ゲル、ゴム、高分子などのやわらかいものは,力のかけ方や観察する時間によって複雑に振る舞います.この挙動を分子の動きやつながりから理解することを目指しています。
以下では比較的新しい論文を5つの研究テーマに分けて紹介します.なお学生さんへの配当テーマは,学会発表リストや,各学生さんの個人ページをご覧ください.
星型高分子の濃度、分岐数、反応率を変えて網目を作り、一軸伸長による破壊を計算しました。破断特性は網目のサイクルランクで整理できますが、その関係は濃度にも依存し、弾性率だけでは破壊特性を一意に表せないことが示されました。
Reproduced from Y. Masubuchi et al., Soft Matter, 2024, 20, 7103–7110 with permission from the Royal Society of Chemistry.
論文本体・DOI:10.1039/D4SM00726C | TOC図の出典
星型高分子の腕の分子量を変え、末端結合でできた網目が破断するまでの一軸伸長を計算しました。破断時の伸長比は網目鎖の分子量の約0.67乗に依存し、鎖の初期長や非アフィン変形だけでは説明できず、重なり濃度に対する濃度の増加と切断鎖の割合がその理解につながることを示しました。
Y. Masubuchi, Macromolecules 58, 6399–6405 (2025). © 2025 American Chemical Society.
論文本体・DOI:10.1021/acs.macromol.5c00475 | TOC図の出典
熱運動を含むブラウン動力学シミュレーションで、星型高分子網目をさまざまな速度で引き伸ばしました。分岐数や反応率が異なる網目の破断ひずみ・破断応力はサイクルランクで整理でき、伸長速度が低いほど両者が小さくなることを示しました。
論文本体・DOI:10.1038/s41428-024-00992-9 | 要約の出典
散逸粒子動力学にスリップスプリングを導入したモデルで、からみあい拘束の密度を系統的に変えて検証しました。1本の鎖あたりの平均拘束数をそろえ、長さ・時間・弾性率を換算すると、異なる密度のモデルの拡散と線形緩和弾性率が整合し、既存モデルの結果とも対応しました。
Y. Masubuchi et al., Macromolecules 57, 4867–4877 (2024). © 2024 American Chemical Society.
論文本体・DOI:10.1021/acs.macromol.4c00280 | TOC図の出典
プリミティブ・チェーン・ネットワーク模型に曲げ剛性を導入し、鎖の形と緩和弾性率への影響を調べました。からみあい長を一定に保つ条件で、平坦部弾性率は持続長の2/3乗に比例して増加し、実験でみられる増加傾向と整合しました。
論文本体・DOI:10.1678/rheology.53.119 | 要約の出典
高密度に枝分かれしたポンポン型ポリスチレン融液の粘度成長に現れる二つのピークを、多鎖スリップリンクシミュレーションで調べました。第1ピークは腕の配向、第2ピークは主鎖の伸長に対応し、流動開始時に分子が協調して回転することで主鎖の伸長が抑えられ、両ピークが同程度になることを示しました。
論文本体・DOI:10.1007/s00397-025-01502-1 | 要約の出典
ひも状ミセル溶液の定常伸長粘度を計算し、伸長速度とともに増加した後、最大値を経て減少する挙動を調べました。この非単調な変化がミセルの伸長と切断の競合から生じることを示し、温度・濃度・伸長速度が異なる非からみあい系を統一的に記述する関係式を提案しました。
Y. Koide et al., Macromolecules 58, 12039–12051 (2025). © 2025 American Chemical Society.
論文本体・DOI:10.1021/acs.macromol.5c01993 | TOC図の出典
希薄高分子溶液を一軸伸長する散逸粒子動力学シミュレーションで、鎖の伸長とひずみ硬化の関係を調べました。伸長粘度の成長関数が、伸長方向と垂直方向の瞬間的な回転半径とその時間微分で決まることを示し、鎖長や濃度の異なる系の定常伸長粘度も回転半径から記述する枠組みを与えました。
論文本体・DOI:10.1678/rheology.54.85 | 要約の出典
一軸・平面・二軸伸長流を比較し、希薄高分子溶液の伸長粘度が流動様式によって変わる原因を調べました。単一鎖モデルに基づく式により、速度勾配で決まる運動学的寄与と鎖の形態変化の寄与を分離し、鎖が十分伸びると伸長方向の回転半径が粘度の違いを支配することを示しました。
論文本体・DOI:10.1038/s41428-026-01216-y | 要約の出典
酸化反応と粗視化分子動力学を組み合わせ、ラジカルの拡散性が劣化の反応速度と時空間的不均一性に与える影響を調べました。拡散性の変化は劣化挙動を定性的には変えませんが、不均一な系では拡散が遅いほど局所反応率の揺らぎが増して酸化が遅くなり、ほぼ均一な系では初期の不均一性がやや強まることを示しました。
論文本体・DOI:10.1038/s41428-024-00942-5 | 要約の出典
酸素濃度の影響を酸素付加反応の速度として取り入れ、酸化劣化の反応速度・不均一性・架橋量への影響を調べました。酸素濃度が低いとペルオキシラジカルへの変換と水素引き抜き反応が遅れ、高分子ラジカルが増えることでラジカル間の架橋が促されることを示しました。
論文本体・DOI:10.1016/j.polymdegradstab.2025.111404 | 要約の出典
光劣化したポリプロピレンを実験室で水中撹拌し、生成する微小破片のサイズ分布の変化を調べました。短時間では指数分布だった分布が撹拌時間とともにべき乗分布へ変化し、微細化速度は低下しました。得られた破片の結晶化度が高かったことから、制御した実験条件下での微細化と化学結晶化の関連が示唆されました。
K. Haremaki et al., Marine Pollution Bulletin 228, 119556 (2026). Graphical Abstract:著者公開版 arXiv:2503.21373v2, p.1。図の内容は変更していません。
論文本体・DOI:10.1016/j.marpolbul.2026.119556 | TOC図の出典
中心粒子と複数の腕粒子をばねで結んだ星型高分子モデルについて、互いに直交する規準モードの構成法を検討しました。置換やアダマール行列を使う方法は特定の腕の本数で簡単な対称モードを与え、離散フーリエ変換行列を使う方法は任意の腕の本数に適用できることを示しました。
論文本体・DOI:10.1678/rheology.52.255 | 要約の出典
情報幾何学から、緩和スペクトルを表す自然な変数が緩和時間の対数であることを示し、情報理論から最も確からしい分布として対数正規分布を導きました。このモデルの性質を分数 Maxwell 模型と比較し、高密度ポリエチレンの融液・固体状態の線形粘弾性データとも比較しました。
論文本体・DOI:10.1678/rheology.53.215 | 要約の出典
乾燥セメントペースト中の水素分子と酸素分子について、不均一な環境に由来する非ガウス拡散を検討しました。一定の有効拡散係数を使う従来の拡散方程式では扱えない振る舞いを、二状態の揺らぐ拡散係数モデルの枠組みで解析します。
論文本体・DOI:10.1678/rheology.52.83 | 要約の出典