research interests

人間の知の特性とデータサイエンスとの関係関心を持っています。特に、記録された情報やその分析結果を介した非同期的コミュニケーション(人ー人、人ー機械)に関心を持っており、データやデータサイエンスをコミュニケーションの場として捉え直したいと思っています。

別の立ち位置から言うと、科学研究や技術開発の入り口と出口に必ず存在する人間に着目し、人それぞれ背景知識も考え方も感じ方も異なることを前提として、科学研究や技術開発が満たすべき要件を探索したい、という動機をもっています。

"データサイエンスの心理学・認知科学"のような捉え方が一番しっくりきます。

行動実験による検証を重視しながら、情報処理技術の適切な応用と図書館情報学の視点に関心を持っています。


研究テーマとして最近は特に以下に取り組んでいます。研究対象ドメインは、医療を中心とした、人間にかかわるすべてのものごとです。データサイエンスの上流工程から下流工程まで寄与することを目標としています。

(1)人間の認知特性がデータサイエンスに与える影響

(2)文書の構成が読み手の意思決定と書き手の認知的負荷に与える影響

(3)擬似データの作成と公開


(1)人間の認知特性がデータサイエンスに与える影響

(1-1) データサイエンスの上流工程

素朴にいうと「なんとなく集まってくる大量のデータ、それは本当に"正しい"ものなの?」という疑問を持っています。

人間の高次の認知・心理の特性が、人間によるデータ作成と、そのデータを用いた解析結果に及ぼす影響に興味を持っています。具体的には、特に認知バイアスと呼ばれる現象が作成されるデータに与える影響の記述と、個人の認知能力を高めてより良いデータ作成に活用する方法(ブースト)の提案に取り組んでいます。

科学研究や技術開発において、計測が極めて難しく、人間が自らの認知に基づいて作成せざるを得ないデータ(形式は問わない)、すなわち、人間が認識してはじめてデータ化できる知は多数存在します。しかしそのようなデータ作成の場面、さらにそれらに基づく研究開発そのものに、人間の認知・心理の特性が与える影響は議論されていない対象が少なくありません (人は必ず間違える、という単純な話ではありません)。

平たくいうと、研究用データや教師データをどのように作るべきか、統計的学習(いわゆるAI・データサイエンス領域)の上流工程をどのように支援すべきか、を研究しています。

キーワード:認知バイアス、ブースト、ヒューリスティックス、Human-in-the-loop、クラウドソーシング

主な成果:Honda+, Sci. Rep. 2022; Kagawa+, Cogsci 2022; Kagawa+, Medinfo 2017


(1-2) データサイエンスの下流工程

素朴にいうと「精度が極めて高いAI・データサイエンスの技術開発さえ実現すれば、それを使った人間の判断は正確になるの?」という疑問を持っています。

平たくいうと、人間はAIをどのように使うのか、人間の意思決定を本当に良いものにするために意思決定支援AIシステムはどうあるべきなのか、を研究しています。

キーワード:認知バイアス、advice taking、algorithm aversion

主な成果:Kagawa+, Cogsci 2024


(2)文書の構成が読み手の意思決定と書き手の認知的負荷に与える影響

素朴にいうと「技術進展がどれだけ進んだ未来がきても、最後まで人が自然言語で記録せざるを得ない知とは何か?それはどのように記録されるべきか?」という問いを考えています。

人間が認知せざるを得ない知の記録形式としての文書が担う役割がなくなることはないという予測のもと、文書を介した書き手(人または機械)と読み手(人または機械)のコミュニケーションと、コミュニケーションの結果としての意思決定に関心を持っています。

具体的には、カルテのテキスト(プログレスノート)を介したコミュニケーションと意思決定が主たる研究対象です。医療応用っぽくいうと、多職種間コミュニケーションの場としてのより良いカルテの要件を追求しています。

同時に、他の応用ドメインの先生方にもご指導いただことで、文書・記録された情報を介した非同期型コミュニケーションと、コミュニケーションの結果として読み手が行う意思決定が持つあらゆる側面を検討対象としています。文書での検討を通じて、記録された情報を生みだす側受けとる側のすれ違いを無理なく寄り添いに変えることが目標です。多様な分野に適用できる汎用的な仮説の検証にもいずれは挑戦したいところです。

キーワード:文書構造、readability、understandability、プログレスノート、演奏講評、料理レシピ

主な成果:Kagawa+, Medinfo 2021; Matsubara and Kagawa+, ICADL 2021


(3)擬似データの作成と公開

素朴にいうと「どこにも存在しないデータを、真に本物らしいクオリティで、共有したい」という思いを持っています。

研究過程で入手した、ふつうは共有されない知を公開できるかたちに加工して共有することも重視しています。擬似的なカルテテキストや、楽器の演奏指導文書、同一の調理に対する多くの記載者による料理レシピなど、ふつうは読めないものを公開してきました。

そのために必要な知見として、専門家が暗黙的にデータから得る知(いわば"行間")を明示的に記述することにも力を注いでいます。

医療応用っぽくいうと、医療情報研究がより多くの研究者の手に渡るための基盤整備を目指しています。

キーワード:オープンデータ、擬似データ、標準化、暗黙知

主な成果:Kagawa+, CEA++2022; Kagawa+, IEEE HMData 2021; Matsubara and Kagawa+, CMMR 2021; Kagawa+, Int. J. Med. Inform. 2019



少し違う切り口でまとめると、

データの作成者あるいは利用者にとってはあたりまえである暗黙的な知を顕在化させ、定量的に記述し、可能な範囲での計測を試み、支援を設計することに取り組んでいます。

〇〇情報学/〇〇情報処理といわれる分野の存在意義は、各対象において体系化あるいは言語化すらされていない--安易な一般化をすべきではない--経験的でナラティブな知見(知識ではない)まで深く知っている強みと、複雑な知を適切に汎用化する手段としての情報処理技術を適切に応用できる強みを、自由にかけあわせた仕事をすることにあると信じています。

素朴な問いを自在拡張することで、社会医学を含む臨床医学を、より自由な学術分野として楽しみたいです