[台本]下手でも役者です。
〇小手鞠 透(こてまり とおる)
20歳、性別不問
劇団『亦紅一擲』に専属契約している新人役者。
真面目で直向きな性格で誰にでも柔らかく接する事ができるが、
気が弱く奥手な部分が強く、演技が下手だという事を自覚している。
次回公演の『走れメロス』のオーディションの結果、主役”メロス”を勝ち取ってしまった。
〇上代 確(かみしろ かたし)
28歳、男性
劇団『亦紅一擲』に所属する役者。
演技論に一本芯の通った考えを持ち、背が高くガタイが良く、
自分に厳しくてきっちりとした性格から、よく怖いと言われるが他人想いの心優しき男性。
次回公演『走れメロス』では演技指導を担当する。
〇白瀬 甜菜(しらせ あまな)
21歳、女性
現役大学生であり、劇団『亦紅一擲』に専属契約している役者。
溌剌とした明るい性格でとても人懐っこい女性。
芝居のセンスがズバ抜けており、劇団の中でもトップの演技力を持つが、
それを鼻にかける事なく物事に取り組み、後輩である透と仲良くなりたいと日々奮闘する。
〇采月 桂(さいげつ けい)
年齢不詳、性別不問
劇団『亦紅一擲』の座長であり発起人。
演劇に関して真摯でありながら経営者として実利的な面も重視する人物。
演劇に関しては本当に真面目で厳しいが、それ以外はてんで駄目で、ダラシない。
『亦紅一擲』を立ち上げる際に仕事を辞めて貯金を全ベットした生粋のギャンブラー。
小手鞠 透 不問:
上代 確 ♂:
白瀬 甜菜 ♀:
采月 桂 不問:
↓これより下が台本本編です。
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~『亦紅一擲』B2F稽古場~
ー劇中劇・稽古『走れメロス』ー
(透、板上で”メロス”をやっている。)
透:「”嗚呼……!必ず、か、かの、邪智…暴虐の王を除かなければ……!ならぬ……!”」
(確は板上から最も遠い席から、甜菜と桂は他の役者、スタッフと共に客席側の前の方で見ている。)
確:「……。」
甜菜:「……。」
桂:「……。」
透:「”私は……街、を暴君の手から、ス、救うのだ……!”」
確:「小手鞠(こてまり)、声が小さい!」
透:「っ!は……はい……!」
確:「当日の舞台は俺たちの稽古場よりも大きい。
そんな声量では、劇場の隅々まで届かないぞ。」
透:「はい……!」
(桂、手を上げて口を開く。)
桂:「コテマリさん。稽古が始まったばかりだから目線が台本に落ちるのは致し方ないですが、
フラフラしすぎです。
”メロスの激怒”の説得力がありません。
怒りをぶつけ、勇ましく宣言しているのですから、せめて真っ直ぐ立ってください。」
透:「はい……!」
甜菜:「場面的には捕縛されてるんだし、もっと力んでても良いかもね。
大きい声を出そうとするんじゃなくて、身体全体で怒ってる感じ?」
透:「はい……!」
確:「座長。もう一度、このシーンをやっても良いですか。」
桂:「ええ。指導進行は上代(かみしろ)さんに一任しています。ご自由に。」
甜菜:「ちぇーアタシの番まだまださきかー」
確:「ありがとうございます!」
透:「……あ、ありがとうございます……」
間。
透:ボクは、この劇団『亦紅一擲(もこういってき)』の中で、一番新人で、一番下手くそだ。
確:「ではコテマリ。もう一度、王城に侵入して捕まる所から!」
透:「……。」
透:なのに、ボクが次の公演『走れメロス』の主役をする事になってしまった。
確:「…………大丈夫かコテマリ?」
透:「……えっ」
甜菜:「トオル。一旦水飲みな。」
(透、甜菜からペットボトルを受け取る。)
透:「あ、ありがとうございます……」
(透、水を一口飲む。)
透:「……ふぅー……」
甜菜:「息吐いたら身体リラックスしすぎちゃうよぉー
いかりいかり~」
透:「あっ、は、はいっ」
桂:「…………。」
確:「……では、改めて!」
透:「は……はい!」
間。
透:下手な奴が板上(ばんじょう)に立つべきじゃないのに。
~『亦紅一擲』2F事務所~
桂:「んー?”メロス”を辞退したいですか?」
透:「……はい。ボク、台詞噛むし、声小さいですし、オーディション受かったのも、
きっと何かの間違いですよ……。
……ボクよりも確(かたし)さんの方が……」
桂:「辞退は良いですけど。」
透:「えっ」
桂:「理由は何ですか?」
透:「……え?」
桂:「お仕事を辞退するのですから、ちゃんとその理由を言ってもらわないとですよ。」
透:「え……その……ボク、下手だから……」
間。
桂:「……?
