複数国籍学習会

世話人:武田里子

この学習会は移民政策学会ミニシンポジウム「複数国籍の是非と『国のあり方』―国籍法と実態のギャップから」(2018年5月26日)の登壇者を中心に同年7月に発足しました。メンバーは現国籍法の下でさまざまな困難に直面している/していた当事者、弁護士や研究者、国籍に関心をもつ市民で構成されています。立場はさまざまですが国籍を切り口にこの国のあり方を考えていこうという思いを共有しています。当事者が安心して話せる場になるよう学習会はメンバー限定にしています。ご質問などございましたら〈お問合せ 〉よりお知らせください。

サイト開設:2021年4月28日 / 更新:2024年6月15日

複数国籍学習会世話人 武田里子

国籍関連論考/著作などのご紹介

🆕2024年3月 武田里子「ロシアのウクライナ侵攻と日露家族」 (東洋大学『国際地域学研究』27号)

🆕2024年2月17日 第21回SGRAカフェ「日本社会における二重国籍の実態」基調報告資料 主催者報告 

日露家族の子どもたちの国籍問題 → 詳しくは「ロシアのウクライナ侵攻と日露家族」参照

23年84日の記者会見で斎藤健法相は、日本で生まれ育ちながら在留資格のない子どもたちに「在留特別許可」を与えると発表した。救済対象についての問題は残るものの、改正入管法施行を待たず、職権により順次拒否判断を行なうという画期的な内容である。

この機会に合わせて対応してもらいたい子どもたちがいる。国籍法の運用によって日本国籍を喪失した日露家族の子どもたちである。国籍法111項には「日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う」とある。日露家族の日本で生まれた子は日本国籍を取得すると同時に、駐日ロシア大使館に出生届を提出することでロシア国籍も取得し、日露の複数国籍になったはずであった。ところが2011年頃から、日本政府はロシアへの出生届は「自己の志望による外国籍取得」に当たるとみなし、日露家族の子の日本国籍を剥奪するようになった。

初期の混乱状況の中でロシア国籍を離脱する人たちも現れた。ロシア国籍を取得した時点で日本国籍は喪失している。ロシア国籍があれば、在留資格のない非正規滞在ロシア人だが、ロシア国籍を離脱した場合は、日露以外の国籍がなければ無国籍である。

これまでに2家族が裁判で日本国籍の確認を試みたがどちらも原告が敗訴した。この判決によって1992年以降に日本で生まれ、ロシア大使館に出生届を提出した日露家族の子は、日本国籍を喪失したとする国の運用が確定した。

日露家族の中で該当する子どもたちはどれくらいいるのか。ロシア国籍者のうち「永住」と「日本人の配偶者等」の在留資格者は5,368人(2022年末)である。ロシア生まれの子どもとロシア大使館に出生届を提出していない子どもを除くとしても、該当者は数千人単位になると思われる。在留身分の正常化と帰化による日本国籍の再取得を行政書士に依頼するには数十万円の費用がかかる。日本国籍がなくなっていると分かっていても、身動きが取れない家族も少なくない。

齊藤法相は子どもには帰責性はないとして、「特別の配慮を行なうべきであるとの結論に至った」と述べた。また「日本で安心して生活し、勉学に励み、健やかに成長してもらい、いずれは、それぞれの夢を実現し、日本社会で活躍していただきたいと考えています。私自身の夢でもあります。」と語った。この思いに心の底から共感する。

日本国籍を喪失した子どもたちは入国管理局に出頭し、形式的とはいえ、収容令書が発布され、収容、仮放免、特別審査官による口頭審理を受け、在留特別許可を受けることで、ようやく適法滞在者となる。中学生でこの体験をしたY君は、「形式的だといってもロシアに強制送還されるって言われて、僕はロシア語もできないし」とその時の不安感を語ってくれた。

このような状況を放置し続けてよいはずはない。齊藤法相は、在留特別許可は職権で対応できると表明した。日露家族の子どもたちについても、法相の職権によって在留特別許可を与えてほしい。 

