[台本]「 」はお前の為に。
・世界設定、場面情景
無自覚に答えの無い「 」を懸想する彼らは、あれから5年の時が経ち、今も答えが出ないままでいる。
それでも、彼らは各々が考え、思い、生きていく。
それは誰が為か。きっとお前の為に。
「 」を懸想するから5年後の物語です。 こちらから読んでみる事をお勧め致します。
○千寿菊 律輝(せんじゅぎく りつき)
22歳、男性
いつも不機嫌そうな顔をしており、実際不機嫌。
人と関わるのはあまり好きではなく、避ける目的と性根の所為で生意気な発言が目立つ。
現代でいうところのアセクシュアル的な面があるが、本当にそうなのか、ただの未熟さ故なのか、
彼自身にもよくわかっていない。
○筏葛 藤吾(いかだかずら とうご)
22歳、男性
身長が高く、ガタイも良い。皆に頼られる良い人。
両親を早い時期に亡くしているが、彼にとっては些細な事で、その事件もこの物語には関係無い。
温和な性格故か、頭に来ても声を荒げる事は無いが、
倫理観が妙に欠如している所為でやりすぎる事が多いし、
勝手に脳内で納得して言葉を発する所為で飛躍した物言いが多い。
律輝の事を好きだと思い込んでいる事に気が付いている。
千寿菊 律輝♂:
筏葛 藤吾♂:
※1:”「 」”は皆さんが考え、自由に当て嵌めてみて下さい。
※2:地震の描写があります。苦手な方は使用を控えた方が良いかもしれません。
※3:男性サシ台本ですが、不問サシと考えてくださって構いません。
↓これより下が台本本編です。
───────────────────────────────────────
(律輝、講義を話半分で聞きながらぼーっとしている。)
律輝:「……。」
律輝:■■を懸想(けそう)する。
この“空白”は、愛なのか、欲なのか、もしくは特定の誰かなのか、或いはまったく別の何かなのか、それは分からない。
※■■は無音、もしくはノイズでお願い致します。
律輝:「……。」
律輝:22歳。大学四年生。オレは相変わらず、“人を好き”になった事が無い。
“人を愛せないだなんて、可哀想に、不幸な子”のまま、身体だけが大きくなった。
◇
律輝:「ふぁ~……」
(律輝、車校から出てくる。)
藤吾:「おーい、千寿菊(せんじゅぎく)―」
律輝:「ん。」
(藤吾、車の中から律輝に向かって手を振っている。)
律輝:「……。」
(律輝、だらだらと歩きながら藤吾の車の助手席に乗る。)
律輝:「毎度毎度勝手なお迎えご苦労様。」
藤吾:「俺が好きでやってる事だからな。」
律輝:「ふぁ~……あっそ。」
(律輝、窓の外を眺める。)
藤吾:「今日はいつにも増して眠そうだな。車校何やったんだよ?」
律輝:「あー……応急救護。」
藤吾:「あ~あったなー
大事な講義じゃないか。ちゃんと聞いてたか?」
律輝:「うっせーな……親かよ……」
藤吾:「親ってこういう事聞くもんなんだなー」
律輝:「…………。
言葉の綾だ。おせっかい焼きだなって事だよ。」
藤吾:「そうか。すまんな、妙に噛み合わなくて。」
律輝:「面倒くさいから謝るな。謝ることでも無いし。」
藤吾:「ははは。
で、今日はどうする。真っ直ぐ家に帰るか?」
律輝:「んー……ま、飯食ってから考えるか。
気分的にはうどんかな。」
藤吾:「センジュギクの親が作って待ってんじゃないのか?」
律輝:「飯いらないって連絡しとくから大丈夫。」
藤吾:「そうか。じゃ、出発するか。」
律輝:「んー」
間。(藤吾、車を走らせる。)
律輝:「……。」
藤吾:「……。」
律輝:「なあ。」
藤吾:「んー?」
律輝:「マジで今更なんだけどさ。
お前、いつの間に免許取って、車持ってたの。」
藤吾:「免許は高校卒業してからすぐだな。
車は俺のってワケじゃなくてトウトウミ先生のだけどな。」
律輝:「え?まだ鬼のトウトウミと一緒に住んでんの?」
藤吾:「いや?夏休み中、こちらに来てる間だけ部屋を借りさせてもらってるだけだ。」
律輝:「へー」
藤吾:「てかその話題、ずっと待ってたんだけどな。」
律輝:「は?」
藤吾:「本当は免許取った時点で話そうとも思ったんだが、センジュギクが車校行くタイミングで打ち明けようと思ってたんだ。
だから待ちに待っていたんだ。」
律輝:「アホくさ。」
藤吾:「口が悪いなぁ。
あ、それで思い出した。センジュギク、体調とか大丈夫なのか?」
律輝:「唐突になんだよ。」
藤吾:「ほら、センジュギクが免許取るの遅くなったのって入院する予定があったからだろ?