はい。それで、理由はなんですか?」
透:「えっ?いや、えっと、”下手”なのが理由なのですが……」
桂:「申し訳ないのですが、”下手だから”は舞台から降りる理由にはならないですね。」
透:「え、えぇ?」
桂:「下手でも役者です。」
透:「────っ」
桂:「それとも、上手な人だけが役者だと思っていますか?」
透:「えっ、い、いえ。」
桂:「フフフ。であれば、やはり理由としては認められませんね。」
透:「……。」
桂:「それに。」
透:「?」
桂:「貴方たち役者は、うちの劇団と専属契約を結び、活動保証料として、劇団から毎月15万という、安くないお金を支払っています。
ですから、これはお気持ちの相談ではなく、仕事の辞退申請です。
ならば、こちらも仕事として理由を見ます。」
透:「……っ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~『亦紅一擲』B2F稽古場~
ー劇中劇・稽古『走れメロス』ー
透:「”妹の婚礼が明日ある。私は村へ帰らねばならない。”」
甜菜:「”ああ。”」
透:「”三日後の夕刻までに戻る。その間、お前にここで待っていてほしい。”」
甜菜:「”人質としてか。”」
透:「”……そうだ。”」
甜菜:「”…………お前が戻らなかったら、俺は死ぬんだな。”」
透:「”…………。”」
甜菜:「”そうか。”」
透:「”すまない。”」
甜菜:「”謝るなと言った。”」
透:「”だっ、だが……”」
甜菜:「”戻るのだろう。”」
透:「”…………戻る。”」
甜菜:「”ならば、私は待つ。”」
透:「”セリヌンティウス。”」
甜菜:「”妹君の婚礼を済ませろ。”」
間。
甜菜:「”そして走れ。”」
透:「”走る。”」
甜菜:「”私のためではない。”」
透:「”……。”」
甜菜:「”お前が、お前を裏切らないために走れ。”」
(メロス、セリヌンティウスの手を握る。)
透:「”カ…必ず戻る。”」
甜菜:「ん~~~…………もっと自信持ってもイイんじゃない?」
透:「っは、はい。」
確:「コテマリ、自信を持つには基礎固めが一番手っ取り早い。」
甜菜:「あとは台詞をしっかり覚える事かな~
不確かな事を言うのってやっぱ怖いし、滑舌も甘くなって声も小さくなるもんねぇ。」
透:「は、はい、しっかりと、覚えます……。」
確:「……。」
甜菜:「……。」
(確と甜菜、顔を見合わせる。)
甜菜:「まあ、本番まで1ヶ月半あるんだし、もうちょっとリラックスしようよトオル。」
確:「緊張感を持つのは良いが、し過ぎて視野が狭まるのはまずい。
……よし、コテマリが初主演を勝ち取った記念に夕飯でも奢ろう。」
甜菜:「え!?アタシもアタシも!アタシもご飯奢って欲しいです!」
確:「構わないが…………それで、どうだコテマリ。奢られてくれるか?」
透:「あ、じゃあ、是非……」
確:「よし、じゃあこれから3人で──」
(桂、ひょこっと顔を出す。)
桂:「自分も行きたいでーす。」
(桂、去る。)
確:「……。」
甜菜:「……。」
透:「……。」
(透と確と甜菜、顔を見合わせる。)
確:「……よし、じゃあこれから4人で飯だ。」
透:「はい。」
甜菜:「はぁい。」
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~たこ焼き屋『テメェが焼け屋』~
確:「ほいほいほいほいほいっと。」
(確、たこ焼きを素早く綺麗にひっくり返す。)
甜菜:「おお~!」
透:「た、たこやき……!」
桂:「カミシロさんってば、本当にたこ焼き焼くのお上手ですよねぇ。あーむっ。」
確:「恐縮です。」
甜菜:「自分でひっくり返すタイプのたこ焼き屋、初めて来た!」
透:「お好み焼きとかもんじゃ焼きとかならよくありますけど、たこ焼きは珍しいですね。
……あむっ……美味しい。」
確:「ほらほら、俺から貰うだけじゃなくて自分らの”島”でもやってみろ。」
桂:「え~自分、座長ですよぉ~?」
確:「今日は俺の奢りなんですから、自分でやってください。」
桂:「ちぇ~……あ、”作(ざく)”の冷たいの、またお願いいたします。」
甜菜:「アタシ、たこ焼き自分で焼いた事ないかも。
レクチャーしてよカタシくん。」
確:「レクチャーと言ってもな……。
良い感じに焼けてそうだなと思ったら”くるくるぱっ”とすれば良い。」
甜菜:「あいまーい。」
透:「くるくるぱっ……くるくるぱっ……」
(透、エア”くるくるぱっ”でシミュレーションする。)
甜菜:「ま、やってみないことには何にもなんないか。」
(甜菜、構える。)
甜菜:「……くるくるぱっ。」(綺麗な球が出来る。)
確:「クルックルッパッ」(完璧に出来る。)
桂:「ぐびっぐびっ……ぷはぁ~……」
透:「くる……くる……あぁ……」
間。
透:「失敗してしまった……。」
確:「まあまあ、初めてだったんだろ?気を落とすな、やっている内に出来る様になる。」
透:「でも白瀬(しらせ)さんも初めてだったのにとても綺麗に出来てます……。」
甜菜:「甜菜(あまな)でいいよぉ~」
桂:「まあまあ、下手だったとしても、食べられるんですから、良いじゃないですか。」
