カールスルーエ滞在記:前編

何をいまさら, な告白であるが, 僕は大のビール好きである. そんな僕にとって夢の国といえば, もちろんビール天国・ドイツである. 聞けば「ビールは水より安い」とか「ドイツ人はビールを朝から水のように飲んでいる」とか「ドイツのバファリンの半分は優しさ, 半分はビールでできている」とか(これはウソ)逸話に事欠かない. しかしながら, 僕は31歳になるまでドイツに行ったことがなかった. 近隣のイギリスには2回訪れたが, なかなかドイツに訪問する機会に恵まれず, ましてやトランジット(国際線乗り換え)ですら降り立ったこともなかった.

2016年の夏, ついに初訪問が実現した. 訪れたのはカイザースラウテルン工科大学で, ここには計算代数システム Singular の開発チームが集結している. 最近, 新しく Nemo/Hecke もリリースされ, ますます目が離せない. カイザースラウテルンはどちらかといえばのどかな街(つまり田舎)だが, さすがサッカー大国でもあるドイツらしく, この街にもスタジアムとチーム(Kaiserslautern FC)が存在している. ちょうど滞在した8月上旬にブンデスリーガが開幕し, 普段人の少ない通りも真っ赤なユニフォームを着た人々で溢れかえっていた. 初のドイツ滞在は素晴らしいものとなったわけだが, 2回目の滞在は思いもよらずすぐ(2017年6月に)実現した. 滞在先はカールスルーエ工科大学である. 後述(後編で紹介する)の通り, この滞在は僕にとって特別なものである. 2度目の滞在を終えて, 1度目のときには気付かなかった面白いドイツ事情や, 困ったときに使える tips を発見できたので, 少し紹介してみようと思う. これから海外滞在を控えている方, とくにヨーロッパへの長距離出張に少し不安を感じている方に, 気軽に読んでもらえると嬉しい. 少し長くなるので前後編に分けて書く.

カールスルーエに行くには, まずフランクフルト国際空港まで移動し, そこから鉄道を使う. これからフランクフルトを訪れる予定の方に注意だが, ここは「税関が厳しい」空港として世界的に有名である. その証拠に, 到着ゲート次第では税関ゾーンを2回通過する必要がある. 他の空港税関と決定的に違うのが「数万円以上の高額物品も要申告」という点で, 例えばノート PC も申告対象である. その場合は baggage drop を過ぎた後, 赤のゲートに行って正直に申告すればよい. 僕の場合はノート PC を手に持って "personal use only"(私的に利用するためです)と言えば, 難なく通してくれた. ちなみにドイツ入国に際し, 入国カードのようなものは記入しなくてよい.

ドイツは鉄道大国で, Deutsche Bahn(これで「ドイチェ・バーン」と読む)を使えば大体どこへでも行ける. この DB Bahn(このまま読むと Deutsche Bahn Bahn になる気がするが, 現地の人は何故かこうよぶ)は大変使い勝手がよいが, 四六時中遅延する点は注意である. オンラインで切符をクレジットカードで購入し, 座席の指定もラクラク. 当日は切符を A4 用紙に印刷して持っていけば, スキャンして検札もおしまいである(ただし日本からドイツまでは長距離移動なので, 飛行機が派手に遅延すると変更がきかないリスクがある. そのため現地で買うのが確実である). ちなみにドイツの鉄道駅には改札がないので, 無賃乗車しようと思ったらできてしまうため, 検札がやたらと厳しい. もちろん無賃乗車すると高額の罰金を請求されるので, 悪だくみはしないように.

もう一つ. 実は「フランクフルト駅」と言ったら3つ駅が存在する(実はもっとあるらしい).

このうち 2. と 3. は空港に直結しているが, 1. は空港から電車で15分程度離れた場所にある. 切符の予約の時点でこれを誤ると, 無駄な移動を強いられるので要注意である.

