかけてゆっくりと活動する現象です。粘土層をすべり面として小規模な滑落を断続的に繰り返しながら発達する場合が多いです。
山崩れや地すべりをその規模によって分類すると、表層崩壊と深層崩壊に分けることができます。表層崩壊や深層崩壊に明確な定義はないのですが、表層崩壊は崩壊深さが1〜2 [m] 程度、生産土砂量は10〜103 [m3] の場合が多く、深層崩壊は崩壊深さが2 [m] 以上、生産土砂量は106 [m3] 以上の場合が多いです。
急斜面にある砂礫や火山噴出物の堆積層は衝撃によって粒子間力が破壊されやすい状態にあります。ここに雨が供給され表面流や浸透流が生じると、堆積物と水が一種の流体と流れ始めます。この現象を土石流といいます。土石流は組成から、シルト・粘土・火山灰などの微細粒子を含んだ泥流型と大きな砂礫を含んだ石礫質型の2種類あります。いずれの場合も流動速度は大きく、山崩れや地すべりよりも移動距離は長いです。
下図のような場合において、①堆積層が飽和するまで流動は起こらない、②せん断応力がせん断強さを超えたときに土石流が発生すると仮定したとき、土石流の安全率は次式によって求める事ができます。
このとき、Cは堆積土砂層の体積濃度です。
また、表面流がある場合の安全率は次式によって表されます。
まとめとして、土砂の生産は表面侵食、山崩れ、地すべり、土石流などによって行われます。表面侵食は表面流によって被覆されていない急傾斜の裸地斜面の土粒子が剥離する現象、山崩れと地すべりは浸透流や風化によって土塊が崩落する現象、土石流は表面流や浸透流と堆積物が流体と流れ出す現象です。