このページでは,備忘録も兼ねて,各年度でどのようにゼミが進められたのかを記録しておきます.
D1
Khandaker Md. Eusha-Bin-Hafiz(研究テーマ:Hele-Shaw 型移動境界問題の数理解析)
概要:Hele-Shaw 問題は,完全流体の挙動を準2次元空間における粘性流体の挙動により考察することを可能としたもので,1898年に Henry Selby Hele-Shaw により提唱されました.その後,多孔質媒体中の流体の簡易モデルであることも確認され,それ以降,様々な分野において積極的に調べられています.Eusha さんには,縦置き Hele-Shaw セル中を浮上する泡の Hele-Shaw 型数理モデルの数理解析を行なっていただこうと考えています.
進捗:
4月〜:縦置き Hele-Shaw セルを浮上する泡について,先行研究を3月中にサーベイしてもらいました.その結果を受け,1つのモデルが有用そうに見えたので,まずはその論文の内容を理解し,その後に我々の数値計算スキームで結果を再現できるか,試してみることにしました.
M2
Settawut Tanakam(研究テーマ:parametric finite element method による界面方程式の数値計算)
概要:移動境界問題の数値計算スキームには様々なものが提案されていますが,それらの中で成功しているものの1つとして知られているのが,parametric finite element method (PFEM) です.折れ線を用いて曲線を表示し,界面方程式を弱形式の形にして計算するのですが,ここでの特徴は,曲率を定義する Frenet–Serret の公式も弱形式により離散化する点です.これにより,節点間の距離が一様になりながら安定に数値計算できるようになりました.Tanakam さんには,PFEM による H^1 曲線短縮流の数値計算スキームを作ってもらおうと考えています.
進捗:
4月〜:H^1 曲線短縮流の導出を,元の論文 Schrader–Wheeler–Wheeler (2023) を読んで理解してもらい,その後に parametric FEM を用いた数値計算スキームを構築する方向で,研究をしています.
朱 昱 (Yu Zhu)(研究テーマ:KWCエネルギーを用いたデータ分離)
概要:結晶粒界の数理モデルの1つに Kobayashi–Warren–Carter (KWC) モデルと呼ばれるものがあります.KWC モデルの数学解析自体極めて難しいものですが,最近,儀我美一先生等との共同研究において,KWC エネルギーの連続型データ分離への応用の可能性を模索しています.朱さんは,この共同研究における数値解析パートを担当される予定です.
進捗:
4月〜:2次元の全変動流の数値計算を split Bregman 法で行っています.これが終わったら,いよいよ,Kobayashi–Warren–Carter モデルの数値計算に取り組んでもらいます.
Peitian Wang(研究テーマ:基本解近似解法の数学解析および応用研究)
概要:偏微分方程式のメッシュフリー数値解法の1つに,基本解近似解法(Method of Fundamental Solutions,MFS)と呼ばれるものがあります.MFSに対する数学理論はまだまだ発展途上であり,調べるべき点が多く残されています.Wang さんは,MFS の数学理論および応用について研究していく予定です.
進捗:
4月〜:解析的な境界データに対する理論解析は,すでに補間理論ベースでできています.より一般の Sobolev 函数のときに何かしら理論解析できないか,引き続き検討しています.
M1
上地 泰慧(研究テーマ:数理生物学に関係した移動境界問題の数理モデリング,数学解析,数値解析)
概要:上地さんは,移動境界問題の数学解析や数値解析を通じて数理生物学の研究を行うことを目標としています.具体的には腫瘍成長を対象としていく予定です.
進捗:
4月〜:2次元領域における wave-pinning の特徴付けを数学的に行う方向での研究を継続しています.だいぶ色々と分かってきているので,前期中に研究成果がまとまったら論文にしたいと考えています.
小川 尚比古(研究テーマ:機械学習に基づいた移動境界問題の数値計算アルゴリズムの提案・解析)
概要:小川さんは,機械学習に関連した研究テーマとして,機械学習を用いた偏微分方程式の数値計算手法の研究を行う予定です.通常の偏微分方程式ではなく,移動境界問題の数値解析手法を開拓することが目標です.
