あらゆる治水施設のうち、堤防は最も古い歴史を持つだけでなく、最も重要な役割を担っています。堤防の主な目的は洪水による被害を防止することであり、堤防の各部の名称は以下のようになっています。また、河川が流れる部分を堤外地、堤防によって守られている住居側を堤内地と呼びます。
堤防の法面は1/2以下の勾配にすることが定められており、材料の土質力学的性質と浸潤線によって決定されます。堤防高3 [m] 以上の大きな堤防になると、法面の崩壊を防ぎ、安定を図るために中腹に水平な段が設けられます。これを小段といい、1.5 [m] 以上の幅で設けるよう定められています。また、余裕高と天端は計画高水流量によって大きさが定められています。
堤防の種類としては本堤、副堤、横堤、背割堤、導流堤、越流堤、締切堤、霞堤、輪中堤が挙げられます。
①本堤:洪水を防止する役割を担う最も重要な堤防。
②副堤:本堤が決壊(破堤)したときに洪水拡大を防止するため、本堤の背後に設置された堤防。別名、控堤・二重堤。
③横堤:洪水拡大を防止するために、本堤にほぼ直角方向に河川内に設けられた堤防。洪水の流速を落とし、遊水池のような効果も期待できる。河川敷を広く取った場所に造られ、天端部を道路として使用されている場合もある。また、下流側に向けて斜角が付けられた横堤は羽衣堤と呼ばれる。
④背割堤:河川の合流点を下流へ移動させ、流量の異なる河川の合流を円滑にするよう設けられた堤防。一方の河川で増水があったとき、もう一方の河川への背水(逆流や堰上げ)による影響、互いの河川の水位に大きな差がある場合の影響を小さくする場合に用いられる。
⑤導流堤:河川の分流・合流地点、河口などに設置される堤防で、流れと土砂の移動を望ましい方向に導くために設けられる。背割堤は導流堤の役割を兼ねていることが多い。また、背割堤と導流堤を合わせて分流堤と呼ばれたりもする。
⑥越流堤:本堤の一部を低くすることで、洪水を調整池や遊水地へ積極的に誘導する堤防。
⑦締切堤:不要となった河川を締め切るための堤防。
⑧霞堤:上流部堤防の堤内地に下流部堤防が平行して設置されており、洪水時に不連続部に逆流することで一時的に貯水ができる堤防。急流河川において比較的多用される。
⑨輪中堤:特定区域を洪水から守るために設置された堤防。
堤防が決壊して堤内地に水が溢れることを破堤といい、破堤は浸透・侵食・越水の3種類によって起きます。浸透による破堤は河川の水位が上昇し、堤防内地盤との水頭差によって間隙水圧が上昇した結果、裏法面が漏水または崩壊する現象です。また、侵食による破堤は表法面の土砂の洗掘、堤防や護岸の脚部の深掘れ規模が大きくなると堤防の幅が痩せていき、最終的に崩壊する現象です。越水による破堤は河川の水位が堤防高を越え、水があふれる現象です。いずれも、破堤が起きると堤内地では甚大な被害を招きます。
そこで、昨今は裏法面の勾配を3%以内にした高規格堤防(スーパー堤防)の整備が進められています。大規模な地面の掘削等に許可が必要となるものの、通常の土地とほぼ同様に建築や耕作に利用することができ、堤防上に街並が作られます。例えば、堤防高10 [m] の高規格堤防における裏法面の幅は30倍の約300 [m] になります。一方で、高規格堤防事業は100年から200年に一度の大洪水を安全に流すことを想定しているのですが、建設には約400年という膨大な時間と約12兆円という多大な費用が必要であり、治水対策の名を借りた再開発事業との指摘もあります。
浸透や越水に対してはスーパー堤防で良いのですが、侵食に対しては護岸を設ける必要があります。護岸は法覆工、法止工、根固め工の3構成から成り、種類としては矢板護岸、擁壁護岸、張り護岸、積み護岸などがあります。
まとめとして、治水施設で古くから使われるものとして堤防があります。堤防には本堤、副堤、横堤、背割堤、導流堤、越流堤、締切堤、霞堤、輪中堤と様々な種類があり、最近では高規格堤防(スーパー堤防)の開発が行われています。また、堤防が決壊して堤内地に水が溢れることを破堤といい、破堤には浸透、侵食、越水の3種類があります。そのうちの侵食を防ぐ構造物として護岸があります。