研究者から会社設立へ 〜最新の科学成果を患者さんの元へ〜
[略歴]
1986年に東京医科歯科大学医学部医学科を卒業後、順天堂大学大学院医学研究科(奥村康教授)で免疫学の研究を行い、1990年に卒業(医学博士)。その後、理化学研究所フロンティア研究員(中内啓光チームリーダー)を経て、米国ワシントン大学へ留学(Dennis Y. Loh教授)し、様々な生体制御分子のノックアウトマウスを作製することによって、細胞周期の制御分子が身体の大きさを決定していること、その破綻によりがんが起こることを世界で初めて明らかにした。1995年に帰国し、(株)日本ロシュ・主幹研究員。1996年より九州大学生体防御医学研究所・教授。2023年より東京医科歯科大学高等研究院・特別栄誉教授。現在に至る。2005年・日本学術振興会賞、2007年・JCA-Mauvernay Award、2011年・井上学術賞、2021年・紫綬褒章。
<インタビュー>
株式会社Qイノベーション 取締役兼最高技術責任者(CTO)中山 敬一 氏
1. 起業までの経緯
― _起業されるまでの経緯を教えてください。 _
中山氏:私は医学部を卒業してからずっと基礎研究の道に邁進し、生命の原理を突き止めることを目標にしてきました。一方で、最先端の科学成果が医学の最前線に応用されるためには大きな隔たりがあることにも気が付いていました。この隔たりを無くすためには、単に専門的な基礎研究だけでなく、社会に成果を還元するような組織を持つ必要があると痛感し、株式会社Qイノベーションを設立するに至りました。
2. 事業内容
― _御社の事業内容を教えてください。 _
中山氏:株式会社Qイノベーションの事業は、基本的に東京医科歯科大学で開発された新技術を社会実装することです。主に当社が扱う新技術は、(1)次世代プロテオミクス「iMPAQTシステム」、(2)人工知能「mPSシステム」、(3)人工知能「ライトハウス」による創薬支援、の3つです。
(1)iMPAQTシステムは、ヒトにおける全てのタンパク質(約20,000種)を絶対定量するための技術で、既に株式会社LSIメディエンスと合同で作られた九州プロサーチ有限責任事業組合(KPSL)によって既に事業化がされています。
(2)人工知能「mPSシステム」は、乳がんや大腸がんにおいて、そのトランスクリプトームパターンによって、患者さんの生命予後を精密に予測するシステムです。従来の技術より圧倒的に精度が高く、正確な予測が期待できます。
(3)人工知能「ライトハウス」は、疾患の原因となるタンパク質のアミノ酸配列のみから、そのタンパク質を狙った治療薬を見つけ出す画期的な方法です。既に、がんや感染症、生活習慣病といったさまざまな疾患の治療薬候補を見つけています。さらに新型コロナウイルスについても、デルタ株を含め多くの変異株の治療に有望な化合物を見出しました。ライトハウスは、これまでの創薬研究の進め方を大きく変える「創薬革命」につながるものであり、より迅速に薬を開発することができるようになると期待されます。この開発は、テレビニュース、新聞等に大きく報道されました。
3. 起業後の苦労
― 起業してからこれまでの一番の苦労を教えてください。
中山氏:会社設立から決算まで全てが初めての経験であり、当初は財務諸表も読めませんでした。簿記の勉強をしながら会社経営をほぼ一人で行ってきたので、様々な困難に直面しましたが、そのたびに多くの方々に支えられてまいりました。特に、当社の理念である「科学研究の成果を社会に還元する」というコンセプトにご賛同いただき多額の寄付をいただいた方々には、本当に助けられました。厚く御礼申し上げます。これらの期待に応えるべく、現在は治療法のない難病に対して一刻も早く新規治療薬を開発できるように、日々粉骨砕身の努力を続けていく所存です。
4. これから起業を目指す方へ一言
― 今後、起業を検討している方に一言お願いします。
中山氏:実際に起業をやってみると、全く素人の私でも比較的簡単にできました。費用もそれほどかかりません。現在はネットに色々な情報やツールがあるので、それらを活用してなるべく一人で行ってみることをお勧めします(もちろん最後は司法書士・税理士のお力をお借りしますが)。小さいながらも会社を経営してみると、今まで知らなかった社会の仕組みが見えてきます。