Lab introduction
研究室紹介
研究室紹介
ℚ 本研究室の主な研究ー複合材料の設計とその表界面科学の分析 ℚ
複合材料は紀元前のエジプトから利用されており、藁と泥でピラミッドの煉瓦を作りました。現代の最先端技術では、巨大なロケット、飛行機等の機械からミクロスケールのアクチュエータ、センサー等も様々な種類の複合材料で構成されています。複合材料は遠い昔から現代まで大幅に応用されており、重要な材料といえます。
しかし、複合材料の創成には材料自身の微細構造・形、材料同士のバランス等の要素を考えないといけません。したがって、複合材料の機械特性・機能性等を向上するために、材料の設計が重要です。また,材料を組み合わせた後、材料間では界面が存在します。その界面は材料の性能に影響を与える大きな因子の一つです。さらに、ナノ材料の場合は材料の機能性が材料表面の性質によって大きく変化します。
本研究室では複合材料の設計・創成から材料の機械特性・機能性等の評価まで行っています。材料間のバランスをとり、材料表界面特性を制御することによって、足し算ではなく掛け算のように複合材料の機械特性・機能性等を向上し、新たな複合材料を研究開発します。
➀有限要素法による材料のシミュレーション➀
当研究室では、主に複合材料の研究開発を行っています。複合材料の設計には、異種材料間のバランスおよび材料の表界面科学が重要と知られている。しかし、実験的には、膨大な時間とコストが必要となります。複合材料の設計のため、実験系の複合材料のものつくりに加え、有限要素法(Finite Element Method; FEM)の材料シミュレーションも行っています。実験系と計算系の両面からアプローチし、材料設計を加速します。さらに、材料シミュレーションにより、実験系で観察できない材料内部の歪みや・応力分布などが見えてくるため、材料設計には有用なツールとなっています。下図に示すように、Ni-Mn-Ga単結晶粒子と金属薄膜の複合材料(Ni-Mn-Ga particles/Cu foil composite materials)は多様な配列が設計できます。また、実験と計算の形状変形挙動がよく一致していることが示唆されました。
積層Ni-Mn-Ga単結晶粒子/Cu薄膜の複合材料の(a) 単粒子、(b) 二粒子、(c) 四粒子の設計図および
(d) 単粒子、(e) 二粒子、(f) 四粒子の複合材料変形後の形状
➁金属ナノワイヤー/PDMS複合材料による高柔軟性・高導電性透明電極➁
金属ナノワイヤー(Metallic nanowires)/PDMS複合材料は、金属ナノワイヤーの優れた電気伝導性とポリジメチルシロキサン(PDMS)の高い柔軟性・透明性を組み合わせた次世代型の透明電極材料です。ナノワイヤーが形成する導電ネットワークにより、低シート抵抗(Sheet resistance)と高光透過率を両立でき、さらにPDMS基材の高い伸縮性により、曲げや引張といった機械的変形下でも安定した導電特性を維持します。これらの特性から、フレキシブルディスプレイ、ウェアラブルデバイス、ソフトロボティクス、さらにはバイオエレクトロニクスなど、多岐にわたる応用が期待されています。当研究室では、このような複合材料の材料設計および表界面科学的解析を行い、次世代スマート材料の実用化に向けて、より高性能な複合材料の創製に取り組んでいます。
金属ナノワイヤー/PDMS薄膜複合材料の(a) 透明性と柔軟性および、(b) 導電性の評価。
➂磁場印加による機械特性調整可能な磁気粘弾性エラストマー複合材料➂
Fe粒子またはFe粒子をベースにした材料(例:Carbonyl iron particles (CIPs);カルボニル鉄粉)とエラストマーとの複合材料は、磁場印加による材料の機械特性を調整できるスマート材料と知られています。その機械特性調整可能な現象はMR効果(Magnetorheological effect)と呼ばれています。従来,外部磁場の印加で、Fe粒子のアライメントとしないと、MR効果が出ないという問題点があります。カルボニルコーティング(Carbonyl coating)がMR効果を悪化するという課題もあります。本研究では、アライメントぜず,簡易な手法で、「純Feマイクロ粒子/シリコーンゴムの複合材料」を合成し、MR効果を成功に観察できました。それぞれ、10、16、および24体積分率(Vol.%)の試料を創成し、約33.3%の相対MR効果が観察できました。