(桂、透が作ったたこ焼きを一個口に入れる。)
桂:「あーむっ。うん。たこ焼き。
……カミシロさん、自分、口の中火傷しました。」
確:「鉄板の上の物を口に放り込んだらそうなるでしょ。何やってんですか。」
透:「…………。」
間。
透:「やっぱり、カタシさんの方が上手いし、良いですよ……。」
甜菜:「……。」
確:「たこ焼きがか。」
透:「芝居です。」
確:「……。」
透:「未だに分からないんです。
なんで“メロス”のオーディション、カタシさんじゃなくて、ボクが受かったのか。」
桂:「……。」
透:「カタシさんの方が……下手なボクがやるより、良い芝居が出来るカタシさんの方が……」
確:「”良い芝居”ってなんだ。」
透:「……え?」
間。
確:「先んじて言うが、怒ってる訳じゃないぞ、コテマリ。
ただ、聞きたいんだ。コテマリの考える”良い芝居”というのを。」
透:「……。」
間。
透:「自分の思った通りに身体を動かせて、良い声を届ける事が出来る……とか。」
甜菜:「身体(しんたい)的才能形成だね。
紛う事無き才能の証明、”良い芝居”だねぇ~あーむっ。」
透:「……あとは、監督や演出家、脚本家の意図を汲み、物語や人物を読解する情報処理能力とか。」
桂:「まあ、自分ら的にはかなり助かりますね……。
必要とされる”良い芝居”に違いはありません……………ぷはぁ~……」
透:「……どれも、ボクよりもカタシさんの方が優れています……。
絶対に、ボクよりもカタシさんの方が上手ですもん。」
確:「……ははは。ありがとうな。
…………そうだな……確かに、俺は長くやっているから、経験値がコテマリよりもある……。
ああ……。こればかりは謙遜するべきでは無い。
……うん。俺の方が、コテマリより”上手な芝居”が出来ると思う。」
透:「……っ。
じゃあ、やっぱり──」
確:「だけど。」
透:「っ。」
確:「俺より……コテマリの方が、”良いメロス”が出来る。”良い『走れメロス』”になる。」
透:「……なんで……。」
確:「それは──」
桂:「ぶー。」(口元でばってんを作る。)
間。(透と確、桂の方を見る。甜菜は気にせずたこ焼きを食べる。)
桂:「申し訳ございません。カミシロさん。
演技指導に関しては一任していますが、こればかりはコテマリさん自身に気付いて頂いた方が良いと思うのです。」
確:「桂(けい)さん。
……分かりました。
すまないな、コテマリ。」
透:「い、いえ……」
桂:「ですが、一つだけ。」
(桂、酒を一口飲む。)
桂:「自分もカミシロさんと同じく、”良い『走れメロス』”になるという予感から、
コテマリさんを”メロス”役に抜擢しました。」
透:「……っ」
桂:「コテマリさんが言う様に、カミシロさんの”メロス”の方が”上手”だと思います。
……ですが自分は、”役者の上手下手なんて興味が無い”んですよ。」
透:「役者の上手下手に興味が、無い……。」
桂:「はい。」
透:「………………。」
甜菜:「まあまあ、今はたこ焼き食べましょ。
せっかく作ったのに、この子たちが可哀想です。」
桂:「それもそうですねぇ~ぐびっぐびっ」
透:「……。」
甜菜:「……ふふふ。トオル、今の顔、めっちゃ”メロス”だったよ。」
透:「え……!?」
桂:「え~~今のってまあまあ暴言じゃないです~?」
甜菜:「いやいやいや!今のトオルには必要なんですから!ヒントですよ!ヒ・ン・ト!」
透:「…………。」(自分の顔を触って考えている。)
桂:「う~む……もはや”メロス”を飛び越えて”考える人ダンテ”ですね……。」
確:「コテマリ。」
透:「は、はいっ。」
確:「……フフ。
今はとりあえず食おう。
食ってから考えたって、遅くはない。」
透:「……はい。」
桂:「あ!すいませーん!さっきの日本酒!もいっぽーん!」
甜菜:「アタシもアタシも~!」
確:「あ!コラ!飲みすぎ!あと注文は分かりやすく正確に!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~翌日、『亦紅一擲』B2F稽古場~
(透、稽古場の清掃をしている。)
透:「…………。」
甜菜:「おはよ~ございま~す~……あー……あったまいてぇ~……」
透:「シラセさん。おはようございます。」
甜菜:「ん、トオル?早いねぇ~おはようございま~す。
アマナでいいよぉ……ぶぇ~……」
透:「二日酔いですか?」
甜菜:「うん~久々だー……この感覚ー……」
透:「座長と一緒に沢山飲んでましたからね……。
座長も二日酔いが酷いらしくて、3階の自室の扉に”面会謝絶”の看板が掛けられていました。」
甜菜:「プフッ……面会謝絶って……
本当に座長はお芝居絡まないとダメダメだね~」
透:「アハハハ……」
甜菜:「……で、やっぱ悩んでたの。”メロス”。」
透:「はい……。
下手なモンは下手なんだから、せめて”メロス”の理解度を上げようと考えていたのですが……
なんというか題材があまりにも有名過ぎて台本読解も逆にしづらくて、
逆に解釈が難しいというか……。」
甜菜:「まぁねぇ~」
(甜菜、台本に顔を落とす透を眺める。)
