[台本]「 」を懸想(けそう)する
・世界設定、場面情景
とある地下鉄での事件の被害者たちの子供たちが高校生になるくらいの時代。
人の在り方は加速度的に、より一層複雑かつ空虚になり、
”愛”なんて言葉も、複雑かつ、より一層虚空にあるものになった。
それは在るものなのか、無いものなのか。それは先天的なのか、後天的なのか。
とにかく、彼らは無自覚に答えの無い「 」を懸想する。
登場人物
○千寿菊 律輝(せんじゅぎく りつき)
17歳、男性
いつも不機嫌そうな顔をしており、実際不機嫌。
人と関わるのはあまり好きではなく、避ける目的と性根の所為で生意気な発言が目立つ。
現代でいうところのアセクシュアル的な面があるが、本当にそうなのか、ただの未熟さ故なのか、
彼自身にもよくわかっていない。
○筏葛 藤吾(いかだかずら とうご)
17歳、男性
身長が高く、ガタイも良い。皆に頼られる良い人。
両親を早い時期に亡くしているが、彼にとっては些細な事で、その事件もこの物語には関係無い。
温和な性格故か、頭に来ても声を荒げる事は無いが、
倫理観が妙に欠如している所為でやりすぎる事が多いし、
勝手に脳内で納得して言葉を発する所為で飛躍した物言いが多い。
千寿菊 律輝♂:
筏葛 藤吾♂:
※1”「 」”は皆さんが考え、自由に当て嵌めてみて下さい。
※2:男性サシ台本ですが、不問サシと考えてくださって構いません。
↓これより下が台本本編です。
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律輝:「…………。」
藤吾:「…………。」
~放課後、学校の図書室~
(律輝、ノートと教科書を見ている藤吾を眺めている。)
律輝:「……。」
藤吾:「……。」
律輝:「そこ、間違えてる。」
藤吾:「え。」
律輝:「そこの”「」(かっこ)”に入るのは”アラブ首長国連邦”じゃない。」
藤吾:「……ええっと……なんだ……?」
律輝:「オレを見るな。自分で考えろ。」
藤吾:「……うっす。」
律輝:「…………。」
藤吾:「…………。」
間。
藤吾:『……じゃあ俺がお前を幸せに出来たらどうすんだよ。』
律輝:「……。」
律輝:”「 」”は、まだ埋まらない、見つからない。
(律輝、藤吾を改めて見る。)
律輝:コイツにまとわりつかれる様になったのはいつだったか。
たしかあれはそろそろ——
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~数か月前、中庭~
藤吾:「——来月には、梅雨って感じだなぁ。」
間。
律輝:『人を愛せないだなんて、可哀想に、不幸な子。』
律輝:「……。」
~学校の屋上~
律輝:幾度と無く、色んな誰かから、言われたこの言葉。
人は何故オレの幸不幸を勝手に決めつけて、勝手に憐れむのか。
律輝:「……。」
律輝:うっとおしい……
律輝:「ああ~~~~!!うっとおしい!!!!!」
~中庭~
藤吾:「ッ!!!!」
間。
藤吾:「……なんだ?……うえ……から……?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~学校の屋上~
律輝:「…………。」
間。
律輝:「……そろそろ昼休み終わるな。」
間。(藤吾、梯子を登っている。)
藤吾:「……っよ……っほ、っほ。」
律輝:「……あ?」
(律輝、寝転んでいたが、気配に気付いて起き上がり、登ってくる藤吾と目が合う。)
藤吾:「っしょ……っと……お、やっぱ人が居た。」
律輝:「…………お前は確か……C組の……誰?」
藤吾:「筏葛 藤吾(いかだかずら とうご)だ。
よろしくな、E組の千寿菊(せんじゅぎく)。」
律輝:「い……い、かだ……?
