気づきの事例検討会を、知って、学んで、実践するための参考文献紹介リスト
📝もくじ
「気づきの事例検討会」の学習・実践・研究を行うために参考にしたい文献(書籍、論文、実践報告など)について一覧にまとめました。公開後、必要に応じて追加・修正などの更新を行います。
文献の選定および「内容の紹介」(要約)については、「気づきの事例検討会」の学習・実践・研究に関連する点をとりあげ、作成者の判断(文責)によって簡潔に記述しています。より詳しい内容については、それぞれの出版社の公式ホームページ書籍案内、学術関係の文献情報データベース(例:CiNii・国立情報学研究所学術情報ナビゲータ、J-Stage・国立研究開発法人科学技術振興機構データベースなど)をご参照ください。
リスト内で便宜上使用した主な略語 SV:スーパービジョン / GSV:グループ・スーパービジョン / SW:ソーシャルワーク / SWer:ソーシャルワーカー
編著:渡部律子 / 出版社:中央法規出版 (2007年)
「気づきの事例検討会」の学習と実践に取り組む際には、必ず手元に持っておきたい必須の文献。サポーティブなスーパービジョンの要素を取り入れたグループ事例検討会である「気づきの事例検討会」の目的と概要、具体的な進め方やメンバーに期待されている役割、事前勉強会の方法など、実践的であり、かつ理論的な解説も盛り込まれた内容は、「気づきの事例検討会」はもちろん、他のどのような形式の事例検討会であっても取り組もうとする際には役立つものとなっている。さらに、事例検討会の詳細な実施例とそれを使った学習(演習)の仕方、実践の際に出会うであろう疑問に対するQ&A、実践者の体験談、豊富な資料集など、有益な内容がふんだんに盛り込まれている。
(文責:谷義幸)
著者:渡部律子 / 出版社:医歯薬出版 (2011年)
クライアントとしっかりと向き合って適切な援助関係を形成しつつ、アセスメントを基盤として支援計画を考えていくという相談援助面接の基本と実際が、丁寧に解説されている。そのなかで、実践力として欠かすことのできない援助職者としての基本的姿勢と価値観、面接における言語技術などもあわせて示されており、対人援助職にとっては必読の文献といえる。また、さまざまな事例や面接場面など、実践に即した実際例と演習が多く紹介され、現場で求められる態度、思考、スキルをトータルで学ぶことができる。これらは、「気づきの事例検討会」の学習、実践に取り組む際に欠かせない基本的な考え方や視点を身につけていくことに役立つ。特に、インテーク面接の実際(流れ、ポイントなど)が紹介されており、「気づきの事例検討会」で重要視される初回面接について学習していく際の参考になる。また、改訂第2版では、初版(1999)に加え、援助職者の「燃え尽き」防止、介護職員の現状と課題、ケアマネジメントのあり方などに関する理論や調査結果が新たに盛り込まれ、よりいっそう、ミクロからメゾ・マクロにわたる問題対処力を磨く助けとなる内容になっている。
(文責:谷義幸)
著者:渡部律子 / 出版社:ミネルヴァ書房 (2019年)
ソーシャルワーク実践(対人援助)にとって必要な統合的・多面的アセスメントの考え方と視点、そして、ソーシャルワークの使命、援助プロセス、相談援助面接などのアセスメントを支える実践基盤および統合的・多面的アセスメントの情報枠組みに関する理論や臨床知見について詳述されており、クライエントを全人的にとらえ、かつ主体として支援していくための実践力が身につく内容となっている。また、多くの人が身近で体験するような事例や逐語記録などを豊富に交えて、基本知識と実践への応用に関して解説されている。「気づきの事例検討会」を実践する上で最も重要なアセスメントおよび省察的実践について、理論的な整理と実践への応用の両面で学ぶことができる最適なテキストとなる。
(文責:谷義幸)
著者:渡部律子 / 雑誌:月間ケアマネジメント2012年1月号 / 出版社:環境新聞社 (2012年)
クライアントへの最善のサービス提供のために、事例をもう一度考え直す事例検討において、そのプロセスを通じて事例提出者も成長することを目指し、援助者自身の「理解・納得」を重視する「気づきの事例検討会」の考え方がわかりやすく解説されている。あわせて、援助職の基本的なアセスメント項目が紹介されている。そして、援助職者(ケアマネジャー)の仕事は、言語化を惜しんではならず常に言葉で確かめることが必要で、事例検討会は時間をかけて自分の言葉にする作業にほかならない、と述べられている。
※気づきの事例検討会の基本を学ぶ資料として活用できる。
(文責:谷義幸)
著者:渡部律子 / 雑誌:ケアマネジャー2008年11月号 / 出版社:中央法規出版 (2008年)
連載特集<ケア会議と事例検討会・事例検討会の要点>のなかで、「気づきの事例検討会」の考え方・進め方をベースにして、SVの必要性、気づきの事例検討会の5つの有効性、事例検討会を開催するにあたって共有しておくべき知識・技術・哲学、スーパーバイザーがいない場合の事例検討会でのゴールと目標および約束事、がわかりやすく紹介されている(渡部:事例検討会の基本と効果)。あわせて、スーパーバイザー(的人材)がいないなかで行う事例検討会の準備~終了後までのプロセスとポイントについて、「気づきの事例検討会」の考え方にそって紹介されている(プロセスとポイント、渡部監修)。
※気づきの事例検討会の基本を学ぶ資料として活用できる。
(文責:谷義幸)
著者:渡部律子 / 雑誌:ケアマネジャー2011年5月号-8月号・2012年3月号-5月号 / 出版社:中央法規出版 (2011年ー2012年)