甜菜:「だけどさ。
改めて読んでみるのは凄く大事だと思うよ。
人ってさ、過去に見たものや体験したものはもう知っているって思うじゃん。」
透:「え、はい。そうですね。」
甜菜:「だけどさ、結構忘れてるもんだし、知っている、分かっている、じゃなくて”分かっているつもり”なんだよね。」
透:「分かっている、つもり……。」
甜菜:「そ。テストで”満点採れる”のと、”高得点を採れる”は似て非なるものじゃない?」
透:「……あ~……わかっているつもり、は”分かっていない所がある”の証左。」
甜菜:「そうそう!カタシくんが言ってたやつ!」
透:「ですね……。
わ~……正にだ……ボク、カタシさんに教えていただいた事を”分かっていたつもり”でした。」
甜菜:「危ないよねぇ。」
(透、再び台本を見る。)
透:「…………正直、台本を頂いた時もかなり流しながらだった気がします……。
ああ……だから、こう、上手く纏まらなかったんだ……。」
甜菜:「時にトオル。」
透:「はい?」
甜菜:「どんな”メロス”をやりたいの?」
間。
透:「やりたいのではなく。カタシさんの”メロス”が良いと思ってます。」
甜菜:「…………。」
透:「……そういう事ではない、というのは分かるんですけどね……。」
(透、舞台から降りる。)
甜菜:「トオル……。」
透:「ボクは、ここに入る前に見た、カタシさんの”メロス”が一番良いです。」
甜菜:「じゃあ、なんで”メロス”役に立候補したの。」
透:「それは…………」
間。(透、舞台の方を見る。)
透:「あの時の、”勇者”に近付きたいから。いつかは、超えたいから。」
甜菜:「……それが今なんじゃないの。」
透:「まだです。」
間。(透、構える。)
透:「”嗚呼……!必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬ……!”」
甜菜:「…………。」
(透、身体の緊張を解く。)
透:「…………全然駄目ですよね。」
甜菜:「……とお──」
確:「”嗚呼ッ!!”」
透:「ッ!」
甜菜:「──ッ」
(確、”メロス”として客席側から現れ、舞台へ上がってくる。)
確:「” 必ず!かの邪智暴虐の王を除かなければならぬ!”」
確:「”私に政治など分からぬ……。”」
(確、舞台の中央に立つ。)
確:「”だがッ!!!”」
透:「……っ」
甜菜:「……。」
確:「”仮令(たとい)、私の命を賭したとしても!私はこの街を暴君の手から救うのだッ!!”」
間。
確:「お前が欲しい”メロス”はこれか。コテマリ。」
透:「…………はい……はい……!はい!
ボクは太陽の様に輝く勇者”メロス”に心惹かれました!
ああ……今のボクには到底出せない輝きだ……」
甜菜:「……。」
透:「やっぱり……ボクよりもカタシさんの方が舞台に立つべきだ……。」
確:「ではなんで俺はオーディションに落ちたんだと思う。」
透:「……え?」
確:「お前のその発言は、俺を含めた”メロス”に選ばれなかった役者たちを侮辱する”言(げん)”だ。」
透:「えっい、いやっ、そんなつもりは──」
確:「つもりが無いのならば尚の事タチが悪い。」
透:「────ッ」
間。(透、下を向く。)
確:「…………。
……ま、あれだ。」
(確、透をしっかりと見る。)
確:「誰だって最初から”勇者”なワケじゃないさ。」
透:「…………?」
甜菜:「ふふ……。」
確:「コテマリの中の”勇者”の形が、俺だというのなら、それで良い。
お前なりに表出(ひょうしゅつ)させてみろ。」
透:「……ボクなりに、表出(ひょうしゅつ)……。」
確:「ああ。
……顔出しに来ただけだ。俺はケイさんを起こしてくる。
また後でな。」
甜菜:「は~い。」
(確、去る。)
透:「……。」
甜菜:「トオル。」
透:「っ。」
甜菜:「”アタシのセリヌンティウス”は、”君”を待っているよ。」
(”セリヌンティウス”、微笑む。)
透:「…………。」
(甜菜、顔が土気色になって小刻みに震え出す。)
甜菜:「フフ……ごめん……チョット、アタシ、ジツハサッキカラハキソウダカラゲロってくるッ!!」
(甜菜、早歩きで稽古場を出る。)
透:「あ、お、あ、はい……。」
間。
透:「……。
ボクの中の”勇者”……”シラセさんのセリヌンティウス”……。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~午後、『亦紅一擲』B2F稽古場~
桂:「午前中はすいませんでした……。
座長ともあろうワタクシめが二日酔いにより欠席していた事を深く、ふかーくお詫び申し上げます……。」
(桂、最々々敬礼くらい頭を下げる。)
桂:「……午前中はカミシロさんがしっかりと見ていてくださったと聞いております。
ありがとうございます。」
確:「いえいえ、自分の職務を全うしたまでです。」
(桂、スススっと確の傍により耳打ちする。)
桂:「お洋服の件、本当にごめんなさい……。」(小声)
確:「後でクリーニング代くださればそれで。」(小声)
桂:「はいぃ……」(小声)
(桂、全員の方を向く。)
桂:「さ!気を取り直して!
