2019年 夏合宿参加者の感想

(Iさん)

2019 年 8 月 24 -25 日にかけて,神奈川県三崎で埼玉科教協夏合宿が行われ,参加した。今回のテーマは,HYさんによる玉田泰太郎の教育と物質学習の体系という提案であった。その内容は二つに分かれている。一つは,玉田さんが研究・実践した 物質概念の基礎を手がかりとして小中高の物質の学習では何を教えるか,その体系を探り,階梯ごとに何を教えるかを考えるというもの。もう一つは,玉田さんが描いた子ども像であった。後者については,これまで埼玉科教協で集団で向き合ったことのない提案であり,新鮮であった。

とりわけ前者について,強烈に印象に残ったことがある。それは,玉田さんが「物質概念の基礎」を検討するときに学んだことの中から2つ挙げていて,それは田中實の「物質不滅の法則-その成立と適用―」(『理科教室』1958年12月号)と林淳一の「小学校における“物質概念”の形成」(『理科教室』1963年年3月号)である。玉田さんのまとめによると,この林淳一の提案は,①物質は階層的な構造をもち,②これに対応して物質はさまざまな相互作用を及ぼしあい,たえず変化し運動していること。合宿前に予習をと思い,この玉田さんの書いたものは読んでいたつもりだった。因みに,林淳一の文章は,『理科教室』淳一の文章は,『理科教室』1963年3月号ではなく,1963年2月号「科学教育研究の課題」であって,真船和夫との対談になっている。それはともかく,合宿での議論がこの玉田さんの書いたものを前提になされたが,その議論の筋が見えなかった。「玉田さんが書いていることをきちんと読んでくださいよ」と指摘された。事前に読んでいたはずなのに,その「読み」は,単に「目を通していただけ」であることに気づかされた。読むことは,自分の体験・力量に,さらにはそのときどきの関心よって,少なくも自分はなすものである。だからこそ,意味のある著作は,何度くり返し読んでも,その都度教えられるところが見つかる。ついでに書いておくと,この文献を探している最中に,同じ『理科教室』中に,同じ『理科教室』1962年年5月号にという対談が目についた。ここでは話題がそれここでは話題がそれてしまうので,触れないが,やはり科教協初期のものには学ぶところが大きい。ころが大きい。

そして合宿でのこの議論の中で,自分にとって意味のあることをもう一つ見つけた。それは,林淳一が指摘した自然の階層性と教育内容の構造についてである。HYさんは今回,物質学習の階梯による構造化を検討しようとした。その一方で,林淳一による(必ずしも林淳一だけが語ったものではないことはもちろんである)自然の階層性は自然科学という学問によってとらえられるものである。宇宙,肉眼でとらえられるマクロ的現象,物質を構成している原子・分子によるレベル ,さらに原子の構造にいたるもの等,それぞれが相互にかかわりあいながら現象が起こっている。そして自然現象は物質を基礎として起こり,自然科学はそれを研究対象としており,さまざまな段階でとらえられるものの,物質の存在は一貫してそれを貫いている。だからこそ,物質をとらえることが非常に大切である。そこで教育としては,まずその基礎を養う物質をとらえることが非常に大切である。そこで教育としては,まずその基礎を養うことが課題になる。玉田さんはこのように物質をとらえたからこそ,教育の課題として「物質概念の基礎」とは何かを,その内容とともにそれをいかに教えるかを生涯の課題としたのではないかと思われる。課題としたのではないかと思われる。ここで玉田さんがなしてきた研究から見出せることは,学問としての自然科学を自分でどのようにとらえるのか,その上で,それを教育の課題としてどのように受けとめるのか,この受けとめが「教育内容をつくる」ことになる。そしてこのように自然科学という学問と教育(の体系・構造)とを対置し,教育を考えていくことは,真船和夫がすでにまとめている。いずれにしろ,科教協が積みあげてきたことの中に,日々授業に追われながらも私たちが学ぶべきことがあることを忘れてはいけない。その基礎の上に,自分に,自分たちの研究と積み上げがなされるのではないだろうか。そんなことを考えさせられ,成果のあった今回の合宿であった。。担当のHさん,ありがとうございました。そして,ご苦労様でした。

(Oさん)

私は、いい歳なのに玉田さんの実践はおろか科教協で積み重ねられてきたものがどんなものであるのかすら、よくわかっていません。現場にいるときには、大月のテキストや教科書、または、ネットで探した資料などを比較して自分なりに,この子たちにはこれでいこうと決めて日々実践していました。可能であるすべての時間は、その翌日の授業や実験準備に注いでいました。課題解決方式で取り組むと、生徒は授業を形だけでも楽しんでくれました。しかし、内容が伴いませんでした。教材はよく考えぬいたつもりでしたが、はじめの計画とどんどん変わっていきました。できるだけ、生徒が問題を解けるように、訓練的になってしまうこともありました。

