2019年 3月例会参加者の感想

〇TYさん、YAさんともにサークルで検討を重ねてきた実践でした。TYさんは冬合宿で報告ができなった並列回路の電圧で、抵抗にかかる電圧(電圧降下)を回路で使われた電源電圧の量として進めることにしましたが、実践する前からこの並列回路のところでどうなるか懸念されていました。TYさんの反省にもありましたが途中でいくつか電源電圧が使われるではなく、電圧が使われるとなってしまったことや、あくまでも独立した回路を1周する中で使われることの約束が足りなかったことなどもあるとは思います。そもそも電圧降下を使われるとしたこと自体にも問題があったかもしれません。しかし、忘れてはいけないのは生徒の反応や認識に寄り添いながら試行錯誤している実践だということです。この単元は高校生でもちゃんと分かっておらず、苦手にしています。一部のパターン問題ができるようになった生徒でもわかっていないことが多いのです。そういった中でKSさんTYさんの実践から学ぶところは多かったです。(このように実践すると生徒はどう考えるか)そういった意味でもYAさんの実践も多くの生徒が苦手とする物質量(㏖)の導入と化学反応式の量的関係のところでした。生徒に考えを書かせてつまづいているところを確認しながら丁寧に授業を進めていました。比例計算ができないなど、想定していないところでの難しさはありましたが、記録を見ると生徒は投げ出さずよく考えているようです。モルが分かると化学反応がよく見えてくることを実感してもらいたいのですが、こちらの思いと生徒の反応にまだまだ隔たりが大きそうです。今後も検討を続けたいと思います。(MTさん)

〇 電圧を「使う」という表現は電圧を初歩的に理解しようとする生徒の言葉から出てきたものだったと思います。教員が使わぬようにしても,電圧が減少するのはなぜかという疑問を持つ生徒はおり,そうした生徒がどこかで「使われた」のではと表現することもこれからもありうることです。熱力学で温度が減るとか使われたなどと言うのと似ているのではないでしょうか。それをどのようにより正しいものに高めていくかどうかを考える必要があると思いました。ただそれは中学だけに限定せず,初等中等教育全体で電磁気をどう教えるかまで広げなくてはならず大変ですが,でもそれは目指すべきものと思います。

”モル”をどう教えるかは悩ましい問題です。YAさんのプランは比較的教科書の流れ,あるいは科学史での発展に沿ったものです。ただ科学史というか化学教育の歴史で考えると,原子論を否定するあるいは認めないという大きな流れの中で等量を,原子価を経てモル概念を導入するようになってきたわけで,かなりの紆余曲折があるわけです。それをかなり端折った形で触れるよりは,原子の存在は生徒は認めていると考えてよいので,原子量を原子1個の質量とし,それを現実のマクロな反応量とを結びつけるためにアボガドロ数があるとして導入するほうが時間も早く,習熟の時間もとれるのではと思うのです。(THさん)

〇TYさんたちが提唱した電圧が「使われる」という言い方は、並列回路の学習の実践を通じて、やはり無理があることが明確になったと思う。「使われる」のは電力(エネルギー)であり、電力学習からプランニングし直すなら、可能性はあるかもしれない。THさんの言う「電気の粒1個当たりのエネルギー」というのも電力に近い考え方だ。単元の入れ替えなどの大きな変更をせずに学習するなら、電圧は電圧計で測れる量として、連続する導線上のどこに電圧計の端子をつけてもよいことなどの性質を学んでおき、電流は途中で無くならないという性質やオームの法則を合わせ、電気回路の中ではルール通りにきっちりと量が決まることの面白さを学ばせたいなと思う。物質量の学習は、“理解できれば”反応物の必要な量、生成するべき量が予見でき、さらには原子の実在を実感できる分野だ。しかし数学的素養が必要とされることから、そこが苦手な生徒が多い学校では、解き方を覚えさせてお茶を濁したり、単元そのものを回避してしまったりする学校もある。今回のYAさんの実践で、機械的な比例計算はできても、比の概念自体が形成されていないために、なかなか使える力になっていかない様子が報告された。研究は緒に就いたばかりだが、どうすれば数学に苦手意識を持ってる生徒にもmolが使えるようになるか、実践を積み上げていってほしい。きっと数学が得意な生徒でも、「よくわからないけど問題は解ける」レベルの生徒は多いと思うので、多くの人に役立つプランになると思う。(ITさん)

〇TYさんのレポートは、冬合宿に続いての電気の報告だった。電源電圧を使うという表現が、抵抗の並列回路にも使えるのかという疑問が残っていたので興味深く聞いた。やはり難しかったようだった。子どもの発言はとてもしっかり考えた上での発言で、なるほど、なるほどと思いながら聞いた。根拠もなく選択肢を選んだわけではないことがわかる。思考力という点では子どもはとても伸びていると思った。