なげぇ名前、漢字もダルそうだな。」
藤吾:「お前も十分長いだろセンジュギク。」
律輝:「うるさい。
……で、何の用。」
藤吾:「用とかじゃないけどさ。
屋上から声がした気がして。
ここってほら、人が入れない様に施錠されてるのに、
来たらフツーに開いてて、おやおやーって思ってな。」
律輝:「あっそ。
オレが居たよ。
だからどっか行ってよ。」
藤吾:「ははは……つれないなぁお前。
イイじゃねぇか、これも何かの縁だろセンジュギク。」
(藤吾、律輝の横に座る。)
律輝:「なに隣に座ってんだよ。
もうすぐ授業始まんぞ。」
藤吾:「それはお互い様だろ?」
律輝:「……。」
藤吾:「で。何悩んでんだよ。」
律輝:「は?なんでそんな事ほとんど初対面のアンタに言わないといけないんだよ。」
藤吾:「ほとんど初対面だからだよ、センジュギク。」
律輝:「……はぁ?」
藤吾:「俺はお前の事を知らない。だからお前の悩みをフラットな目線で見れる。
それに、俺はお前が言った事を綺麗さっぱり忘れる。」
律輝:「待て待て、前の方のは分かる。後の方は、何?」
藤吾:「え?その方が都合良くね?」
律輝:「……まあ……都合は良い、けど……。」
間。
律輝:「…………お前さ……
人を好きになった事あんの?」
藤吾:「……え?なに、恋の悩み?」
律輝:「オレの質問にだけ答えろ。」
藤吾:「あ……はい。まあ、あるけど……それが?」
律輝:「………………ま……そっか。
……オレさ。
人を愛するって分かんないんだ。」
藤吾:「………………。」
間。
藤吾:「まあ、まだ16?17とかだろ?
そんな気にする年齢じゃないだろ。
いつか誰かを好きになって幸せ~~みたいなの体験するって。」
律輝:「チッ!」
間。(藤吾、呆気に取られる。)
藤吾:「え?」
律輝:「それだよそれ。」
藤吾:「それ?」
律輝:「人を愛せないだなんて、可哀想に、不幸な子。」
藤吾:「は?」
律輝:「オレが……親とか、色んな人に言われてきた言葉。
人を愛さないと不幸?ハッ、ふざけやがって。
そんなワケ無いだろ。」
(一拍置いて。)
律輝:「無いよね。」
藤吾:「あ、まあ、別にそうだけど……よ。」
律輝:「…………なに。
アンタも人を愛せないなら不幸だと思ってる方のやつ。」
藤吾:「いや、そこまでは思ってねぇけどよ。
ただ、まあ、人を愛せた方が幸せになれるだろうなって。」
律輝:「なんでそう思う。」
藤吾:「えっ……まあ、無いよりは、有る方がイイんじゃねぇの?」
律輝:「…………あほくさ。」
藤吾:「酷いな。」
間。
藤吾:「……お前ってさ、まあ、綺麗な顔してるよな。」
律輝:「あ?知らないけど、何?」
藤吾:「……。
俺見た事あるぜ。お前が誰かに告白されてるところ。
あの時お前どう思った。その、人に愛を向けられた時。」
律輝:「覚えてないよ。
ただ、あれかも。覚えてないって事は、そうだな……。
……思ったよりドキドキしなかったな、って。」
藤吾:「ドキドキしない。」
律輝:「……うん、ドキドキしなかった。
あ、その時も思い出した。」
藤吾:「……“人を愛せないだなんて、可哀想に、不幸な子”?」
律輝:「……そう、それ。
いやもう……オレはその言葉のせいで不幸だわ。」
藤吾:「ははは……
……そうか。」
間。
藤吾:「……やっぱなんか勿体無いな。」
律輝:「──ッ!!」
(律輝、藤吾の胸ぐらを掴む。)
藤吾:「うわッ!!」
律輝:「なんだ勿体無いって!!
じゃあお前がオレを幸せにしてみせろよ!!
できんのか!?できないだろ!!あぁ!!?」
間。
藤吾:「……じゃあ俺がお前を幸せに出来たらどうすんだよ。」
間。(藤吾、静かにキレている。)
律輝:「………………は?」
藤吾:「どうなんだよ。」
律輝:「……は、な、なに?
お前……なに言ってんの……?」
藤吾:「お前が言ってきたんだろ。
“お前がオレを幸せにしてみせろよ”ってな。」
律輝:「………………なに……お前そっちの気(け)でもあんの?」
藤吾:「…………。」
律輝:「……ああ、そういえば思い出した。
筏葛 藤吾(いかだかずら とうご)……。
先生生徒問わずに頼られる良いヤツ。
去年の文化祭とかでも女子にモテモテだったよね。」
藤吾:「…………。
だから、なんだよ。」
律輝:「きもちわるっ」
藤吾:「…………。」
律輝:「アンタみたいな人気者が、ホモ野郎。
これを皆が知ったらどーなんだろうね?