コホン。午前の続きから、”メロス”が結婚式後、深い眠りにつき、
シーン切り替わって、王城の”暴君ディオニス”と”セリヌンティウス”の会話の所からやりましょう。」
(桂、確の方を見る。)
桂:「”暴君ディオニス”は外部の方が担当する事になっています。
本日は都合がつかなかったのでカミシロさんに代役をお願いします。
お芝居に関して、自分も見ますし、舞台の上からカミシロさんが気付く事、気になることがあったら遠慮なく言ってください。
良いですね?」
確:「はい!」
(桂、パン!と手を叩く。)
桂:「では皆さん!配置についてください!!」
(座組の全員、同時に返事をする。)
確:「はい!」
甜菜:「はい!」
透:「はい!」
間。(各々が移動する。桂、透の横を通り。)
桂:「コテマリさんは自分の隣に座ってください。」
透:「え、は、はいっ。」
(透と桂、最前線の席に座る。)
桂:「コテマリさんは、シラセさんが……”セリヌンティウス”がどう思っているか、
”看て”、”聴いて”、実感してください。」
透:「……はい。」
間。
(甜菜と確、舞台の上で待機する。)
確:「……。」
甜菜:「……。」
透:「……。」
桂:「3・2・1……アクト!」
ー劇中劇・稽古『走れメロス』ー
(確、”暴君ディオニス”が鎖に繋がれた甜菜、”セリヌンティウス”の前に現れる。)
甜菜:「”……。”」
確:「”哀れな男、セリヌンティウスよ。夕餉を持ってきてやったぞ。”」
甜菜:「”…………。”
”王自ら運んでくださるとは……恐れ多い……。”」
確:「”貴様は大事な大事な客人だ。丁重にもてなさなければ、あの男に申し訳が立たぬからな。”」
甜菜:「”ふっふっふ……”
”心にも無い事を……”」
確:「”何を言う。わしの様に心広き人がこの世界にどれ程いるか。”
”ああ。そうさな。貴様には負けるな。”
”我が身可愛さに逃げた男の身代わりになるだなんて、なんと心の広い男か。”
”……そして、なんと、愚かな男か。”」
甜菜:「”ふっ……ふふふ、そうですね。返す言葉もございません。”
”……貴方様からの温情、謹んでお受け致します。ありがとうございます。”」
確:「”……。”
”こういう時、人とは、『いらぬ!』などと喚いて拒むものでは無いのか。”」
甜菜:「”私は素直に受け取ります。”」
確:「”挑発されて悔しくは無いのか。”」
甜菜:「”悔しいです。”」
(”セリヌンティウス”、”暴君ディオニス”を真っ直ぐと見る。)
甜菜:「”ですが、ここで我が命を散らしてしまえば、”
”我が友の約束は永遠に果たされない。それはいけない。それだけはいけない。”」
確:「”……。”」
(”暴君ディオニス”、つまらんという風に皿をその場に落とす。)
確:「”呆れた男だ。見ては居られぬ……。”」
甜菜:「”……。”」
間。(舞台の外の透と桂に視点が変わる。)
透:「…………。」
桂:「どうですか。」
透:「……はい。やっぱり、二人は凄いと思います。」
桂:「ふ……フフフ……可愛い感想ですね。
そうですね、カミシロさんとシラセさんは凄い役者さんです。
稽古も始まりたてだというのに、この完成度のお芝居を持って来てくださった。
それは、並みの努力では成し得ない事です。」
透:「…………。」
桂:「……このシーンは原作『走れメロス』には無い。
ですが、終盤の”暴君ディオニス”の心情の大きな変化。
”セリヌンティウス”の”メロス”への想いをより強く演出する為の助走。」
透:「……”セリヌンティウス”は本当に凄く強く魅力的で、
この後の展開も……王様が彼と友人になりたいって思う理由がよく分かります。」
桂:「…………。」
一拍。
桂:「そうですねぇー……」
間。
桂:「けれど、彼の魅力は、強さ、それだけなのでしょうか。」
透:「……?」
間。(舞台の上へ、視点が戻る。)
(”暴君ディオニス”、”セリヌンティウス”の鎖を解く。)
甜菜:「”…………王、何を……?”」
確:「”興ざめだ……。”
”鎖は解いた。さあ、何処へでも行くが良い。”」
甜菜:「”王。私は何故鎖を解いたのかと問うているのです。”」
確:「”良いか、哀れな男セリヌンティウス。”
”わしはお前の様な身代わりを幾度となく、幾人も処刑してきた。”
”己の身可愛さに平気で友を裏切る。人間とはそういう生き物だ。”
”あの男は貴様が死んだ後も故郷でのうのうと生き延びる。裏切った人間の事を忘れてな。”
”……だから、あの男の思う壺になるのが癪だから解いた。”
”…………分かったら、さっさと去れ。”」
間。
確:「”…………何をしている。”」
甜菜:「”私は動きません。”」
確:「”何?”」
甜菜:「”貴方様が人を信ずる事が出来ないというのなら、”
”私が信ずるに値する人になりましょう。”」
確:「”……。”」
甜菜:「”メロスは貴方と約束をした。私もメロスと約束をした。”
”仮にメロスが貴方の約束を反故したとしても、私は守ります。”
”メロスが来なければ、私はここで処刑されます。”」
確:「”…………何を言っている。”
” 逃がした小鳥が帰って来るというのか。”」
甜菜:「”知りません。私はその様な利口な鳥など見た事がありません。”」
確:「”では何故!”」
甜菜:「”私は!”」
確:「”ッ!!”」
(”セリヌンティウス”、思わず声を荒げる。すぐに息を整える。)
甜菜:「”……私は、『石工』ですから。石と共に生活をしている内に頑固者になってしまったのです。”
”逃げる鳥の様に軽やかでも無く、そして利口ではありません。”」
間。
確:「”……あのメロスという男は、そこまで信ずるに値する勇者なのか。”」
甜菜:「”……はは……ははは……!!”
