セメントの歴史は極めて古く、古代エジプトにまで遡ります。当時のセメントはピラミッドやスフィンクスを作るときに接着剤として使用されています。古代ローマや古代ギリシャ時代になると、すでにセメントが道路工事や水中工事に用いられていたそうです。
近代セメントの出現は産業革命時代にまで進みます。急成長を遂げたイギリスでは石材の価格高騰が起こっており、レンガに漆喰を塗り、石に見えるように細工をしていました。しかし、レンガを製造する時間が長かったために短時間で固まるセメントの開発が促進されるようになります。土木技術者であったジョン・スミートンは粘土質の石灰石が原料に適していることに気付きました。それから、様々な人に改良が加えられ、レンガ職人のジョセフ・アスプディンが石灰石粉末と粘土を高温で焼成することにより新しいセメントを製造することに成功しました。また、このセメントをポルトランドセメントと命名しました。ちなみに、ポルトランドの由来はポルトランドセメントの原料として使用された石灰石の色がイギリスのポートランド島の石灰石に似ていたからといわれています。
日本にポルトランドセメントが輸入されたのはそれから50年後のことであり、良質な原料が豊富に得られたために生産量、製造技術、品質において世界のトップレベルまで発展していくことになります。
ポルトランドセメントの主原料は石灰石、珪石、粘土、および酸化鉄であり、これら原料の混合物を高温で焼成すると中間製品であるクリンカーができます。このクリンカーに含まれる鉱物組成がポルトランドセメントの性質を左右するため、セメント製造過程ではクリンカーによって品質管理が行われています。クリンカーを形成する鉱物組成は、ケイ酸カルシウムの化合物であるエーライト、ビーライト、間隙相を形成するアルミネート相、フェライト相の4種類あります。各化合物の化学式、略式を表にまとめておきます。
鉱物組成の諸性質は水和熱、強度発現性、化学抵抗性、乾燥収縮量が重要視されます。水和熱とはセメントと水の水和反応による発熱反応のことであり、水和熱が大きいと温度ひび割れが発生しやすくなります。また、乾燥収縮とは硬化したセメントが乾燥によって収縮する現象のことであり、乾燥収縮量が大きいと乾燥ひび割れが発生しやすくなります。
エーライトは短期強度、長期強度の発現性に優れています。それ以外は普通です。ビーライトは短期強度の発現性に劣るのですが、水和反応が長期に渡って続くため、長期強度の発現性に優れています。また、水和熱、乾燥収縮量が少なく、化学抵抗性も持ち合わせています。
アルミネート相は水和反応が最も速く、水和熱も一番大きいです。また、乾燥収縮量も大きく、化学抵抗性は低いため、石膏(CaSO4・2H2O)を添加することにより反応を緩和する必要があります。フェライト相は大きな特徴がありません。まとめると次のようになります。
ちなみに、水和反応によって流動性を失い次第に硬くなる現象を凝結といい、凝結した後に時間の経過に伴って強度が増進する現象を硬化といいます。微妙な違いですが必ず覚えて下さい。
まとめとして、一般的に使用されているセメントはポルトランドセメントであり、ポルトランドセメントはエーライト、ビーライト、アルミネート相、フェライト相の4種類によって性質が決まってきます。また、セメントの流動性が失われていく現象を凝結、強度が発現されていく現象を硬化といいます。