周りからは変な目で見られて馬鹿にされんだろうなぁ。」
藤吾:「……。」
律輝:「何黙ってんの?もしかしてあせって──」
間。(藤吾、律輝を思いっきりぶん殴る。)
律輝:「…………………………えぇ……?」(急に殴られて呆気に取られる)
藤吾:「……。」(黙って右手で律輝の首を絞める。)
律輝:「──がッ!!あ──」
藤吾:「…………先んじて言っておくが……
別に、俺はサディストだとか、“お前が好きでお前を苦しめたい”みたいな趣向はねぇから。」(左手で殴る。)
律輝:「がはッ!!」
藤吾:「ただ……普通にイラついたから、お前に暴力を振るっている。」(再び首を絞める。)
律輝:「──ッ!!──ッ!!!!!」(ジタバタと暴れるが藤吾に押さえ込まれる。)
藤吾:「なあ、センジュギク。
俺はお前が変だとは思わない。俺の発言でお前の気に障ったのは分かった。
それは俺が悪かった。
……けどよ……その後のは、言い過ぎじゃねぇの……?」
律輝:「──ッ!わッ!悪かったッ!!
オレが──!!」
藤吾:「…………。」(手を離す。)
律輝:「──うっ!っはぁッ!!
げほっ!げほっ!」
藤吾:「……。」
藤吾:「ごめんな、センジュギク?
俺もやりすぎた。大丈夫か?」
律輝:「げほっ!げほっ!!」
藤吾:「ほらほら!背中さすってやるから、落ち着いて呼吸しろ。」
律輝:「はぁー……!はぁー……!」
藤吾:「とりあえず、保健室行くか、センジュギク。」
律輝:な、なんだコイツ……
急にキレて、急に落ち着いて……
こ……こわ……
間。
律輝:その後、コイツはオレをボコボコにした事を保健室で先生たちに言って、
一週間だか二週間だか停学処分になった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~二週間後、学校の屋上~
律輝:「…………。」
藤吾:『……じゃあ俺がお前を幸せに出来たらどうすんだよ。』
律輝:「……。」
間。(律輝、あくびをする。)
律輝:「アイツ……………………本当に……」
間。
律輝:「怖かったな。」
藤吾:「……っよ……っほ、っほ。」
律輝:「……へ?」
(律輝、寝転んでいたが、気配に気付いて起き上がり、登ってくる藤吾と目が合う。)
藤吾:「お、よおセンジュギク。」
律輝:「あ……アンタ……ッ!」
藤吾:「やっぱここに居たか。」
律輝:「な……なんの用だよ……」
藤吾:「?
なんか怖がってる?」
律輝:「当たり前だろ!?
アンタが二週間前に何やったか忘れたのか!?」
藤吾:「ああ、あの時は、本当に悪かったよ。」
(藤吾、律輝の横に座る。)
律輝:「うわあ!そっそう思うんだったらオレに近付くなよっ……!」
(律輝、距離を取る。)
藤吾:「そんな事言うなよ。」
律輝:「言うに決まってんだろ。
で……何の用なんだよ……。」
藤吾:「ああ、ただセンジュギクと話してぇなって思って。」
律輝:「は?」
藤吾:「センジュギクの両親、良い人だったな。」
律輝:「な、なんだよきもちわる……きゅ、急に親の話なんかして……。」
藤吾:「ほら、俺がお前殴ったから先生交えてお前んちに謝りに行ったろ。
その時に思った。
別にお前を嫌ってるワケでなく、ちゃんと親として愛してて……」
律輝:「……お前は──、……。」
藤吾:「ん。ああ、親居ないよ。
ずっと前に電車の事件で死んだ。」
律輝:「……。」
藤吾:「まあまあ、そんな事はどうでも良くてさ。
センジュギクが人を好きになれないの、別に家庭環境がどーのとかは無さそうだな。」
律輝:「……は?何の話?」
藤吾:「センジュギクが人を愛せない云々の話。
もしかしたら、原因があるものかもしれねぇじゃん。
それで真っ先に思い浮かぶのは親とか家庭環境じゃね?」
律輝:「“じゃね?”じゃないよ……
…………え、ちょっと待て。」
藤吾:「ん?」
律輝:「アンタ……まさか……オレをボコして自分から停学処分になったのって……
オレの親を見るためか……?」
藤吾:「……。」
間。
藤吾:「いいや、マジでイラついたから殴っただけだ。」
律輝:「なんだよ今の間。」
藤吾:「そんな効率の悪い事するワケ無いだろって思っただけ。」
律輝:「……まあ、オレの親を見るだけだったらもっと穏便な方法があるもんな……。」
藤吾:「まあ、良い両親で良かったよ。」
律輝:「……そう。
というか──……まあ、その、家庭環境云々でオレが人を愛せなかったとしたら、
……アンタだって……あれなワケで……
けど……アンタはちゃんと人を好きになれてんだろ。」
藤吾:「…………。」
(一拍置く)
藤吾:「フフッ……そうだな。」
間。
律輝:「おわり?」
藤吾:「え?」
律輝:「終わったならどっか行けよ。」(藤吾の反対側を向いて寝る。)
藤吾:「おまっ!そりゃないだろ」
律輝:「そりゃあるだろ。
オレがアンタと話をしたいと思う?
