大学院生 (~2021年) のときに旧ウェブサイトで公開していた資料です。情報が古かったり間違ったりしている可能性がある点にご留意ください。
David Groppeが作成され,https://jp.mathworks.com/matlabcentral/fileexchange/27418-fdr-bh にて公開されている fdr_bh.m というMATLABでFDR補正を実施するスクリプトがあります。
このスクリプトを利用する機会があったため,使用方法を簡単にではありますが,まとめてみました。
統計には本当に詳しくないため,参考程度に利用していただければと思います。
【PDFリンク】
内受容感覚関連の研究をしているときに,fMRIでデータを集める機会に恵まれました。
そうした研究の中で,個人ごとに課題中の特定脳部位の活動をMarsBaRなるもので推定して,課題成績と関連を見ることがありました。
MarsBaRの使い方については,↓の参考文献にまとめたように,日本語のわかりやすい解析記事が多数あります。
ただ,僕がやろうとしていた先行研究で報告されている脳活動の座標に基づいて,ROIを指定し,そのROIの活動を抽出する方法について直接的に触れたものがなかったので,ここに一応まとめておこうと思います。
※MarsBaRのインストール方法は日本語解説などもあったので,今回は省略しています。
※脳画像解析はかなり初学者なため,ミスしている可能性も高いので,ご注意ください。
【PDFリンク】
※2020.1.15公開→2025.2.7追記の記事のログです
後輩と話す中で,海外雑誌の採択率ってどれくらいなんだろうね…?みたいな話になったので,簡単に調べてみました。
結局のところ,雑誌の採択率を調べるベストな方法はよくわからなかったですが,いくつか有用?そうなリンクがあったので,ここにまとめておきたいと思います。
以下の方法だと出版社をまたいで調べることができないので,手間がかかる印象です。もう少し簡単な方法などありましたら,教えていただけると嬉しいです。
APA (American Psychological Association) の論文リジェクト率
PDFにAPAの雑誌の非採択率がリスト化されています。
【link】https://www.apa.org/pubs/journals/statistics
Springer社の雑誌のアクセプト率 (※1)
“Journal suggester” で検索すると,Springer社の雑誌のアクセプト率や最初の査読にかかる期間,インパクトファクターが調べられます (※2, 3)
【link】https://journalsuggester.springer.com/
Elsevier社の雑誌のアクセプト率 (※1)
Elsevier社の “Find journals” でも同様に,雑誌のアクセプト率や最初の査読の期間,インパクトファクターが調べられるようです (※2, 3)
【link】https://journalfinder.elsevier.com/
※1 Wiley社についても,似たようなシステムがあるのですが,こちらではアクセプト率などは表示されないみたいでした…。もちろん,インパクトファクターは出てくるので,投稿雑誌をIFで決める場合などには役立つと思われます。また,beta版?なので,今後追加されていくかもしれません。【link】https://journalfinder.wiley.com/search?type=match
※2 “Journal suggester” “Find journals” は,あくまで論文のタイトルやアブストから投稿先を絞り込むためのシステムなので,特定の雑誌を指定して,アクセプト率などを検索できないみたいです。ちょっと試してみた感じですと,調べたい雑誌で既に出版されている論文のタイトルとアブストを指定することで,特定の雑誌のアクセプト率を調べられるかもしれません。もうこうなるといっそのこと,「”雑誌名” ”acceptance rate”」とかで調べたほうが結局早いのかもしれません。
※3 インパクトファクター (のようなもの) を調べたいときには,以下のツールの方が役に立つかもしれません。
・https://www.scimagojr.com/journalrank.php?area=3200&type=j
・https://www.scopus.com/sourceid/21100464683?origin=sbrowse#tabs=1
【2020.2.7追記】
上の文章を書いてから,改めていろいろ調べてみたのですが,小林の記述より,もっと情報量が多いサイトがあったので,そちらのリンクを記載しておきます。
・https://www.hiroshima-u.ac.jp/wrc/resource
・https://www.lib.hokudai.ac.jp/support/journals_for_submitting_your_paper/
2019.11.2-3に開催された台湾心理学会 (The 58th Annual Convention of the Taiwan Psychological Association) に参加してきました。
今年から,日本心理学会と協定 (?) を結んだらしく,参加しやすくなりました (参考link)。
おそらく来年度も開催されると思われるので,備忘録的に情報を残しておこうと思います。
・日本語を話せる人も多い。ポスターを聞きに来てくれた3人くらいが日本語話せた。受付にも日本語話せる人が普通にいた。
・発表者は若手が多い印象を受けた (学部生も発表していた…?)
・学会参加費が安い (日心会員の学生の場合,NT$750 (2600円))。
・あたりまえだけれど,総会は中国語 (台湾語?)。
・Keynoteなど,英語で発表されるものもある。
・名刺やハンドアウトを用意している人は少ない印象 (でも? だからこそ? ハンドアウトが欲しいという人が結構ポスターに来てくれた)。
・開催数日前に “Registration time is 08:30-09:00″ とメールが来たので,朝早い時間しか受付をしていないのかなと焦ったけれど,そんなことはなかった。
・日本人参加者も少なくなかった (プログラムによれば24名…? くらい)。
・ポスターに限っていえば,スーツでビシッとした人は多くなかった。ラフな私服の人とか,キグルミ (?) を着ている人もいた。
・飛行機代やホテル代も安く (東京,大阪,福岡の人なら,5万円あればいけるか?),穏やかな雰囲気の学会なので,M生の最初の学会参加とかにも調度よいかも。
・今年から日心と協定を始めたためか,日本からクレジットカードでの支払いができないなどの細かい問題もあったが,個別に連絡すると,丁寧に対応してくださる。
台湾について
・日本より物価は安め。
→ 両替は現地の方がレートがよかった印象。
・ホテルも友人と相部屋とかにすると,かなりお得に借りられる。
・屋台やちょっとしたお店が多いので,1人でもご飯に困らない。
・地下鉄の路線,および乗り方がシンプルなので,移動が楽 (SUICAみたいなカードあると楽です)。
・なんならタクシー安いので,タクシー使ってもよいかも。
・屋台や個人経営のお店,タクシーではほぼ英語が通じないので,スマホか文字情報で頑張る。
・日本と比べると,車とバイクの運転が荒い。バイクはよく突進してくるので,注意。
Anderson, C., Keltner, D., & John, O. P. (2003). Emotional convergence between people over time. Journal of personality and social psychology, 84(5), 1054-1068.
emotional convergence (近しい人と感じる感情が類似していく) に関する研究。
次の3つの疑問について3つの実験を行い,検討した。
(1) 感情の類似化を実証する →実験1,2,3で示した (e.g., Tab1, 4)
(2) powerの弱い人が強い人の感情傾向に似ていくか →Yes (e.g., Tab2,5)
(3) 感情の類似化は,関係性を保つという利点を持つか? →Yes (e.g., Tab3,p1062右中段)
→こうした結果は,性格特性 (big5) の類似化によるものではない
→感情の類似化は関係満足度を予測する (e.g., p1059左やや上段)
→全体感情では性差なかったけれど,ポジ感情では,女性のほうが男性に近づいたようだ (p1058 Tab2上)
→親密なカップルでは,より感情の類似化が認められた (p1058右中段)
◆方法
・実験1:カップル,実験2,3:同性ルームメイト
・感情の類似化の測定:実験1:ディスカッション課題,実験2:実験的操作,実験3:映像
→形容詞でポジティブ,ネガティブ感情を測定
・縦断期間:実験1:6か月,実験2:9か月
Doré, B. P., Morris, R. R., Burr, D. A., Picard, R. W., & Ochsner, K. N. (2017). Helping Others Regulate Emotion Predicts Increased Regulation of One’s Own Emotions and Decreased Symptoms of Depression. Personality and Social Psychology Bulletin, 43(5), 729-739.
