海や陸上からの蒸発と植物からの蒸散は雲を形成し、雨や雪となって陸地や海に戻ってきます。陸地に降った雨や雪は表面流(河川など)や地下水となって海へと流れます。その様子は下図のように表され、水循環と呼ばれています。
現在、地球上に存在する水の量は約14億 [km3] あるといわれています。そのうちの約97.5 [%] が海水であり、淡水は約2.5 [%] しかありません。この淡水の大部分は南・北極地域などの氷や氷河として存在しており、地下水や河川、湖沼の水などとして存在する淡水の量は、地球上の水の約0.8 [%] です。さらに、この約0.8 [%] の水のほとんどが地下水として存在し、河川や湖沼などの水として存在する淡水の量は、地球上に存在する水量のわずか0.01 [%]、約0.001億 [km3] にすぎません。人の使用できる水量は非常に限られていることが分かります。
私達は水循環の中にある限られた水量を使って文明を発展させてきました。その中でも河川の恩恵は計りしれず、水産物、農業用水、生態系維持と挙げればきりがありません。一方で、水害に悩まされていたのも事実です。そこで、河川を積極的に活用しつつ、水災害を防ぐ工夫もすることで水と共生する道を選びました。
明治29年には旧河川法が制定され、治水(災害発生の防止または軽減)が行われるようになります。その後、人口増加や高度経済成長による水需要が増加し始め、新河川法が制定されました。新河川法は治水と利水(河川の適正利用および水量の確保)を目的としており、両者の体系的な制度の整備が図られました。また、この頃から水資源開発が積極的に行われるようになります。一方で、河川の人工化も進んでいきました。河川の人工化は生態系に影響を与えるとともに、人を河川から遠ざける一因にもなりました。その結果、1980年代頃になると自然環境の保全・再生を求める声が高まり始めます。河川法の一部が改正され、河川整備の目的として治水、利水に環境保全が加えられました。
この三つが河川整備の三本柱なのですが、それぞれの目的を同時に満足させるのは困難です。治水の安全度や利水の貯水量を上げると環境保全の程度は下がるからです。また、治水の安全度を上げると利水の貯水量が下がる場合もあります。そのため、治水、利水、環境保全が最低限満たされる最適解を探さなければいけません。この最適解は時代背景や社会情勢によって大きく変化することになります。
まとめとして、水が海→雲→雨→河川や地下水→海と回ることを水循環といいます。人は水循環にある少ない水を利用しており、治水、利水、環境保全を目的とした河川整備を行ってきました。