高潮は潮汐、台風などの気圧低下による海面の吸い上げ効果、強風による吹き寄せ効果により、潮位が異常に上昇する現象です。潮汐を天文潮、吸い上げ効果および吹き寄せ効果を気象潮といい、高潮は天文潮と気象潮の和によって表されます。そのため、満潮、気圧低下、強風が重なると浸水や冠水などの被害がより大きくなります。ちなみに、満潮と同義語の高潮は「こうちょう」と読み、ここでの高潮は「たかしお」と読みます。異なる現象ですので注意して下さい。
高潮による海面の潮位偏差を時間的変化を示すと、下図のように3段階に分割できることが多いです。最初の段階は台風などの低気圧が陸岸から遠く離れた海上にあることから前駆波と呼ばれます。次の段階が高潮であり、低気圧の中心が通過するとともに潮位が急激に減少します。最後の段階は潮位が振動を伴って減衰するため、揺れ戻しと呼ばれています。振動は長時間かけて減衰するため、長いときは1週間にも及ぶ場合があります。
吸い上げ効果による海面上昇量は、次式によって表されます。式を見ると分かるように、気圧が低下した分だけ海面が上昇します。
このとき、ηpは吸い上げ効果による海面上昇量 [m]、⊿pは気圧差 [hPa] です。
次に、吹き寄せ効果による海面上昇量を求めていきます。そのためにはまず、海面に作用する接線応力と海底に作用する摩擦応力を式にする必要があります。
このとき、τsは海面の接線応力 [N/m2]、τbは海底の摩擦応力 [N/m2]、αとλは定数、ρaは空気の密度 [kg/m3]、Uは風速 [m/s] です。
海底に作用する摩擦応力はよく分かっていないため、海面の接線応力の数倍の値と置きます。では、力の釣り合い式を立てて、式変形を行います。
このとき、ηwは吹き寄せ効果による海面上昇量 [m]、Kは定数 [s2/m]、lは海域の長さ [m]、hは平均水深 [m] です。
また、風の入射角を考慮することにより、吹き寄せ効果による海面上昇量の式が完成します。
上式は一定水深の場合に対する計算式であり、コーディングの公式と呼ばれます。海底面が一定勾配のときは次式のように計算することで、吹き寄せ効果による海面上昇量が求まります。
このとき、sは海底勾配です。
日本各地の高潮による最大海面上昇量を簡便的に計算するために次式の経験式がよく使用されます。
このとき、ηmaxは高潮による最大海面上昇量 [cm]、a、b、cは係数です。
上式の第一項は吸い上げ効果、第二項は吹き寄せ効果、第三項は砕波の効果を表しており、係数aとbは下表の値が用いられます。また、係数cは境で15.4、宮津で-4.8、その他は全て0となります。
前述の方法は簡便で有用な推定法ではありますが、長年の観測データが揃っている特定の地点にしか通用しません。そこで、コンピュータを用いた数値計算による方法があります。これは高潮の基礎方程式を差分方程式に変換し、各地点の潮位と流速をある時間毎に順次計算していく方法です。この方法は時間がかかってしまうため、台風が来襲してきたときの進路予想などには使用できないのが現状です。一方で、高潮対策の基準となっています。
では、例題を1問解いていきます。
例題1:平均水深が10 [m] の湾に、風速20 [m/s] の低気圧が通過するときの海面上昇量を予測せよ。ただし、平均気圧は1,013 [hPa]、低気圧の気圧は1,000 [hPa]、風の入射角は60°、湾長は30 [km] とする。また、海底勾配が1/300のときの海面上昇量も求めよ。このとき、湾口の水深は15 [m]、湾内の水深は5 [m] とする。
まずは、海底勾配が0のときの海面上昇量を求めていきます。
次に、海底勾配が1/300のときの海面上昇量を求めていきます。
まとめとして、高潮は潮汐、吸い上げ効果、吹き寄せ効果により潮位が上昇する現象をいいます。また、日本各地の高潮による最大海面上昇量を簡便的に計算するための経験式が存在します。