オンラインプラットフォームで,自分の問題を書き込むこと (sharing),および他者の問題の感情制御を支援すること (helping: acceptance, reappraisal, pointing out distortion) を3週間実施した。
結果として,helpingによって,再評価傾向が高まり,抑うつが低減することが示された。
また,WBなどの他の指標においてもポジティブな変化が認められた。
加えて,他者視点を取得してhelpingをしたとき (操作的には2人称コメントをしているとき) には,上述のポジティブな効果がエンハンスされるという結果も得られている。
【abstract】
これまでどのように自分の感情を制御するかについては多くの研究が蓄積されてきたが,他者の感情を制御することについては,そのメリットをはじめ検討されてこなかった。
本研究では3週間のオンラインプラットフォームでの社会的感情制御の訓練,実践について検討した。
結果として,他者を助ける参加者ほど,sharing,あるいはサポートを受けた者より日常的な再評価傾向の増大に媒介されて,抑うつが減少することが示された。
また,他者焦点言語 (i.e., 2人称second-person pronouns) を用いた社会的制御メッセージが,(a) 受けてからの感謝を引き出すこと,(b) 送り手の経時的な再評価傾向の増加を予測することが示された。
こうした結果は視点取得が社会的制御実践の利点を増大させることを示唆している。
本研究の結果は,感情制御における社会的志向訓練のメカニズムの一端を紐解き,他者制御の支援によって,自分自身の制御スキルと感情的WBを増大されることを示している。
Moser, J. S., Dougherty, A., Mattson, W. I., Katz, B., Moran, T. P., Guevarra, D., … & Kross, E. (2017). Third-person self-talk facilitates emotion regulation without engaging cognitive control: Converging evidence from ERP and fMRI. Scientific Reports.
3人称で (自分の名前を使って) ネガティブ感情,状況を捉えることは,(1人称 (i.e., 「わたしは…」)を用いる場合と比較して,) 感情制御方略となりえること,そしてその方略に必要な努力 (資源) は少ない可能性を示した。
【intro】
(想定1) これまで,自分の「名前」を内省introspectionに使う方が,1人称 (I) を使うより,ストレス下の感情,行動制御に適していることが示されてきている [4-6: Kross et al 2017]
(想定2) 基本的に日常生活の中では,他者を参照するときに,「名前」を使う。これを拡張すれば,他者について考えることと,「名前」を使うことは結びついていると考えられる。自分自身を参照 (あるいは言及:自分について考える,自分自身と対話するくらいの意味あい) するために。自分の「名前」を使うことは,自分を他者のように捉えること,つまり,客観視を促すのではないか? (i.e., 感情生起状況において,その状況を自分自身が体験している差し迫ったものという感じではなく,他者が体験しているもののように感じる…ような意味あい)
→これらを踏まえ,感情喚起課題中の「名前」(i.e., 3人称) を用いた自己対話が,ネガティブ感情制御に寄与するか検討を行った
【実験1:EEG】
・IAPS画像を見るときに1人称 (i.e., “…ask yourself ‘what am I feeling right now?’”),
あるいは3人称 (i.e., “…ask yourself ‘what is [participant’s name] feeling right now?”) を用いて考えるように教示した
・実験の結果,Late LPP (感情反応の指標) に差異が認められた (3人称 < 1人称)
・SPN (認知的統制過程の指標) については,主効果,交互作用ともにnsであった:
→これらを踏まえると,3人称でネガティブ感情,あるいは刺激を捉えることは,非努力的に,ネガティブ感情を低減すると考えられる
【実験2:fMRI】
・参加者の過去のネガティブ感情体験を想起させる単語を提示し,そのときに,3人称,あるいは1人称を用いるように教示した (基本的な流れは実験1と類似)
・主観的なネガティブ感情:3人称 < 1人称
・ROI (left medial prefrontal cortex/anterior cingulate cortex) の賦活:3人称 < 1人称
※扁桃体の賦活に差異は認められなかったとのこと (cf., discussion)
本研究の結果を踏まえ,著者らは,アブストに,
these results suggest that third-person self-talk may constitute a relatively effortless form of self-control.
と記し,まとめている。
Tsai, J. L., Knutson, B., & Fung, H. H. (2006). Cultural variation in affect valuation. Journal of personality and social psychology, 90(2), 288-307
・理想感情 (ideal affect) と実際感情 (actual affect) が同一になることはない (i.e., 望んでいる感情と日々の中で感じている感情は一致しない)
・西洋文化では,HAP (high-arousal positive states e.g., enthusiastic, excited, energetic) が重視される
・東洋文化では,LAP (low-arousal positive states e.g., calm, relaxed, serene) が重視される
・文化要因 (e.g., 集団主義,個人主義) は理想感情と,感情特性 (affective state e.g., 神経症傾向,外向性) は実際感情に影響する
・理想感情と実際感情のズレは,抑うつに影響する
※文化と重視する感情 (理想感情) の結びつきのロジック (西洋文化→個人主義→環境を変えるには行動が必要→HAPを求める,東洋文化→集団主義→周囲の要求に合わせるのが大事→周囲の要求を正しく把握する必要がある→LAPは環境への注意を促進する→LAPを求める…) は力押しを感じなくもないが,(それを支持する結果も出ていることもあり) すごいなぁ…と。
※ideal affect,actual affectの訳はそれっぽくしただけで,適切かどうかは。
Costa, J., Adams, A. T., Jung, M. F., Guimbetiere, F., & Choudhury, T. (2016, September). EmotionCheck: leveraging bodily signals and false feedback to regulate our emotions. In Proceedings of the 2016 ACM International Joint Conference on Pervasive and Ubiquitous Computing (pp. 758-769).
James-Lange説などでは,内受容感覚,あるいは内受容意識 (interoceptive awareness) が感情体験と関連することが示されている。
この研究では,内受容意識を操作することで,感情体験を制御できるのでは…? という発想をEmotion Checkというデバイスを作成して,検討している。
結果はシンプルで,遅い心拍をFBするとスピーチ課題による不安が低減される,というもの。
【目的・仮説】
不安なとき:心拍が速くなっていることを感じる
→遅い心拍をフィードバックすれば,不安を抱きにくくなるのでは?
【方法】
(1) STAI測定
(2) スピーチ課題 (Trier Social Stress Test)
(3) STAI測定
→(2) スピーチ課題のときに,Emotion Checkというデバイスを用いたFBを実施した
・slowFB条件:60BPMのペースで触覚的に (振動で) FB。振動は参加者自身の心拍を意味すると教示。
・実際心拍FB条件:参加者自身の心拍のペースでFBをする条件。
・統制条件:デバイス装着のみ
・振動条件:60BPMのペースで触覚的にFB。ただし,参加者自身の心拍とは教示しない。
【結果】
(3) STAI得点:slowFB > 他3条件
◆関連文献
・Azevedo, R. T., Bennett, N., Bilicki, A., Hooper, J., Markopoulou, F., & Tsakiris, M. (2017). The calming effect of a new wearable device during the anticipation of public speech. Scientific Reports
:doppelというデバイスを作成して,上述の研究と同様の結果を示している。
・Valins, S. (1966). Cognitive effects of false heart-rate feedback. Journal of personality and social psychology
:実際と異なる心拍をFBする (false physiological feedback) ことが感情体験 (この研究は魅力度) に影響することを示した最初の研究
Bjälkebring, P., Västfjäll, D., Svenson, O., & Slovic, P. (2016). Regulation of experienced and anticipated regret in daily decision making. Emotion, 16(3), 381-386.
◆目的
(1) 日常生活の中で,経験的後悔 (experiencing regret),および予期的後悔 (forecasting regret) がどのくらい体験されているかを検討する
(2) 後悔を制御,managementする方略の効果を検討する
【方法】
・参加者:108 participants (age range 19–89 years, mean age 47 years, 33% male, 64% female, 3% unknown).
・8日間のweb調査
<経験的後悔>
→その日にした意思決定のカテゴリ:economy, work, family, leisure, consumption, or other
→その意思決定によって生じた後悔に対して行った制御方略 (Tab1):(1 _ not at all, 5 _ very much)
→その意思決定によって生じた後悔の大きさ: (1 _ not at all, 5 _ very much)
→その意思決定がどれくらいcomplexだったか:(1 _ not at all, 5 _ very complex).
