カールスルーエ滞在記:後

今回のカールスルーエ滞在はかなりスケジュールがタイトで, この後編ではオランダへの移動前日(実質の最終日)のことを書く. 絶対僕が海外出張しているときだけ地球の自転が早まっている気がする(同じことを思っている人は多いはず). この日は午後までゆったり仕事をした後, ホストを務めてくださった Plum さんご一家の夕食会にお呼ばれする日. 期待は高まる一方である. 大学から一緒に移動ということで待ち合わせの途中, 部屋の扉の前をふと見ると面白いポスター(上の写真)があった. とくに左の "goal-oriented vs. curiosity-driven" というメッセージは身につまされる思いである.

さて Plum 邸は, カールスルーエの中心地区から電車で1時間弱, バート・ヘレンアルプ(Bad Herrenalb)という地区にある. 第一印象は「別荘が立ち並ぶ山手の閑静なエリア」というか, ざっくり言えば「田舎に泊まろう」感が満載である. 途中まではそこそこ建物も交通量も多いエリアを抜けていくのだが, 途中から雰囲気ががらりと変わり「あぁ, 自分はドイツに来たのだなぁ」と実感が湧いてくる. バート・ヘレンアルプへは市街地から直通の電車もあるが, たまたま来た電車は途中までのものだったので, とりあえず乗ることにした. 30分くらいして, 途中駅にて下車. ところが, 待てど暮らせど電車がやってこない. 電光掲示板を見ると「あと30分で来る」と表示されていたのに, 5分後見ると電車の案内そのものが消滅していて悲しみに暮れる. 万事休すかと思ったが, 同行していた先生(後述)のおかげでタクシーを手配いただいた. ちなみに待機中のバスもタクシーもすべてメルセデス・ベンツであり, もう一生分ベンツに乗った気分である. ちなみにシュツットガルトのネッカーパークにはメルセデス・ベンツ博物館があり, こちらも滞在中に訪問した.

だんだん景色が昔の Windows の壁紙みたいになってくると, いよいよドイツの雰囲気を感じる. ちなみにドイツのタクシーの値段は, 日本と比べてそれほど違いはない. 30分くらい乗って40ユーロ強だったが, 車が割と大きめだったので, それを考えると大人数なら少しお得に感じた. 個人的には韓国のタクシーが安すぎると思う(6年前にソウルの KIAS に行ったときは, 初乗り2000ウォンで100ウォンずつの従量課金. 40分くらい回ってもらったのに2000円でお釣りがきた記憶がある. その代わり, 行き先が気に入らなかったり面倒なときは堂々と断られることも珍しくない). 快適な移動を経て, ついにシュバルツバルトの北限に到着. Plum 邸への訪問が叶った.

写真から感じ取っていただけると思うが, 我々の予想をはるかに超えた豪邸である. 室内温水プールからプライベートサウナまであったが, サウナに至っては僕の自宅の書斎よりも大きくて驚いた. 市街地からやや離れた山奥だが, それを差し引いてもちょっと凄すぎる. もちろんドイツでずっと生活をし, 仕事をこなしていくには大変な苦労があると思うのだが, このときばかりは「ドイツに住みたいなぁ」と思ってしまった. たてもの探訪を一通り終え広々とした庭に出ると, トランポリンとサッカーを同時にこなすイケメン少年が楽しそうに挨拶してくれた. 向こうに見えているのが旦那さま(Plum 家のあるじ)である.

そもそもなぜ今回 Plum 邸訪問が叶ったのか, ここで少しその経緯を述べる. 今回の host を務めてくださったのは, 解析学・応用数理(正確には精度保証付き数値計算)を専門とされている長藤かおりさんである. 僕の専門とは異なる分野の数学者であるが, 実は長藤さんはもともと九大数理の准教授をされていた方で, 僕が学部生時代に2度授業を担当していただいた縁がある. 1度目は微積分の演習の授業, 2度目は計算機数学概論の授業であった. とくに後者は C 言語の授業で, 計算機数論の道に進む身として重要な基礎知識を勉強させていただいた. その後, 僕が確か修士の頃だった気がするが, ドイツ人の著名な数学者である Michael Plum 教授とご結婚され, ドイツに移住された. なので現在は Kaori Nagato-Plum さんとお呼びするのが正式である(日本名は昔と同じとのことで, 僕は「長藤さん」とよんでいる). ちなみに長藤さんにはこれまたイケメンの息子さんがいらっしゃり, 滞在中に食事をご一緒できた. 突然のドイツ移住にもかかわらず, 光の速さでドイツ語をマスター, 現地の女性に大人気だそうである. ちなみに長藤さんは KIT では秘書さんとしての所属だが, 非常勤で複数の大学で講義を担当されている(日本の秘書さんのイメージとはずいぶん異なる). 今回, ドイツでちょっと別の用件があったのと, 直後にオランダ出張が控えていたこともあり, ほんの少しだが visitor としてカールスルーエに滞在できた, という経緯である. 代わりに何か・・・ということで, 日本の調味料やお菓子などの買い出しをした. Plum 家はみなさん揃って「博多通りもん」の大ファンである. なお上のトランポリン少年は Plum 教授のお子さんである.

当日は天気にも恵まれ, 青空の下でディナーをご馳走になった. Plum 先生の出身であるケルンの代表的なビール Gaffel Kölsch をはじめ, 素晴らしい美酒美食を堪能した. 控えめに言ってこの世の天国である. Plum 教授とはビールを片手にお互いの数学の話なども楽しくさせていただいたが, 帰って同僚の方に言うと大変羨ましがられた(この分野では「雲の上の人」レベルの方らしいのだが, 分野が違うとフランクにお話ができる不思議). 写真を見ても, Plum 夫妻の仲睦まじさ, 一家の幸福感が伝わってくる.

極め付けは右上のクーヘンである. クーヘンはいわゆるケーキのことであり, 何と Plum 家代々の秘伝のレシピで作られるクーヘンがデザートとして供された. 僕の人生で最も美味しいクーヘンであった. ちなみに付け合わせの白ワイン Schloss Eberstein はこの地方で作られたもので, ワインもかなり安いドイツにしてはやや高級品なのだが, これも素晴らしいものであった. 実はこれがオススメであることを長藤さんから聞いていたので, この日のお昼にリカーショップで1本余計に買っており, 直後のオランダ出張の host の方にプレゼントした. またドイツの高級チョコレートショップ(GODIVA みたいなところ)でお土産を買うと, レジ横の試食チョコをすすめられるのだが, ほぼ売り物レベルの巨大なチョコが食べられて嬉しい. またロクシタン(フレグランスショップ)で買い物をすると, バッグの中にフレグランスをスプレーした薄いペーパーを入れてくれるのだが, 日本でもやってほしいサービスである.

楽しい時間というものはあっという間に過ぎるもので, もう帰宅の時間となった. 宿までは1時間半, 明朝8時の ICE(日本でいう新幹線のようなもの)に乗らなければいけないので早めにお暇させていただいた. これからもより一層数学に励み, 成長して再びこの地を訪れたいと思っている.

Contact:  s-yokoyama [at] tmu.ac.jp