2024.12更新 玉川
大会の試合結果を分析し、ペタンクの試合の流れや勝率を左右する要因について考察します。
あくまでも全試合の平均ですし、人やチームによって特性は異なるものだと思いますが、それでも全体の傾向を把握することで見えてくるものもあるでしょう。
現時点で見つけた(かもしれない)興味深い傾向は、
・全メーヌを通じて得る(失う)点数は平均2.0点だが、後半に行くとやや減少(~1.6点)
・2,3点取った後のメーヌでは失点しやすい
・1メーヌ目を取ることは2メーヌ目を取ることよりも重要だが、取るなら2点
・第4メーヌで7点リードしてるときは勝率が低い(?)
・大差が縮まった時ほど逆転チャンス
などがあります。
さくっと結論だけ知りたい人は、「①-4 まとめ」と「②-4 まとめ」と「結論」から読んでみてください。
公式大会の予選と本戦を分析対象とします。基となるデータはスコアカードです。スコアカードからは、対戦チームとメーヌごとの獲得点数が分かります。
なお、以下の情報は分かりません。
・1メーヌ目のビュット権
・ビュットが出て無効となったメーヌの有無
・最終メーヌが引き分け1球勝負か否か
また、大会情報として以下の項目を分かる範囲で記録しています。
・大会名
・都道府県
・年月日
・天気
・形式 (トリプルス、ダブルス)
・試合時間
・終了時間になった時の追加メーヌ数
現在分析対象となっている大会は以下の通りです。
・大江戸五人衆2024(トリプルスおよびダブルス)
・TOKYOトリプレット2024
計138試合(1,018メーヌ)
最初の分析では、各メーヌでどのように点数が入るのかを分析します。最終的な勝敗を考える前に、メーヌ単位での得点の傾向について考えていきます。
まず各メーヌでの得点の値を集計したものが表1-1になります。例えば、2メーヌ目で3点入るのは全体のうち28メーヌあったということを示しています。カラースケールを用いて、頻度の多いものを赤、少ないものを青としています。
これを基に得点分布を計算したものが図1-1です。全1,018メーヌのうち、例えば1得点だったのは466メーヌだったので、466 ÷ 1,018 = 45.8%と計算しました。上下に伸びている棒は、統計的なバラツキを示しています。それぞれの割合は大体この範囲内に収まるという意味があります(二項分布の標準偏差、±1σ)。
表1-1. 得点分布(メーヌ数)
図1-1. 得点分布
表1-2はメーヌごとに計算した得点の割合を示したもので、例えば3メーヌ目では1点取る(取られる)割合が44.9%、2点の割合が23.2%ということになります。縦の列ごとに合計が100%になっています。10メーヌ目以降はデータが少ないので極端な割合になっていますが、1~9メーヌはおよそ図1-1と同じような割合になっています。
表1-2. 得点分布(メーヌごとの割合)
メーヌごとの平均得点を算出したのが図1-2です。全てのメーヌにおける平均得点は1.96点ですが、メーヌごとの平均得点は前半でやや大きくなり、後半でやや小さくなります。早く決着がついた (≒実力差が大きくて序盤に高得点が入った) 試合の影響を考えるために、1~6メーヌで決着がついた試合(対象数30、以下「短い試合」)と、7~9メーヌで決着がついた試合(対象数99、以下「長い試合」)のデータも同時に示しています。
短い試合については、実際には3メーヌまでに決着がついた試合はなく4メーヌで終了が2試合、5メーヌで終了が8試合、6メーヌで終了が20試合でした。平均得点は2.30点で、3,4メーヌで得点が大きくなっています。
長い試合では平均得点が1.91点で、7メーヌ以降の得点が小さくなっています。
図1-2. 各メーヌにおける平均得点
さて、表1-1の集計結果を基に色々な分析を示しましたが、これらのことからどんなことが分かるでしょうか。
まずは、1点か2点を取るメーヌが圧倒的に多いことがわかります。1,2点を取るのが全メーヌの約75%を占め、3点以下では約90%です。4点以上の高得点を取るのは約10%ということになります。高得点を狙いに行くのはそう簡単ではありません。
