プログラム
2025/2/17
9:55〜10:00
大関 真之(東北大)
はじめに
10:00〜10:35
南部 芳弘(産総研)
パリティ符号化されたスピン系に対する効率的な古典エラー訂正
汎用量子アニーリング(QA)実現のためには完全連結グラフモデルをシミュレートできることが必要になるが、スピン間の長距離相互作用の実装が技術的ハードルとなる。この問題は、スピン系の埋め込み技術により回避できる。W. Lechner, P. Hauke,とP. Zoller (LHZ)はN. Sourlas提唱のソフトアニーリングと同等のスケーラブルな埋め込み方式(SLHZ方式)を提案した。この方式には本質的な耐障害性があることが示唆されたが、不明な点も多い。 我々は古典的LDPC符号との密接な関係からSLHZ方式の読み出しエラー訂正を研究し、一般化シンドロームの多数決に基づく低コストな反復スピンフリップアルゴリズムを考案した。このアルゴリズムはスピン読み出し上の独立同分布エラーに対して標準的な確率伝播(BP)アルゴリズムに匹敵する復号性能を持ち、スピンの熱的励起に起因するエラーにも適用可能である。SLHZ方式は近未来のQAコンピュータ実装の有力候補であることが示唆される。
10:35〜11:10
山村 篤志(スタンフォード大)
勾配系アニーリングによる最適化:コヒーレントイジングマシンのダイナミクスと幾何学的相転移
組み合わせ最適化のための低エネルギー消費かつ高性能な非ノイマン型計算機の開発が注目されている。非線形力学系による最適化はその有力な候補であるが、シミュレーテッド/量子アニーリングとは対照的に、理論的理解は未だ発展途上である。本発表では、光パラメトリック発振器からなるコヒーレントイジングマシン(CIM)を力学系として捉え、その最適化ダイナミクスを考察する。CIMのダイナミクスは、ソフトスピン系のエネルギー関数の勾配降下と解釈でき、レーザーゲインが増加するにつれて、エネルギー関数は最適化対象であるイジング模型のエネルギー関数へと収束する。スピングラス理論を用いてレーザーゲイン増加に伴うCIMのエネルギー関数の高次元幾何構造を解析し、レプリカ対称性や超対称性の破れといった幾何学的相転移が見られることを導く。さらに、これらの相転移点に基づき、最適なレーザーゲインのアニーリングスケジュールを導出できることを示す。これらの成果は、勾配系のアニーリングによる最適化原理解明に寄与する。
11:10〜11:35
平間 草太(東北大)
リバースアニーリングによる緩和解を改善する手法の検証
リバースアニーリングは与えられた初期解からその近傍にある大域的な最適解への探索を行う量子アニーリングのアルゴリズムである。リバースアニーリングに与える初期解が大域的な最適解に近いものであれば、アルゴリズムを実行して厳密解を求める確率が高まることになる。よって、リバースアニーリングに与える適切な初期解を得るための方法が模索されてきた。本発表ではリバースアニーリングに与える初期解にDantzig-Wolfe分解という古典アルゴリズムから導出された近似解を利用することで、効率的に最適化問題の厳密解、またはそれに近い解を導出するアルゴリズムを提案する。
11:35〜13:00
昼食
13:00〜13:35
高邉 賢史(Science Tokyo)
量子アニーリング関連手法への深層展開の適用
近年,量子アニーリングの応用が活発に模索されていると同時に,古典計算手法を取り入れた量子・古典ハイブリッドアルゴリズムや量子計算を模擬した古典計算手法が提案されている.これらのアルゴリズムの多くは内部パラメタを有し,その値で振舞いが変化するが,通常内部パラメタはグリッドサーチ等発見的に調整されている.これに対し,我々のグループでは深層展開と呼ばれる深層学習的技法によって訓練データから内部パラメタを機械的に調節することを試みている.講演では,深層展開の基本的な概念や量子(模擬)アルゴリズムに対する深層展開の適用例をご紹介したい.
13:35〜14:10
森田 圭祐(東北大)
アニーリングマシンを用いたブラックボックス最適化の新たな探索手法の検討
目的関数が二値無制約二次最適化問題(QUBO)で十分近似できると仮定し、QUBO形式でモデル化した目的関数をアニーリングマシンで逐次最適化するBlack-box最適化手法が提案されている。これらの手法では、活用と探索のバランスを取るために、パラメータに関するMonte Carlo積分を用いた確率一致法を近似的に実現するThompson抽出が利用されている。本研究では、これに対してBayes最適化の枠組みに基づく探索アルゴリズムを検討する。講演では、既存のThompson抽出アルゴリズムを紹介した上で、信頼上限(UCB)に動機づけられた新しい探索アルゴリズムの可能性について議論する。
14:10〜14:35
関 優也(慶應大)
Warm-start FMAによるブラックボックス最適化のための初期化手法
Factorization machine with annealing (FMA)は,イジングマシンによる最適化の応用範囲を拡大する技術として着目されている.本研究では,従来のFMAにおける議論が不十分な,FMAのモデルパラメータの初期化方法を確立する.本講演では,提案手法によって最適化対象となるモデルを高精度に推論できることを示す.また,ランダム行列理論を用いることで,推論精度の対象モデルに対する依存性が小さいことを示す.この結果は,高い精度で解探索するwarm-start FMAの発展へとつながるものである.