進捗:
4月〜:カーネル法のアイディアに則った,曲線短縮流の陽的スキームに対応する数値計算スキームを構築するところまでできました.プログラムを実装しているところです.
正木 歩(研究テーマ:有限要素法による移動境界問題の数値解析)
概要:正木さんは,移動境界問題の数値解析について研究していくことになりました.特に,内部領域の偏微分方程式とカップリングした界面方程式の数値解析を行うことになりました.
準備状況・進捗:
4月〜:準備段階の勉強として,界面上での反応拡散方程式とカップリングした界面方程式の数値解析を行っている論文 Pozzi–Stinner (2017) を読み始めました.論文を読み進めていく中で,不足している数学知識も補っていきます.
安永 弥央(研究テーマ:Langmuir 膜モデルの数理解析)
概要:安永さんは,Langmuir 膜の動態を記述する数理モデルの数理解析に取り組むことになりました.
準備状況・進捗:
4月〜:準備段階の勉強として,まずは Langmuir 膜モデルを提唱している論文 Alexander et al. (2007) を読み,数理モデルの導出を理解するところから始めました.特に,スペクトル計算の節を理解して,今後の研究に応用することが最初の目標です.
B4
圓明 大知(勉強テーマ:深層学習)
概要:圓明さんは,深層学習に関連する研究を行うことにしました.
準備状況・進捗:
4月〜:準備のため,岡谷先生の深層学習本を読み始めました.
栗本 國志(勉強テーマ:実解析)
概要:栗本さんは他大学に進学予定のため,そのための準備となる基礎的な勉強を行うことにしました.
準備状況・進捗:
4月〜:エリアス・M・スタイン,ラミ・シャカルチの実解析を頭から読んでいきます.
森 優樹(勉強テーマ:深層学習)
概要:森さんは,深層学習に関連する研究を行うことにしました.
準備状況・進捗:
4月〜:準備のため,岡谷先生の深層学習本を読み始めました.
D1
Khandaker Md. Eusha-Bin-Hafiz(勉強・研究テーマ:Hele-Shaw 型移動境界問題の数理解析)
概要:Hele-Shaw 問題は,完全流体の挙動を準2次元空間における粘性流体の挙動により考察することを可能としたもので,1898年に Henry Selby Hele-Shaw により提唱されました.その後,多孔質媒体中の流体の簡易モデルであることも確認され,それ以降,様々な分野において積極的に調べられています.Eusha さんには,縦置き Hele-Shaw セル中を浮上する泡の Hele-Shaw 型数理モデルの数理解析を行なっていただこうと考えています.
準備状況・進捗:
10月〜:3次元 Navier–Stokes 方程式から古典的 Hele-Shaw 問題の導出,また古典的な Hele-Shaw 問題に対する MFS ベースの構造保存型数値計算スキームの勉強から始めました.同時に,私の講義内容を自分で再構成してもらうことにより,移動境界問題の数学的基礎事項を学んでもらうことにしました.
1月〜:それなりに勉強が終わったので,私の昔の論文で提唱した,Hele-Shaw 問題に対する MFS による数値計算スキームを実装してもらうことにしました.
M2
Settawut Tanakam(勉強・研究テーマ:parametric finite element method による界面方程式の数値計算)
概要:移動境界問題の数値計算スキームには様々なものが提案されていますが,それらの中で成功しているものの1つとして知られているのが,parametric finite element method (PFEM) です.折れ線を用いて曲線を表示し,界面方程式を弱形式の形にして計算するのですが,ここでの特徴は,曲率を定義する Frenet–Serret の公式も弱形式により離散化する点です.これにより,節点間の距離が一様になりながら安定に数値計算できるようになりました.Tanakam さんには,PFEM による H^1 曲線短縮流の数値計算スキームを作ってもらおうと考えています.
準備状況・進捗:
10月〜:PFEM のアイディアを4階の幾何学流に応用した Barnett–Garcke–Nürnberg (2007) を読んで,PFEM のアイディアを勉強することにしました.
11月〜:前述の論文のアイディアを参考に,まずは曲線短縮流に対する数値計算スキームを構築し,その基本的な性質を調べること,及びプログラムの実装に取り組んでもらうことにしました.