次に気になるのはメーヌごとの平均得点の推移です。短い試合では平均得点が大きくなりますが、メーヌ間で比較すると3,4メーヌで高得点になりやすく、1,2メーヌと5,6メーヌは小さくなっています。長い試合では、6メーヌ目まではほぼ一定で推移しますが、7メーヌ以降で小さくなっています。
短い試合の傾向の説明として、以下のようなものが考えられます。
・メーヌを経るごとに実力の高いチームがテランに慣れることで、3メーヌ目から高得点が取れるようになる。
・序盤は両チームとも集中力が高く保たれているが、3メーヌ目から劣位なチームが崩れ始めて高失点になる。
・終盤は13点を取って試合終了となってしまうため得点が小さくなる。
・終盤はリードしているチームが勝ちにいくために、守りの戦略を取って低得点になる。
・終盤は両チームがテランに慣れてきて拮抗した展開となる。
これらを検証するには、短い試合をさらに細分化して、6メーヌまでに13点を取って決着がついた試合と、1メーヌあたりの時間が長いため少ないメーヌで終了した試合とに分けて分析する必要があります。しかし、現状は試合データ数が少ないので、この点のさらなる分析は今後データが増えてきたときに実施します。
長い試合についてさらに詳細に分析をしてみます。対象は99試合、756メーヌです。
まず、両チームの得点/失点の傾向について分析します。表1-3は同点の状況から何点取るかをメーヌ数で集計した表です。なお、6メーヌ目までの135メーヌのうち、99メーヌは1メーヌ目です。表1-4はリードしているチームが何点の得点/失点をするかをメーヌ数で集計した表です。例えば、6メーヌ目までのメーヌで、リードしているチームが1点得点するのは94メーヌあったということになります。
表1-3 同点時の得点分布(メーヌ数)
表1-4. 得点/失点分布(メーヌ数)
表1-4の合計数に着目すると、リードしているチームが得点するか失点するかはほぼ五分五分であることが分かります。得点率は6メーヌ目まででは50.9%、7メーヌ目以降は53.7%です。
ところが、平均点を比較すると傾向に違いがあります。表1-5はリードしているチームの得点/失点の平均点を6メーヌ目までと7メーヌ目以降で4カテゴリーに分類したものです。この表からは、以下の関係があることが分かります。
前半得点 > 前半失点 > 後半得点 > 後半失点 (1)
前半と後半に得点差があることは図1-2で確認した通りですが、得点/失点の内訳をみると、リードしているチームは大きく得点して小さく失点しており、有利な展開を維持していることがわかります。
表1-5. リードしたチームの得点/失点の平均点
この傾向をもう少し詳細に分析してみましょう。表1-6は、表1-4を基に得点/失点のメーヌ数をこの4カテゴリー別の割合として計算したものです。参考に同点時の割合も併記しています。図1-3はこれをグラフとして描いたものになります。
割合にして比較すると、先ほど示した (1) の傾向がより説明できます。すなわち、前半でリードしているチームは得点する時に3,4点を取ることが比較的多く、後半でリードしているチームは失点する時に1点で抑えることが比較的多くなっていることが分かります。また、前半のみ、後半のみで比較しても、リードしているチームは大きく取って小さく抑えています。そして、前半と後半を全体として比較すると、後半は前半よりも1点のメーヌが多くなっています。
ちなみに、主語を切り替えるとここまでの説明は少し違った印象になるかもしれません。例えば最後の説明は、「前半でリードされているチームは失点する時に3,4点取られてしまうことが比較的多く、後半でリードされているチームは得点する時に1点しか取れないことが比較的多い」「リードされているチームは小さく取って大きく取られる」となります。
表1-6. 得点/失点分布(カテゴリー別の割合)
図1-3. 得点/失点分布(カテゴリー別の割合)
分析対象を全試合に戻し、前回メーヌの影響について分析します。前回のメーヌで得点をしたということは、今回のメーヌでビュット権があるということであり、試合の流れをつかんでいるということでもあります。これがどう影響するのかを調べていきます。