<予期的後悔>
→(今はまだだけれど) 24時間以内にすると思う意思決定のカテゴリ (※1原文)
→その意思決定に対して行うと思う制御方略 (Tab2):(1 _ not at all, 5 _ very much) (※2原文)
→その意思決定によって生じると思う予期的後悔の大きさ :(1 _ not at all, 5 _ very much)
→その意思決定がどれくらいcomplexだと思うか:(1 _ not at all, 5 _ very complex).
※方略はZeelenberg and Pieters (2007) から引用
※1 participants were asked to think about a future decision they had thought about during the preceding 24 hr but had not yet made.
※2 Participants then rated to what extent they predicted that they would use six regret prevention strategies selected from Zeelenberg and Pieters (2007) toward this specific future decision. Each strategy was rated on a 5-point scale (1 _ not at all, 5 _ very much)
【結果 (と一部考察)】
◆目的1:日常生活の中で,経験的後悔 (experiencing regret),および予期的後悔 (forecasting regret) がどのくらい体験されているかを検討する
・経験的後悔:日々の意思決定の30%に対して後悔が生じる
・予期的後悔:日々の意思決定の70%に対して後悔が生じる
→この違いはどうして生じたか?
<可能性1> 予期的な感情は過大に推定されるため (Wilson & Gilbert, 2003)
<可能性2> 予期感情を多くすることで,実際の体験時のショックみたいなものを和らげていた (意訳)
◆目的2:後悔を制御,managementする方略の効果を検討する (Tab1,2)
※基本的にcomplexityは後悔を大きくする。そのcomplexityを統制したときの結果
・人々は後悔に対して,単一の制御方略ではなく,いろいろな制御方略を利用する
・後悔を低減する方略 (e.g., I will try to redo the decision (経験的後悔), I will be totally sure the decision is right before making it (予期的後悔)) もあれば,後悔を高めてしまう方略 (e.g., I avoid additional information about the decision (経験的後悔), I motivate myself to think that the decision was right (経験的後悔)) もある
Smallwood, J., & Schooler, J. W. (2015). The science of mind wandering: empirically navigating the stream of consciousness. Annual review of psychology, 66, 487-518.
マインドワンダリング (Mind Wandering: MW) の測定の仕方から始まり,重要な要素である自己生成的思考とmeta-awarenessを取り上げる。その後,実行機能などとの関連を言及した上で,MWのコストとベネフィットに言及している。最後に,MWを低減する方法の記述もなされている。
◆マインドワンダリングのbenefit
▶Prospection.
MWによって,Prospection が促進される (Baumeister &Masicampo 2010, Baumeister et al. 2011)
→心的対比mental contrasting (ポジティブなこと考えてから,ネガティブなことも考える) の過程が必要かもしれない
▶Creativity.
MWが創造性を高める
・MWと物の使い方テスト成績 (拡散的思考の指標) に相関がある (Baird and colleagues 2012)
・MW (を誘発しやすい負荷の低い) 課題実施時に,rest,および外的注意課題時より孵化効果が強かった (Baird et al. 2012)
・MWと社会的問題解決課題の成績 (のようなもの) が正の相関 (Ruby et al. 2013b)
▶Meaning.
・mental time travel (想起,あるいは予期した出来事について考える) をすると,人生の意味に関する主観報告が促進される (A. Waytz, H.E. Hershfield & D.I. Tamir, manuscript under review).
→MWには,過去,および将来の出来事に関する思考が含まれることを踏まえれば,MWも人生の意味を見出すプロセスにポジティブな影響を及ぼすかもしれない
▶Mental breaks.
MWは退屈を緩和するのではないか? あるいはある種のリラックスをもたらすかもしれない
・MWをしやすい人は,退屈な課題における気分の低下が緩衝された (Baird et al. 2010)
・将来に関する自己生成的思考は,不快な気分からの緩和をもたらす (Ruby et al., 2013a)
・MWは脱馴化に関与する (Mooneyham & Schooler 2013)
▶Parallels to night dreaming.
夢とMWの共通点 (Fox et al. 2013)
・知覚入力への注意がなくなる
・自己関連思考が付随する
・実行機能やメタ認知過程が介在しえない
・創造的な孵化効果と関連する (Cai et al. 2009).
・ネガティブな内容であることが多い (Killingsworth & Gilbert 2010, Ruby et al. 2013a)
夢の機能:出来事のシミュレーションを促進し,脅威への準備を整える (Revonsuo 2000).
→MWも同様なのではないか?
MWの測定方法や,実行機能との関連,MWを低減する方法なども含めた全内容の要約のようなもの (日本語) も作成しています。
MWは専門ではないので,微妙な精度のはずですが,興味があればご連絡ください(*. .)..
Van Dillen, L. F., & Koole, S. L. (2007). Clearing the mind: a working memory model of distraction from negative mood. Emotion, 7(4), 715-723.
distraction:ネガティブな刺激や思考,感情からニュートラルな刺激や思考などなどに注意を移行することで,ネガティブ感情の緩和を図る感情制御方略。
e.g., 試験に失敗して悲しいので,本を読んで,嫌な気持ちを軽くした
e.g., 上司に怒鳴られた怒りが湧いたので,全く関係ないことを考えた
(distractionは,日本語では「気晴らし」と訳される。気晴らしというと,カラオケやスポーツが思い浮かぶため,「遊ぶこと」と捉えられてしまうこともあるが,distractionの本質は「注意が (ネガティブでない対象に) 移行すること」にある。)
3つの実験 (特に実験2,3) を行い,distractionにおける課題負荷(Working Memory: WM負荷) が大きいほど,ネガティブ感情が緩和されることを示した研究。
この理由については,
distractionによって,WMが消費されることで,ネガティブ感情,あるいはそれに関連した思考を処理するためのWMが減衰する。
その結果として,ネガティブ感情体験が減少したと考察されている。
Van Dillen, L. F., Heslenfeld, D. J., & Koole, S. L. (2009). Tuning down the emotional brain: an fMRI study of the effects of cognitive load on the processing of affective images. Neuroimage, 45(4), 1212-1219.
(distractionの) 負荷を高めることで,ネガティブ画像による感情処理に関する脳部位 (e.g., 扁桃体) の賦活が緩和される。この緩和には,認知処理に関する脳部位 (e.g., dlPFC) が重要な役割を有している。
◆目的:Van Dillen & Koole 2007 の実験2のパラダイムをfMRI内で実施し,認知負荷と感情緩和の関連の背景にある神経活動について検討する。
◆方法
・参加者:17名の大学生
・実験計画:2 (認知課題負荷:困難,簡単) × 2 (画像:ニュートラル,ネガティブ)
・手続き
(1) ネガティブ or ニュートラルIAPS画像を提示,4秒
(2) 認知課題 (困難:2*3+6,簡単:5+8),4秒
(3) 感情評定
※(2)と(3),(3)の後に,4秒か8秒の遅延をランダムに挿入した
→32試行×4ブロック:128試行実施
◆結果と考察
・ネガティブ感情主観報告:交互作用
→ニュートラル画像:困難課題 ≒ 簡単課題
→ネガティブ画像:困難課題 > 簡単課題
→Van Dillen & Koole 2007 と一致
※この研究でもRT:困難課題 > 簡単課題 であったため,ANCOVAを実施
・神経活動
→ネガティブ画像…困難課題 > 簡単課題
・左,右扁桃体,および右島皮質 (time frame (TF) 4のみ) の活動が低下
:感情処理に関与する部位 (Ochsner et al., 2004; Phan et al.,2002).
→ネガティブ画像…困難課題 > 簡単課題
・right superior parietal cortex,left dorsal occipital cortex,およびright dorsolateral frontal cortex (TF4のみ)
:認知処理,あるいは課題負荷に関与する部位 (De Fockert et al., 2001; Duncan and Owen, 2000; Prabhakaran et al., 2000; Rypma et al.,1999).
→変化量のようなものを算出 (p1217左)
・左扁桃体 × right dorsolateral frontal cortex:r=.52
・左扁桃体 × left dorsal occipital cortex:r=.47
・right inferior insula× right dorsolateral frontal cortex:r=.43
:the more right dorsolateral frontal cortex and left dorsal occipital cortex were engaged by the arithmetic task, the more emotional brain responses were attenuated.