”まさかまさか。そんな事はありませぬ。”
”彼は戦場に立った事も無い牧人の癖に、自分を『勇者』と嘯(うそぶ)く様なお調子者です。”
”政治も分からぬのに、戦う術もまともに知らぬのに、王城に乗り込み捕まる様な男です。”
”そんな男の何処が勇者なのか。私には到底分かりませぬ。”」
確:「”では……何故……。”」
甜菜:「”……そんな男が、学も力も無く、いきり立つのがやっとの男が、”
”妹の為に、と情けない顔で私を売ったんです。”
”そこだけは慎重に、私に申し訳なさそうに、あのお調子者が、です。”
”妹と友をしっかりと値踏みしたというのに、本当に情けない顔をしたのです。”」
間。
甜菜:「”彼は呆れた愚か者だが、悪人では無い。”
”故に、私は彼の身代わりになったのです。”」
(”暴君ディオニス”、小馬鹿にするように顔を歪める。)
確:「”嗚呼、熱く良い友情だな。”
”もしもあの男が帰ってきたらまず何をする?”
”フッ。熱く固い抱擁でもするか?”」
甜菜:「”まさか。”
”まずは一発、殴ります。こんな目に遭わせやがって、と。”」
確:「”…………ふははっ”
”……理解出来ぬな。”」
(“暴君ディオニス”、思わず吹き出し、自分が笑ったことに気付いて表情を戻す。)
甜菜:「”構いませぬ。”
”ですが、王よ。もしもメロスが帰ってこずに、私を処刑した後も、どうか覚えていてください。”」
一拍。
甜菜:「”かつての貴方様の様に、ひたむきに信じる人間が居た事を。”」
確:「”────ッ”
”くぅ……!ふ、フン……!!”」
(”暴君ディオニス”、狼狽え、足早に去る。)
間。(”セリヌンティウス”、王が見えなくなると力が抜けたように座り込む。)
甜菜:「”…………はぁー……王の眼光だけでくびり殺されるかと思った……。”」
(”セリヌンティウス”、再び鎖で自分を繋ぎ、王が持ってきた食事に手を伸ばす。)
甜菜:「”…………ああ……て、手が震えて……”
”……ハァ……ハァ……!ああ……ッ!メロス……!俺はお前と同類の様だ……!”
”王の眼前でばかり、格好付けて、いざ一人になると……”」
間。(”セリヌンティウス”、身体を丸めて情けなく震える。)
甜菜:「”怖い……怖いんだ……友よ……俺は死ぬのが怖い……!”
”だけど……それよりももっと、君を裏切った自分自身など許せない……!”
”嗚呼……!友よ……俺はッ、待っている……待っているからな……!”」
間。(舞台の外の透と桂に視点が変わる。)
透:「…………。」
桂:「うんうん。音で聴くとやはり違いますね。
コテマリさんはどうでしたか。想像通りでしたか。」
透:「いえ……いえ、いえ……
全然、全然違いました……。
……ああ……だったら……うん……こう…………もっと、違う”メロス”の方が──……」
桂:「…………。」
透:「──気持ちいい……。」
桂:「……そうですね。同じ感想です。
自分も、もっと舞台にカチっとハマる”メロス”がいると思います。
それは、」
透:「っ」
桂:「カミシロさんでは出来ません。
カミシロさんは”勇者”として完成されていますから。」
透:「……で、でも、カタシさんなら、未熟な”メロス”も……ッ」
桂:「ええ~?カミシロさんってそのレベルに上手ですか?