座席の上を見ると, 予約している区間が表示されていることに気づく. ちなみにドイツの人は予約をしていても, 用事が早く終わったりすると早い便に振り替えて乗ってしまうことが多いため, 予約されていても人が来ないことが頻繁にある. その場合は「空席扱い」とされて, 別の人が座ってもよい. そのため, 乗りこむのが遅いと知らない人が自分の席に座っていて「すみません, そこ僕の席なんです」と少し面倒なやりとりが発生する.

1時間ほどでカールスルーエ中央駅に到着. コンコースは大き過ぎず, コンパクトにまとまっている. 上の写真はタバコの自販機である. 2回目の滞在にしてようやく気付いたのだが, ドイツの喫煙率はハチャメチャに高い. 外を歩いているとそこかしこで皆スパスパ吸っている(逆にレストランなど, 室内では完全禁煙が徹底しているように見えた). 環境保全先進国のドイツで感じた最も大きなギャップの一つである. ちなみに「カールスルーエ」という名前は「カールの休息の地」という意味で, ここでの「カール」とは販売休止がニュースになったあのお菓子のおじさんではなくカール3世・ヴィルヘルム(Karl Wilhelm)のことである. 休息の地, という名前に違わず素敵な街並みが続く.

カールスルーエの街を移動する手段, それはトラム(tram), つまり路面電車のことである. トラムはカールスルーエの中心街をほぼ全て網羅しており便利である. しかもこのトラムは「電車の線路と路面軌道, 両方を直通運転できる」世界初のトラムだそうで, 郊外に行くトラムに乗ると, 途中から電車の線路に変わってぐんぐん加速する体験ができる. これには感動した.

トラムの乗り方は難しくない. 停留所にある券売機でチケットを購入し, 乗ったらドア付近にある機会にすっとチケットを差して印字するだけである. チケットを購入する際, 基本的には行き先を選べばよいのだが, 運賃体系はざっくり「ゾーン1」(Eins, 2.4ユーロ)と「ゾーン2」(Zwei, 4.8ユーロ)にしか分かれてないので, 路線図を見て買うことになる. 余談だが, 今回のカールスルーエ滞在中知らないおばあちゃんに2回も運賃を聞かれるというイベントがあった. ドイツ人の対極にあるような顔をしている僕になぜ聞いたのか謎である.

またカールスルーエでは車がほとんど走っていない. 走ってるといえば走ってるのだが, トラムが最優先で幅をきかせているので, 中心街(とくに Marktplatz や Kronenplatz 周辺)ではほぼ全く走ってないと言ってよいと思う(・・・と思ったら, 現地の人はかなり渋滞にはまる経験をしているらしい. たまたまラッキーだったのか?).

今回の滞在先, カールスルーエ工科大学に到着. ここは世界のトップレベル大学ランキングでも常に上位を維持している大学で, 学生さんはいつ見ても熱心に勉強している. 日本の学生さんも見習ってほしい(自分への戒めも込めて!).

大学の建物も年季を感じるが, 古臭さは感じられない. どことなく古きよき私邸のような建物もあちらこちらに見受けられた. 今回訪れたのは学生も通う南キャンパス(Campus Süd)だったが, 北キャンパス(Campus Nord)は研究所のみのキャンパスとのことである. キャンパス間は十数キロ離れているので, シャトルバスでの移動が主となるとのこと.

数学科の建物は, 吹き抜けを囲むようにオフィスやセミナールームが配置されている. 面白いのは, フリースペースのそこかしこに置かれている切断球体で, 同じようなオブジェが計8個くらい設置されていた. どれも形が異なるのだが, 共通して「半球の体積と同じ体積になるようにカットされた球体」というテーマが定められている. センスの高さに脱帽である.

もう一つの写真は「募金箱」である. しかしただの募金箱ではない. 出っ張った部分からコインを転がして, 中央の穴に落ちるまでを楽しめるようになっているのだが, 何とうまくいけば1分以上まわり続ける. もちろんこれは偶然ではなく, できるだけ回転し続けるように曲面が設計されている. 数学って面白い!

Contact:  s-yokoyama [at] tmu.ac.jp