で、大学一年の夏に入院する予定だったのが色々あって、結局三年の夏にやっと入院して、退院したワケじゃん。」
律輝:「そうだな。」
藤吾:「だから、身体大丈夫か。」
律輝:「大丈夫になったから退院してんだろうが。
てかあれから一年経ってっし。」
藤吾:「それで完全回復!ってワケじゃないんだろ?寛解ってだけで。」
律輝:「……。」
藤吾:「……。」
間。
藤吾:「悪い。今のは流石にデリカシーが無かった。」
律輝:「本当にな。
けど、お前はそういうヤツだもんな。思い出したわ。
まあ、とりあえず、大丈夫だよ。」
藤吾:「……そうか。」
間。(沈黙が流れる。)
藤吾:「……ん?」
律輝:「あ?どうした?」
(地面が揺れ始める。)
藤吾:「なんか揺れ──これ、デカイ!!」
律輝:「うわっ!!」
(藤吾、車を左側に寄って停止させる。)
律輝:「マジででかい!!」
間。(揺れが止まる。)
藤吾:「……治まったか。
……震度5か……ちゃんとデカイな。」
律輝:「おえー……嫌な揺れ方だった……。」
藤吾:「最近多いなぁ。」
律輝:「そういう時期なんだろ。
……お前、教科書みたいな地震の対応だったな。」
藤吾:「え?」
律輝:「車を道路の左側に停止、即座にラジオを点ける……車のロックもちゃんと開錠してるし。」
藤吾:「どういたしまして。
人を乗せてるワケだからな。ちゃんと守らないと。」
律輝:「…………。」
藤吾:「勿論、好きなお前の事をちゃんと守るためだぞ。」
律輝:「気色悪い。」
藤吾:「……ははは、変わらないな。」
律輝:「ああ、変わってないよオレは。」
藤吾:「そうか。」
間。
藤吾:「大丈夫そうだし、車走らせるぞ。」
律輝:「ん。」
間。
藤吾:「センジュギク。」
律輝:「あ。」
藤吾:「今、幸せか。」
律輝:「……。」
間。
律輝:「んー……自覚は無いけど、充実してる、と思う。」
藤吾:「なら良い。」
律輝:「……。」
藤吾:「センジュギクが不幸じゃないなら、俺の事を好きじゃなくても良い。
好きな人が幸せって感じてくれていれば、それで良い。」
律輝:「……。」
間。
律輝:「よく分からないな。」
藤吾:「そうか?」
律輝:「好かれてないのが良い事って意味分かんない。」
藤吾:「好かれてないのは別に良い事じゃないけどな。
そうじゃなくて、センジュギクが幸せなのが良い事なんだよ。」
律輝:「……。」
間。(車、赤信号で停まる。)
律輝:「そうやって自分の不利益を何でもない事みたいな面してんの意味分かんない。」
藤吾:「俺は自分の事とか、あまり興味無いんだよ。」
律輝:「お前はそういうヤツだよな。」
藤吾:「例えばさ。」
律輝:「ん?」
藤吾:「俺とセンジュギク、どちらかしか生き残れない状況になったら、迷いなく自分の命を差し出せる。」
律輝:「はっ、オレは迷いなく自分が助かる様に動く。」
藤吾:「それで良いんだ。」
(藤吾、とあるカードを律輝に見せる。)
藤吾:「その意思表示ってワケじゃないけど、これも常に携帯してる。」
律輝:「…………。」
間。
律輝:「きも。」
藤吾:「おいおい。自分で言うのもなんだけど、立派な事だと思うぞ。」
律輝:「これを持っておけば、自分をオレに使えるって思ってるみたいだけど、そんな事は無いからな。」
藤吾:「そうなのか?」
律輝:「オレとお前、適合するとは限らないし、仮に適合するとしてもお前が死んですぐにオレに使われるワケでも無い。」
藤吾:「でも可能性が無いワケじゃないんだろ?」
律輝:「……。」
藤吾:「なら良いよ。俺はその可能性があるってだけで良い。」
律輝:「自己満足じゃねぇか。」
藤吾:「そうだ、自己満足だ。」
(信号が青になり、車が走り出す。)
藤吾:「人生なんて自己満足の積み重ねでしかない。
そして最終的に満足出来れば、上出来だな。」
律輝:「……ふーん。」
間。
律輝:「お前のそういう考え、オレには無理だわ。」
藤吾:「ははは、そうか。」
間。
藤吾:「そうだ。満足と言えば、俺、センジュギクと旅行したいな。」
律輝:「急だな。」
藤吾:「急だ。」
律輝:「部屋別なら良いよ。」
藤吾:「良いぞ。
何処に行きたい?」
律輝:「別に。
お前は?」
藤吾:「そうだなぁ……」
間。
藤吾:「おんせ──」