…………残念ながら、答えはNOです。
今のカミシロさんが未熟な”メロス”をやっても、
それは”未熟なメロスのお芝居”が観客に見えてしまいます。」
透:「”未熟なメロスのお芝居”……。」
桂:「そうです。
”ああ~あの人、本当はもっと出来るんだろうな~”と上演中によぎってしまうんです。
それではまずい。非常にまずいです。」
透:「……だから、ボクが。」
桂:「そうですね。
言ってしまえば、”下手だから”と捉えてしまって構いません。
ですが、それが第一の理由ではありません。当然ですけども。」
透:「……。」
一拍。
透:「それでも、ボクには、舞台の上でボクが”メロス”をしている姿が見えません。
であれば、王様の様に外から人を連れてきても良かったんじゃないですか。
勇者では無い”メロス”を。」
桂:「ははは。ウチに金はありません。」
透:「か、金……。」
桂:「湯水の如く資金があればその選択肢だって間違いではありません。
ですが、現実は違う。金も人材も有限です。
人は、そんな有限の中で尽力するものです。」
透:「……。」
桂:「それに、主役まで外から招くのであれば、我が劇団『亦紅一擲(もこういってき)』である必要はありません。」
透:「っ。」
桂:「自分は座長です。自分の劇団にプライドがあります。
実利など度外視してでも通さねばならない意地があるのです。」
透:「……。」
桂:「そして、自分は”小手鞠 透(こてまり とおる)”に賭けたくなりました。」
透:「……かけ……え……?かけ……賭け???」
桂:「はい。賭けです。博打です。ギャンブルです。」
透:「……。」(呆気に取られている。)
(桂、舞台の上の甜菜を見る。)
桂:「知っての通り、”セリヌンティウス”役のシラセさんが配役の中で真っ先に埋まりました。
彼女のあの演技、あの”セリヌンティウス”と合わさった時に、」
(桂、透の方を見る。)
桂:「面白そうだなと思ったのが、貴方だったんです。未熟な貴方に賭けたんです。」
透:「ぼ、ボク。」
桂:「勇者に憧れ、勇者とのギャップに打ちのめされている、そんな貴方。
上手だ下手だと苦悩する、そんな貴方。」
透:「ッ」
桂:「ええ。下手です。未熟です。その不安定さは、
過去にも無く、未来にも無い、現在の貴方しか持ち得ない、たった一度きりの武器。」
一拍。
桂:「下手でも役者です。」
透:「……。」
間。(桂、立ち上がる。)
桂:「ストップ!ありがとうございます。
素晴らしいです、お二人とも。
ですが、少しばかりこのシーンに時間を掛け過ぎかもしれません。
自画自賛ながらとても良いシーンではありますがー……」
(桂、透に皆の目線を誘導する。)
透:「えッ、あっ、ええっ。」
桂:「この舞台の主軸は、”メロス”、彼です。
次の場面へ視線を渡す空気作りは、忘れないように。」
(桂、透に耳打ちする。)
桂:「さあ、舞台で示しなさい。」
透:「っ!
は、はいっ!!」
間。(透、立ち上がって舞台へ移動する。)
透:「……ッ」
甜菜:「待ってたよ~トオル。」
透:「シラセさ…………アマナさん。よ、よろしくお願いします。」
(甜菜、嬉しそうに目を見開く。)
甜菜:「おお?気合バッチリぢゃ~ん。」
透:「あはは……。
……カタシさん。」
確:「……大丈夫か。」
透:「……ボク、その、に、逃げられなくなりました。」
確:「……ッ。
……フフ、違うぞコテマリ。逃げなかったんだ。」
透:「へへへ……ボクも、役者ですから。」
確:「そうだ。お前は役者だ。」
(桂、舞台の外から。)
桂:「次の場面へ視線を渡す空気作りは忘れないようにと言いましたが~……美術班との転換確認とか、兼ね合いとか、まあ、諸々ありますので、
飛んでしまいますが~……終盤。夕刻、”メロス”が刑場へ突入する所からー!」
(桂、確の方を見る。)
桂:「カミシロさんは変わらず”ディオニス”をお願いしまーす!」
確:「はいっ!」
間。(透と甜菜と確、舞台の上で待機する。)
確:「……。」
甜菜:「……。」
透:「……ッ」
桂:「3・2・1……アクト!」
ー劇中劇・稽古『走れメロス』ー
(透、瀕死の”メロス”の呼吸へと整えていく。)
透:「……スゥーーーーーーーーーーーーーー…………はぁ……はぁ……」
透:「はぁ…………”ハァ……ッハァ……ッ!ハァ…………ッ!”」
(”メロス”、その場で満身創痍かの様に膝を着く。)
透:「”待てェ!ッその人をッ、殺してはならぬ!!”
”メロスがッ……メロスがッ……!帰ってきた……!!”」
(目を瞑り、頭を垂れている”セリヌンティウス”。”暴君ディオニス”が”メロス”に気付く。)
確:「”んん……!?あれは……!!”」
(”メロス”、民衆に阻まれ押し返されても前に進もうと藻掻く。)
透:「”ワッ、私だ!刑吏(けいり)!”」
桂:「返事はしなくて良い!”メロス”!声張り過ぎです!”かすれた声で精一杯”というト書きを忘れないように!