:認知課題負荷により,dlPFC,dorsal occipital cortex (後頭葉の背側部) が賦活するほど,感情処理に関する部位の賦活が緩和される
Van Dillen, L. F., & Derks, B. (2012). Working memory load reduces facilitated processing of threatening faces: An ERP study. Emotion, 12(6), 1340-1349.
脅威刺激 (e.g., 怒り表情) は検出されやすいことが示されているけれども,
認知負荷をかけることで,そうした脅威刺激の処理に割かれる資源を枯渇させられるので,このバイアスは緩和されるのではないか?,という仮説を検討している。
◆方法
・参加者:15人
・実験計画:2 (認知負荷:高,低) × 2 (表情:喜び,怒り)
・手続き
(1) 課題通知,1秒
(2) 1桁 OR 7桁の数字が提示される,4秒
(3) 性別判断課題:提示表情画像の性別を判断,表情は1秒提示
(4) 提示された数字が (2) の数字と一致しているかを判断,4秒
◆結果
・行動指標:性別判断課題のRT:<低負荷> 怒り > 喜び,<高負荷> 怒り ≒ 喜び
・ERP
:N2:<低負荷> 怒り < 喜び,<高負荷> 怒り ≒ 喜び (Tab1)
:LPP:<低負荷> 怒り > 喜び,<高負荷> 怒り ≒ 喜び (Tab2)
◆考察
N2が注意コントロール,LPPが注意維持に関与していることを踏まえると,
課題負荷 (認知負荷) がかかることで,(性別判断) 課題とは関連のないdistractorとしての脅威刺激 (i.e., 怒り表情) は,検出されにくくなる (あるいは,喜びと同程度の検出になる)。
簡単にいえば,脅威刺激に対する注意のバイアスが,認知負荷が大きくなることによって消失する。
Garfinkel, S. N., Seth, A. K., Barrett, A. B., Suzuki, K., & Critchley, H. D. (2015). Knowing your own heart: distinguishing interoceptive accuracy from interoceptive awareness. Biological psychology, 104, 65-74.
(1) interoceptive accuracy (performance on objective behavioural tests of heartbeat detection)
(2) interoceptive sensibility (self-evaluated assessment of subjective interoception, gauged using interviews /questionnaires)
(3) interoceptive awareness (metacognitive awareness of interoceptive accuracy, e.g. confidence-accuracy correspondence).
↑の内受容感覚に関する個人差指標3つを区別した上 (Tab1) で,各指標の関連について検討している。
結果 (Tab2) を見ると,指標間の相関は強くはないようだ。
◆内受容感覚とは? どのような研究がなされているか?
内受容感覚:the body-to-brain axis of sensation con-cerning the state of the internal body and its visceral organs(Cameron, 2001; Sherrington, 1948).
→accuracyと記憶や,意思決定の関連が検討されている (Garfinkel, Barrett, et al., 2013; Garfinkel, Tiley,O’Keeffe, & Critchley, 2013; Werner, Peres, Duschek, & Schandry,2010) / (Dunn, Galton, et al., 2010; Werner et al.,2013).
◆Accuracy
・心拍カウント課題:Heartbeat Tracking (e.g. Schandry, 1981)
・心拍検出課題 :Heartbeat Discrimination (e.g. Brener & Kluvitse,1988; Katkin, Reed, & Deroo, 1983; Whitehead, Drescher, Heiman,& Blackwell, 1977)
→Accuracy:追跡課題 > 弁別課題 (Schulz, Lass-Hennemann, Sutterlin,Schachinger, & Vogele, 2013)
また,この2つは異なる心的メカニズムに依存する
・追跡課題:内的 (内受容的) モニタリング
・弁別課題:内受容的,外受容的な情報の同時点的統合
両者の間には関連が認められることがあるが (e.g. Hart, McGowan,Minati, & Critchley, 2013; Knoll & Hodapp, 1992),この関連はサンプルサイズが小さいときなどには認められない (e.g. Phillips,Jones, Rieger, & Snell, 1999; Schulz et al., 2013).
◆Sensibility:主観質問紙,あるいはAccuracy課題のconfidence自己回答
→質問紙 (e.g. Autonomic Perception Questionnaire, Mandler, Mandler, & Uviller, 1958; Body Perception Questionnaire, Porges, 1993)
→Confidence回答 (Ehlers, Breuer, Dohn, & Fiegenbaum, 1995; Khalsa et al., 2008)
※Accuracyに関わらず,バイアスがかかる
◆interoceptive awarenss: metacognitive awareness of interoceptive ability:課題によるAccuracyと主観報告 (e.g., confidence) の一致度
→receiver operating characteristic (ROC) curves,あるいはtrial-by-trial confidence – accuracy correlations
→Awareness高群:自身がAccuracy課題で高い成績が治められるかどうかについて尋ねられたときに,正確に回答することができる (Accuracy高群である必要はない)
(Barrett et al., 2013; Fleming, Weil, Nagy, Dolan, & Rees, 2010; Galvin, Podd, Drga, & Whitmore, 2003; Garfinkel & Critchley, 2013).
Comment: 他の研究では,accuracyと同じ意味で,sensitivityという用語が使われたりもします。同様に,sensibilityと同じ意味で,awarenessという用語が使われることもあります。ですので,用語ではなく課題や尺度内容から測定されているものを判断すべきだと思います。
Horn, A. B., & Maercker, A. (2016). Intra-and interpersonal emotion regulation and adjustment symptoms in couples: The role of co-brooding and co-reappraisal. BMC psychology, 4, 51.
他者との相互作用の中で生じる認知的再評価,および反すうが自分の,あるいは他者の精神的健康に及ぼす影響を検討した研究。
【introduction】
・これまで感情制御は個人内過程 (i.e., 自分の感情を自分の力だけで制御する) のみが着目されてきた
・近年になり,少しずつ,感情制御に他者の観点を取り入れた研究 (i.e., 対人的感情制御: Interpersonal Emotion Regulation: IER) が増加している
・代表的な (個人レベルの) 感情制御方略である認知的再評価 (reappraisal),および反すう (rumination) に他者の観点を取り入れたものは精神的健康に影響するのだろうか?
→他者の観点を取り入れた認知的再評価 (co-reappraisal),および反すう (co-brooding) が精神的健康に影響するかを検討する
▼Co-reappraisal: 他者との相互作用の中で生じる認知的再評価
(Co-reappraisal is defined as changing a situation’s meaning in a way that alters its emotional impact in interaction.
▼Co-brooding: 他者との相互作用の中で生じる反すう
(Parallel to brooding, co-brooding is characterized by a passive repetitive focus on negative content that is unwanted, rigid and perceived as unpleasant.)
※反すう (rumination) = reflection (反すうの適応的側面) + brooding (反すうの不適応的側面)
【方法】
▼参加者: 男女の恋人 (APIMを識別データで行うため)
▼尺度
・Adjustment Disorder New Module (ADNM) questionnaire …精神的健康
・CESD…精神的健康
・ERQ-reappraisal…個人での認知的再評価傾向
・RSQ-brooding…個人での反すう傾向
・co-reappraisal (自作): e.g., When I am in a bad mood, I talk with my partner … to get a new perspective on things.
・co-brooding (自作): e.g., When I am in bad mood, …we get stuck and circle around the reasons for my mood, and I do not feel understood by my partner.