律輝:「却下。他人が入った水なんか入りたくない。」
藤吾:「キャン──」
律輝:「虫が嫌。」
藤吾:「うm──」
律輝:「人多いだろ。あと日差しが強いのも嫌。」
間。
藤吾:「わがままだなぁ。
やっぱりセンジュギクが決めてくれよ。」
律輝:「んー……」
間。
律輝:「旅行って何日くらい?」
藤吾:「え?」
律輝:「何日くらいを想定してんの。」
藤吾:「一泊二日とか?」
律輝:「じゃあ二日間適当に車を走らせよう。」
藤吾:「……え?」
律輝:「目的地は決めず、飽きるまで走らせよう。
腹が減ったらコンビニなりスーパーなりで買うか何処かに寄る。
眠くなったら寝る。」
藤吾:「別に悪くはないが……運転するのは俺か?」
律輝:「ああ。」
藤吾:「俺だけか?」
律輝:「まさかオレに運転させるの?」
藤吾:「…………ま、そうだよな。」
律輝:「お前が疲れたら休んで良いんだぞ。」
藤吾:「あのなぁ……そう簡単に疲れって取れるんもんじゃないんだぞ。」
律輝:「じゃあ辞めとく?」
藤吾:「……はぁー……良いよ。」
律輝:「よし。実は少し憧れてたんだよな。」
藤吾:「……ふふ。そうか。」
律輝:「来週辺りとかどうだ。」
藤吾:「良いよ。
けど、とりあえずはうどんを食いに行こう。」
律輝:「そうだな。」
藤吾:■■を懸想(けそう)する。
この“空白”は、愛なのか、欲なのか、もしくは特定の誰かなのか、或いはまったく別の何かなのか、それは分からない。
※■■は無音、もしくはノイズでお願い致します。
藤吾:「……。」
藤吾:22歳。大学四年生。俺は相変わらず、“愛する事”を良しとし、振りをする。
“人を愛せないだなんて、可哀想に、不幸な子”のまま、身体だけが大きくなった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
藤吾:そして、一週間後。
律輝:「ふぁ~……」
(律輝、藤吾の到着を待つ。)
藤吾:「おーい、センジュギク―」
律輝:「ん。」
(藤吾、車の中から律輝に向かって手を振っている。)
律輝:「……。」
(律輝、だらだらと歩きながら藤吾の車の助手席に乗る。)
律輝:「朝早くからお迎えご苦労。」
藤吾:「どういたしまして。
さ、何処へ行く?」
律輝:「とりあえず道なりに進んで──」
(地面が揺れ始める。)
律輝:「うおっ」
藤吾:「また地震か。」
間。(揺れが止まる。)
律輝:「……ふぅー……」
藤吾:「本当に多いな……。
ふむ、なんというか、幸先が悪いな。」
律輝:「……ま、このあとは大丈夫だろ。
むしろ始まりがマイナスだった分楽しい事がプラスに感じるさ。」
藤吾:「ははは、良い考えだ。その思考で行こう。」
律輝:「さ、出発だ。」
藤吾:「おう。」
(車、発進する。)
藤吾:「そういえば“実は少し憧れてた”って言ってたけどさ。
何かきっかけとかあんのか?」
律輝:「んー漠然と?」
藤吾:「ははは、なんだよそれ。」
律輝:「本当に漠然となんだよ。
映画とかでアメリカの荒野とかを車で走ってるシーンあるじゃん。
なんか、良いなーって、自由そうだなーって、いつかやってみたいなーって。」
藤吾:「あーなんか分かるかも。」
間。
藤吾:「朝食べたか?」
律輝:「まだ。」
藤吾:「この時間じゃどこも空いてないし、コンビニ行くか?」
律輝:「そうだな。水も買いたいし。」
藤吾:「よし、じゃあコンビニ見つけたら一旦寄るか。」
律輝:「んー。」
藤吾:目的の無い旅。ただただ何も考えずに車を走らせる。
(藤吾、足湯を堪能する。)
藤吾:「く~~~~効く~~~~~」
律輝:「まだ始まったばかりなのに足湯入るってどういう事だよ。」
藤吾:「せっかく見つけたんだから良いじゃないか。
この先の道中であるかも分からないし。」
律輝:「帰りに浸かれば良いじゃん。」
藤吾:「明日の帰りにここに浸かってしまったら動けなくなる自信がある。」
律輝:「あっそ。」
藤吾:「センジュギクは入らないのか。」
律輝:「入らない。」
藤吾:「そうか……」
律輝:「そんな顔をしても入らない。」
藤吾:「頑なだなぁ。」
律輝:意味の無い旅。ただただ流れていく景色を眺める。
藤吾:「楽しいか?」
律輝:「あ?」
藤吾:「ずっと窓の外を見てるだろ。
今日は晴天だし、そろそろ……」
律輝:「ん?