Hさんが「ここでは、理想を語りましょう。」と呼びかけてくれました。確かに、そういう機会はとても大事だと思いました。目の前の生徒に、何を教えたいかを玉田さんは、はっきりとしたものを持っているので授業中、子どもたちもどこを切り口にしていけば、解決できるのか意見を言い合う中で見出していました。玉田さんの全ての行動には、意味が有るとIさんが言っていました。それは、玉田さんの授業で一貫していました。

そこで、今回の研修のまとめとして、林さんは、小・中・高それぞれの時期で、物質学習の体系と構造として教師が「何を教えたいか」を、はっきりとえがいてみようという提案をしてくれました。ただ、私では、大月のテキストの化学分野の単元をそのまま到達目標も入れて繋いだものしか描けません。それでは、あまり意味がないかもしれませんね。理化などで検討して良いものができれば、どの学年で、どの教材をどんな到達目標で教えるかをきちんと捉え直して、ひと目で把握できてよいかもしれません。

さて、今回の合宿で、現場を離れた今が過去の文献をきちんと学べる機会だと思いました。経験も知識も理解力もないけれど、とりあえず意欲だけは、湧いてきました。遅すぎるかもしれませんが、これまでの「科教協のすぐれた実践」をこれから是非学んでいきたいと思いまいました。とても、良い機会をいただけてありがたかったです。Hさん、本当にご苦労様でした。

(Kさん)

玉田さんの授業ビデオを見て、「玉田さんは何をどこまで教える べきと捉えていたか」 、 「玉田さんはどのような子どもの育成を目指したか」を話し合うということをHさんが提案した。たくさんの資料を用意してくれてあったし、Hさんは何冊も玉田さんの本の隅々まで読んでいた。

「何を」を考える

しかし、申し訳ないが 私には抽象的な話が多く、難しくて何を話せばいいのかよくわからなかった。“何を”は小学校の物質学習はマクロな目で物質や現 象を見ること。中学校は、ミクロな目で見て現象を分子や原子で 説明できること。高校では、原子構造から現象を見ること。これでいいのかなと思っていたが、Hさんは 、「物の重さ」「物の体積」「物の温度」というような内容一つ一つを中学・高校ではどういう到達目標になるか考えようということらしい。それが分かったのはもう終わりの頃だった。どうも議論がかみ合わなかった。(これは私だけがついていけなかっただけかもしれない。皆さんはかみ合っていた?)Hさんのレポート要求とは外れるがビデオを見た発見を書いてみたい。

「混合気体」のビデオ

前に見たことがあったのだが、今回改めてわかったのは、玉田さんが討論の時に子どもの意見を整理していることだった。討論は子どもに任せると書いていたが、整理することもあったんだと思った。私の過去の実践でもこの課題では、気体は混じり合うのか、気体の性質は保有されるのかの2つが争点になり、それがごちゃごちゃになっていた。私は実験の前に整理したり、実験が終わってから、わかったことを2つ書いてと子どもに話したりした。

それから、子ども達の何人かが分子という言葉を使って自分の考えを発表していた。きっと三態変化の学習の時に「飛び回る分子の話」を読みそれを使って考えたのだろう。玉田さんは分子で説明できることを目標にはしていなかったらしい。到達目標は全員が獲得できる概念や法則だから、一部の子どもが使ったとしても、全部の子どもが理解できないことを到達目標にはしないとのことだった。混合気体について3時間を使っている。このように丁寧に積み上げて混合気体を理解させていっていた。

「酸と酸水溶液」のビデオ

これは初めてだった。2時間目の「酒石酸は酸」と「酢酸は水に溶かした時に酸の働きをする」という2時間の授業だ。授業の初めに酢酸の説明をするのに「クエン酸も融点を超せば液体になる」ということを教師実験で見せていた。だから酢酸は今液体だが、固体にもなると説明していた。私が見た本では、冷蔵庫に入れた氷酢酸を見せてから液体の酢酸を見せるように書いてあったように思った。

それと、酢酸の試験管1本だけで「この中に炭酸カルシウムを入れたら反応するかどうか」を聞いていた。酢酸に水をいれた酢酸水溶液と酢酸を比べるというのがよくやられている実践のようだ。2本の試験管を使うと、薄めた酢酸水溶液と濃い酢酸という、濃い薄いという言葉で惑わされ、水に溶かすということがわかっていない子どもが多いということから、小学校サークルでは、試験管1本に酢酸を入れ、水に溶かさない状態だったらどうかを聞く課題にしたらいいのではないかという案が出ていた。玉田さんも1本でやっていたのかと初めて知った。