表1-7は、前回メーヌで得点したチームがいくつ得点/失点するかを集計した表です。対象は全138試合の2メーヌ目以降の880メーヌです。この表で、+1点~+6点のメーヌ数と-1点~-6点のメーヌ数を合計するとそれぞれ469と411となります。つまり、前回メーヌで得点した場合のメーヌ取得率は53.3%です。(σ = 1.7%)
このことから、前回メーヌを取った場合は連続してメーヌを取る確率が高いと言えそうですが、チームの実力差が大きい場合は連続してメーヌを取る確率が高いので、その影響を除いて分析していきます。
表1-7. 得点/失点分布
以降、最終的な得点差が4点以下となった試合のみを対象として分析していきます。対象は64試合、418メーヌです。表1-8は、これらを対象として前回メーヌで得点したチームがいくつ得点/失点するかを集計した表です。この表から、前回メーヌで得点した場合のメーヌ取得率は46.9%と計算されます(σ = 2.4%)。
前回メーヌの得点別にメーヌ取得率を計算したのが表1-9です。1点取った後に比べ、2,3点取った後の方が取得率がやや低くなっています。
表1-8. 得点/失点分布(最終点差4点以内)
表1-9. メーヌ取得率
得点と失点の回数の差と割合を計算したのが表1-10です。差に関しては、例えば前回メーヌで2点取った後のメーヌで、1得点する回数57と1失点する回数58の差を取ると-1になっているということです。またこのとき割合に関しては、-1 ÷ (57 + 58) = -0.02という計算をしています。割り算で割る数が10以下になる場合は、データが少ないということで算出していません。この表から、2点取った後の3失点や3点取った後の2失点が多くなっており、2,3得点した後は要注意であると言えます。
表1-10. 得点/失点の回数の差(左)と割合(右)
このような結果になる要因として、以下の説明が考えられます。
・後攻は相手のポワンテを先に見ることができ、テランの様子を知る機会が1回分多いので有利。
・1点しか取れない展開では緊張感が続くが、2,3点取ると緊張がゆるむため失点しやすくなる。
とはいえ、わずかな差ではあります。
なお表1-9に示すように、バラツキを示す標準偏差(σ)がそれなりにあり、前回メーヌの得点が大きくなる(=サンプル数が少なくなる)につれて大きくなっています。得点別の考察をさらに進めたいところですが、そのためにはもっとデータが欲しいところです。
ここで、サンプル数が少ないものの興味深いデータがあるので紹介しておきます。表1-11は、追いついて同点になった後のメーヌ取得率です。3点を取って同点になった後の場合のメーヌ取得率が低く、やはり緊張がゆるむことが起こりやすいのではないかと考えられます。
表1-11. 同点になった後のメーヌ取得率
要点をまとめると以下のようになります。
・全メーヌの約75%は2点以下で構成され、4点以上は約10%程度。
・6メーヌ以下で終わる試合は、3,4メーヌで高得点になる傾向がある。
・7メーヌ以上続く試合において、得点するか否かはリードの有無に依らないが、その得点の値には違いがある。リードしているチームは得点を大きくし失点を小さくしている。
・2,3点を取った後のメーヌでは失点しやすい。
「①各メーヌにおける得点分布」では、試合のフェーズや連続する2つのメーヌの関係に着目して、得点の入り方を分析しました。次は視点を変え、試合中の戦況が最終的な試合の勝率にどう影響するかを分析します。
例えば、ある時点でリードしている場合、その時点からの最終的な勝率は当然50%を超え、大きくリードしているほどその確率は高くなるはずです。ところが現時点の分析では、必ずしも大幅リードが最終的な勝利に直結するとは限らないという結果になっています。
なお勝率の分析において、引き分けの場合は負けと同様の扱いとしています。予選リーグ等では引き分けとして記録される試合もあります。
まず138試合1,018メーヌを対象に、各メーヌ終了時の得点差の分布を集計したものを表2-1に示します。例えば第2メーヌ終了時に2点差ついているケースは35あったということになります。序盤で得点差の小さいケースはたくさんありますが、得点差の大きいケースは少なく、中盤以降は散っていく分布(ケースごとのサンプル数が少なくなる)になっています。