…………おおー」
(律輝の視界が青空と大海に覆われる。)
藤吾:「一面空と海の青だな。」
間。
藤吾:「どうだ?」
律輝:「……でっかい入道雲だなぁ。」
藤吾:「……っぷ、あははははは!」
律輝:「なっ、なんだよ。」
藤吾:時に雑談し、時に無言になる。そんな他愛の無い旅。
律輝:「真夏日のソフトクリームうめー」
藤吾:「俺の車じゃないんだから零すなよ。」
律輝:「なぁー」
藤吾:「んー?」
律輝:「そろそろ長めの休憩しよう。」
藤吾:「どうした急に。さっきパーキングエリア寄ったばかりだぞ。それに俺はまだまだ元気だ。」
律輝:「オレが疲れたんだよ。」
藤吾:「疲れたのか?」
律輝:「ああ。日光を浴びすぎた。」
藤吾:「あー……日差し強いもんなぁ。」
律輝:「次、町っぽいところ着いたら泊まれる所探して一泊しよう。」
藤吾:「えぇ?車中泊じゃないのか?」
律輝:「お前……オレが車中泊出来ると思ってんのか?」
藤吾:「…………。」(呆気にとられる。)
律輝:「思わないだろ?」
藤吾:「わがままだなぁ。」
律輝:適当に食べ、適当に休む。そんな無計画な旅。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
律輝:一日目、夜。ホテルにて。
(藤吾、風呂上り。)
藤吾:「ふぅー……湯船に浸かれた上にベッドで寝れるとは思っていなかったから、僥倖だな……。」
律輝:「あ゛~゛~゛~゛~゛~゛」
(律輝、マッサージチェアで揺られている。)
藤吾:「…………何やってるんだセンジュギク?」
律輝:「つ゛か゛れ゛を゛と゛っ゛て゛る゛~゛~゛~゛~゛~゛~゛」
藤吾:「ははは、マッサージチェア気持ち良さそうだな」
間。(マッサージチェア止まる。)
律輝:「……っく~~~……まあ、ぼちぼちだったな。」
藤吾:「辛口だな。」
間。
藤吾:「なあ。」
律輝:「ん?」
藤吾:「お前の身体、どれくらい持つんだ。」
律輝:「……。」
藤吾:「……。」
律輝:「分からん。」
藤吾:「はぐらかすなよ。」
律輝:「本当に分かんないんだよ。
定期的に検診受けてるけど、良いのか悪いのか……」
藤吾:「……。」
律輝:「てか旅行中にそんな事を聞くなよ、気分下がる。」
藤吾:「……悪い。」
間。
藤吾:「……ずっと座ってるけど、立たないのか?」
律輝:「勿体無いだろ。」
藤吾:「?」
律輝:「ん。」
(律輝、顎をクイっとして窓の方を指す。)
藤吾:「ん?
…………おおー……満天の星空だ……。」
間。(二人、無言で空を見上げる。)
藤吾:「……。」
律輝:「……。」
