物質の性質を研究する、物理学の分野の一つです。ある物質は電気を通すのに別の物質は電気を通さないとか、ある物質は磁石にくっつくのに別の物質は磁石にくっつかないといった違いが生じる仕組みを、物質中の原子の並び方やその中を動く電子の運動から出発して説明することを目指しています。本研究室では主に次の2つのテーマを中心に研究しています。
従来の固体物理学は、原子が周期的に並んだ結晶を主な研究対象として発展して来ました。一方で、原子が周期的ではない別の規則性に従って並んだ準結晶や、不規則な構造をもつアモルファスの性質については確立した理論が少なく、まだまだ多くのことが未解明のまま残されています。特に、このような非周期的な構造が電子の運動にどのような影響を与えるか、また、その結果としてどのような物質の性質が現れるかという点に興味を持って研究しています。
左上の図は、ペンローズタイリングと呼ばれる準結晶構造の代表的なモデルです。太い菱形と細い菱形の2種類だけを使って、平面を非周期的に覆い尽くしています。この青丸のところに原子があると考えて、準結晶中を動き回る電子の分布を描いたものが右上の図です。電子が多いところと少ないところが綺麗な模様を描きます。このような模様とこの準結晶の性質にはどのような関係があるでしょうか?また、少し条件を変えると模様が変化しますが、そのときこの準結晶の性質はどのように変化するでしょうか?「電子が描く模様」を通して準結晶の性質を制御することを目指しています。
もう一つ、最近注目しているのはハイパーユニフォーミティ[S. Torquato and F. H. Stillinger, Physical Review B 68, 041113 (2003)]と呼ばれる概念です。例えば、下の2つの点の分布はどちらも不規則ですが、左側は疎密が大きく(点がたくさん集まっている領域と少ない領域があり)、右側では粗密が抑えられています。左側はただのランダム分布、右側は不規則ハイパーユニフォーム分布と呼ばれるものです。青点を原子だとして、普通のアモルファスは左側の分布に分類されますが、右側の分布のアモルファスが作れたらそれは大きく違った性質をもつかもしれません。このような新しい不規則構造の物質の性質をコンピュータでシミュレーションしながら調べています。
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「準結晶の超伝導ーフラクタル超伝導研究の黎明ー」、 固体物理 2018年10月号(アグネ技術センター)
「Tinkering with Superconductivity in a Quasicrystal」(2019.9.3)
物質中では多数の(アボガドロ数くらいの)電子が動き回っています。これらの電子は互いにクーロン相互作用を及ぼしあいながら運動しています。この相互作用が特に強く効いている物質群(例えば遷移金属酸化物)を強相関電子系と呼びます。強相関電子系は、従来の固体物理の理論では予想がつかない劇的な現象を示します。1986年に銅酸化物で見つかった高温超伝導が典型例です。電子間のクーロン相互作用の効果を精度良く取り入れて、強相関電子系の物性予測を可能にする理論の構築を目指しています。
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「Poles and zeros of Green’s function and its relevance to high-Tc cuprates (slides)」(2010)
「“s”-wave pseudogap in underdoped cuprates (slides)」(2013)
「銅酸化物の超伝導はなぜ高温か?」(2016.2.1)
「銅酸化物超伝導を「高温」にする隠れたフェルミオン」、 固体物理 2017年2月号(アグネ技術センター)
「Self-Energy Singularity Explains High-Temperature Superconductivity in Cuprates」(2023.7.18)