▼解析: Actor-Partner Interdependence Model (APIM)
【結果】
あまりきれいな結果ではないものの,
co-broodingが精神的健康を悪化させ,
co-reappraisalが精神的健康を良好にすることが示された (Table 2)
(※著者らは,個人レベルの認知的再評価傾向,反すう傾向から精神的健康へのβが有意でなかったことを踏まえ,co-reappraisal,およびco-broodingの重要性を強調している)
Netzer, L., Van Kleef, G. A., & Tamir, M. (2015). Interpersonal instrumental emotion regulation. Journal of Experimental Social Psychology, 58, 124-135
これまで他者の感情制御 (i.e., 対人的感情制御) については,他者の感情をよりポジティブなものにするために行われるという想定で考えられることが少なくなかった。
この研究では,確かにそういうことももちろんあるけれど,そうではなくって,自分の目的のために,他者をネガティブにしたりする対人的感情制御もなされうるんだよ,ということを明らかにしている。
Introduction
・近年,他者の感情の制御 (i.e., 対人的感情制御: Interpersonal Emotion Regulation: IER) に注目が集まっている
・Hedonic interpersonal emotion regulation: 一般的な考え方。他者の感情をよりポジティブな方向に調整する対人的感情制御。
e.g., 悲しんでいる友人の気持ちを慰める
・Instrumental interpersonal emotion regulation:本研究の着眼点。自分の目的に応じて対人的感情制御の方向性 (i.e., ポジティブにするか,ネガティブにするか) を判断する。
e.g., 友人の怒りが自分の利益につながると考え,友人の怒り感情を煽る
→本研究は,3つの実験を行い,対人的感情制御が,自分の目的・動機に影響されるかどうか検討を行うことを目的とした。
Study1
実験1では,ペア (サクラ) のFPSゲームの成績によって,報酬が変化すると教示した。
具体的には,パートナー条件では,ペアが好成績であるほど (i.e., 敵を倒すほど) 報酬が多くなると教示し,ライバル条件では,ペアが好成績であるほど,報酬が少なくなると教示した。
その後,参加者にはペアに感情を喚起する刺激を提示する (i.e., 対人的感情制御) 機会を与えた。
刺激は怒り感情を喚起するものと,ニュートラル感情を喚起するものを用意した。
もし,怒りがFPSゲーム成績を高めることに寄与すると考えられるのであれば,パートナー条件では,ペアに対して怒り感情喚起刺激を提示すると考えられる。
一方で,ライバルに対しては,FPSゲームの成績を低下させるために,ニュートラル刺激の提示を行うと考えられる。
【Method】
▼参加者: 女性64名
▼手続き
1,パートナー条件 OR ライバル条件に割り当てられる (※1)
2,FPSゲームに臨むペアに提示する音楽と文章を選択する (※2) …指標A
3,選択後,ペアをどのような感情にしたいと考えたかを評定 …指標B
4,怒り (いらだち,恐怖,不安) が,ペアがゲームで好成績を修めるためにどの程度重要だと考えたかを評定 (※3)
※1 パートナー条件では,ペアが好成績であるほど (i.e., 敵を倒すほど) 報酬が多くなると教示し,一方で,ライバル条件では,ペアが好成績であるほど,報酬が少なくなると教示した
※2 音楽と文章は,怒り OR ニュートラル 感情を喚起するもののいずれかを選択するように求めた
・怒り音楽の例: Refuse/Resist by Apocalyptica and The Decaying Process by Michael Andrew
・ニュートラル音楽の例: Treefingers by Radiohead and First Thing by Four Tet
※3 この手続きで重要なのは,ペアに対して,怒り OR ニュートラル刺激のいずれを提示しようと考えたか (指標A),そしてペアを怒り感情状態にしたいと考えたか (指標B),の2点である。しかし,その判断には,怒りが好成績をペアが修めるのに重要だと考えているかどうかが関与していると思われる。そのため,手続き (4) が必要になっている。
【Results】
・(指標B): ペアに怒り感情を感じてほしいと考えた程度 = パートナー条件 > ライバル条件
・Fig1 (指標A): パートナー条件では,(ペアのFPSゲーム成績を高めるために) ペアに怒り喚起刺激を提示することが多く,ライバル条件では,(ペアのゲーム成績を低下させるために) ニュートラル刺激が提示されることが多かった。
・Fig2 (指標A): 怒りを感じることが,ゲームで好成績を修めるために重要だと考えたものほど,パートナー条件では,怒り喚起刺激を提示することを選んだ。一方で,ライバル条件では,好成績にならないようにするために,怒り感情を喚起する刺激は選ばれにくかった。
【Discussion】
結果をざっくりまとめると,
・ペアの成績が高いほど,自分の報酬も大きくなるパートナー条件では,ペアの成績を高めるために,怒り感情を促す行動がとられる
・ペアの成績が低いほど,自分の報酬も大きくなるパートナー条件では,ペアの成績を低めるために,ニュートラル感情を促す行動がとられる
→もし,対人的感情制御が,基本的に他者の感情をよりポジティブなものにするため (i.e., 快楽原則) になされるのであれば,パートナー条件でも,ニュートラル感情が促進されると考えられる
→しかし,実際は,パートナー条件では,怒り感情を高めるような対人的感情制御が行われた (※感情喚起刺激の提示が対人的感情制御といえるのか? という手続き的な話は横に置いておく)
→これらを踏まえると,対人的感情制御は,自分の目標・動機によって大きく左右されると考えられる
Study2
実験1の手続きを少し変更,追加し,実験1の再現を行うことを目的とした。
実験の結果,実験1と同様の結果が認められた。
▼変更点
・怒りだけでなく,恐怖も喚起できるようにした (※怒りと恐怖は感情価と覚醒度の点では類似しているが,機能の点で異なる。つまり,怒りはFPSゲーム成績を高めうるが,恐怖はそうではない)
・実験1,手続き (3) について,ペアだけでなく,自分をどのような感情状態にしたいかも測定
Study3
これまではネガティブ感情に焦点を当てていたため,ポジティブ感情に焦点を当てた。
実験の結果,実験1,2と同様に,自分の目的に応じて,他者の感情を制御しようとすることが示された。
具体的には,ペアに怒り感情を感じさせることで,自分の報酬が大きくなる場合には,怒りを高めるような刺激を提示することが多く,
ペアに喜びを感じさせることで,自分の報酬が大きくなる場合には,喜びを高めるような刺激を提示することが多くなった。
General Discussion
これまでの対人的感情制御研究では,基本的に,他者の感情をポジティブにすることが考えられてきた。
しかし,本研究によって,自分の目的のために,他者をネガティブにすることもあるのだということが明らかになった。
▼Limitation
・実際の交流がなされていない
・この研究では感情喚起刺激の選択が対人的感情制御と想定されていたため,対人的感情制御のコストが無視されている
→生態学的妥当性の欠如
・今回のペアは,実験的に用意された初対面の他者であり,ある種他人ともいえるような条件設定だった
→ペアとして親密な他者を設定した場合にも,今回のような結果が再現されるかについては疑問が残る
Liu, X., Xu, W., Wang, Y., Williams, J. M. G., Geng, Y., Zhang, Q., & Liu, X. (2015). Can inner peace be improved by mindfulness training: a randomized controlled trial. Stress and health, 31(3), 245-254.
マインドフルネスをすることで,inner peace (≒ peace of mind / やすらぎ※1) が高まるかを,randomized controlled trial で検討した研究。
想定と異なり,マインドフルネス→脱中心化 (reperceiving),アクセプタンス→inner peace という媒介効果は得られなかったものの,
マインドフルネスをすることで,統制条件 (未介入条件) と比較して,inner peace が高まることが示されている。
【introduction】
・inner peace (≒ peace of mind / やすらぎ※1)
→外的,内的な快刺激の存在に依存しない主観的幸福状態:a state of well-being that is not contingent on the presence of external or internal pleasurable stimuli (Mitchell, 2001)
→仏教において重視されている
・マインドフルネスによって,reperceiving (脱中心化,メタ認知的気付き) や,acceptanceが高まることが知られている
Q. では,inner peace はどうしたら高めることができるだろう?
A. マインドフルネスをすることで,reperceivingや,acceptanceが高まり,その結果,inner peaceも高まる,と考えられる (仮説)
→この仮説を検討する
※1 小林が辞書的に訳しているだけなので,訳として適切かどうかはわかりません
【Method】
・参加者:65名
・条件:マインドフルネス訓練条件 (8週間) vs 統制条件 (wait-list control group)
・マインドフルネス関連指標:FFMQ / Meditation Breath Attention Score (MBAS)
・inner peace の測定:経験サンプリング法。How peaceful do you feel now? Please answer with a number from very peaceful (0) to very un-peaceful (10)’
【Result & Discussion】
・マインドフルネスはinner peace を高めるか?