藤吾:「せっかくだし、俺も身体をほぐしながら見上げるか。」
(藤吾、マッサージチェアに座り、硬貨を投入する。)
藤吾:「あ゛~゛~゛~゛~゛~゛~゛~゛~゛」
(藤吾、マッサージチェアで揺られている。)
律輝:「疲れてる感がヒシヒシと伝わるな。」
藤吾:「ずっと運転してたからな゛~゛~゛~゛~゛~゛~゛」
律輝:「そ。」
(律輝、立ち上がる。)
律輝:「明日もちゃんと運転出来る様にしっかり休めよ。
おやすみ。」
藤吾:「お゛や゛す゛み゛~゛~゛~゛~゛」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
律輝:翌日、昼。
藤吾:「センジュギク。」
律輝:「あー?」
藤吾:「楽しいよ、この旅。」
律輝:「そう。」
藤吾:「センジュギクはどうだ。走り始めてから一日経って二日目の昼だけれど。」
律輝:「オレは……うーん……そうだな──」
藤吾:トンネルに入る。
それから数秒もしない内に、また──
律輝:「ッ!?」
藤吾:「ま、また地震かよッ!!!」
律輝:「いつものよりでかいぞ!!?」
藤吾:「くっ!!こりゃまずいか!?
センジュギク!しっかり捕ま──」
藤吾:言い終わる前に一瞬離していた目を前に向ける。
律輝:強い揺れのせいで手元が狂ったのか、対向車線の車がこちらに向かって突っ込んでくる。
律輝:「────ッ」
律輝:瞬間、オレは死ぬんだって思った。けれど──
藤吾:「死んでたまるかよッ!!!!!」
藤吾:ハンドルを目一杯切る。是が非でもセンジュギクを守りたかった。
向かってくる車はなんとか避けられた。
けれど──
藤吾:「────あッ」
藤吾:ハンドルを切り過ぎたか、ブレーキのタイミングが遅かったか、
とにかく、このままではトンネルの壁にぶつかる。急ブレーキも間に合わない。
藤吾:「だったらッ!!!」
(藤吾、ぶつかる場所を正面からせめて運転席側の側面になれ、と振り切ったハンドルを更に切ろうとする。)
間。
律輝:「────────────うっ……」
間。
律輝:「暗い……」
間。(律輝、自分の携帯を点ける。)
律輝:「…………深夜1時……」
間。(律輝、胸部が苦しくなる。)
律輝:「……ぐっ!苦しい……はぁ……思ったよりも先は長くないかもな……」
間。
律輝:「……あれ……オレ、何してたんだっけ……」
間。(律輝、ぼやーっとしていたが気絶する前の出来事を思い出す。)
律輝:「──ッ!!おい!!!」
(律輝、藤吾の方を見る。)
律輝:「ッ!!!!」
律輝:いつも隣で乾いた様な顔をしている奴が、ぐったりとしていた。
律輝:「おい!!!!大丈夫か!!!!!
