擁壁が安定しているためには、滑動に対する安定、転倒に対する安定、地盤の支持力に対する安定の3項目について検討を行う必要があります。
①滑動に対する検討
擁壁を滑動させようとする土圧の水平力は、擁壁と土の摩擦抵抗力より小さくなければいけません。また、より安定した設計をするために、常時は1.5、地震時は1.2以上の値が設定されています。
②転倒に対する検討
擁壁には、土圧の水平力によって擁壁を転倒させようとする転倒モーメントと擁壁の自重や土圧の鉛直力によって擁壁を安定させようとする抵抗モーメントが作用します。転倒に対する検討は次式によって計算することができます。
また、道路土工指針では合力の偏心量による照査が推奨されています。
③地盤の支持力に対する検討
擁壁の底面に接している地盤には、擁壁の自重や土圧などに対する反力が生じています。これらの荷重の合力が底版のどの位置に作用するかによって、地盤反力の大きさが異なってきます。このとき、地盤反力は地盤の許容支持力より小さなければいけません。地盤の許容支持力については別ページで解説します。
では、例題を1問解いていきましょう。
例題:下図のような擁壁における安定性照査を行え。ただし、土の単位体積重量は20 [kN/m3]、コンクリートの単位体積重量は23 [kN/m3]、内部摩擦角は35°、摩擦係数は0.6、許容支持力は300 [kN/m2] とする。
まずは、主働土圧係数などを計算するのに必要な諸量を求めていきます。
次に、すべり角、主働土圧係数、主働土圧合力、土圧の水平力、土圧の鉛直力を計算していきます。例題の擁壁は地表面が一様なのでクーロンの土圧論が適応できます。試行くさび法で行う場合はすべり角を検討しながら、等分布荷重の幅、土の自重、主働土圧合力を順次計算して下さい。
また、受働土圧係数と受働土圧合力も計算していきます。このときはランキンの土圧論を適応します。
さらに、力が作用する位置を求めていきます。
これで、すべての材料が揃いましたので、安定性照査を行います。その結果、滑動、転倒、支持力の全てにおいて安定であることが分かります。
まとめとして、擁壁の安定性照査は滑動、転倒、地盤の支持力の3項目で検討をする必要があり、計算には土圧が用いられます。