代表的な論文
(a) 10、(b) 16、および (c) 24 vol.% マイクロFe粒子の磁気粘弾性エラストマー複合材料の磁化曲線、とそれぞれのμCT図(挿入図)。
(d) 全ての試料の磁化曲線のまとめ、および測定時の模式図(x、y、z の三方向を測定した)。全ての試料の (e) 最大応力、(f) 弾性係数、(g) MRの絶対値、および (h) MRの相対値。
➃磁場駆動可能なNi-Mn-Ga単結晶粒子で構成された複合材料➃
熱で形状変形する材料は良くアクチュエータ・センサー等の材料として使用されています。しかし、熱伝導が材料の動作速度を制限しているため、材料の動作速度が遅いという課題が知られています。そこで、本研究では磁場で形状変形を駆動できる複合材料を開発しています。「Ni-Mn-Ga単結晶粒子とシリコンゴム」を複合化し、さらに、材料をキュアリングするときに磁場を印加することによって、複合材料の3D微細構造を制御できました。シリコンゴムとの複合材料以外にも、「Ni-Mn-Ga単結晶粒子とCu薄膜」の複合材料も開発しています。Cuとの複合材料はアクチュエータ材料以外にも、ヨーロッパでは盛んに研究開発している磁気冷却の材料にも適用できます。複合材料の創成後、磁場印加によって複合材料を変形させ、アクチュエータ材料として実用できるかどうか評価も行っています。
代表的な論文
Ni-Mn-Ga単結晶粒子/シリコンゴムの複合材料の(a) サイドヴューと(b) トップヴュー、および(c) 外部磁場印加による変形挙動 (磁場⊥粒子チェーンは伸び,磁場//粒子チェーンは縮み) 。
➄化学センサーに適用する三元系複合材料の材料設計➄
従来の化学センサーの電極は酵素を使用したもののため、特定な物質に対する感度・選択性等が高いですが、酵素の長期安定性、材料の高価等の問題点が知られています。酵素を使用せず、感度・選択性等の高い電極材料が求められています。本研究では、非酵素の貴金属(Au,Pt等)のナノ粒子および酸化物(TiO2,ZnO等)をミクロネットワーク構造を有するポリアニリン(PANI)の上に合成し、化学センサーに適用できる三元系非酵素型の複合材料電極を開発しました。さらに、ナノ金属粒子と酸化物の濃度を微調整することによって、特定な対象物質が酸化される時の電流密度が上昇し、対象外の物質の酸化電流密度が低いままを維持できました。すなわち、電極の感度を向上したうえで、物質に対する電極材料の選択性が高いままの状態を保持できました。また、従来の酵素型の電極材料より、長期安定性と高価の問題点も解決できました。
代表的な論文
(a) ナノAu粒子-TiO2/ポリアニリンの三元系複合材料のサイクリックボルタンメトリー、(b) 複合材料電極の高選択性 。
従来の硬質材料の適用性を改善するために、柔軟性のあるウェアラブルデバイスは近年盛んに研究・開発されており、医療材・生体材料に応用されています。しかし、柔軟性のあるポリマーと機能性を有する金属・酸化物等を合成するためには性質の異なる材料の組合せ・材料間の接着が課題となっています。複合材料では、化学・物理的な結合はもちろん重要ですが、材料それぞれの結合様式を持ち、簡単には化学・物理的なボンディングができないため,機械的な結合を活用すると機械特性の強く,機能性の高い複合材料を実現することができます。本研究では、超臨界二酸化炭素を用いた化学・電気化学等の手法によって元々結合性の低いポリマーと金属薄膜を強く接着し、柔軟性を有し、機械特性が優れた複合材料を創成できました。
代表的な論文
(a) 処理する前のシルク基材、(b) Pd(acac)2触媒で活性化されたシルク基材、(c) Ni-P薄膜/シルク複合材料。
おわりに
上でご紹介したとおり、当研究室は金属をベースにした複合材料の設計開発とそれらの表界面科学を評価・分析しています。複合材料の設計・表界面科学とそれらの性質の評価に興味のある学生を歓迎します。自分で新材料を設計開発したい・国際雑誌に研究成果を発表したい意欲のある学生を歓迎します。当研究室は多様な分野から学生および世界中の留学生を受け入れています。