14:35〜14:50
休憩
14:50〜15:15
大塚 誠(LiLz株式会社・東北大)
ブラックボックス最適化と量子アニーリングを用いた学習データセットに含まれるノイズ除去手法の提案
学習データに含まれるノイズは、学習済みモデルの汎化性能を著しく下げることが知られている。しかしながら、汎化性能を担保するような学習データセットのサブセット選択は、学習データ数に依存した離散最適化問題となっており、最適化が困難である。本研究では、学習サブセットで訓練したモデルの評価を、ノイズフリーな検証データセットで行い、その検証誤差をブラックボックス最適化の目的関数とすることで、学習セットに含まれるノイズを効率的に除去できることを示す。また、量子アニーラの生成する解の多様性が低エネルギー解の逐次探索で有効に働いていることを示す。
15:15〜15:50
山口 瑞樹(東大)
困難な問題の量子アニーリングで横磁化の量子1次相転移が起きない厳密な例
量子アニーリング(QA)は、組合せ最適化問題を解くための手法の1つとして注目されている。QAは、ハミルトニアンをゆっくり動かしながら基底状態を持ち続けることで、自明な構造を持つ量子系から始め、最後に解きたい組合せ最適化問題の解を得る手法である。経験的にはいくつかの組合せ最適化問題で古典的な手法に比べて高速な計算ができる一方、計算量理論の考察から、QAは最も難しいクラスの最適化問題を効率的に解くことはできないことが知られている。量子計算の限界とその物理学的な原因の解明は重要な研究対象であるため、QAの失敗の原因は活発に研究されてきた。いくつかの先行研究 [1] は、QAが失敗する多くの事例において、横磁化の量子1次相転移を伴うことを明らかにし、QAの失敗の起源はこの転移であると主張している。一方で、QAの失敗としてこの転移とは異なる要因を挙げる先行研究 [2] もある。このように、QAが失敗する理由については、主に数値計算や近似的な解析計算に基づいた議論が交わされていたものの、決定的な答えは得られていなかった。 これに対し私の研究では、QAの一種 [3] では、有限次元スピングラスの基底状態探索問題において、横磁化の量子1次相転移が起こらないことを厳密に証明した [4] ので、本発表ではその結果を紹介する。有限次元スピングラスの基底状態探索は難しい(NP困難な)問題であるため、QAを含むいかなる量子計算を用いても効率的に解くことはできないと広く信じられている。そのためこの研究結果は、横磁化の量子1次相転移は、難しい組合せ最適化問題におけるQAの失敗の主要因ではないということを強く示唆している。なおこの結果は、相互作用が短距離的で、結合定数が並進対称な分布から生成されるような、任意の有限次元スピングラス系に対して成り立つ、極めて一般性の高い結果である。
[1] T. Jörg, F. Krzakala, J. Kurchan, A. C. Maggs, and J. Pujos, EPL 89, 40004 (2009).
[2] S. Knysh, Nat Commun 7, 12370 (2016).
[3] Y. Seki and H. Nishimori, Phys. Rev. 85, 051112 (2012).
[4] M. Yamaguchi, N. Shiraishi, and K. Hukushima, arXiv:2307.00791
15:50〜16:25
原 佳範(東大)
回転不変な相互作用を持つ量子スピングラス系の解析
古典系が回転不変なランダム相互作用を持つとき、その相互作用の固有値分布によって、Sherington Kirkpatrick(SK)モデルのような連続相転移を持つ場合と、random orthogonal model(ROM)のようなランダム1次相転移を持つ場合に分かれる。これは横磁場を加えた量子系についてもそれぞれ違う方法で相境界を調べる必要があることを示唆しており、従来専ら研究されてきた量子SKモデルの知見が後者に応用できない可能性が高い。そこで実際に量子SKと量子ROMについてそれぞれSuzuki-Trotter分解を用いた解析方法と数値実験の結果を紹介する。
16:25〜16:40
休憩
16:40〜18:30
ポスター講演
18:30〜20:30
懇親会