それぞれの戦況で最終的な勝率がいくつになるかを示したのが表2-2です。例えば、第2メーヌ終了時に2点リードしている場合の最終的な勝率は71.4%となりました。これは、35ケースのうち25ケースが最終的に勝利となっていたことから、25 ÷ 35 = 71.4%と計算した値です。
表2-1. 各メーヌ終了時における得点差の分布
表2-2. 戦況別の勝率分布
この結果から分かる全体の傾向は以下の通りです。
①序盤では、同じリードでも前のメーヌになるほど勝率が高くなる。
②中盤以降では、同じリードでも後ろのメーヌになるほど勝率が高くなる。
③全てのメーヌを通じて、リードしている点数が大きいほど勝率が高くなる。
①については、序盤に高得点差つけるような試合では両チームの実力差が大きく、先にリードしたチームがそのまま勝利するという傾向を表していると考えられます。また、メーヌが進むほど取りうる得点差が大きくなるので、高い勝率となる得点差も大きい側に寄っていきます。
②については、時間制の試合では時間内に点差が埋まらず、同じリードでも終盤にいくにつれて勝率が高くなっていると考えられます。
③については当然な傾向と言いたいところですが、よく見ると中盤で赤と青が入り乱れているようにも見えます。この部分について詳細に分析してみたいところです。
以下では、試合のフェーズごとに分析を進めていきます。
表2-3は、序盤 (1,2メーヌ) の試合展開ごとの最終的な勝率です。±は標準偏差 (σ) の大きさを示しています。なお、1,2メーヌで得点するチームが同じであるのは66試合、異なるのは72試合でした。
両メーヌを取った場合の勝率が高いのは当然ですが、興味深いのは1メーヌ目を取った場合の勝率が66.7%であるのに対し、2メーヌ目を取った場合の勝率が56.5%であり、非対称である点です。また、1メーヌ目を取ったけど2メーヌ目を落とした場合の勝率(59.7%)は、1メーヌ目を落としたけど2メーヌ目を取った場合の勝率(40.3%)よりも大きくなっています。
表2-3. 序盤の試合展開と勝率の関係
これは、1メーヌ目を取ることが2メーヌ目を取ることよりも重みを持つことを示します。1メーヌ目の得点平均 (1.96) より2メーヌ目の得点平均 (2.06) の方がやや高く (図1-2) 、得点の大きさだけで見ればむしろ2メーヌ目を取ることの方が勝利に寄与するはずなのですが、それを上回るほどに1メーヌ目を取ることは重要であるようです。1メーヌ目を取ることが試合全体の流れを掴むことに繋がるのかもしれません。
表2-4は、1メーヌ目を取ったチームが2メーヌ目にどれくらい得点/失点するかを集計したものです。そして、サンプル数が3以上であるケースを対象に、1メーヌ目を取ったチームが勝利する確率を表2-5に集計しました。
表2-4. 序盤2メーヌの得点/失点の分布
表2-5. 序盤の各ケースにおける勝率分布
ここで、説明のために
(1メーヌ目の得点, 2メーヌ目の得点/失点)
という表現を使います。例えば (+1, -3) は「1メーヌ目で1得点し、2メーヌ目で3失点した」ケースを指します。表2-5では左上の50.0%の部分のことになります。
さて、表2-5でまず注目したいのは (+1, +1) と (+1, -1) です。 (+1, +1) の勝率は7割となるのに、 (+1, -1) では逆の3割となっています。 (+1, -1) は同点の状況ですから、勝率50%になるはずです。このケースだけに注目すれば、1メーヌ目ではなく2メーヌ目を取ることの方が重要そうです。
ただ、 (+1, -3), (+1, -2), (+1, -1) の3つを比べると、2メーヌ目での失点の大きさが勝率の低下に響くわけでもなさそうです。むしろ2失点や3失点の方が勝率は高くなっています。これは、1メーヌ目で1失点したチームの目線で語れば、「2メーヌ目は2,3点取るのではなく、1点くらいで留めておいた方が良い」ということになります。もしかしたら表1-11でも見たように、2,3得点により同点や逆転の展開になると、緊張がゆるんで後の展開に悪影響があるのかもしれません。