→ 中間発表に,なんとか実装が間に合いました.
M1
朱 昱 (Yu Zhu)(勉強・研究テーマ:KWCエネルギーを用いたデータ分離)
概要:結晶粒界の数理モデルの1つに Kobayashi–Warren–Carter (KWC) モデルと呼ばれるものがあります.KWC モデルの数学解析自体極めて難しいものですが,最近,儀我美一先生等との共同研究において,KWC エネルギーの連続型データ分離への応用の可能性を模索しています.朱さんは,この共同研究における数値解析パートを担当される予定です.
準備状況・進捗:
4月〜6月前半:最も簡単な部分である,差分法による熱方程式の数値計算の基本的な内容を勉強しました.
6月後半〜:全変動流の数値計算をできるようにするために,Goldstein–Osher (2009) を読んで,split Bregman 法の理論を理解し,実際に数値計算できるようになることを目指します.Bregman の原論文の主張を理解する必要もあるため,並行して Bregman (1967) も読み進めます.
10月〜:split Bregman 法の勉強を継続しています.
11月〜:数値計算で実装し始めます.色々な復習も兼ねて,1次元のPoisson方程式から始め,2次元のPoisson方程式,そして全変動エネルギーと進んでいきます.
→ 3月末までで,なんとか1次元全変動流の数値計算ができるようになりました.
Peitian Wang(勉強・研究テーマ:基本解近似解法の数学解析および応用研究)
概要:偏微分方程式のメッシュフリー数値解法の1つに,基本解近似解法(Method of Fundamental Solutions,MFS)と呼ばれるものがあります.MFSに対する数学理論はまだまだ発展途上であり,調べるべき点が多く残されています.Wang さんは,MFS の数学理論および応用について研究していく予定です.
準備状況・進捗:
4月〜6月前半:MFS の数学解析における試金石である Katsurada–Okamoto (1988) 論文を読み,MFS の数学解析の基本的な考え方を身につけました.
6月後半〜:不変スキームにおいて,より一般的な点配置に対する数値解析を行った Kazashi–Sugihara (2014) 論文を読むために,Wendland の Scattered Data Approximation の第8章を読んでいます.この内容を理解した後に,上記の論文に移っていく予定です.
10月〜:引き続き,Wendland の Scattered Data Approximation を読んでいます.必要に応じて第6章の内容も勉強しています.また,だいぶ理解できるようになってきたので,Kazashi-Sugihara (2014) 論文を読み始めました.
11月〜:Kazashi–Sugihara (2014) 論文を読み終えたので,研究を始めました.必要に応じて Wendland の結果を勉強しつつ,高次元球領域におけるMFSの理論解析を目指します.
→ 12月25日:まだ詳細を確認しきれていませんが,近似理論をうまく用いることにより,球領域におけるMFSの理論解析(近似解の一意存在ならびに誤差解析)ができたように思えます.私は方向性を指示しただけで,基本的にはWangさんが独力で頑張られました.まずは研究内容を丁寧にまとめたノートをLaTeXで作っていただき,その内容を精査した上で問題がなければ,論文を書くことになると思います.
→ この結果だけだと弱すぎるので,もう少し理論を拡張することを目指して色々と文献を調べました.参考になりそうなものが見つかったため,こちらを元に研究を進めます.
B4
上地 泰慧(勉強・研究テーマ:数理生物学に関係した移動境界問題の数理モデリング,数学解析,数値解析)
概要:上地さんは,移動境界問題の数学解析や数値解析を通じて数理生物学の研究を行うことを目標としています.具体的には腫瘍成長を対象としていく予定です.
準備状況・進捗:
4月〜:Li–Hou–Wei (2024) 論文を読んでいます.この論文では,球対称解に限定してはいますが,腫瘍成長を記述する移動境界問題の数学解析を行なっており,解析手法を勉強する一環として内容を精読しています.また,自主的に数値計算も行なっています.
7月19日,22日:二宮先生の本「侵入・伝播と拡散方程式」の第7章を読んで,フェーズフィールドモデルから界面方程式を導出する手法について勉強しました.
7月22日〜:Liu–Chen–Li (2024) 論文を読み始めました.