──ッ!!車が……!クソッ!!」
(律輝、藤吾を抱えて車から脱出する。)
律輝:「はぁはぁ……もっと離れないと……
……おい……!起きろ……!おい……!」
藤吾:「……。」
(律輝、藤吾の脈を見る。)
律輝:「──ッ!コイツ……!
いや……ま、まだだ……!」
(律輝、藤吾を横にし、気道を確保する。)
律輝:「死ぬな!死ぬな!死ぬな!死ぬな!!」
(律輝、心肺蘇生を試みる。)
律輝:「ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!」
藤吾:「…………。」
律輝:「くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!!起きろ!起きろよ!!!」
間。(この間、ずっと心肺蘇生をしている。)
律輝:どれくらい経っただろうか、オレは無我夢中でコイツの胸骨が壊れんばかりの力で心肺蘇生を続ける。
どのようにするのが適切か、どれくらいのペースが良いのか、もっとやるべきことがあったのではないか、
そんな事を考えながら、不真面目な自分を呪った。
間。
律輝:「はぁ……はぁ……はぁ……」
藤吾:「…………。」
律輝:「くそ……っ!」
間。
藤吾:「……──うっ……げほっげほっ……!」
律輝:「ッ!!!藤吾(とうご)!!!」
(律輝、体勢が崩れた藤吾の気道を確保する。)
律輝:「トウゴ!!しっかりしろ!!!」
藤吾:「う……こ、ここは……」
律輝:「……よ……良かった……」
藤吾:「…………ああ……そうだ……事故ったのか……
すまないな……センジュギク……」
律輝:「んな事はどうでもいい……!とりあえずっ……良かった……!」
藤吾:「………………はは……
そうだ……対向車は……」
(藤吾、辺りを見渡す。)
藤吾:「………………あれは、駄目そうだな……
……あ……トウトウミ先生の車も……駄目にしちまったな……すまないなぁ……」
律輝:「なんでお前はそうどうでも良い事をぽんぽんぽんぽん気にしてられんだよ……!