そのまま続けて!!」
透:「”殺されるのはぁ゛……!私だぁ゛……!!”」
(”メロス”、”セリヌンティウス”の足元へ縋り付く。)
確:「”刑吏(けいり)!槍を下げろ!!止めー!!磔台からその男を降ろせー!!”」
透:「”セリヌンティウス……!セリヌンティウス……ッ!!”」
(”セリヌンティウス”、磔台から下ろされて縄を解かれる。)
甜菜:「”……ッ!”」
透:「”嗚呼……!セリヌンティウス……!良かった……!すまなかった……!すまなかった……!!”」
甜菜:「”メロス……。”」
確:「”……。”」
(”メロス”、残った力で立ち上がり、”セリヌンティウス”の肩を強く掴む。涙を目に溜めながら口を開く。)
透:「”セリヌンティウス……私を……私を殴れ……ッ、力一杯ッ殴ってくれ……!”」
確:「”──ッ!!”」
透:「”私は、途中で一度、悪い夢を見た……君が、もし殴ってくれなければ、”
”私は君と抱擁する資格さえ無い……さあ……!殴れ……!”」
確:「”……。”」
(”セリヌンティウス”、頷いて振り被る。)
甜菜:「”ッ!!”」(思いっきりぶん殴る。)
透:「”──ッ!!”」
(”セリヌンティウス”、”メロス”に肩を貸して立ち上がらせる。)
甜菜:「” メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。”
”この三日の間……私も君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。”」
(”メロス”、頷き振り被る。)
透:「”ふっ!!”」(思いっきりぶん殴る。)
甜菜:「”──っ”」
(”メロス”、殴った勢いで倒れそうになる。それを”セリヌンティウス”が再び支え、抱き寄せる。)
甜菜:「”ありがとう……ありがとう、友よ……。”」
(”メロス”、”セリヌンティウス”に抱擁されて思わず涙を流す。)
透:「”ありがとう……ありがとう……!ありがとう……!!”」
(”メロス”、”セリヌンティウス”をより強く抱きしめる。)
間。(”ディオニス”、二人の前にゆっくりと向かい。二人の抱擁が終わるまで待つ。)
確:「”……お前たちの望みは叶った。わしの心に勝ったのだ。”
”信実とは……決して、空虚な妄想では無かった。”」
間。(”ディオニス”、膝を着く。)
確:「”邪智暴虐の王が除かれる時が来た。”」
(どよめく民衆。)
確:「”人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳と言ったのはお前だ。”
”乱心せし暴君ディオニスは、信実の勇者メロスに打倒され、街は平和を取り戻すのだ。”」
間。
透:「”…………ああ、王は利巧だ。ちゃんと死ぬる覚悟で居る。命乞いもしない。”
”であれば……”」
(透、刑吏の持っていた槍を拾い上げ、王の下へ向かう。)
透:「”王よ。顔を上げ、立ち上がれ。”」
確:「”……。”」
透:「”…………ふっ……はぁ……!”」
(”メロス”、刑吏の槍を目の前で折る。)
確:「”……何を、している……。”」
透:「”……私は約束を守った。王も約束を守った。それで良いではないか。”」
(民衆の方を向く。)
透:「”暴君の象徴たる槍は……!今!勇者の手によって折られた……!!”
”もう暴君は居ない……!!民を信ずる王が帰ってきたのだ……!平和が帰ってきたのだ……!!”」
(民衆から歓声が上がる。)
確:「”…………!!”」(呆気に取られる。)
甜菜:「”メロスはそういう男です。”
” 死して償うなど容易い事です。生きて、貴方様が奪ってきた以上の命を救ってください。”
”王たる貴方様にはそれが出来るのですから。”」
(”ディオニス”、顔を赤らめて言う。)
確:「”……どうか、わしも仲間に入れてくれないか……。”
”どうか、わしの願いを聞き入れて、お前たちの仲間の一人にして欲しい……。”」
(三人、抱擁する。)
桂:「カット!!
……うんうん~良いじゃないですか~」
甜菜:「……ふぅ~~~~~……!!
トオル!!今の”メロス”!超ノってたじゃ~ん!」
透:「……………………。」
甜菜:「…………トオル?」
桂:「まだまだ詰める所はありますが、本番までのビジョンは結構はっきりしたんじゃないですか~?
どうですか?演技指導のカミシロさん。」
確:「はぁ……はぁ……そうですね──……」
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~数日後、たこ焼き屋『テメェが焼け屋』~
透:「くる……くる……」
一拍。
透:「あぁ……」
桂:「不器用ですねぇ。」
(桂、隣に座る。)
透:「采月(さいげつ)さん。」
桂:「体調はもう大丈夫ですか。」
透:「えぇ……おかげさまで……」
桂:「稽古中に急に倒れるもんだから、びっくりしましたよ。」
透:「す、すいません……。」
桂:「まあ、色々気付きがあって、色々考えてしまい、キャパオーバーだったんでしょうねぇ。」
透:「はい……アマナさんにもそう言われました……。
あと、カタシさんには最後のシーンでハイになりすぎて大声を出しすぎて酸欠になったんだろう……って。」
桂:「あはははー本当に不器用ですねぇ。」
透:「くぅ……。」
桂:「……ですが、あの時の”メロス”、良い芝居でしたよ。
コテマリさん立ったまま気絶してたから知らないと思いますけど、カミシロさんも大絶賛でしたもの。」
透:「それも、アマナさんが教えてくれました。
ですが褒められた倍くらい直さないといけないところも一杯だとも。」
桂:「厳しいですよねぇ。
……くるっくるっぱっ。」
透:「……。」
桂:「ですが、地道に、ですよ。
本番まで1ヶ月ちょいあります。それまでにしっかり身体を作ってください。」
透:「くるっ……くるっ……」
桂:「お?」
透:「……あぁ……。」
桂:「あちゃちゃ~」
透:「……でも、地道に、ですよね。」
桂:「たこ焼きがです?」
透:「いえ、芝居です。」
桂:「そうですね。地道にですね。」
透:「はい。」
(透、形の良くないたこ焼きを食べる。)
透:「下手でも、役者ですから。」
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END