国際家族の子どもの国籍ー生来取得か志望取得か

血統主義をとる国の国民の子は出生により親の国籍を継承する。しかし、国外で生まれた子は、何からの登録手続きを経なければ、当該国はその子の存在を把握することができない。そこで、日本では、国外で生まれた日本国民は3カ月以内に出生届とともに日本国籍を留保する意思表示をしなければ、出生にさかのぼって日本国籍を失う(国籍法12条「国籍留保制度」)と定める。

「日露ハーフ」は簡易帰化機能をもつ出生届を駐日ロシア領事館に提出したため、自らの意思でロシア国籍を取得したとみなされ、国籍法11条1項が適用されて日本国籍を剥奪された。2017年最高裁は原告の上告を棄却し、この運用を初めて確定した(『戸籍時報』751、p.69、2017.3)。このときの争点は2002年改正ロシア国籍法。その後、2件目の「日露ハーフ」の国籍確認訴訟で争われたのは1992年ロシア国籍法だった。こちらも2022年12月に東京高裁は1件目と同様に原告敗訴の判決を下した。原告が上告しなかったため判決は確定している。これにより、1992年以降に日本で生まれ、駐日ロシア領事館に出生届を提出した「日露ハーフ」の子どもたちは、すべて国籍法11条1項が適用されることになった。該当者は日露の国際結婚件数から千人を超えるのではないかと推察できる。問題はこのことに気づいていない人たちが相当数いるということだ。パスポート申請などのときに運悪く国籍喪失という事実を突きつけられることがあり得る。摘発されれば「不法滞在ロシア人」ということになる。在留特別許可を申請して在留身分を正規化したのち、帰化により日本国籍を再取得するしかない。

この問題を単なる親の「法の不知」だと片づけてしまってよいのだろうか。千人を超える日本人の子どもの日本国籍を剥奪することにどのような意味があるのだろうか。実は、同じように日本人と外国人の間に生まれた子どもでも、国籍法11条1項が適用されない出生登録手続きもある。具体例をあげよう。

アルゼンチンの「未成年登録は、生来的にアルゼンチン国籍を取得した者につき、その登録により同国国民として把握するための手続きという形式的な意義を有するに過ぎない」ため国籍法11条1項は適用されない(『国籍時報』734、p.68、2015.15)。

スリランカの場合も「血統による生来のスリランカ国籍取得者を適切に把握するための手続という形式的な意義を有するに過ぎないと解釈」(『国籍時報』738、p.78、2016.4)されるので国籍法11条1項は適用されない。

ペルーの場合も「形式的届出の意義しかなく、生来的にペルー共和国国籍を有していると思われる」ので国籍法11条1項は適用されない(『戸籍時報』、722、p.76、2015.2)。

国籍法11条1項の適用を受けない場合は、子どもは日本国籍との重国籍になる。法務省は国籍法の書きぶりによって、国籍取得が「生来取得」か「志望取得」かを判断する。しかしそもそもそのような仕分けを行なう必要があるのだろうか。血統主義の国籍法をとる国の国民の子は親の国籍を継承する。潜在的な国籍をどのような手続きによって確かなものにするかは、当該国の専管事項である。重要なことはその子の親が日本国籍者かどうかだろう。成人に対する国籍法11条1項とは別に、出生による国籍の得喪にこの条文を適用してよいかどうか、早急に立法府で審査すべきだ。 

フランスで新移民法採択―日本人家族にも影響あり

掲載:24/04/15 武田里子

日英の子どもの国籍はく奪訴訟に関係するかもしれません。2023年末にForbes JAPAN ほかに掲載されていたフランスの新移民法採択の記事です。両親ともに外国籍の子どもの場合を想定しているようですが、①日日カップルの子がフランス国籍の取得条件を満たしたと言ってフランス国籍を取得した場合、あるいは、②フランス人親と日本人親との連れ子がフランス国籍を取得した場合も、この移民法では日本の国籍法11条1項(自己の志望により外国籍を取得した場合は日本国籍を喪失する)が適用されてしまいます。