なんか痛いところとか無いのか???」
藤吾:「痛い、ところ……」
間。
藤吾:「全身が痛いな……」
律輝:「じゃあもっと痛がれよ……!」
藤吾:「痛がってもセンジュギクが困るだけだろ……?」
律輝:「痛がらないと応急処置とか出来ないだろうが。」
藤吾:「そうか……」
間。
藤吾:「右足は……駄目そうだ……ああ……とにかく右側が痛い……
あ、あと……胸が痛い……骨が折れてるかもしれん……」
律輝:「む、胸の痛みはオレの所為かもしれない……。」
藤吾:「……あー……心肺蘇生してくれたのか……ありがとな……」
律輝:「とりあえず、出血箇所を塞ごう。」
藤吾:「センジュギクは……大丈夫なのか……?怪我とか、痛いところとか……」
律輝:「…………オレは──」
(律輝、無意識に胸部に手を一瞬かざそうとした事に気が付いて手を降ろす。)
律輝:「大丈夫だ。お前のおかげでな。」
藤吾:「そうか……じゃあ、頼む……」
◇
藤吾:「とりあえず、大分楽になった。ありがとうセンジュギク。」
律輝:「だったら次はここから出るぞ。
最悪な事にここは電波通じないみたいだし、トンネルを出ない事には助けも呼べない。」
藤吾:「そうだな……。」
(藤吾、自分たちにぶつかりそうになった車の方を見る。)
藤吾:「……貴方たちの事を助けられなくてすまない。」
律輝:「ほら、行くぞ。」
藤吾:「ああ。」
(律輝、藤吾に肩を貸す。)
◇
律輝:「嘘だろ……」
藤吾:「トンネルの出入り口が両方とも完全に土砂で塞がれているな。
……電波も届かない。」
律輝:「どうして……こんなことに……」
藤吾:「相当デカイ地震だったが、ここまでとは。
外はもしかしたらもっと……」
律輝:「オレがわがまま言ったから……オレがこんな旅を提案していなかったら……」
藤吾:「……。」
(藤吾、律輝の頬をはたく。)
律輝:「──いっ!!」
藤吾:「センジュギクの所為じゃない。」
律輝:「で、でも……」
藤吾:「猫も杓子も無い。これは天災だ。
誰かの所為になんか出来ない。仮にセンジュギクの理屈を通すなら、旅行を提案した俺にも罪の所在が発生する。」
律輝:「…………。」
藤吾:「それに……俺は楽しかったぞ。センジュギクとの二人旅。
この気持ちはセンジュギクが提案してくれないと生まれなかった。」
律輝:「……。」
藤吾:「……とりあえず、元の場所に戻ろう。
途中で買った食料が生きているかもしれない。」
律輝:「……。」
藤吾:「……生きて出ような。」
律輝:「……ああ。」
◇
藤吾:「……切り詰めれば数日持つだろうか。」
律輝:「どうだろうな……食べる物はともかく、飲み物がな……」
藤吾:「…………なあ──」
律輝:「嫌だ。」
藤吾:「なんだよ、まだ何も言ってないだろ。」
律輝:「どうせ“俺はいらないから、お前が全部飲め”とか言うつもりだったんだろ。却下だ。
等分して、絶対に定時になったらお互い食事する。良いな?」
藤吾:「…………ははは、参ったな。」
律輝:「生きて出るんだろ。」
藤吾:「そうだな。」
間。
藤吾:「どれくらいで救助が来てくれると思う。」
律輝:「分からないな。
外の状況がどんなのかも分からないし、この周辺だけがっていう希望的観測で行くなら二日三日でどうにかなるって思うけど……
もしもの時は……」
藤吾:「……。」
間。
藤吾:「暗いことを考えるのはよそう。
そんな事をしたって事態が好転するわけでもないし、精神的にやられちまう。」
律輝:「……。」
藤吾:「そろそろ一旦定時だな、飯にするぞ。」
律輝:「……ああ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(律輝と藤吾、力無く横たわっている。二人共死にかけ。)
律輝:「…………。」
藤吾:「……あれからどれくらい経ったんだろうなぁ……」
律輝:「…………。」
藤吾:「……携帯の充電も無くなって、今が朝か夜かも分からない……」
律輝:「…………。」
藤吾:「食い物も……飲み物も……何も無い……」
律輝:「…………。」
間。
藤吾:「なあ……センジュギク……」
律輝:「…………。」
藤吾:「お前は、今回の旅行……やっぱ楽しくなかったか……」
律輝:「…………。」
藤吾:「こんな事になっちまったけどさ……
俺は本当に楽しかったんだ……
それに……」
間。