続いて注目するのは、1メーヌ目で2得点したケースです。 (+2, -4) を例外として、2メーヌ目の展開に依らず高い勝率を維持しています。しかも、 (+2, +1) と (+2, -1) 、 (+2, +2) と (+2, -2) を比べると、点数の大きさは同じでも失点している方が高い勝率となっています。1メーヌ目で2点取れると弾みがつくのかもしれません。表2-2によれば、1メーヌ目で2得点した場合の勝率は69.8%です。
続いて、中盤における勝率分布について分析します。図2-1, 図2-2および図2-3に示すのは、第3, 第4および第5メーヌの終了時におけるリードと勝率の関係です。原則サンプル数が9以上ケースのみを対象としました。
リードが大きいほど勝率が高くなるはずですが、いくつかデコボコしている部分があります。サンプル数が少ないながらに、特に目立つ部分をピックアップして分析してみましょう。ここでは、図2-2の「第4メーヌでリード7点の勝率」が相対的に低いことに着目します。
図2-1. 第3メーヌ終了時のリードと勝率
図2-2. 第4メーヌ目のリードと勝率
図2-3. 第5メーヌ目のリードと勝率
図2-4は、第4メーヌで7点リードした7試合の得点推移を示したものです。7点リードしていたチーム目線で、各メーヌ終了時のリード点数を繋いでいます。全7ケースのうち、最終的に勝利した4ケースは明るい暖色、最終的に敗北した3ケースは暗い寒色にしています。
どうやら今回のデータでは、逆転負けして、最後1点差で惜しくも負けてしまったケースが負けのデータとなっています。もしかしたらたまたま偏ってしまっただけかもしれません。ただ共通するのは、じわじわ逆転されるのではなく、高得点を取られて一気に逆転負けしているという点です。
図2-4. 第4メーヌで7点のリードした試合の推移
少し別の角度から逆転について分析してみます。
表2-6は、大きな点差が生じた後に点差を縮めた試合の数です。例えば、6点以上の点差をつけられた後に2点差以内にまで縮めた試合は15ケースあったということです。いままでの表と違うのは、それぞれ以上/以下で集計しているという点です。この15ケースには、7点差をつけられた後に1点差まで縮めたケースも含まれます。
表2-7は、それぞれのケースにおけるその後の逆転勝利率です。例えば、6点以上リードされたチームがその後2点差以下まで縮めた場合、そこから逆転勝利する確率は27%ということです。
表2-6. 点差を縮めたケース数
表2-7. 点差を縮めたケースの逆転勝利率
図2-5は、表2-7を描画したグラフです。まず、3点差以内まで縮めた場合よりも、1点差以内まで縮めた場合の方が勝率が高くなっており、これは直観的にも妥当な結果です。興味深いのは、大きな点差から縮めた場合の方が勝率が高くなるということです。つまり、4点リードされた状況から2点差まで縮めた場合と、7点リードされた状況から2点差まで縮めた場合は、どちらも2点差という意味で勝率が同じになるはずですが、7点リードされた状態から追いついてきた時の方が、その後に逆転勝利する見込みが高いということです。
このような傾向は皆さんよく経験しているのではないかと思います。大差をつけて気が緩んでいるチームよりも、諦めずに緊張感を保っているチームの方が強く、最後は逆転できる。そして、大差であればあるほどその緊張感の差も大きいというわけです。
サンプルが増えてきたら、逆転時は一気に追いつくのかじわじわ追いつくのか等、詳細な試合展開の分析をしたいと思います。
図2-5. 得点差を縮めたケースの逆転勝利率
要点をまとめると以下のようになります。
・終盤にいくほど点差が勝敗に直結する。
・1メーヌ目を取ることの方が2メーヌ目を取ることよりも重要。
・1メーヌ目での得点が1点だった場合に2メーヌ目で失点すると勝率は50%より低くなる。
・1メーヌ目での得点が2点だった場合の勝率は70%であり、2メーヌ目の結果に依らず勝率は高い。
・中盤においてはリードすればするほど勝率が高くなるとも限らない。
・大きな得点差が生じた状況から点差が縮まると、逆転が起こりやすくなる。
本研究では、試合のスコアシートを基に、メーヌ単位の分析と試合展開が勝率に及ぼす影響の分析を行いました。
