3.4 流出解析法

流出解析は流域に降った雨から河川の流量を推定することをいいます。観測された降水量をもとに流出解析を行えば、河川の増水を予測することができ、避難勧告などに役立てることができます。他にも、河川や道路の計画、設計をする際にも使用できます。また、河川流量を直接観測するのではなく降水量を観測する主な理由としては、観測が容易であること、多くの観測結果が残されていること、流域環境が変化すると流量も変化してしまうために定常性の観点から降水量の方が適していることなどが挙げられます。

流出は様々な現象が複雑に絡み合っており、それらの条件を厳密にモデル化することは困難を極めます。そこで、現象を単純化するために流域全体の状態は同じと仮定し、種々の条件を加えることでいくつかの流出解析法が提案および実用されています。

治水を問題とするときは直接流出が解析の対象となり、利水を問題とするときは基底流出や総流出が解析の対象となります。どちらにせよ、降水量と流出と時間の関係が重要であり、降水量と時間の関係をグラフ化したものをハイエトグラフ、流量と時間の関係をグラフ化したものをハイドログラフといいます。ハイエトグラフのピークとハイドログラフのピークには時間差があり、これは流出するまでに時間がかかっているからです。

ハイドログラフにおいて直接流出の始まりは簡単に判別することができますが、終わりの判断は非常に難しいです。そこで、直接流出の終わりを判断するために次式がよく利用されます。

このとき、Qtは時刻tの流量 [m3/s]、Q0は時刻t0流量 [m3/s]、Kは定数です。

定数は流出成分により異なることが経験的に知られています。上式は曲線の式であるため、対数をとることにより直線の式にしていきます。

グラフの点Aは直接流出の始まり、点Pはピーク流量、点G1は表面流と中間流の境、点G2は中間流と地下水流の境、点Bは点Aから水平に線を引いたときの点となっています。このとき、点Bを直接流出の終わりとして線ABより上を直接流出成分とする方法を水平分離法、点G2を直接流出の終わりとして線AG2より上を直接流出成分とする方法を勾配急変点法といいます。

次に、降水量や降雨強度から流量を求めていきます。流量を求める方法としては、合理式、単位図法、タンクモデル、貯留関数法、準線形貯留型モデル、キネマティックウェイブ法(等価粗度法)があります。

①合理式

合理式洪水到達時間(流域最遠端に降った雨が流出し、流域末端に到達する時間)以上に降雨が継続した場合に流域末端での最大流出量(ピーク流量)を求める手法です。例として、一様勾配の長方形流域に一定の降雨強度の雨が降ったとき考えます。

まずは、降雨強度rが1時間降ったときを考えます。雨が振り始めた直後はa点に降った雨が流出していきます。30分後にはa点〜b点に降った雨が流出していきます。1時間後にはa点〜c点に降った雨が流出していきます。では、1時間半後はどうでしょうか。1時間半後にはa点〜b点に降った雨はすでに流出してしまっています。そのため、b点〜d点に降った雨が流出しているといえます。同様に、2時間後にはc点〜e点に降った雨が流出しているといえます。ここで、流量と時間をグラフにすると下図のようになります。

次に、降雨強度rが2時間降ったときを考えます。雨が降っている間は流出は増え続け、2時間後にはa点〜e点に降った雨が流出していきます。また、2時間半後にはb点からe点に降った雨が流出していくため、2時間後がピーク流量であり、流量と時間をグラフにすると三角形になることが分かります。

最後に、降雨強度rが3時間降ったときを考えます。上記と同様に、2時間後にはa点〜e点に降った雨が流出していきます。一方、3時間後でもa点〜e点に降った雨が流出しており、流量と時間をグラフにすると台形になることが分かります。

このように、合理式では流域最上点から流域最下点までの時間すなわち洪水到達時間が非常に重要であることがわかります。また、洪水到達時間は流域の斜面長、勾配、流域の状態によって値が変わり、様々な式が経験則によって提案されています。その中でも日本で最も一般的に使用される式としては、土木技術研究所の式があります。

このとき、Tpは洪水到達時間 [h]、Lは流域最遠点から流量計算点までの河川長 [m]、Iは河川の平均勾配です。

さらに、ピーク流量を式で表すと次のようになります。

このとき、Qpはピーク流量 [m3/s]、rは降雨強度 [mm/h]、Aは流域面積 [km2] です。

実際の流域は地下への浸透などにより降った雨が全て流出するわけではないので、係数を使って表現します。

このときfpは流出係数です。

実際の降雨強度は一定ではなく変化するため、式に代入するときは降雨強度の平均値を求める必要があります。また、流出係数は流域の状況によってある程度の値が求まっています。

合理式の欠点としては、ピーク流量しか求めることができず、ハイドログラフを描くことができません。そのため、ダムなどの利水を目的とした計画には用いることができません。また、実測値との検証についても困難であり、流域面積の大きい河川には適応することができません。

