生物観察を趣味にする人は、多かれ少なかれ写真を撮影するだろう。スマホで手軽に撮るのか、重厚な機材と多灯ストロボを駆使して凝った写真を撮るのかは人によって分かれるが、共通するのは「生物を見た時の思い出や、形態・環境・行動といった情報を記録として残したい」という思いだ。私も趣味と研究の両方の側面から写真を撮っており、重いカメラや仰々しい照明機材を抱えてフィールドを歩いている。とはいえ最近は個体そのものの観察や、より多くの個体を見つけることにも重点を置いているため、なるべく楽して写真を撮りたいと思うようになってきた。本記事では最近使っている撮影機材について紹介しつつ、最低限、綺麗な写真を撮るために考えていることを記していく。
ある生き物を見つけて、観察し、写真を撮り、満足したら次の生き物を探して移動する。生き物屋の基本的なフィールドでの動きはこんな感じだろうが、次の生き物を探し始めるまでの時間は、満足できる写真が撮れたか、つまり妥協できる「最低限の写真」が撮れたかによって変わるだろう。例えば自分の場合、「最低限の写真」はこのような変遷を辿っている。(ちなみにこれから紹介する写真は、比較のためにどれもjpg撮って出しのものなので、全体的にやや暗い。現像次第でそれぞれのリカバリーも効くが、それは追々。)
顔にピントの合った写真
夜間撮影の場合、光源はカメラの内蔵ストロボやヘッドライトの明かり。自分で絞りやシャッタースピードはいじらずにオート設定で撮っていた。
ピント合わせも基本的にオートフォーカス。
思い出溢れるある意味「良い写真」なのだが、全体像はぼんやりするので、図鑑などには使いづらい。
生き物の手前から奥まで、全身にピントの合った写真
ISO値を下げると高精細になり、F値を上げるとピントの合う範囲が広くなることを学習。ISO100、F値20という脳筋設定でとりあえず全体にピントが合うことを目指す。ヘッドライトだと光量が足りないため、内蔵ストロボを使うことが多くなる。ただし内蔵ストロボはやや高い位置についているので、近づきすぎると手前に陰ができるのが目下の悩みだった。
光のムラが少なく、高精細な写真
3000円程度のクリップオンストロボを導入することで、夜間写真の質が一気に向上。影とりや小型のソフトボックスと組み合わせることで光のムラが少なく、高精細な写真が撮れるように。ここまでくれば概ね「実用的」な写真になり、図鑑などにもよく用いている。
複数のストロボを使い、全体に光が当たった写真
当時生き物屋界隈で絶大な人気を集めていたLaowa KX-800(通称キングギドラ)を導入。ツインストロボで両側から光を当てたり、手前と背景にそれぞれ光を当てるなどして、全体に光の当たった写真を撮影していた。その種の生息環境を写せるほか、左右で光の強さを変えることで立体感が出るというメリットも。ただし光のバランスを誤って不自然な写真になることも多々あり。
このように順当にステップアップしていったかに思える自分の撮影だが、このあたりから機材やディフューザーの取り回しの面倒さが気にかかるようになってくる。撮影が第一目標ならそれでも良いのだろうが、あくまで自分が一番好きなのは生き物を探したり観察したりすることであって、写真を撮るためにそれらの行為が疎かになるのは気が進まない。
そこで選択肢になるのは、探索中はカメラをしまって手ぶらで探し、生き物を見つけたら機材を組んで撮影するという方法だ。だが、これでは刹那的な事象(例えば採餌シーンなど)を撮り逃してしまうし、そもそも撮影が面倒になって普通種の写真を撮らなくなったりすることもある。
そのため、ここからは「なるべく楽をして、かつ図鑑などで使える品質の写真を、撮りたい時に撮影できる」ことを目指した機材を組むようになった。それらを踏まえた最近の機材が以下になる。
全体に光をあて、かつ撮影対象を警戒させない自然な写真
ストロボを無線にし、大きなソフトボックスで全体に光をあてている。クリップオンストロボ(Godox TT600)に折りたたみ式のソフトボックス(SMDV FLIP 20G)をとりつけ、カメラ本体とはトランスミッター(Godox FC-16)で接続。カメラ本体とストロボを離すことができるので、いろいろな角度から光を当てて撮影することが可能に。また、撮影対象の警戒度に応じてストロボを近づけず遠くから撮るといったことも可能になるので、自然な姿勢での写真も撮りやすい。また、カメラ本体にストロボとディフューザーが付属しないため、取り回しもしやすい。短い距離ならストロボを片手に持って移動し、邪魔になる時は折りたたんでリュックのポケットに刺して移動。同じ機材でフィールドだけでなく、白バックも撮影している。
現状この機材での撮影には概ね満足しているが、唯一不満なのは、撮影時に両手が塞がるということ。例えばヘビの腹面を撮影したり、トカゲが逃げないように手で軽く牽制したりといったことはできない。せめてあと2本腕があれば諸々の問題が解決するのだが。
簡便さと仕上がりのバランスを模索しながら、もう少し撮影機材の検討をする必要がありそうだ。