8月:1変数バージョンの数理モデルを提示している Camley–Zhao–Li–Levine–Jan Rappel (2017) 論文を読み,数値実験できるようにしました.この内容を,数学と現象 in 伊香保にてポスター発表しました.
10月〜:今後の研究のための準備として,小川知之著「非線形現象と微分方程式」を読み始めました.同時に,上記 2017 年の論文を精読しており,終わり次第,共同研究者を交えて議論する予定です.
11月23日〜12月26日:チェコ工科大学に留学します.こちらでは,Michal Beneš さんならびに Miroslav Kolář さん,Maneesh Narayanan さんと一緒に研究議論し,細胞極性モデルの数値計算技術を身につけてもらいます.うまく数値計算できるようになれば,それだけでもいい論文が書けると思います.
12月20日:Phys. Rev. Eの論文を共同研究者を交え,おおよそ読み終えました.これからは数理モデルの改良および分岐解析に取り組んでいきます.
→ 12月30日:上述の SIAM 論文で色々とおかしいことがありそうですね,という話をしていたのですが,その原因を解明してくれて,適切に修正したら我々が望んでいた形の境界条件が出ると報告してくれました.LaTeXで詳細をまとめていただいた後に,共同研究者を交えて議論する予定です.
2次元領域での wave pinning を数学的に調べる方向で研究を進めることにしました.
研究発表:
上地 泰慧,榊原 航也,"細胞の運動と移動境界問題"(ポスター発表),数学と現象 in 伊香保,2024年8月30日〜9月1日.
上地 泰慧,"細胞運動の移動境界モデル",数学と現象 in 清里,2025年2月2日〜4日.
小川 尚比古(勉強・研究テーマ:機械学習に基づいた移動境界問題の数値計算アルゴリズムの提案・解析)
概要:小川さんは,機械学習に関連した研究テーマとして,機械学習を用いた偏微分方程式の数値計算手法の研究を行う予定です.通常の偏微分方程式ではなく,移動境界問題の数値解析手法を開拓することが目標です.
準備状況・進捗:
4月〜:カーネル法の基礎を勉強するために,福水先生のカーネル法入門を読んでいます.まずは付録部分で函数解析の復習を行い,そこからカーネル法の理論(再生核 Hilbert 空間など)に移っていく予定です.
8月:福水先生の本の2章を読み終え,カーネル法と再生核 Hilbert 空間についてまとめて数学と現象 in 伊香保にてポスター発表しました.
10月〜:Mehrkanoon–Suykens (2015) 論文を読んで最小二乗法型サポートベクターマシンによる偏微分方程式の数値計算について学びました.続いて,Bretin–Denis–Masnou–Terii (2023) 論文を読み,フェーズフィールド法に基づいた平均曲率流の機械学習による数値計算について勉強し始めました.
11月〜:論文を読み終え,徐々に研究モードにシフトしていきます.
12月〜:移動境界問題における接線速度の決め方を学ぶために,まずは Ševčovič–Yazaki (2011) 論文を読みました.その後,カーネル法におけるカーネルの選び方を論じた Doumèche–Bach–Biau–Boyer (preprint) 論文を読みました.今後は,移動境界問題に対する機械学習ベースの数値計算スキームの構築を目指し,研究していきます.
カーネル法のアイディアに則った曲線短縮流の数値計算スキームを構築する方向で研究を始めました.
研究発表:
小川 尚比古,榊原 航也,"カーネル法のための再生核ヒルベルト空間"(ポスター発表),数学と現象 in 伊香保,2024年8月30日〜9月1日.
山田 陽介(勉強テーマ:精度保証付き数値計算)
概要:山田さんは,数値解析の理論的な勉強をすることになり,近代的な手法である精度保証付き数値計算を扱っていくことにしました.
準備状況・進捗:
4月〜:大石先生編著の精度保証付き数値計算の基礎を読んでいます.1章で浮動小数点数演算と区間演算について勉強した後に,6章に進み,非線型方程式の数値解析について勉強しています.
10月〜:継続して精度保証付き数値計算について勉強しており,後期はメインで常微分方程式と偏微分方程式を扱っていきます.
最終的に偏微分方程式に対する精度保証のところまで読み終わりました.