藤吾:「センジュギクが……俺の事を“お前”とか、“おい”とかじゃなくて“トウゴ”って……ちゃんと名前を呼んでくれた……
……律輝(りつき)と知り合ってから始めてだった気がする……。」
間。
藤吾:「……嬉しかったなぁ。」
間。
律輝:「……オレも」
間。
律輝:「オレも、楽しかった……。」
藤吾:「────」
律輝:「オレは……親ともあまり折り合いが良いワケでも無いし……
気の置けない相手は、お前しか……トウゴしかいないから……
凄く……楽な気持ちだった……」
藤吾:「…………そうか……そうか……」
律輝:「わがままばかりで悪かったな……」
藤吾:「良いよ……」
律輝:「気持ち悪いとか……酷いことばかり言ってごめんな……」
藤吾:「良いよ……」
律輝:「二日間……ずっと運転させる気で居たのも……ごめんな……」
藤吾:「良いよ……リツキが免許取ったら同じことさせるからさ……」
律輝:「……ははは」
間。
藤吾:「……なあ……リツキ……俺……やっぱお前の事が好きだ……」
間。
藤吾:「こんな事言うと……不謹慎だってリツキは怒るかもだけどさ……」
間。
藤吾:「死ぬまでお前と一緒が良いって思えるのって、やっぱ“好き”って事だと……思うんだよな……」
間。
藤吾:「……なあ……リツキ……リツキ……聞いてんのかよ……」
間。
藤吾:「リツキ……リツキ……」
間。(明かりが差す。)
藤吾:「……!」
間。
藤吾:「なあ……リツキ……!俺たち……助かったぞ……!リツキ……!」
間。
藤吾:「リツキ……リツキ……!」
(藤吾、意識が遠のく。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
律輝:(……何処だ……ここ……眩しい……手術室……?)
間。
律輝:(オレ……助かったのか……?)
間。
律輝:(トウゴは……?トウゴはどうなったんだ……?)
間。
律輝:(なあ……誰か教えてくれよ……トウゴは生きてるのか……?)
間。
律輝:(オレの事はどうでも良いから……頼む……トウゴを……
オレなんかよりも重症な奴が居るんだ……トウゴを助けてくれ……)
間。(律輝、胸部から□□が摘出される。)
律輝:(…………それは……)
間。
律輝:(嗚呼……そうか……だったら……頼む……)
律輝:“「 」”はお前の為に──
律輝:「トウゴ。オレはお前の事が好きじゃない。
お前の事を考えても胸は高鳴らないし、興奮もしない。
……けれど、お前と居て楽しかった。“幸せ”だったと思う。」
間。(律輝の──、微笑んでいる。)
律輝:「だから、とりあえず。お前には生きていて欲しいよ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(藤吾、病室のベッドから窓の外を見る。)
藤吾:「……。」
藤吾:■■を懸想(けそう)する。
この“空白”は、愛なのか、欲なのか、もしくは特定の誰かなのか、或いはまったく別の何かなのか、それは分からない。
※■■は無音、もしくはノイズでお願い致します。
藤吾:「……。」
藤吾:あの日、救出され、生きていたのは俺だけだった。
藤吾:「……。」
藤吾:どちらか一方しか助からない状況だったらしい。
そんな中、リツキの意識が虚ろながら戻り、救急隊員に“何か”を渡しながら言ったそうだ。
律輝:『トウゴを、トウゴを助けてくれ。』
(藤吾、救急隊員に渡された物を眺める。)
藤吾:「…………。」
間。
藤吾:実際に俺に提供されたかは分からない。でも──
藤吾:「俺はその可能性があるってだけで良い。」
間。
藤吾:「良いワケ無いだろ……。」
間。
藤吾:『俺とセンジュギク、どちらかしか生き残れない状況になったら、迷いなく自分の命を差し出せる。』
律輝:『はっ、オレは迷いなく自分が助かる様に動く。』
間。(藤吾、“何か”を胸に抱き、苦悶の表情を浮かべる。)
藤吾:「……嘘つき。」
間。
藤吾:この空白は、埋まらない、二度と埋まらない。
間。
藤吾:以前よりも俺は自分の事を愛せない。
けれど、そうだな。俺は生きる事にする。
間。
藤吾:「だって──」
藤吾:“「 」”はお前の為に──
間。
藤吾:「俺はお前の事が好きだから。」
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END