Research

試験管の中で生じる微生物進化の観察を通して、生物進化をコントロールする技術や原理を探る研究に取り組んでいます。化石調査に始まる生物進化の探求の結果、人類は遺伝子配列の解読技術を生み出しました。この技術を用いることで現存生物の遺伝子配列が次々と明らかとされ、進化の過程を推定する分野が発展してきました。しかしながら、生物を自在に進化させるための原理や技術は、自然界の生物に残る先祖の痕跡を単に探るだけでは得られません。”身近な”生き物の遺伝現象の観察や、検証実験を通してそれらを抽出する必要があります。進化学者であるダーウィンは、ガラパゴス諸島の自然調査だけでなく、鳩の育種開発における人工操作にも目を向けることで、「選択」という進化の原動力の発案に至っています。こうした点を鑑み、精密な機材や工学技術が駆使できる実験室の中で生物の進化を観察し、進化をコントロールする技術や原理を探る研究を私のグループでは行っています。この人工進化の観察から得られる知見は、現存生物では未だ獲得できていない生体機能や生体材料の開発に繋がるかもしれません。また、これらの手法によって、より原始的で単純な構成の細胞をつくり出し、原始生命を探求する知的活動を推進したいと考えています。

実験室では、単細胞微生物の集団を何世代にもわたって飼育して、初期とは異なる集団構造へ(簡単には変異体のみの集団へ)移行させることに挑戦しています。この人工進化を効率よく進めるためには、扱う集団の個体数や、変異が生じる頻度、そして選択圧を調節する技術が必要となります。管理が難しい自然界で勝手に生じる進化と違い、実験室ではこれらを比較的自在に調節できます。そしてこの強みは、微生物をモデル生物として扱うことで最大化できると考えます。具体的な工夫としては、大腸菌を様々な培養条件で継代し、得られた子孫のゲノム変異を解析することで、より変異が蓄積しやすい条件を調べることなどを行っています。その際、祖先となる大腸菌の遺伝子型や培養条件を工夫し、より変異が生じやすく、生じた変異体が繁栄しやすい条件を試しています。例えば、変異修復遺伝子の欠損細胞やUV照射によって、変異の発生確率を高める工夫や、環境中の栄養や資源を制限することで生存に非必須な代謝反応の負荷の調整あるいは細胞分取装置を用いて特定の変異体だけを選択する等の工夫を行っています。これらの工夫をすることで、形態進化(桿状から球形への形態変化やサイズの変化)や姉妹細胞間の個体差の進化(クローン内の表現型のばらつきの増加や減少)そして遺伝子の不活化進化(遺伝子機能の退化)などの従来困難だと思われていた進化を短期間に実現させることに成功してきました。現在は、これらの進化実験を通して学んだことを発展させ、生物史においてより重要な進化の検証などを試みています。