②単位図法

単位図法はある時間にある降水量の雨が降ったときの流出量を求めておき、比例を使って流出量を求める方法です。例えば、1時間に10 [mm] の雨が降ったときの1時間後と2時間後の流出量が30 [m3/s]、50 [m3/s] であったとき、1時間に20 [mm/h] の雨が降ったの1時間後と2時間後の流出量は60 [m3/s]、100 [m3/s] となります。

しかし、常に比例の状態が保たれているわけでは決してありません。降水量が多量になるほど流出までの時間は長くなり、事前の降雨の有無などによっても流出量も変化します。そのため、実際の現象とは合致しない場面がほとんどですが、計算が容易であり、大まかな傾向を把握するときに有用です。

③タンクモデル

タンクモデルは流域を下図のようにタンクと考えたモデルであり、タンクに溜まっている水は流域内に貯留されている水に相当し、タンク上面から注がれている水は流域内への降雨に相当します。タンクモデルを式にすると次のようになります。

このとき、qは単位面積当りの流量 [mm/h]、rは降雨強度 [mm/h]、λは流出係数 です。

実際の流出速度はトリチェリの定理から√hに比例するため、定量的に物理現象を表していません。しかし、タンク内の貯水量(水深)が多くなるほど単位面積当りの流出量も多くなるため、定性的に物理現象を表しています。また、流域への降雨がない状態を考えると、単位面積当りの流出量は次式で表されます。

両辺を対数にとると、logqとtになり、これはハイドログラフの性質と一致しています。そのため、タンクモデルは無降水時の流出量と時間の関係を再現しているモデルといえます。

下図のような多段階のタンクを用いれば、表面流、中間流、地下水流を様々に表現することが可能となります。そのため、直接流出と基底流出を一つのモデルで表すことができます。このとき、流出量、浸透量、次の時刻の水深は次のようになります。この次の時刻の水深から次の時刻の流出量を求めていきます。

このとき、rは降水量 [mm]、qは流出量 [mm]、sは浸透量 [mm]、Eは蒸発散量 [mm]、λとαは流出係数です。

また、流量は次式によって表されます。

このとき、Kは流量に換算する係数です。

タンクモデルの短所としては、係数が多く、各係数の水理学的裏付けが弱いです。また、タンクモデルの同定には少なくとも10個以上のデータが必要となります。

④貯留関数法

タンクモデルでは貯留量と流出量の関係が線形で表されていましたが、実際の河川は非線形の場合も大いにあります。そこで、非線形の関係式を用いた解析手法を貯留関数法といいます。貯留関数法は一級河川での適応が多く、特に山地の多い流域で適合度が良い傾向にあります。貯留関数法の式は次のようになります。

このとき、Sは貯留高 [mm]、qは単位面積当りの流量 [mm/h]、KとPは定数です。

貯留関数法のパラメータKは、河川勾配、粗度係数、 斜面長(あるいは流域面積)の関数であり、次式によって表されます。

このとき、Cは定数、nは粗度係数です。定数Cは自然流域で0.12、都市流域で0.012となります。

また、実際の流域では流出に遅れがある場合がほとんどであり、その場合は次式によって表されます。

このとき、Tgは遅れ時間 [h] です。

遅れ時間を表す式は様々な式があり、有名なものを列挙しておきます。

このとき、Cは土地利用形態で決まる定数、nは粗度係数です。Cは山林で290(250〜350)、市街地で70(60〜90)となります。

⑤準線形貯留型モデル

準線形貯留型モデルは貯留関数法をより簡単にしたものであり、次式によって表されます。また、遅れ時間は一般的に角屋・福島の式が使用されます。

⑥キネマティックウェイブ法(等価粗度法)

キネマティックウェイブ法は流域を幾つかの斜面と流路の組合せと仮定して、雨水の流出過程を水流の運動式と流体の連続式を用いて水理学的に表現した方法です。キネマティックウェイブ法は次式で表されます。

このとき、qは単位幅流量 [m2/s]、αとmは定数です。

また、マニングの式を用いれば、定数は次のように求まります。

nは形式的にはマニングの粗度係数に相当するのですが、キネマティックウェイブ法では斜面上の流れに抵抗する値を表したものであり、マニングの粗度係数と区別する意味で等価粗度と呼ばれています。マニングの粗度係数は10-1〜10-2の値を取りますが、等価粗度は100〜10-2の値を取る場合が多いです。

では、例題を2問解いていきます。

例題1:流域面積が2 [km2]、洪水到達時間が0.8時間の流域に、降雨強度15 [mm/h] の雨が3時間降った。 このときのピーク流量を求めよ。ただし、この流域の3割の流出係数は0.8、7割の流出係数は0.5とする。

例題2:ある流域に降水量10 [mm] の雨が1時間降った。このときの流量は以下の通りであった。別の日の7時〜8時に降水量20 [mm]、8時〜9時に降水量30 [mm]、9時〜10時に降水量 5[mm] の雨が降った。このときの総流量を求めよ。

では、計算結果を下表に示しておきます。

まとめとして、流出解析法には合理式、単位図法、タンクモデル、貯留関数法、準線形貯留型モデル、キネマティックウェイブ法(等価粗度法)があります。また、得られた結果を用いてハイエトグラフとハイドログラフが描かれます。