コンクリートの耐久性とは気象作用、化学作用、物理作用などの劣化現象に抵抗し、要求された性能を長期間にわたって発揮する能力のことをいいます。また、コンクリートの耐久性には塩害、凍害、中性化、アルカリ骨材反応、化学的侵食、耐火性・耐熱性、遮蔽性、水密性の8つがあり、複数の劣化現象が複合して進行することも多々あります。ここでは、塩害の劣化現象について説明していきます。
コンクリートは多量の水酸化カルシウムによりpH12以上という高いアルカリ状態に保たれています。これにより鉄筋の周りには不導体被膜という薄い酸化化合物の被膜で覆われており、錆びることがありません。しかし、コンクリート内部に塩化物イオンがあると不動態皮膜が破壊され鉄筋が腐食し始めます。この現象を塩害といいます。塩害は腐食した分だけ鉄筋を膨張させ、コンクリートにひび割れを発生させることでコンクリートの耐久性を低下させます。
塩化物イオンの発生は初期塩分と外来塩分の2つがあります。初期塩分は海砂などの骨材を十分に洗浄しないために残留した塩化物イオンであり、外来塩分は海からの海水飛沫や道路や橋梁の道路が凍結しないように撒いた凍結防止剤(塩化カルシウムなど)に含まれる塩化物イオンがほとんどです。
塩害を防ぐ方法としては、水セメント比を小さくする、高炉セメントを使用する、鉄筋に防錆加工を施す、鉄筋までのかぶり厚さを大きくする、水や酸素、塩化物イオンが供給されないようにするなどが挙げられます。また、塩害を受ける鉄筋コンクリート構造物の状態は5つに分けられており、劣化状態と劣化の進行度の関係性は以下のように示されています。
また、塩害によるコンクリートの補修工法としては、脱塩工法、電気防食工法が一般的に用いられます。
脱塩工法は塩化物イオンをコンクリート外部へ除去する工法であり、コンクリート表面に陽極材と電解質溶液を設置し、陽極からコンクリート中の鉄筋(陰極)へ直流電流を流すことによってコンクリート中の塩化物イオンを外部の陽極側へ電気泳動させ、コンクリート内部の塩化物イオン量を低下させます。また、脱塩を行うための電流量は通常1 [A/m2] 程度で、約8週間の通電を行うのが一般的です。
電気防食工法は鉄筋の腐食が著しいときに継続的な通電を行うことによってコンクリート中の鉄筋の腐食反応を電気化学的に制御し、劣化の進行を抑制する工法です。脱塩工法と同様に、陽極材を設置し、陽極材からコンクリート中の鉄筋(陰極)へ継続的に直流電流を流すのですが、電流量は通常0.001〜0.03 [A/m2] と小さいです。塩化物イオンの除去はできないため、定期的なメンテナンスを必要とします。
電気防食工法には外部の電源から強制的に電流を流す外部電源方式とコンクリートの剥離・剥落を修復するときに電気化学的犠牲材料を入れ、電流を流す流電陽極方式の2種類があります。
まとめとして、塩害は高濃度の塩化物イオンにより、鉄筋周りの不動態皮膜を破壊し、腐食させることでコンクリートの耐久性を低下させる劣化現象です。塩害によるコンクリートの劣化を補修する工法としては脱塩工法と電気防食工法が挙げられます。
ひび割れを補修するときの工法について説明しておきます。ひび割れを補修する工法としては、表面含浸工法、表面被覆工法、ひび割れ注入工法、ひび割充填工法、断面修復工法が挙げられます。
①表面含浸工法
表面含浸工法は含浸材をコンクリート表面にはけやローラーにて塗布、含浸させることにより、ひび割れ部分からの劣化因子の侵入を遮断する工法です。シラン系含浸材はコンクリート表層に撥水層を形成する効果、ケイ酸塩系含浸材はコンクリート表層部の組成を緻密化する効果があります。
劣化因子の遮断効果および耐用年数はあまり良くないのですが、コンクリート表面に被膜層を設けないために構造物の外観を変えることがなく、補修後のモニタリングが容易であるという利点もあり、適用される事例が増えています。
②表面被覆工法
表面被覆工法はコンクリート表面にはけやローラー、コテなどで塗布して被膜層を形成し、ひび割れ部分からの劣化因子の侵入を遮断する工法です。一般的にはプライマー、中塗材、上塗材と複数の種類の材料を重ね塗りします。近年では第三者被害を防ぐためのはく落防止機能を備えた表面被覆材も実用化されています.また,ポリマーセメント系表面被覆材は亜硝酸リチウムを混入して塗布することができるため
被覆材には無機系と有機系があり、無機系は主にポリマーセメント系、有機系は環境条件に応じて種類を選択していきます。また、ポリマーセメント系被覆材は亜硝酸リチウムを混入して塗布することができるため、鋼材に防錆効果を付与することが可能となります。
③ひび割れ注入工法
ひび割れ注入工法は低圧注入器を用いてセメント系、ポリマーセメント系、エポキシ樹脂やアクリル樹脂などの有機系材料をひび割れ内部に低圧、低速で注入し、閉塞させる工法です。ひび割れ注入工法はコンクリート表面のひび割れ幅が0.2 [mm] 以上のときに適用可能されます。
④ひび割れ充填工法
ひび割れ充填工法はひび割れに沿ってコンクリートの表面を10 [mm] 程度の幅でU字型にカットし、その部分に補修材を充填する工法です。ひび割れ充填工法はひび割れ幅が1.0 [mm] 以上の比較的大きなひび割れのときに適用されます。充填剤には動きがあるひび割れにはシーリング材、動きがないひび割れにはポリマーセメントモルタルなどを使用します。
⑤断面修復工法
断面修復工法は剥離・剥落したコンクリートを断面修復材で埋め戻す工法です。断面修復材には母材コンクリートとの付着性、一体性が要求されるので、その性能を満たす材料としてポリマーセメントモルタルがよく用いられています。また、断面修復工法は1カ所あたりの施工範囲が比較的小規模な場合が多いため、主に左官工法が適用されます。