メーヌ単位の分析では、まずメーヌごとの点数の入り方を分析しました。全メーヌの傾向を見ると、複数点になる確率はその得点が大きくなるほど小さくなり、4点以上となるのは約10%程度であることが分かりました。早く終わる試合とメーヌが続く試合では点数の入り方に違いがあり、早く終わる試合では3,4メーヌの得点が大きくなりました。メーヌが続く試合では、リードしている状況では大きく得点し小さく失点する傾向があります。そして、終盤になると得点は小さくなり、失点はさらに小さくなりました。メーヌ間の影響に着目した分析では、2,3点を取った後のメーヌでは失点しやすいということが分かりました。
試合展開が勝率に及ぼす影響の分析では、状況ごとにその時点からの勝率を計算し、勝率を左右する要因を分析しました。序盤に着目した分析では、1メーヌ目を取ることが重要であり、複数点取るか1,2メーヌ連続で取ることが勝率の向上に寄与することが分かりました。中盤に着目した分析では、特に逆転の確率について考察し、大差であればあるほど縮めた時の逆転率は高くなることが分かりました。
これらの分析から、勝率を高めるために重要な局面や注意すべき状況に関する示唆を得られるのではないかと思います。
たった2大会の予選と本戦のデータだけでも、これだけの分析をすることができました。一方で、細分化して分析しようとするとサンプル数の少なさに苦しみ、分析を中断したり妥協したりしている部分が多々あります。今後データが増えていくことで、分析の確からしさが向上し、新しい気づきが生まれ、あるいは現在の分析の誤りに気づく、その余地が大いにあるでしょう。
スコアカードのみの分析から、ここまでのことが見えてくるとは思っていませんでした。スコアカードに書かれている数字は単純なもので、1メーヌごとにその時の点数をただ記録しただけです。しかし、それはランダムなものではなく、傾向があり、試合展開があり、ドラマが詰まっています。
図3. 悲惨なスコアカード
(3メーヌ目 9-0からの逆転負け)
ちなみに138試合のうち、スコアカードの左チームの勝ちが75試合、右チームの勝ちが62試合、引き分けが1試合でした。試合に勝ちたければ自分のチームを左側に記入しましょう (?)
色んな計算をしてみて、表や図もたくさん作りましたが、個人的に好きな図表は「図2-4. 第4メーヌで7点のリードした試合の推移」です。なんやかんやで4メーヌ目7点差になった7試合分の線が、そのまま逃げ切る動きと、逆転されまいと抵抗する動きと、屈して逆転される動きをしていて、この試合をしている選手達の気持ちが表れているようにも感じます。
さて、どれだけこのような分析をしても、自分が勝つか負けるかには関係ないのではないかと思うこともあります。1メーヌ目が終わって2点リードされていて、ここからの勝率が30.2%だとして、それがなんなのでしょうか。プレイヤーとしては目の前の1メーヌそして1球に集中するのみです。この分析は何の意味もない営みかもしれません。
この疑問(恐怖)に対しては、
①全体 = 相手チームの一般像を捉えることで、作戦の基本方針を立てる根拠になる。
②自分の傾向を把握していれば、全体と比較することで長所や弱点を見出すことに繋がる。
③ペタンクのことを考えるだけで幸せならそれでいい。(異常ペタンク人間への道)
といったことが回答になるかと思います。
また、この分析は日本(東京)の大会を対象にしているわけですが、海外の一流選手たちの試合を分析して比較するのも面白いと思います。おそらく高得点になる割合が高くなるような気がしますが、果たしてどうでしょうかね。時間制限が無いことによる違いも大いにありそうです。
ちなみに、異常ペタンク人間である小成裕之氏は2006年頃に似たような分析を行っていました。
ここまで読んでくださりありがとうございます。このページは今後も更新し続けることになりますので、こんな分析をして欲しいという要望があったら是非教えてください。
また、データの集計は2024年10月から始めましたが、もし大会のスコアシートを保存してある方がいらっしゃいましたら、全国どこの大会でもいただけたら大変嬉しいです。今後の大会でもスコアカードを保存し、データの蓄積に協力いただけたら幸いです。
なお、分析にはエクセルVBAを使用しており、このリンクからダウンロードできます。
最後に、大会のスコアカードを保存・管理してくださった東京都連盟の小原さんと、分析に関する議論をしてくれた岡部・堀に感謝申し上げます。