→マインドフルネス訓練後のinner peace 得点は,同じtime point における統制条件の得点と比較して,有意に高かった
→マインドフルネスは,inner peaceを高める
・マインドフルネス→reperceiving,acceptance→inner peace という媒介効果が支持されるか?
→FFMQについても,MBASについても,マインドフルネスとinner peace の関連を媒介しなかった
→マインドフルネスは,inner peaceを高めるけれども,それは,reperceiving,acceptanceの向上のためではないのかもしれない
Broderick, P. C. (2005). Mindfulness and coping with dysphoric mood: Contrasts with rumination and distraction. Cognitive Therapy and Research, 29, 501-510.
【目的】
マインドフルネスとdistraction (気晴らし) と反すうについて,いずれが感情制御として優れるかを検討する
【方法】
・参加者:177名の大学生
・手続き
1) 感情測定Time 1 (PANAS)
2) 感情喚起
3) 感情測定Time2 (PANAS)
4) 感情制御
5) 感情測定Time3 (PANAS)
6) Thought Listing Procedure
・感情喚起:Velten法
:ネガティブ感情を喚起する文章をネガティブ感情喚起音楽を聴きながら読んでいく
・Thought Listing Procedure
:そのとき思い浮かんだ思考をただ書き記すように教示
→事後的にポジティブ,ネガティブ,ニュートラル思考にコーディング
・感情制御
→distraction:“a freshly painted door.” のように,自己や自身の思考や感情と関連のないことを考える
→反すう:“why you react the way you do” のように自己,および自身の思考や感情に焦点を当てさせる文章を読む
→マインドフルネス:Kabat-Zinnに基づく。
【結果】
・PANAS–ポジティブ (time3):distraction > 反すう,distraction ≒ マインドフルネス
・PANAS–ネガティブ (time3):反すう > distraction > マインドフルネス
・Thought Listing Procedure–ニュートラル思考:distraction ≒ マインドフルネス > 反すう
※ポジティブ,ネガティブ思考についてはns.
【まとめのようなもの (感想)】
反すう,distraction,マインドフルネスを比較すると,感情制御としては,マインドフルネスが最も有効であることが示された。次に有効な感情制御方略はdistractionであった。
同様の結果は,Wahl et al 2013 でも示されているため,ある程度妥当だと考えられる。
各感情制御の時間は記載されていないものの,マインドフルネスは少なくとも8分間は実施されている。distractionの強味の1つは,必要時間の短さなので,感情制御時間を短縮した場合,どのような結果が得られるのかが個人的には気になるところ。
一方で,多くの先行研究を概観していくと,distractionの感情制御効果はあまり強くない感じがあるので,時間はかかるとしても,ネガティブ感情をかなり緩和できるのであれば,マインドフルネスが有望であることに変わりはない。
【参考】
Wahl, K., Huelle, J. O., Zurowski, B., & Kordon, A. (2013). Managing obsessive thoughts during brief exposure: An experimental study comparing mindfulness-based strategies and distraction in obsessive–compulsive disorder. Cognitive therapy and research, 37, 752-761.
Kalokerinos, E. K., Résibois, M., Verduyn, P., & Kuppens, P. (2017). The temporal deployment of emotion regulation strategies during negative emotional episodes. Emotion, 17, 450-458.
【目的】
Grossの感情制御のプロセスモデルでは,感情の生起段階に対応した感情制御が想定されている: 状況選択→状況調整→注意配分→認知変容→反応調整
しかし,これまでの感情制御研究では,基本的に,いずれかの段階の感情制御方略「のみ」を取り上げ,検討が行われてきた (e.g., 認知的再評価がネガティブ感情の低減に及ぼす影響の検討)。
また,感情制御について時系列的に検討した研究はほとんどなされてこなかった。
※脳波 (ERP) 研究では,いくつか時系列的な検討がなされているものの,ほぼ検討されてきていない (らしい)
そこで,本研究では,感情の継時的変化をintensity profile approach & 経験サンプリング法を用いて調査する。その上で,感情制御の時系列的変化 ,特に,いつ感情制御が行われ始めるのか? そして,いつ行われる感情制御がネガティブ感情の低減に有効か? を検討することを目的とする
【方法】
・参加者:74名 (Amazon’s Mechanical Turkより)
・経験サンプリング:午後7時に送信
→ネガティブ感情の持続時間
→ネガティブ感情の強度の時系列的変化 (intensity profile approach)
→感情の強度の時系列を3分割し,区分ごとの感情制御の実施傾向
※測定した感情制御は以下の通り:situation modification (“I took steps to change the situation”), 認知的再評価 (“I changed my perspective or the way I was thinking about the event”), 気晴らし (“I distracted myself from the event or my emotions”), 反芻 (“I ruminated or dwelled on the event or my emotions”), and 表出抑制 (“I suppressed the outward expression of my emotions”).
【結果 & 考察】
・ネガティブ感情の持続時間:M=2h51min, 中央値=1h25min, 最頻値=2h (range = 10sec-24h)
・各感情制御の利用傾向:Reappraisal (11.4%), distraction (15.6%), rumination (20.8%), suppression (19.4%), Situation modification (1.5%)
・各感情制御はどのタイミングで行われやすいか? (Fig2,Tab1)
→認知的再評価,気晴らしは感情生起から時間が経過したときに行われやすい
→反すうと表出抑制は感情生起直後に行われやすい
・感情は時間経過とともに弱くなるのか?
→感情の強度の時系列を3分割したとき,後ろの区分に行くにつれて,ネガティブ感情は低減していた (i.e., 感情制御方略を考慮しない場合,基本的に,ネガティブ感情は時間経過とともに弱くなっていく (と感じられている))
・各感情制御はネガティブ感情を弱めるのか? (γの値が正: ネガティブ感情を強める)
→reappraisal, γ=-38.87, SE=7.23, p<.001, distraction, γ=-25.45, SE=5.89, p<.001, and rumination, γ=52.80, SE=5.38, p<.001, situation modification, γ=17.66, SE=17.59, p=.316, suppression, γ=10.92, SE=5.98, p=.0687
・各感情制御のネガティブ感情への影響は,時系列によって変化するか? (Tab2)
→状況調整,気晴らし,表出抑制については感情制御が行われたタイミングによってネガティブ感情への影響は異ならなかった
→認知的再評価は,感情が生起してから後になればなるほど,ネガティブ感情の緩和効果が弱くなる (Sheppesの研究結果と一致)
→反すうは,感情が生起してから後になればなるほど,ネガティブ感情の強度の強い正の関連を持つようになる
→しかし,相関を検討しているにすぎないため,特に認知的再評価,反すうについて,ネガティブ感情が強いと再評価が難しくなる,あるいは反すうが生じやすくなるとも解釈できうるので注意が必要。
Comment: いくつか方法に関して気になるところがないわけではないし,これでGrossのプロセスモデルの時系列性を検討できているわけではないが,そうした感情制御の時系列的側面を実際に検証している点において重要な文献だと思われる。
認知的再評価は感情制御方略の中で,ネガティブ感情の緩和,および精神的健康の促進という観点では最も有効だと考えられている。ただ,再評価って上手くやるのが難しい状況もあるし,再評価が苦手な人もいる (ReviewⅠ)。その上,現状では再評価をしてネガティブな感情が緩和されれば,適応に繋がるという考えが一般的ではあるけれども,個人特性や状況によっては,ネガティブな感情を低減してしまうことがむしろ不適応的になる可能性があるのではないか (ReviewⅡ) といったことを指摘している。
※基本的な主張はFig2とFig3を見れば概観できるはずです。
すごくざっくり書いてしまうと,再評価って最強の感情制御方略と思われているけれど,さすがにそれは……と主張している論文。ただし,再評価のデメリットを叩きつけて,「再評価はダメだ!」といっているわけではなく,今までは単純化しすぎてきたから,もう少し個人要因や状況要因を考慮しませんか? という感じ。
認知的再評価 (Cognitive Reappraisal)
認知的再評価: 感情の原因や感情そのものなどについて,別の観点から捉えなおすこと
”Reappraisal is a commonly used form of emotion regulation that centers on people’s attempts to reframe how they are thinking about an emotional situation so that they feel better. (冒頭より引用)”
・ネガティブ感情の緩和に有効 (Webb, Miles, & Sheeran, 2012)
・精神的健康を促進する (Aldao, Nolen-Hoeksema, & Schweizer, 2010)
ReviewⅠ 再評価は誰でも,いつでも容易に行えるものなのか?