思ってんだったらアンタ、頭おかしいよ。」
藤吾:「…………。」
律輝:「なに、もしかしてまた暴力振るう気?」
藤吾:「は?しねぇよ。」
律輝:「一回やってんだから信じられないよ、その言葉。」
藤吾:「………………ホントに……悪かったよ……」
律輝:「…………。」
間。
律輝:「オレも、ごめん。」
藤吾:「…………え?」
律輝:「ごめん。謝ってんの。
オレも……言い過ぎた、って思ってる。」
藤吾:「……そうか……ありがとう。」
律輝:「……。」
藤吾:「……。」
律輝:「てかさ。」
藤吾:「ん?」
律輝:「アンタ、オレが“言った事を綺麗さっぱり忘れる”んじゃなかったの。」
藤吾:「……あー……」
律輝:「…………まあ、良いけどさ。」
間。(律輝、立ち上がる。)
藤吾:「あっ、おい。どこ行くんだよ。」
律輝:「は?もう昼休み終わるだろうが。」
藤吾:「……そういやそうだ。」
間。(藤吾、立ち上がる。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~一週間後、学校の屋上~
(律輝、藤吾から距離を取って屋上で寝転がってる。)
律輝:「……。」
藤吾:「お前ってさ、好きでもなんでも無い女と結婚して子供作んの?」
律輝:「は?」
藤吾:「どうなんだ?」
律輝:「……なあ。」
藤吾:「おう。」
律輝:「これから言う言葉にはオレに正当性があり、
アンタに暴力を振るわれる筋合いが無い事を事前に主張する。」
間。(律輝、更に藤吾と距離を取る。)
藤吾:「……おう?」
律輝:「……。」
律輝:「何?急に?流石にキモいよ?頭おかしいじゃないの?」
藤吾:「…………すまなかった。
色々とすっ飛ばして言葉を発してしまった。」
律輝:「アンタ、そういうところあるよな。この一週間でよく分かったよ。」
藤吾:「ハハハ……あー……ほら、女の人は子供を生んだ時に、或いは宿した時に、
深い愛を覚えるって言うだろ?」
律輝:「……ああ。」
藤吾:「もしかしたら、そうなればセンジュギクにも父性的なモノが生まれるかもしれない。
だけど、そこに至るには結婚し、生殖行為しなければならない。
……じゃあ、センジュギクは好きでもない人と結婚し、生殖行為をするのかなって。」
律輝:「…………やっぱお前気持ち悪いよ。」
藤吾:「えぇ……。」
律輝:「勝手にオレの未来を仮定するな。
大体……“女の人は子供を生んだ時に、或いは宿した時に、深い愛を覚える”。
詰まるところ、母性や父性……いや、庇護欲の発生が“愛”を生む、と考えているワケになるんだが。」
藤吾:「おう。」
律輝:「それは有性生殖、牽いては繁殖を有利に、効率的に行う為の脳信号的なもんだろ。」
藤吾:「?」
藤吾:「それの何が悪いんだ?」
律輝:「…………いや、悪くないけどさ……なんか、違くね?」
藤吾:「………………違うのか。」
律輝:「うん。なんか違う。」
藤吾:「センジュギク、お前って大変だな。」
律輝:「別にオレは……てか、どっちかってっとその考え方はアンタの方がヤバめだろ。」
藤吾:「そうか?」
律輝:「ああ。」
間。
律輝:「てかさ、ふと思ったけどさ。
アンタ、その、親居ないんだよな。」
藤吾:「おう。」
律輝:「そういえばって思ったんだけどさ。
その、親代わり……みたいなの、いないの?」
藤吾:「?