玉田方式の授業

玉田さんが実践した授業の方式だけが広まって、到達目標については、皆ばらばらで理解せずに授業をしている人が多いという指摘があった。確かにそうなのだが、形だけでもまねしてほしいと思う授業を多く見る。「教科書通り」の実験もしない理科の授業がある中、多くの教師が玉田方式の形だけでもまねをすれば、ずっとよくなると思うこの頃です。

(Tさん)

夏合宿,初日の事務局会議が終了してから参加でしたので,全体像が意味一つ見えないので的外れなところがあるかもしれません。Hさんからは,2日目の終盤で,小・中・高のそれぞれの段階で,物質学習の体系についてどのように学ぶかを出してほしいといった提起がされたのですが,正直,何を求められているのかが見えませんでした。おそらくそれは高校で「物質学習」とは普通言わないことと関係しそうです。高校でしたら「化学」で何をどのように教えるかを考えるからです。そこに小・中・高の体系を考えるヒントがあるかもしれません。

小学校や中学1年くらいまでは化学と物理とにはっきり分けることができない内容を学ぶのではないでしょうか。物体と物質の違いがはっきりと分かるようになるのは,中学1年生の辺りでしょう。

小学校では主に物体や物質に共通にある性質を知ることで,自然界には物質や物体が確実に存在するのだと確信することに目標があると思います。つまり,液体や気体は物質ではあるが物体とは言えないだろうとを知ると同時に,閉じられた中であれば質量が変わらないことや,いくつかの性質(主に化学的性質になるでしょう)は温度が変わることにより,固体から液体,液体から気体と変わっても維持されることを知り,その大元が構成粒子から来るのではないかと気づき始めることが目標になるのでしょう。

そして中学で粒子的構造を確信させ,粒子によって物質の性質が決まることやそこに階層があり,分子の階層と原子・イオンの階層があることとそこでの適応できる法則に違いがあるらしいと知ることになると考えられます。

高校になった時には物質が示す性質をさらに多くの物質に広げて知り,それを整理する,原子の構造の反映である周期律,周期表を学び,そこを手掛かりに物質が未知であっても性質を予想できるようになる,その辺りが高校での到達点ではないかと思います。

以上の内容を,網羅的にまとめた成果が「化学指導法事典」ではないでしょうか。そこには『理科教室』の創刊からの科教協の到達点がまとまっていると見ることができます。そのことが端的に表れているのが玉田さんの酸と酸水溶液の性質の授業ビデオだと言えます。

したがって,物質学習・化学学習の体系を考えるにあたってはこれをしっかりと批判的に読み解くことが必要なのだと実感しました。こうした大きなテーマについてなかなか考える機会がなく,Hさんの提案は良いきっかけを与えてくれたと思いました。

(Mさん)

今回のテーマは玉田さんの授業を視聴し、参加者 で物質学習の体系と構造を各々が小中高校段階をふまえて、どのように考えているか出し合おう と いうテーマであったと思う。(第2のテーマは深めることができなかった。)

小学校では具体的な事実を確かめていく。その事実は個別的ではあるが基礎的で、共通性のある事実でなければならない。今回視聴した混合気体の授業は分子を使って討論しているので、この小学校段階ということから外れてしまう。玉田さんは「混合気体」や「酸とアルカリ」を到達目標化しなかった(できなかったのではない)とHさんが報告してくれた。この報告にIさんから「到達目標は全ての子どもに到達させたい自然科学の事実、法則、概念だから4割程度の子どもしかわからない目標ではいけない。」ことを加えてくれた。普段、到達目標を議論する上で大事なことである。中学校では物質を分子、原子、イオンのレベルでとらえ直していく。例えば、小学校中学校では物質を分子、原子、イオンのレベルでとらえ直していく。小学校で学習した状態変化も中1では分子運動を使ってとらえ直す。高校ではさらにミクロな視点になるが、単にミクロになるだけではない。元素の周期律を使い電子配置や結合から物質をとらえ直していく。といった小中高のイメージを簡単に共有したが、Hさんが求めていた、その視点がどうして必要なのかまで答えることはできなかった。

会の中ではHさんの求めていることがわからないという話も出たが、私自身が体系まで意識して授業を作っていないので、答えることができなかったというのが実際のとで意識して授業を作っていないので、答えることができなかったというのが実際のところである。決してHさんの問いかけが悪かった訳ではない。

今ある授業の単元の目標やプランを検討したり、その前後の単元の授業をどうするかについては考えてきたが、高等学校における物質学習の体系、物理学の体系をちゃんと検討してこなかった。そのような意味でも考えさせられる合宿となった。Hさん会場の確保やレポート、本当にありがとうございました。