・先行研究が蓄積される中で,再評価については,誰でも容易に行えるものと考えられてきた
(1) 実験室実験において,再評価を行った者の30~50%の人が再評価によってネガティブ感情の悪化を体験している (Troy et al., 2013; Troy et al., 2010)
(2) 再評価を試みた人の半数近くが再評価を上手くできたかどうかに関する問いに中点以下の回答をしている (Ford et al., 2017)
→ 再評価は誰でも容易に行える方略というわけではない
・先行研究が蓄積される中で,再評価については,いつでも容易に行えるものと考えられてきた
(1) 強い感情喚起刺激に対しては再評価が難しい (Sheppes, 2014; Sheppes & Meiran, 2007)
(2) 困難な状況 (e.g., living as a visible minority in the United States) では,再評価をすることで抑うつ傾向が増加する
(3) (状況によっては) 再評価は認知資源を (気晴らし以上に) 消費する (Sheppes & Meiran, 2008)
→ 再評価はいつでも容易に行える方略というわけではない
Q. 再評価は誰でも,いつでも容易に行えるものなのか?
A. 再評価は誰でも,いつでも容易に行えるわけではない
ReviewⅡ 再評価が上手くできる = 適応的 といえるのか?
一般的に,再評価を含む感情制御研究では,感情制御が上手くできる→ネガティブ感情が緩和する = 適応的と捉えることが多い。
→ 【A】meta-emotion, 【B】ネガティブ感情の適応的側面からの反論
【A】meta-emotionの観点から
ネガティブな感情がその人のアイデンティティにとって重要である場合,(再評価により) ネガティブ感情が低減することはアイデンティティの脅威となる
→ そうしたアイデンティティが脅かされる状況では,meta-emotion (i.e., emotions or judgments about one’s emotions; e.g., sense of authenticityの低下) が生じる
→ このmeta-emotionによって精神的健康が阻害されるのではないか?
※ただし,この考えについて直接的な検討はなされておらず,論文中でも間接的な証拠に基づいて言及されている
【B】ネガティブ感情の適応的側面から
ネガティブ感情には,単純にネガティブ感情が嫌い,あるいは精神的健康を悪化させるといった不適応的な側面がある
→ 一方で,ネガティブ感情には,その環境に脅威があることを伝えたり,脅威に備えることを動機づけるという適応的な側面もある
→ もし (再評価により) ネガティブ感情が低減されてしまえば,環境を適切に認識できず,あるいは脅威への備えが不十分になり,結果的にむしろ不適応的になる可能性がある
・経済ゲームのときに再評価を行う者は,不公平な提案を受け入れてしまいやすい (Grecucci et al., 2013)
・risk-taking game中に再評価を行うと,リスク志向的意思決定が増大する (Heilman et al., 2010)
・コントロール可能性の高い状況 (i.e., 問題解決をした方がよい状況) では再評価を行うほど,精神的健康が悪化する (Troy et al., 2013)
Q. 再評価が上手くできる = 適応的 といえるのか?
A. 再評価が上手くできる = 適応的 とはいいきれない
【掲載紙】Emotion Review, 11, 197–208.
【論文URL】https://doi.org/10.1177/1754073919850314
ここ数十年で,感情制御 (Emotion Regulation) に関する研究がとても発展してきています。
しかし,これまでの研究の多くは,感情を「1つの」の方略で制御することを検討してきました (e.g., 失敗体験をポジティブに捉え直すことで,後悔を緩和する)。
ただ,よくよく現実場面の感情制御を考えてみると,感情を「1つ以上の (複数の)」方略で制御することも少なくないことに思い至るかと思われます。
この論文では,そういった組み合わせ的な (or 複合的な, 複雑な, ) 感情制御のプロセスをPolyregulation (注1) とし,その概念の理論的説明と先行研究 (←あまり多くはない) から見えてくることが紹介されています。
(注1) Polyregulationのちょうど良い感じの説明がまだ思いついていません。誤解を生まないために,先に書いておくと,Polyregulationの概念には感情制御方略の組み合わせだけでなく,複数のゴール (感情制御の目的) の表象なども含まれます。なお,Polyregulationは,”polypharmacy” という語から着想を得ているようです。
Polyregulation とは…?
連名にGrossの名前が入っているように,Polyregulationにおいても,Grossのプロセスモデル (注2,注3) を前提にしています。
ものすごく簡略化して,プロセスモデルを説明してしまうと,
感情制御は,
1: 感情 (or 状況) の認識,理解 (e.g., 上司の無茶振りに怒りが生じている)
2: 感情制御のゴールの設定 (e.g., 怒りの表出を抑えよう)
3: 感情制御方略の選択 (e.g., 表出抑制をしよう)
4: 感情制御方略の実施 (e.g., 表出抑制!)
→ 4の実施後の感情 (or 状況) の理解が1となり,ぐるぐると続いていく
というプロセスを経るよね,という感じです。
従来のプロセスモデル (i.e., Not-Polyregulation) では,上記プロセスモデルにおいて,単一のゴール,単一の方略の選択・実施が想定されていました。
たとえば,上のプロセスモデルの説明のときに (e.g., ) と示したような感じです。
しかし,Polyregulationでは,複数のゴール,複数の方略の選択・実施を想定します (→ Figure 2)。
たとえば,上のプロセスモデルの説明のときの例を借りれば次のようなものです。
1: 複数の感情 (or 状況) の認識,理解 (e.g., 上司の無茶振りに怒りが生じている (注4))
2: 複数の感情制御のゴールの設定 (e.g., 怒りを抑えよう + 怒りを緩和しよう )
3: 複数の感情制御方略の選択 (e.g., 表出抑制 + 再評価をしよう)
4: 複数の感情制御方略の実施 (e.g., 表出抑制 + 再評価!)
こうした複雑な感情制御のプロセスをFordらは,Polyregulationと呼称し,研究を進めることで,より実際的な感情制御の理解を目指せるのでは… (かなり意訳) といったことが,この論文では提案されています。
(注2) Grossのプロセスモデルのざっくりと説明したスライド 【link】
(注3) より具体的には,Gross (2015) のThe extended process model of emotion regulationを前提にしています。
(注4) ここでは簡略化のために,感情 (or 状況) の認識,理解は「単一」にしましたが,ここが「複数」になることも論文内では言及されています (→ mixed emotional episode)。
PolyregulationについてのQ&A
【Q1】Who Uses Polyregulation?
A. ほとんど全ての人がPolyregulationをしていると考えている
→根拠として,経験サンプリングを用いた研究などが引用されている。
【Q2】When Is Polyregulation Used?
A. 先行研究では,強度の強い感情喚起刺激に直面したとき or 強いネガティブ感情が喚起されたときに,Polyregulation (特に複数の感情制御方略の実施) をしやすいことが報告されている
→ただし,先行研究がそもそもあまく多くない点に留意が必要。
【Q3】Is Polyregulation Effective?
A. 先行研究は不一致
→Aldao & Nolen-Hoeksema (2013): ネガティブ感情喚起映像提示後に,複数の感情制御方略を用いた者は単一の方略を用いた者よりネガティブ感情が強い
→Heiy & Cheavens (2014): (実施された感情制御方略の数は予測しなかったものの) 参加者が効果があると思った上で実施された感情制御方略の数が多いほど,感情は良好になる
【Q4】Is Polyregulation Adaptive?
