学習会

学習会で確認した重要な内容(一部)

国際家族の子どもの国籍ー生来取得か志望取得か

血統主義をとる国の国民の子は出生により親の国籍を継承する。しかし、国外で生まれた子は、何からの登録手続きを経なければ、当該国はその子の存在を把握することができない。そこで、日本では、国外で生まれた日本国民は3カ月以内に出生届とともに日本国籍を留保する意思表示をしなければ、出生にさかのぼって日本国籍を失う(国籍法12条「国籍留保制度)と定める。

「日露ハーフ」は簡易帰化機能をもつ出生届を駐日ロシア領事館に提出したため、自らの意思でロシア国籍を取得したとみなされ、国籍法11条1項が適用されて日本国籍を剥奪された。2017年最高裁は原告の上告を棄却し、この運用を初めて確定した(『戸籍時報』751、p.69、2017.3)。このときの争点は2002年改正ロシア国籍法。その後、2件目の「日露ハーフ」の国籍確認訴訟で争われたのは1992年ロシア国籍法だった。こちらも2022年12月に東京高裁は1件目と同様に原告敗訴の判決を下した。原告が上告しなかったため判決は確定している。これにより、1992年以降に日本で生まれ、駐日ロシア領事館に出生届を提出した「日露ハーフ」の子どもたちは、すべて国籍法11条1項が適用されることになった。該当者は日露の国際結婚件数から千人を超えるのではないかと推察できる。問題はこのことに気づいていない人たちが相当数いるということだ。パスポート申請などのときに運悪く国籍喪失という事実を突きつけられることがあり得る。摘発されれば「非正規滞在ロシア人」ということになる。在留特別許可を申請して在留身分を正規化したのち、帰化により日本国籍を再取得するしかない。

※日露家族の子どもの国籍については、武田里子「ロシアのウクライナ侵攻と日露家族―国籍法11条1項をめぐって」『国際地域学研究』第27号、2024年3月参照

この問題を単なる親の「法の不知」だと片づけてしまってよいのだろうか。千人を超える日本人の子どもの日本国籍を剥奪することにどのような意味があるのだろうか。実は、同じように日本人と外国人の間に生まれた子どもでも、国籍法11条1項が適用されない出生登録手続きもある。具体例をあげよう。

アルゼンチンの「未成年登録は、生来的にアルゼンチン国籍を取得した者につき、その登録により同国国民として把握するための手続きという形式的な意義を有するに過ぎない」ため国籍法11条1項は適用されない(『国籍時報』734、p.68、2015.15)。

スリランカの場合も「血統による生来のスリランカ国籍取得者を適切に把握するための手続という形式的な意義を有するに過ぎないと解釈」(『国籍時報』738、p.78、2016.4)されるので国籍法11条1項は適用されない。

ペルーの場合も「形式的届出の意義しかなく、生来的にペルー共和国国籍を有していると思われる」ので国籍法11条1項は適用されない(『戸籍時報』、722、p.76、2015.2)。

国籍法11条1項の適用を受けない場合は、子どもは日本国籍との重国籍になる。法務省は国籍法の書きぶりによって、国籍取得が「生来取得」か「志望取得」かを判断する。しかしそもそもそのような仕分けを行なう必要があるのだろうか。血統主義の国籍法をとる国の国民の子は親の国籍を継承する。潜在的な国籍をどのような手続きによって確かなものにするかは、当該国の専管事項である。重要なことはその子の親が日本国籍者かどうかだろう。成人に対する国籍法11条1項とは別に、出生による国籍の得喪にこの条文を適用してよいかどうか、早急に立法府で審査すべきだ。 

国籍法11条1項が適用され日本国籍を喪失した場合の児童手当

韓国の外国籍不行使宣誓と日本の国籍法11条2項との関係

韓国政府は2010年に韓国内で外国籍を行使しない宣誓をすることで複数国籍を容認する国籍法改正を行なった。この宣誓と日本の国籍法11条2項(外国の国籍を有する日本国民は、その外国の法令によりその国の国籍を選択したときは日本の国籍を失う)との関係について、当事者の間に不安が広がったことを受け確認できたことを下記に記載する。

国籍法11条2項は1984年国籍法改正時に新設された条文である。政府は審議の過程で「日本の国籍選択制度と類似の制度を有する国において、当該外国及び日本の国籍を有する者が、当該外国の法令に従い、当該外国の国籍を維持確保し、日本国籍を不要とする旨の意思を明らかにしたときは、その時に日本国籍を当然喪失する」と説明した。一方、国籍法14条2項は、国籍選択を「日本の国籍を選択し、かつ外国の国籍を放棄する旨の宣言」であるとしている。