なんで?」
律輝:「ほら、うちに謝りに来た時、先生とアンタだけだったから。」
藤吾:「トウトウミ先生が俺の親代わりだけど?」
間。
律輝:「え?」
藤吾:「いや、謝りに行った時に先生言ってただろ。」
律輝:「…………。覚えてないや。」
藤吾:「ははは。ま、なんかお前らしいや。」
律輝:「馬鹿にしてんの。」
藤吾:「いいや、本当に、率直な意見だよ。」
間。(律輝、寝転がる。)
律輝:「……そっか。鬼のトウトウミが親、ねー……」
藤吾:「ああ。俺の親と親交があったらしくて、
その縁で俺の親代わりをしてくれてるってさ。」
律輝:「ふーん……。」
藤吾:「トウトウミ先生にはよくしてもらってるよ、本当に。」
律輝:「それは、良かったな。」
藤吾:「だからさ。誰かの役に立ちたいんだよな。」
律輝:「何の話?」
藤吾:「……あー……
トウトウミ先生に恩を感じていて、俺も誰かの役に立ちたいって思ってるって感じ。」
律輝:「あー……なるほど」
藤吾:「だから、お前の役に立ちたいって思ってんだ。」
律輝:「…………あっそ。」
藤吾:「……おう。」
律輝:「…………ん。そろそろ昼休み終わる。」
藤吾:「お、じゃ、行くか。」
律輝:「いってらっしゃーい」
藤吾:「って、お前は行かないのかよ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~一週間後、屋上~
(律輝、藤吾から距離を取って屋上で寝転がってる。)
律輝:「…………。」
藤吾:「…………。」
(藤吾、色んなところを殴られて傷だらけ。)
律輝:「……なあ。」
藤吾:「んー?」
律輝:「なんであんなことしたんだよ。」
藤吾:「あんなって?」
律輝:「なんでオレを助けたんだよって事だよ。」
藤吾:「……そりゃあ、お前、センジュギクは俺のとも――」
律輝:「友達じゃない。」
間。
律輝:「オレはアンタを友達だと思った事は一度もない。」
藤吾:「…………。」
間。
藤吾:「そうか。」
律輝:「……大体、あれ、オレが100……20%悪かったし。」
藤吾:「そうなのか?」
律輝:「オレを見て女顔って言ったからあいつらの教科書を焼却炉に焼(く)べた。」
藤吾:「それセンジュギクが100悪くね?」
律輝:「は?オレを笑ったんだから報いを受けるべきだろ。」
藤吾:「それで5、6人に囲まれて……よくあんな横柄な態度取れたな……。」
律輝:「アンタに言われたくないね。
殴り掛かって焼却炉に押し付けるって……イカれてる。」
藤吾:「……だって、あん時はお前が……」
律輝:「それで標的がオレからアンタに移って、1対5で殴り合い始めるとか、野蛮だな。」
藤吾:「…………はぁー……
もうそういうの辞めろよ。
俺に対して刺々しくするのは良いけどよ。
他の人にもそんなんで、”愛する愛される”どころじゃないだろ。」
律輝:「だからオレはそれどうでもいいって言ってんじゃん。」
藤吾:「そうだけどさ……。」
律輝:「てか、辞めろっていうならアンタこそ辞めなよ。」
藤吾:「は?」
律輝:「自分の事、雑なの。」
藤吾:「……それは、どういう……。」
律輝:「そのままだよ。さっきのこともそうだし、
アンタさ、自分の話、全部適当じゃん。」
藤吾:「……。」
律輝:「……。」
藤吾:「だって……どうでもいいじゃん。」
律輝:「……。」
藤吾:「俺は自分に興味ない。ただそれだけだ。」
律輝:「それを辞めろって言ってんの。」
間。
藤吾:「俺は……俺よりも、センジュギクの方が雑に扱ってほしくない。」
律輝:「……。」
藤吾:「けど。」
間。
藤吾:「センジュギクがそう言うなら、善処する。」
律輝:「……あっそ。」
藤吾:「友達の頼みだからな。」
律輝:「友達じゃねぇって。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~一週間後、雨~
律輝:「…………。」