A. Polyregulationが適応的かどうかはかなり複雑な話 (Figure 3)
→Q2,Q3も関係してくる
→Polyregulationの目的が適応的かどうかには,文脈を考慮する必要がある (→Ford & Troy 2019 【過去の投稿】)
個人的な感想
Polyyregulationの概念は,Ford自身も論文内で書いているように,実際的な感情制御を理解していく上でとても重要だと思います。
僕が想定し,検討している「distraction→reappraisalの順序効果」もこの枠組みで考えられることもあり,発展性がかなりある提案ではないかと感じています。
一方で,(最後の方に提案してくれてはいるものの) Polyregulationを研究するパラダイムに限界があるため,研究していくのはとても難しいのではないでしょうか。
とはいえ,従来的な感情制御研究は飽和しているような空気感があるのも事実なので,少しずつ研究が増えていくと思っています。
また,Ford自身が書いているわけではないですが,(おそらくは) 従来的な単一の感情制御 (e.g., 再評価,気晴らし) に関する研究が淘汰されたり,無価値になったりすることもないように思います。
そもそもPolyregulationがこれまでの研究の積み重ねに基づいて提唱されていますし,介入方法などを考えようと思うと,Polyregulationは複雑すぎる感があるためです。
この論文とここ最近出版されている感情制御のreviewを読んで,いくつか研究計画が思い浮かんだので,近いうちに実験をできればいいなぁと思っています。
以上,ここまで読んでくださり,ありがとうございました。何かありましたら,ご連絡いただけますと幸いです。
いろいろあって,内受容感覚や身体感覚に関する尺度を調べました (といっても,後者については内受容感覚が絡んでいるものに限定していますが…)。
せっかくなので,ここにざっくりとまとめておきます。
(調べきれていないと思うので,もしここに書かれていないおすすめの尺度などありましたら,お教えいただけると嬉しいです!)
※2018.12公開記事のログです。最新の尺度等に全く言及できておりませんのでご注意ください。
◆MAIA
・Multidimensional Assessment of Interoceptive Awareness
・身体感覚,内受容感覚について,気づきや注意制御,信頼などの観点から多次元的に測定する尺度
→ Shoji, M., Mehling, W. E., Hautzinger, M., & Herbert, B. M. (2018). Investigating multidimensional interoceptive awareness in a Japanese population: Validation of the Japanese MAIA-J. Frontiers in Psychology, 9.
◆APQ
・autonomic perception questionnaire (自律系知覚質問紙)
・身体部位ごとに感覚の変化 (e.g., 頭に血が昇る) の程度を尋ねる尺度
→ 寺井堅祐・反中亜弓・梅沢章男 (2014). 快および不快情動における身体知覚の変化. バイオフィードバック研究, 41(2), 77-83.
◆SSAS
・Somatosensory Amplification Scale (身体感覚増幅尺度)
・身体感覚増幅,すなわち身体感覚に過度に注意を向け,実際以上に脅威的に捉える傾向を測定する尺度
→ 中尾睦宏・熊野宏昭・久保木富房 (2001). 身体感覚増幅尺度日本語版の信頼性・妥当性の検討: 心身症患者への臨床的応用について. 心身医学, 41, 539-547.
→ 高柳伸哉・藤生英行 (2006). 身体感覚増幅とストレス反応が心気症傾向に及ぼす影響. 健康心理学研究, 19, 20-28.
◆からだとの関係性尺度
・自身の身体を信頼しているか,そして自分の身体に注意を向けるかどうかについて測定する尺度
・小田真二 2005(?) 身体感覚の自覚と適応感との関連
◆身体感覚,および身体感覚への態度尺度
・ネガティブ感情喚起場面を想起させ,そのときの身体感覚について尋ねた (e.g., 体が緊張する)。その後,身体感覚の強度や拒否感,切り替え可能性について尋ねている。
→ 小澤永治 (2012). 児童期・青年期の身体感覚に関する発達的変化と臨床心理学的援助の検討. 発達研究: 発達科学研究教育センター紀要, 26, 25-37.
◆身体感覚受容感尺度
・自分の身体についてどのように感じているか,特に,身体感覚を肯定的に受容できているかについて検討するために作成された尺度
→ 田所まり子 (2009). 身体感覚受容感尺度作成の試み. 健康心理学研究, 22, 44-51.
◆満腹感に関する内臓感覚表現尺度
→ 中島佳緒里・櫻井優太・清水遵 (2009). 大学生における満腹感に関する内臓感覚表現尺度の作成. 日本食生活学会誌, 19, 325-333.
いろいろあって,感情制御に関する尺度を調べました。せっかくなので,ここにざっくりとまとめておきます。
(調べきれていないと思うので,もしここに書かれていないおすすめの尺度などありましたら,お教えいただけると嬉しいです!)
※2018.12公開記事のログです。最新の尺度等に全く言及できておりませんのでご注意ください。
Emotion Regulation Questionnaire (ERQ)
・Gross (←感情制御研究の第一人者) が作成した尺度
・認知的再評価と表出抑制の傾向を測定
・様々な言語で翻訳されている 【link】
・Gross, J. J., & John, O. P. (2003). Individual differences in two emotion regulation processes: implications for affect, relationships, and well-being. Journal of personality and social psychology, 85(2), 348.
・【link】吉津潤, 関口理久子, & 雨宮俊彦. (2013). 感情調節尺度 (Emotion Regulation Questionnaire) 日本語版の作成. 感情心理学研究, 20(2), 56-62.
Emotion Regulation Questionnaire for Children and Adolescents (ERQ–CA)
・ERQの児童対象版
・中学生から高校生くらいが対象? 小学校高学年もOK?
・【link】(日本語版) Namatame, H., Fujisato, H., Ito, M., & Sawamiya, Y. (2020). Development and Validation of a Japanese Version of the Emotion Regulation Questionnaire for Children and Adolescents. Neuropsychiatric Disease and Treatment, 16, 209-219.
Cognitive Emotion Regulation Questionnaire (CERQ)
・認知的な感情制御を測定する尺度
・再評価 (positive reappraisal),気晴らし (positive refocusing),反芻,自責,他者非難など9つの方略を測定
・原版は各方略 (各下位尺度) 4項目だが,2項目ずつの短縮版も作成されている
・Garnefski, N., Kraaij, V., & Spinhoven, P. (2001). Negative life events, cognitive emotion regulation and emotional problems. Personality and Individual differences, 30(8), 1311-1327.
・【link】(日本語版) 榊原良太. (2015). 認知的感情制御方略の使用傾向及び精神的健康との関連. 感情心理学研究, 23(1), 46-58.
・【link】(日本語短縮版) 榊原良太. (2017). 認知的評価は認知的感情制御と精神的健康の関連をいかに調整するか. 社会心理学研究, 32(3), 163-173.
Difficulties in Emotion Regulation Scale (DERS)
・感情制御の困難さを測定する尺度
・感情制御そのものだけでなく,感情制御に影響する要因 (e.g., 感情の気づき) も測定
・原版と日本語版とで因子構造が異なる点に留意
・【link】山田圭介, & 杉江征. (2013). 日本語版感情制御困難性尺度の作成と信頼性・妥当性の検討. 感情心理学研究, 20(3), 86-95.
COPE inventory
・よく使われているコーピング尺度
・再評価 (Positive Reinterpretation and Growth),気晴らし (Mental Disengagement),積極的コーピング,ユーモアなどの15方略を測定
・【link】大塚泰正. (2008). 理論的作成方法によるコーピング尺度--COPE. 広島大学心理学研究, (8), 121-128.
Tri-axial Coping Scale (TAC-24)
・コーピング方略を 2 (問題–情動焦点) × 2 (接近–回避次元) × 2 (行動–認知次元) の合計8種類に区分し測定する尺度
・村栄一・海老原由香・佐藤健二・戸ヶ崎泰子・坂野雄二 1995対処方略三次元モデルの検討と新しい尺度(TAC-24)の作成 筑波大学教育相談研究, 33, 41-47.
・鈴木伸一. (2004). 3 次元 (接近-回避, 問題-情動, 行動-認知) モデルによるコーピング分類の妥当性の検討. 心理学研究, 74(6), 504-511.
※以前の感情制御勉強会で尺度について紹介したときのスライド 【link】