山地は深成岩と古生代・中生代・新生代第三紀の比較的古い火山岩で構成されています。一般に、これらの岩石や地層は固結しており、建設工学的な立場から見ると問題になることは少ないです。ただし、これらが風化や破砕している場合は様々な問題を引き起こしやすくなっています。ここでは、山地において建設工事上大きな問題を生じてくる風化土層、崖錐、地すべり地帯、不整合、膨張性岩、断層などについて説明していきます。
①風化土層
山地の岩石は常に風化作用が働いています。風化作用は一般的に物理的要因と化学的要因に分けられますが、実際は両作用が同時に進行している場合が多いです。風化した岩石は岩塊、岩屑、風化土と時間とともに細分化されていきます。
物理的要因は温度変化による岩石の収縮・膨張の繰り返し作用、割れ目に入った水の凍結による岩石の崩壊作用をいいます。そのため、物理的要因は斜面傾斜が大きく、温度変化の激しい高山地帯や砂漠地帯などで活発に行われます。
一方、化学的要因は大気に触れている岩石内鉱物である鉄マンガン化合物の酸化、地下水に溶けた炭酸ガスによる鉱物の炭酸化、雨水・地下水による溶解や水和作用をいいます。そのため、化学的要因は雨量の多い高温多湿な地域でよく起きています。
山地ではこのような風化作用によって風化土が生成されていきます。しかし、日本のような造山運動が激しく、侵食作用の大きい急傾斜地では風化した岩塊、岩屑、土砂が流水によって取り払われてしまうため、風化土は少ないです。そのため、風化土が厚く堆積しているのは、一般に造山力の弱い安定した山地といえます。また、風化土は大気に面した表面から始まって、次第に深部に及ぶため、風化土と岩盤の境界には漸移帯が存在しています。
花崗岩や閃緑岩などの深成岩は礫・砂・シルトを含んだ砂質土系の風化土を生じます。花崗岩系の風化土は神戸の六甲山付近から瀬戸内海にかけて広く分布しており、まさ土(真砂土)と呼ばれています。まさ土は10 [m] 以上の層を成している場合もあり、豪雨に対する侵食に弱く、山地においては斜面崩壊や土石流などが発生する恐れがあります。砂岩も深成岩とよく似た風化土を生じますが、土粒子が均一であり、分布規模が小さいため、容易に見分けることができます。一方、安山岩や玄武岩などの火山岩は粘質土系の褐色した風化土を生じます。
泥岩も同様に粘質土系の風化土を生じます。その厚さは比較的薄く、岩盤との境界線は直線的な場合が多いです。そのため、この境界面を境にして表層崩壊が発生しやすいです。
石灰岩は炭酸ガスを含む水に溶けるので、主に化学的要因によって風化します。特に、地下水による溶解侵食が進みやすく、空洞を生じていることも多々あります。石灰岩地帯は凹凸が多く、不規則であり、カルスト地形から存在を知ることができます。石灰岩の山地は岩盤と風化土の境界が不規則なため、構造物の基礎・トンネル・ダムなどを建設する際は多くの問題を解決しないといけません。
カルスト地形は表面水や地下水によって石灰岩が侵食された地形であり、鉢型の窪地が多数形成されます。これをドリーネといい、地下には鍾乳洞(石灰洞)が形成されます。また、複数のドリーネがつながってより大きな窪地に成長したものをウバーレ、ウバーレがさらに大きくなった地形をポリエ、溝と溝との間に高く残った石灰岩石柱をカレンフェルトといいます。ポリエ内部には石灰岩の風化土が堆積しやすく、これをテラロッサといい、石灰分がなくなった鉄とアルミが豊富な赤色の粘質土系の風化土です。ちなみに、カルスト地形の近くではセメント工場が多く建ち並んでいます。
②崖錐
山地の急な斜面、特に岩盤が露出している急崖の下には崖錐が発達していることが多いです。崖錐は急斜面の岩盤が物理的要因による風化作用によって緩み、大小さまざまな岩塊や岩屑が落下し、堆積したものを指し、流水による侵食作用を受けていないために岩塊や岩屑は角ばっています。また、空隙が大きいため、水はけがよく、扇状地と同様に末端から地下水が流出している場合が多いです。
