研究内容

 大気圏環境情報分野では、野外観測や室内実験を軸として、地球大気における微量物質の動態解明に力を注いでいます。微量物質とは、二酸化炭素やメタンのように、地球の大気にごくわずかしか含まれない成分を指します。地球大気の99%は窒素と酸素であり、微量成分は1%にも満たない“少数派”です。しかしながら、グローバルな温暖化をはじめ、オゾン破壊、光化学オキシダントといった生存圏で生起する環境変動は、大気微量成分の量的・質的な分布が時間的・空間的に変動することと密接に関わっています。微量物質の変質や循環のプロセスを調べることによって、環境変動の本質を探っています。

 理学、農学、工学といった既存の学問分野の枠組みにとらわれない柔軟なアプローチを大切にし、ラジカルな研究活動を目指しています。 

物質交換を介した大気圏と陸域生態系のコネクション

 森林圏に代表される植生を含む陸域生態系は、地球の表層環境を特徴づける重要な要素です。生態系があることによって、地球表層と大気の間では、多岐の種類にわたる物質が様々な時間空間スケールで交換されています。それらの中には、二酸化炭素やメタンのように温室効果を有する成分もあれば、大気化学反応の担い手や雲の凝結核として寄与する物質も含まれています。それゆえ、微量物質の変質や循環を調べると、陸域生態系にとって大気が存在している意味、大気にとって陸域生態系が存在している意味も見えてくるでしょう。

 私たちは、微量物質の変質・循環を調べる研究を通じて、陸域生態系と大気の関わりあいを理解することを目指しています。先端的なレーザー計測技術を基盤とした、大気微量成分を高感度計測技術の開発も行っています。 開発した機器や手法を用いて、実際に野外観測も行います。フィールド調査地は、国内のみならず海外にもあります。

気象観測タワーの最上部にある計測機器

植生や土壌が大気と交換する微量物質を測定している

人間生活圏を取り巻く大気質の研究

 大気中にごくわずかに含まれるガスおよび粒子状物質の質的・量的な変動は、大気の化学的動態を特徴づけます。粒子状物質は、太陽放射を反射したり吸収したりすることにより、地球表層の放射収支に影響します。ときには、大気汚染やヒトへの健康影響が懸念される事態を招く場合もあります。こうした問題は、Air quality issueと呼ばれています。air quality は日本語で“大気質”と訳されています。私たちは、学内外の研究者らと協力しながら、人口の密集する都市エリアや私たちが居住する室内空間の大気質の時空間変動を探査し、その背景メカニズムを調べる研究を行っています。

 私たちは大阪公立大学の研究グループと共同で、大都市から排出される大気汚染物質を直接計測する手法を開発しています。大気乱流理論に基づいて地表付近の大気中の物質や熱エネルギーの輸送量を計測する、渦相関法(あるいは、乱流変動法とも呼びます)という方法を用いています。渦相関法を用いた物質・エネルギー収支の研究は、森林環境に適用されてきた例が多いのですが、私たちはこれを大気汚染物質の都市排出量の評価に応用しようとしています。

大阪府堺市の市庁舎ビルを利用した大気汚染の研究(大阪公立大学のグループと共同研究)

最近の研究成果から

湿地性樹木の一つであるハンノキ(Alnus japonica)の樹幹からメタンガスが放出されるメカニズムの一端を明らかにしました。この研究は、京大農学研究科の坂部綾香先生、神戸大の東若菜先生、生存圏研究所の今井友也先生・松村康生先生らとの共同研究です。
doi:10.1111/nph.18283
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京都大学桐生水文試験地において、メタンの二酸化炭素の樹幹上および樹冠内鉛直分布を連続測定し、その変動要因を明らかにしました。この研究は、農学研究科の小杉緑子先生、坂部綾香先生らとの共同研究です。
https://doi.org/10.1016/j.aeaoa.2021.100143