間。(律輝、放課後に校内を徘徊している。)
律輝:「この学校マジで教室から図書室まで遠すぎる……」
(藤吾、廊下の角を曲がった律輝に気づき、後ろから声をかける。)
藤吾:「よっ!」
律輝:「あ?」
間。(律輝、ずぶ濡れの藤吾を見てぎょっとする。)
律輝:「……なんでアンタずぶ濡れなの。」
藤吾:「雨降ってたからな。」
律輝:「説明になってないんだが。」
藤吾:「さっきまで屋上に居たんだよ。」
律輝:「は?」
藤吾:「けど、センジュギク来ないから、さっき降りてきた。」
律輝:「そりゃそうだろ、雨だぞ。」
藤吾:「ハハハ、そりゃそうだな。」
(一拍置く。)
藤吾:「あ。」
律輝:「あ?」
藤吾:「センジュギク、屋上って勝手に入ってたんだな。
空いてなかったらから職員室で鍵借りに行ったら
“学生に貸すわけないだろ”って言われた。」
律輝:「ああ、いつもピッキングして開けてた。」
藤吾:「わあ、悪ぅ。」
律輝:「んなことどうでもいい。来い。」
(律輝、藤吾を掴む。)
藤吾:「えぇ?」
律輝:「そんな格好、風邪引くだろ。保健室で体操服借りて着替えろ。」
藤吾:「それだったら自分の──」
律輝:「5限で汗まみれになって臭いのを?
それでオレの隣を歩こうとしてるのか、ありえないんだけど。」
藤吾:「…………。
ふふふ……はいはい。」
◇
(律輝、藤吾、校舎内を歩いてる。藤吾、体操服に着替えてる。)
律輝:「──で、何の用だよ。」
藤吾:「え?」
律輝:「は?」
藤吾:「……あー……いつものルーティン?」
律輝:「はぁ?」
藤吾:「最近ずっとセンジュギクと一緒にいるから、
で、今日は会ってないなーと思って。」
律輝:「それ。
オレの教室にくればいいだろ。」
藤吾:「……あー……それ、いいの?」
律輝:「じゃなきゃどうやってそのルーティンとやらを達成すんだよ。」
藤吾:「まあ、そうだけど。
……じゃあ、次はそうするわ。」
律輝:「そ。」
藤吾:「…………どこ向かってんの?」
律輝:「図書室。テスト勉強。」
藤吾:「あーね。」
間。(二人、歩いてる。)
藤吾:「センジュギク、ちゃんと勉強するんだな。」
律輝:「あ?」
藤吾:「ほら、いつも屋上でサボってたからさ。」
律輝:「だからだろ。」
藤吾:「じゃあちゃんと授業受ければ良いのに。」
律輝:「それが嫌だからサボってんだろ。」
藤吾:「……お前も難儀だなぁ。」
律輝:「うるせ。」
藤吾:「そういやお前って結構成績良かったもんな。
頑張ってんだなぁ。」
律輝:「…………。」
間。
律輝:「そういうアンタは適当だよな。」
藤吾:「…………まあ、勉強苦手だし。」
律輝:「うそつき、アンタやる気無いだけだろ。」
藤吾:「スゥーーーーーーーーーーーーーーー……」
律輝:「授業受ける気が無いオレが言うなって感じだけど、
アンタはなんもかんもどうでもいいって感じだろ。」
藤吾:「……。」
律輝:「だから、オレを言い訳に生きる事、許してやる。」
藤吾:「……は?なんだよそれ。」
律輝:「……。」
(一拍置く。)
律輝:「オレは他人に対して恋愛感情を持たない。
持つ必要が無いと思ってるからな。
それが、納得出来ないんだろアンタ。」
藤吾:「いや……
…………そうだな、正直、そうだ。」
律輝:「納得できないし、なんかオレがイラついてるから、
だからオレの“役に立ちたい”んだろ。」
藤吾:「……。」
律輝:「いいよ。それで。」
藤吾:「そうか。」
律輝:「鬱陶しいけどな。」
間。
律輝:「アンタは、自分を愛せる様になりなよ。」
藤吾:「…………ははは。」
間。
律輝:「ついでだ。アンタの勉強見てやるよ。」
藤吾:「え。」
律輝:「オレが教えてやるんだから、学年10位以内は取れよ。」
藤吾:「無理に決まってんだろ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~現在、図書室~
(律輝、ノートと教科書を見ている藤吾を眺めている。)
