一様断面水路、特に幅広長方形水路については、7.6 開水路の不等流で示したように水面形を容易に計算できることが分かりました。しかし、実際の河川では断面形状や勾配、粗度係数などは変化します。そこで、不等流の水面形の計算には逐次計算法が一般的に用いられます。
断面形状に応じて計算区間を分割して水深を逐次計算していく方法を標準逐次計算法といい、実河川に広く用いられています。まずは、逐次計算法に必要な式の導出を行います。そのために、摩擦損失水頭をマニングの公式、動水勾配の式、連続の式から求めていきます。
このとき、両断面の平均値を用いて摩擦損失水頭を表します。
次に、ベルヌーイの式を立てます。上で求めた摩擦損失水頭の式を代入すると逐次計算法に必要な式が導出できます。今までは河川の上流側を断面①としてきましたが、今回は下流側を断面①と置きます。
この式は、流量Q、粗度係数n1、n2、位置水頭z1、z2、および⊿xが既知であるため、流積A、径深R、水深hの関数として表示されます。また、河川は一般的に常流です。常流の場合は境界条件から下流端の水深h1が与えられます。そのため、下流側の水深から上流側の水深を導いていく必要があります。上式を見てみると左辺と右辺両方にh2が入っています。そこで逐次計算を行い、右辺と左辺の差が許容誤差以内になったときの値を上流側の水深h2とします。
本計算法で重要なのは粗度係数といわれており、粗度係数の値が計算精度に大きく影響します。従って実際の不等流計算では粗度係数を細かく検証した後に、所定の計算が行われます。また、断面変化の大きい水路における⊿xの適切な長さは川幅の2倍程度が適当であるといわれています。実河川は断面変化が大きいために速度水頭や渦による損失水頭の影響が大きく、⊿xを細かく刻んでもあまり意味は無いそうです。
例題:下図のような勾配をもつ長方形水路がある。下流端の水深h1=3.0 [m] とする場合の背水曲線を求めよ。ただし、流量は200 [m3/s]、粗度係数は0.025、エネルギー係数は1.0とする。
まずは、上流側の水深を2.5 [m] と仮定して、計算を行います。
最初に仮定したh2=2.5 [m] と一致しないので、さらに繰り返し計算を行います。順次同様に計算を行うと、h2=2.353 [m]、h3=1.772 [m]、h4=1.560 [m] となります。自身で確かめてみて下さい。
まとめとして、実際の河川の水深を計算する方法として標準逐次計算法があります。河川が常流のときは下流側を断面①として常流の水深を計算することに注意して下さい。
ここからは見なくても構いません。前回7.6 開水路の不等流では緩勾配水路と急勾配水路の水面形状について述べましたが、他にも限界勾配水路、水平水路、逆勾配水路などがあります。この3つの水路を少しだけ簡単に紹介しようと思います。
①限界勾配水路
限界勾配水路では等流水深が限界水深と同じになります。そのため、水面形の微分方程式からdh/dx=ibとなります。このとき、水深が等流水深より大きいときの水面はC1曲線を描きます。dh/dxが河床勾配と同じであるために水深は直線的に増加し、その水面は水平線に一致します。同様に水深が等流水深より小さいときのC3曲線も水面が水平線に一致します。また、水深が等流水深(限界水深hc)と同じ時は、h0線またはhc線に一致する水面形状が現れます。これがC2曲線です。
②水平水路
水平水路のとき河床勾配は0となります。この値を等流水深の式に入れると式が成り立ちません。そのため、水平水路のとき等流水深は存在せず、等流水深より大きい水深の範囲を定義することができないため、H1曲線はありません。H2曲線、H3曲線は図のとおりです。
③逆勾配水路
逆勾配水路の河床勾配は-ibとなります。この河床勾配を等流水深の式に代入すると、等流水深は負となってしまいます。そのため、等流水深に物理的意味はなく、A1曲線も存在しません。A2曲線、A3曲線は下図のようになります。