YAさんの基礎化学のモルをどう教えるのかというレポートだった。教えながら実験もしているということに驚いた。ここは、とても難しくて、私も教わった時はよくわからなくて、使いながら理解していったように思う。今でも「専攻は何でしたか」と聞かれて「生化学でした」と言うと、「すごいですね。僕はモルが全然わからなかったですよ。」という話をよく聞く。「モルなんて一般生活では使わないよね。何で勉強するの?」という声もある。化学変化の時の単位だと思うが、日常生活で使う単位ではない物だからそう思われているのだと思う。

2つのレポートは、難しくて、どう教えたらいいのか、何のコメントできなかった。でも、どうしたらいいのかいろんなことを考えた時間だった。(KHさん)

〇【電流回路(TYさん)について】

電圧を「回路の中で実際に使われる電源電圧の量」とし、電圧を「使われる」ものとした新しい提案についての是非を問う報告で、とても興味深いものでした。

サークルや冬合宿の中でも継続的に議論されてきたことでしたが、ずっと賛否両論で意見は分かれるばかりです。おそらく、議論に参加している人は「使われる」という表現の意味をそれぞれで理解しているのではないかと思います。僕自身も、先日の理化サークルの中でやっと「電圧は単位あたりのエネルギーなんだ」ということの意味がわかってきて、抵抗器のところが仕事場なのだということなどが理解できるようになったところです。それまでは、単に回路を一周する間にあるそれぞれの抵抗器にかかる電圧の大きさの和が、電源電圧の大きさに等しいという事実から、「電源電圧の大きさに等しい電圧が、回路を一周する間に使われる」と考えていたにすぎなかったので。自分自身の中での捉え直しは、ずいぶん進めることができたと思っています。

議論では、①電圧を「使われる」とするのはやはりやめて、実験(測定)事実から丁寧に進める形に戻す(たぶん、かなり今回の僕の実践に近い)プラン、②簡単にでも電位の概念を与えるかどうかということはとりあえず置いておいて、高さの概念(あるいは、単なるモデル)を与えて、電圧(V)を電位差、あるいは電圧降下にかなり近い形にしてEとVの区別をより明確にすすめるプラン、③プランを根本的に変えて、電圧よりも電力、あるいは電気の粒1個あたり(単位電気量あたり)のエネルギーを中心に進めるプランニングを考える(OHさんが和訳してくれているニュージーランドの教科書や、抵抗器を「仕事場」としている極地方式のプランがかなり参考になると考えられる) という3つに意見が分かれていたように思います。

僕個人の意見としては、①、②をせっかく深めてきたところなので、③を進めていく気には今のところなれないです。①の範囲の中でも改善できる部分はTYさんの報告からもたくさんわかって来たので、①を改善するもっとも現実的で、広めやすい方向で考えるということと、②でモデルではなく、かなり初歩的な(未熟な?)概念として電位を与えるプランを実践する方向で考えたいと思っています。②については、電位は難しいという意見や、(電磁誘導などもあるので)万能ではないという意見もありましたが、適用範囲を考えながら、高校の学習につなげていくことを考えると挑戦するだけの価値があるのではないかと思っています。

【高校化学(YAさん)について】

中学校の化学の報告をしていると、どうしても「もっと教えたい」ということが出てきてしまいます。それは、今年度化学変化を教える中で、「化学変化の量的関係」が問題になったときにもそうでした。

それは、「ここから先は高校で」と思っている部分が、高校の内容に抜けてしまっているのではないかと思うことがたくさんあるからです。中・高の力学くらい、丁寧な接続が欲しいし、そういうプラン作りに向けた検討が始まったのだと、うれしく思いました。

率直で、感覚的な感想を述べさせてもらうと、やはりこのままではモルは難しいし、生徒達がモルの必要性を感じられるものになってからのモルの導入になっていないのではないかと思います。

中学校では「難しい」とされている「原子量」を、実際にはかることのできる質量をはかりながら、目に見えない大きさの相対質量として定着させることがもっと丁寧に必要だと思います。ほとんどの中学校では、銅やマグネシウムと酸素の化合する質量(比)の関係を原子量を使って考えさせることまでやっていませんが、例えばモルに入る前の段階で、原子量を使って決まった質量の銅やマグネシウムと化合する酸素の質量が求められるようになっていることなどは重要ではないでしょうか。また、これらの酸化の化学反応式は係数がつくので、量的関係を考える最初の教材としては難しいのです。右辺の「MgO」からシンプルに1コずつと考える生徒もいれば、(僕のように)左辺の「2Mg+O2」から、複雑に?考えようとして混乱する生徒もいます。僕は、やはり鉄と硫黄の化合(Fe + S → FeS)のように、本当に1コずつ対応のものから入って、原子量の比から、反応する物質の質量比を考えさせる必要があると思います。つまり、こうした内容が高校で丁寧に扱われないままにモルが導入されてしまうのであれば、僕は中学の段階でもっと(原子の相対質量としての)原子量を使わせないといけないと思ってしまうのです。でもそれは、小俣さんからの指摘があったように、中学校の内容を増やし、難しくしていることにもなります。ただ、「間が埋まっていない」のだから、中高の接続を考えれば、目の前の生徒達のためにも、どちらかの対応をとらなければなりません。(KSさん)