律輝:「…………。」
律輝:自分を好きになれない人、大切に出来ない人は、他人(ひと)を愛せない、
確か、オレの父さんが言っていた言葉。
オレが恋愛感情を持たないのは、そういった理由だと考えられ、そう言われた。
オレは、そんな事は無いと思う。
ちゃんと自分の事を大切にしているつもりだ。
その言葉は──
律輝:「そこ、式間違えてる。」
藤吾:「え。」
律輝:「F = kxじゃなくてF = -kx。ベクトルが違う。」
藤吾:「ああ、了解。」
律輝:「……。」
律輝:“自分を好きになれない人、大切に出来ない人は、他人(ひと)を愛せない”
その言葉は、コイツにこそ、当てはまるんじゃないか。
自分を愛せないから、他人を愛せない。
藤吾:「マジでわっかんねぇなぁここ。」
律輝:けれど、“愛”とは“善”だと考える。
自分は愛せないけれど、他人は誰かを愛せていて欲しいと思っている。。
律輝:「うん、そんな感じ。」
藤吾:「なるほどなー
センジュギク、ものを教えるの上手いな。」
律輝:「……まあ、そうかも。」
律輝:アンタは教えるの下手そうだよな。
藤吾:「ん?どうした?」
律輝:「いや、なんでもない。」
律輝:自分が分からない事なんて、人に教えられるワケ無いのにな。
律輝:「あ、そこも間違えてる。」
藤吾:「マジか……」
律輝:「マジ。
けどそれ……説明めんどいから答えと解説見ながらやってよ。」
藤吾:「了解。
てか、センジュギク、マジですげぇな。」
律輝:「……。」
間。
律輝:『人を愛せないだなんて、可哀想に、不幸な子。』
間。
律輝:「んなことねぇよ。」
藤吾:「え?」
律輝:「すごくねぇよ、って。」
藤吾:「あ……ああ。」
律輝:「集中しろ。」
藤吾:「お前がなんか言ってたくせに。」
(藤吾、目線を下ろす。)
律輝:「……。」
律輝:だって、オレもアンタに教えられないからな。
“人を愛せなくても不幸じゃない”って事をさ。
アンタを“納得させられる”自信が無い。
律輝:「……。」
(一拍置く。)
律輝:「悪いな。」
藤吾:「ん?」
律輝:「さきに帰る。」
藤吾:「あー……おおう、勝手だなぁお前。」
律輝:「うるせ。
アンタはちゃんとそこ終わるまでは席立つなよ。」
藤吾:「はいはい。」
律輝:「じゃあな。」
藤吾:「おう。」
間。
藤吾:俺は自分の事を愛せない。
けれど、そうだな。
間。(藤吾、去っていく律輝の後ろ姿を眺める。)
藤吾:俺は、お前の事が好きなんだろうな。
律輝:『……オレさ。
人を愛するって分かんないんだ。』
藤吾:仲間だと思った。
そう思った瞬間、親近感が湧いた。
お前に罵倒されて突き放されて、苦しかった。
藤吾:「……。」
間。
藤吾:「人を愛せないだなんて、可哀想に、不幸な子。」
律輝:『じゃあお前がオレを幸せにしてみせろよ!!
できんのか!?できないだろ!!あぁ!!?』
藤吾:刺々しい言葉を放つお前は酷く悲しそうな目をしていた。
本当に、苦しかった。
センジュギクのそんな顔、なるべく見たくないと思った。
藤吾:「悪い……」
藤吾:あれからそれなりに経った。けれど結局、未だに“幸せ”にできていない。
間。
藤吾:「ああー……」
藤吾:”「 」”は、まだ埋まらない、見つからない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~試験後~
藤吾:「……今回の試験の結果……見た……?」
律輝:「見た…………」
藤吾:「…………。」
律輝:「…………。」
藤吾:「…………。」
律輝:「…………。」
藤吾:「…………。」
律輝:「……アンタさ。オレを抜いて学年一位になることは無いだろ。」
藤吾:「ちょっと勉強好きになったかもしれん。」
間。
藤吾:「センジュギクのおかげだな。」
律輝:「黙れ。」
───────────────────────────────────────
END