少々紛らわしいので整理する。国籍法11条2項は、外国の国籍選択制度における選択の意思表示が、14条2項と同じように「当該国の国籍を選択し、かつ日本国籍を放棄する旨の意思表示」である場合には、日本国籍を喪失するということ。つまり、単に「外国籍を選択する」という意思表示だけでは、11条2項の適用対象にはならない。したがって、日本と韓国の国籍を持つ者が、韓国で韓国籍を選択しても日本国籍は喪失しない。

念のため、2019年4月15日法務省民事局国籍第1係に電話確認した内容を記しておく。(1)11条2項の解釈は1984年法改正時の説明のままでよい。当該外国国籍の選択と日本国籍を放棄する意思が揃った場合のみ、日本国籍を喪失する。韓国政府が日韓重国籍者が外国籍(日本国籍)不行使誓約をして韓国籍を選択しても、それを日本国籍離脱の意思表示とみなさないのであれば、11条2項には該当しない。(2)韓国政府の解釈について日本政府は関知しない。韓国側の対応は韓国側の指示にしたがえばよい。

活動記録

講師:武田里子「重国籍の子どもたちのための国籍法学習会」

講師:武田里子「戸籍と国籍―蓮舫議員の戸籍開示をめぐって」

講師:佐々木てる「重国籍をめぐる問題、問われているのは何か―研究者として、当事者として」

講師:近藤博徳弁護士「国籍訴訟に関わった経験から重国籍について考えたこと」

報告①トルン・紀美子「国会請願活動を通じての所感」

報告②向山弘人「デジタルIDで変わる国籍の概念について」

報告③武田里子「旅券更新交渉の報告」

移民政策学会ミニシンポジウムの報告打ち合わせ

「複数国籍の是非と『国政のあり方』―国籍法と実態のギャップから」 報告者:佐々木てる、吉田知浩、サンドラ・ヘフェリン、ソン・ウォンソク、武田里子/コメンテーター:塩原良和、近藤博徳弁護士

移民政策学会ミニシンポジウムの振り返りと今後の学習会についての意見交換

国籍法11条1項違憲訴訟第2回公判についての意見交換と近藤弁護士による補足説明

報告①向山弘人「メール上で交わされた諸外国の国籍法に関する議論のまとめ」

報告②武田里子「日本社会学会年次大会での重国籍に関する連携報告について」

講師:秋葉丈志「『国籍法違憲判決と日本の司法』第4章国籍法違憲判決と血統主義を中心に」

「帰化制度について」報告①吉田知浩、報告②マイケル鈴木

講師:下地ローレンス吉孝「ハーフ・ダブル・ミックスの社会史」

講師:佐々木てる「重国籍に関する意識調査の分析結果」

報告①マイケル鈴木「国籍選択の報告」

報告②武田里子「大学生の重国籍に関するコメント報告」

調査は佐々木てる科研チームによるもの。記者会見の設定と広報を学習会でサポート。

講師:田中宏「『国籍』をめぐるあれこれ」

コロナ禍での学習会運営等について意見交換

講師:三谷純子「世界と日本の無国籍」

講師:佐藤成基「ドイツの重国籍制度―『現実』と『現実』の乖離」

原告敗訴

講師:近藤博徳弁護士「国籍はく奪条項違憲訴訟 地裁判決の検討」

講師:Yさん「法務省の錯誤による日本国籍はく奪から国籍返還までの軌跡」 

帰化申請が許可されたRさん、国籍法11条1項の新たな訴訟を準備しているKさんからの報告を中心に意見交換

イギリス在住Yさんから父親(米国籍)が英国永住権を取得した際に、英国生まれの子どもの英国籍を「登録」で取得できると案内され、登録したために日本国籍を喪失した事例報告を受け意見交換

東京訴訟第4回期日を傍聴し報告集会に参加した人たちからの報告と、福岡訴訟の論点について近藤ユリさんからご報告いただきます。

講師:申明直先生(熊本学園大学教授)/韓国の移住民と社会統合―農業移住民と結婚移住民を中心に」

講師:柳井健一先生(関西学院大学教授)/「日露ハーフ」国籍確認訴訟の意見書と判決について

講師:館田晶子先生(北海学園大学法学部教授)/国籍とアイデンティティをめぐる法理論 

  講師:坂東雄介先生(小樽商科大学准教授)/オーストラリアにおける二重市民権の位相