ロシアだけでなく、外国の国籍法や移民法の改正によって、日本人の子の国籍が剥奪されることがあり得ると主張してきましたが、今回のフランスの移民法改正が具体的な事例になります。念のため、フランス人の知人にこの移民法改正と日仏国際家族の子どもとの関係について尋ねたところ、以下のコメントが届きました。

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フランスの新移民法についてのご質問についてですが、確認したところ、以下のことがわかりました。

① まず、旧移民法では、外国人の父母からフランスで生まれた外国籍の子どもは、次の条件を満たせば(11歳になってから5年以上フランスに在住していたこと、18歳の時にフランスに在住していること)、18歳の時点で自動的にフランスの国籍を取得していました。当然ながら、片方の親がフランス人であれば、子どもは出生の時点でフランス人ですので、今の話と関係がありません。 

② 新しい移民法では、新たな条件が追加されたほか(犯罪歴がないこと)、18歳の時に国籍が自動的に付与されなくなりました16歳から18歳までに、自ら申請しないといけないことになりました。確かに、この法改正で日本国籍11条1項に該当する者が増えると思いますが、数としてはそれほど多くないと思われます。該当するのは、主に日本人夫婦の間に、フランスで生まれ、フランスで育った日本人の子どもです。

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Forbes JAPAN 2023/12/29(金) 9:30配信   Forbes JAPAN

https://forbesjapan.com/articles/detail/68298

「フランスで厳格な新移民法案が採択。2024年は欧州も政治の年になる」

福岡訴訟と子どもの国籍剥奪訴訟 CALL4クラウドファンディングにご協力を!

国籍剥奪条項違憲訴訟弁護団からのお願いを転載します。2023年5月2日に東京地裁に提訴された子どもの国籍はく奪の違憲性を争う訴訟(英国籍訴訟)と福岡訴訟を併せた、CALL4でクラウドファンディングを開始しました。訴訟に関する資料や情報も下記サイトでご覧いただけます。

 https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000106

 Podcastでの解説はこちらに。

 https://www.call4.jp/info.php?type=news&id=N0000140

裁判傍聴記など

24年5月14日 第6回期日 子どもの国籍はく奪(英国籍訴訟)傍聴記(MHさんより)

(1)アジェンダ

①裁判体の変更確認、②原告からの準備書面提出、③原告側証人申請の採否決定、④次回期日の設定

(2)裁判体の変更について

4月の人事異動により陪席裁判官2人が交代。裁判長は交代なし

(3)原告側準備書面について

国側の反論に対する再反論と原告母陳述書(前回仮提出したものの署名付き正式版)の2点を提出。国側主張はこれまでの国籍はく奪違憲訴訟の判決を引用するだけで、本訴訟の原告主張(子どもの国籍を奪うことの妥当性など)に対する意見がない点を追及。これに対して国側からは、これまでの繰り返しであるとして反論はなかった。

(4)証人申請の取り扱いについて

前回期日では採否保留となっていた。新裁判体で検討した結果、却下とすると告げられた。証人尋問は事実関係を明確にすることを目的に行われるもの。原告母は事実関係については認めているので証人尋問の必要性は認められない。しかし、原告の意見を聞く場がこれまで設けられてこなかったので、意見陳述を行う意味はあると認め、次回期日にて原告母の意見陳述を行なうこととする。

(5)次回期日:6月27日(木) 11:00~

原告母の来日日程の調整がつかない場合は、代理人弁護士が原告母の意見陳述を代読する。裁判長から、これで双方の主張は出尽くしたものと判断し、次回で結審する予定であると告げられた。