一応、安定を保っているのですが、流水による侵食が起きると崩壊することがあります。また、トンネルを掘削するとき、トンネルに偏圧が作用することが多く、湧水にも警戒する必要があります。そのため、崖錐にトンネルを掘削するのは好ましくありません。
③地すべり地帯
地すべり地帯は新生代新第三紀に起きた地すべりの再活動が大部分であり、初めて起きるものは比較的少ないといわれています。地すべり地帯は下図のように各部に名前がついており、急勾配から緩勾配になる箇所は特別警戒区域に指定されています。
地すべり地帯は新生代新第三紀の粘土層が堆積しており、すべり面の下方には被圧地下水が存在しています。そのため、地すべりの発生原因は岩石の性質ではなく、地下水の高い水圧であることが多いです。いずれにしても、地すべり地帯は建設工事の対象としては最も好ましくない地質条件であり、地すべり地帯を避けて計画変更することが最良の策といえます。やむを得ず建設する場合は、地下水排除工、杭工、アンカー工、擁壁工などの対策をする必要があります。
④不整合
不整合は互いに重なりあった地層の間に時間的な開きがあり、その間に下層が隆起、侵食し、その上に堆積層が生じた場合を指します。このとき、上層と下層の間にある侵食面を不整合面といい、不整合面より下方にある地層は固結しているために不透水層になります。また、不整合面より下方にある堆積層が透水層の場合、不整合面が地下水の通路となりやすく、トンネル掘削などではこの部分から湧水を生じて崩壊しやすいです。
⑤膨張性岩
山地を岩石の中には著しい膨張性を示す岩石があります。これを膨張性岩といい、トンネルを内部から支える支保工に大きな土圧を及ぼします。このような性質を示す岩石としては変朽安山岩、蛇紋岩、第三紀の緑色凝灰岩、泥岩の一部などが挙げられます。岩石が膨張する理由としては、吸水膨張性を持つ鉱物の化学的現象とトンネル掘削など軟岩の応力解放による物理的現象に大別されます。
膨張性岩が地表面まで連続している場合は地すべり地帯であることが多いです。また、膨張性岩が他の層に覆われているときは地表面からの踏査では確認することが難しく、ボーリング調査が必要となります。
⑥断層
断層は岩盤に圧縮、引張、せん断などの応力が働き、破壊することで地層にずれが生じた状態をいいます。垂直方向にずれると縦ずれ断層、水平方向にずれると横ずれ断層といい、縦ずれ断層には正断層と逆断層、横ずれ断層には右ずれ断層と左ずれ断層があります。
縦ずれ断層は断層崖が現れ、横ずれ断層は下図のような地形が現れます。このような断層地形が明瞭に認められる場合は、比較的最近になって断層活動が行われた証拠であり、活断層であることが多いです。一方、現在活動していない断層には直線的な断層線谷(断層線に沿って侵食し、形成された谷)や断層線崖(断層線に沿って一方の土地が侵食し、形成された崖)が現れます。そのため、断層地形から活断層かどうかを確認することもできます。
岩盤が一度破砕すると、その破砕面を起点に繰り返し破砕が起きます。そのため、破砕部分が徐々に広がっていき、最終的に破砕帯が形成されます。また、破砕帯には割れ目が多くあり、一般に帯水層となります。
破砕された岩石は角礫岩となり、角礫岩はさらに破砕され粘土層となります。従って、破砕帯にある水は断層方向には侵食していきますが、深さ方向には侵食しないことが分かります。
断層は割れ目が多いため、トンネル工事などでは崩壊しやすいです。また、断層の粘土層を掘削すると、高圧で多量の地下水が噴出するため、破砕帯の大崩壊を招く恐れがあります。そのため、トンネル工事では断層が最も恐れられています。
まとめとして、山地に建設するときに問題となる箇所には風化土層、崖錐、地すべり地帯、不整合、膨張性岩、断層があります。