ボンの計算機博物館

2017年の11月に, ドイツ・ボンのマックスプランク数学研究所に滞在した. 研究集会での講演も行ったが, 基本的には研究滞在(visitor)として過ごしていたので, とても快適かつ有意義な出張だった. もちろんビールの研究も捗った.

この研究所から歩いて少しのところに Arithmeum という計算機博物館があることを現地のドイツ人に教えてもらった. 計算機を仕事道具とする僕は行っておかなければならないだろうということで, その様子を以下に紹介する. ほぼ写真で紹介するが, この博物館は基本的に全ての展示物を撮影して OK という素晴らしいところであった. ざっと確認したところ200枚近い写真があったが, その中から厳選して掲載する.

エントランスの外と中の写真. アクリルというかガラス調のパネルに計算機の部品が埋め込まれている. こういうセンスはなかなか日本では見られない.

左は棒を回転させることでかけ算を行う装置である. 例えばここに展示されているのは 6×2697=16182 であるが, どのような仕組みになっているか考えてみると面白いだろう. 一方右は, 日本人にとってお馴染みのそろばんに何故か電卓をくっつけた謎の装置である. これを天下のシャープが作っていたことに驚きである.

高級調度品のような誂えのこの装置も計算機である. これは下に紹介するタイガー計算機の元祖とも言える手回し計算機で, 四則演算が可能である. よく見るとそれぞれの外側のサークルには Zehen(10)や Hundert(100)とあり, それぞれの桁の数を指定できるようになっている(右の拡大写真ではその1000倍なので3桁上のところ). 計算機とは思えない素晴らしいデザインだと思う.

左がおそらく最も知名度の高い古式手回し計算機, 通称「タイガー計算機」である. 実はこの小型版にあたるものが, 現職の東京都立大・数理に数台保管されている. さらに僕が赴任した際, 前職で退官された福永先生(専門は数理物理だったが, 計算機にも精通されている)から1台譲ってもらったものがあり, 赴任してからずっと僕の研究室に飾っている. 希望があれば, 実際に学生さんにも触って使ってもらっている. ちなみにタイガー計算機も四則演算のみ可能であるが, 右はこれをタイプライター式にしたものである.

この博物館で僕が最も興奮したのが, 左のエニグマの展示である. 第二次世界大戦中の暗号通信に用いられたものであり, かの有名なアラン・チューリングの逸話をご存知の方も多いと思う. このあたりの話は, 2023年6月発売の書籍 数論入門辞典(朝倉書店)の3章「アルゴリズム」に書いたが, 自分がこの逸話を出版物に書ける日が来るとは思わなかったので感無量である. その後計算機は飛躍的な進歩を遂げ, デジタルデバイスを用いた電子回路設計の時代で展示が終わる. 何度も足を運びたくなる素晴らしい博物館であった.

Contact:  s-yokoyama [at] tmu.ac.jp