国籍はく奪条項(国籍法11条1項)違憲訴訟 関連情報

♦東京訴訟――23年9月28日 最高裁は原告の上告を棄却♦

2021年6月29日に始まった東京高等裁判所での控訴審は2022年9月6日第4回期日で結審し、2023年2月21日13時30分に判決がありました結果は敗訴。しかし判決後の記者会見でのメディア関係者の応答などを一審判決時と比べると、国籍法11条1項の問題点についての理解が進んでいるようです(2月23日付朝日新聞社説参照)。

(社説)国籍奪う規定 現実をふまえた検証を:朝日新聞デジタル (asahi.com)  


2023年4月28日原告団は最高裁に上告しましたが、9月28日最高裁は原告の上告棄却。今年1月、再審の再審の訴えを最高裁判所に提起しましたが棄却。上告棄却決定に関する文書の開示を請求しましたが、棄却されましたので、現在(24年6月時)苦情申し立ての手続きを進めています。関連資料は下記サイトをご参照ください。

 http://yumejitsu.net/

♦福岡訴訟:旅券不発給処分確認等請求事件――23年12月7日 福岡地裁は国籍法の規定は合憲とし、原告側請求を棄却♦ 

2022年6月1日提訴。5回の期日を経て2023年12月7日判決(林史高裁判長)。規定は日本国籍と外国籍を選択する機会を与えている。一人が複数の国籍を持つことを認める国は世界の約4分の3にまで増えている状況を認めた上で、納税などの義務がそれぞれの国で生じないようにするため、重国籍を認めない規定は「合理的」と判断した。

原告が求めているのは①原告の旅券更新を拒否した国の処分は無効であること、②原告は今も日本国籍を持っていることの確認。③被告である国に対する国家賠償請求。これらはいずれも、国籍法11条1項(日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得した時は、日本の国籍を失う)が違憲無効であることによって根拠づけられているというのが原告の主張です。判決を不服として、原告は福岡高裁に上告しました。詳細は原告が開設しているサイトをご覧ください。yurikondo.com/  

♦福岡訴訟:旅券不発給処分確認等請求事件♦ 

控訴審第1回期日:2024年7月9日(火)13時30分 於:福岡高等裁判所1003号法廷

♦京都発! 大阪訴訟♦

2022年12月15日、京都市在住の原告が、日本国籍の確認と旅券発給の義務付け及び仮の義務付け(適法な在留資格付与)を求めて提訴しました。区役所の指導に従って国籍喪失届しましたが、カナダ政府の書類に不備があると受理されなかったため、原告の戸籍は残ったままです。区役所と法務省入国管理局は戸籍があるのだから原告は「外国人ではない」として在留資格付与を拒否。法務省民事局と外務省はカナダ国籍を志望取得した段階で日本国籍は喪失しているため原告は「日本人ではない」と日本旅券の発給を拒否。出国しようとするとその瞬間に「不法滞在外国人」として退去強制手続きに乗せられ、出国後5年間は日本に戻ってこれなくなる可能性があるため、原告は身動きが取れない状態におかれています。

第1回期日2023年5月26日、第2回期日7月14日、第3回期日9月29日…、第6回期日2024年2月28日、第9回期日9月11日(水)11時00分 於:大阪地方裁判所1007号法廷

子どもの国籍はく奪訴訟 東京訴訟

詳細は上記CALL4サイトをご覧ください。第4回期日2024年2月6日、第5回期日3月18日13:30、第6回期日5月14日10:30、第7回期日6月27日(結審予定)

学習会などのお知らせ

  講師:坂東雄介先生(小樽商科大学准教授)/オーストラリアにおける二重市民権の位相 

日本語版アンケートサイト https://forms.gle/7Gruf6jiU1jdsbqG7

ロシア語版アンケートサイト https://forms.gle/qPkhosLAHPGpeXrb6

講師:館田晶子先生(北海学園大学法学部教授)/国籍とアイデンティティをめぐる法理論 

講師:柳井健一先生(関西学院大学教授)/「日露ハーフ」国籍確認訴訟の意見書と判決について

講師:申明直先生(熊本学園大学教授)/「韓国の移住民と社会統合―農業移住民と結婚移住民を中心に」