内容は、①気づきの事例検討会の基本姿勢(渡部)、②検討会の基盤となる知識・技術とメンバーの役割(渡部)、③基本ルールを守り仲間とともに取り組む(前川嘉彦)、④『本物の実践力』が身につく!その醍醐味(谷義幸)、⑩-⑫「気づきの事例検討会」実施に必要な事例理解の方法(渡部)。「意図したものとは異なる形で“気づきの事例検討会”が開かれるようなケースを見聞きすることもあり、「気づき」という名前だけが一人歩きをして誤解されているような危惧」(渡部)もあり、特に①~④で、より意義のある場とするための基本的な考え方をあらためて紹介している。また、⑩-⑫では、連載のエピローグとして自分たちで「気づきの事例検討会」を実施する際に大切となるポイントの「おさらい」を目的に、ひとつの事例検討会を例示して、アセスメントの枠組みの理解、事例理解を深めるやり取りの意味、という観点からの解説がされている。
※気づきの事例検討会の基本を学ぶ資料として活用できる。
(文責:谷義幸)
著者:谷義幸 / 雑誌:社会福祉研究106号 / 出版社:鉄道弘済会(2009年)
SWとは「似て非なるもの」が広がっているのではないかという危機感のもと、実践力を磨く1つの方略として、筆者の取り組み経験である県MSW協会・現任者研修体系化の試みと「気づきの事例検討会」の実施の2つを紹介している。それぞれの内容を示したうえで、2つの実施例に共通する考え方として、実践の中にいる自分を見つめることから生まれる内発的な「気づきの深まり」を実践力づくりの基底とすること、正解探しではなく、仕事術やマニュアルでもなく、自らが常に振り返り考えながら取り組む姿勢の醸成が必要なこと、などをあげている。
(文責:谷義幸)
監修:渡部律子 協力:奥川幸子 / 出版社:中央法規出版(2007年)
GSVの要素を取り入れた「気づきの事例検討会」の方法を詳細に紹介。実際に「気づきの事例検討会」として行われた内容をもとに、教材として映像化されている。事例検討会の流れ、メンバーの態度や表情、雰囲気やニュアンスをともなうやりとりの実際など、視聴を通して体感し、「気づき」が生まれる過程を一緒に疑似体験することで、具体的な展開方法を学ぶことができる(収録時間:約82分、シナリオ・解説付)。
※中央法規出版動画配信サイトの映像商品として、2007年6月に発刊した同名のDVDを媒体変換
(文責:谷義幸)
著者:渡部律子 / 雑誌:社会福祉研究103号 / 出版社:鉄道弘済会(2008年)
わが国におけるSVの現状と課題について、ケアマネジャーのSVに関連する出来事を素材として分析している。そして、SVの概念整理、存在意義、3つの重要な機能などについて、理論と実践の両面から考察されている。さらに「『管理的機能だけでなく教育・支持的機能を備えたスーパービジョン』が必要不可欠であったにもかかわらず、それを体系的に提供できないシステム」の現状のもとで、実践現場において「今何ができるか」について、①記録による「仕事の振り返り」の習慣づけ、②専門職団体等によるバイザー養成の長期的な研修体系作り、③制度・資源の不備に対するアドボカシー機能の補充、などをあげている。そのなかで「気づきの事例検討会」の地域での取り組みについても紹介されている。
(文責:谷義幸)
著者:渡部律子 / 雑誌:社会福祉研究143号 / 出版社:鉄道弘済会(2022年)
準備、心構えなどの意味をもつレディネス(readiness)をキーワードに、バイジーの成長のためにはどのような準備が必要か、について考察されている。まず、バイジーが理解しておくべきSVの基本として、省察的実践、バイザー・バイジーの関係性、アセスメント、記録の役割、学習効果に影響する要因、が紹介され、それをふまえて、バイジーに必要な要件が解説されている。そこでは、「成長を続けるケアマネジャーに必要なバイジーとしてのレディネス」に関して、①現状の適切な認識、②実践の基本の習得、③基本の応用、④SV機会を通じた応用の適切さの検証、およびこの①~④のプロセスに影響を与える環境要因、についてまとめられている。そのなかで、「法定研修に含まれる知識を一通り学んでおくだけでは、実践に必要な基本の習得は十分とは言えない。SVを通じて自己の成長を目指すバイジーの基本的視点として、『省察的実践家』として成長していこうとする自覚が大切になる。」と指摘されている。また、随所で、SV要素を取り入れた事例検討会としての「気づきの事例検討会」が取り上げられている。
(文責:谷義幸)
著者:渡部律子 / 雑誌:ケアマネジャー2022年5月号 / 出版社:中央法規出版 (2022年)
ケアマネジャーのスキルアップと利用者のQOL向上に極めて有効といわれる省察的実践について、Schön (1983)の理論を筆者の解釈をもとに、ケアマネジメントに応用して紹介。そのなかで、ケアマネジメントの質の向上に省察的実践が有意義である理由をおさえたうえで、省察的実践家の条件および基盤となる知識・スキルについて、ケアマネジャーが自分自身に問いかける10の質問としてわかりやすく解説されている。そして、筆者からのメッセージとして、省察的実践にとって事例検討会やピア・スーパービジョンが有効であること、間違った形での“省察ごっこ”“気づきごっこ”をすることを避け、実践で対峙した課題について基本知識・スキルと照らし合わせて振り返ること(省察の習慣化)の大切さが述べられている。
(文責:谷義幸)
著者:渡部律子 / 雑誌:ケアマネジャー2021年4月号-2022年4月号(13回) / 出版社:中央法規出版 (2021年ー2022年)
ケアマネジャーが成長し続けるために有効な方法である省察的実践について、その概要や具体的イメージの紹介に始まり、省察的実践を可能にするために必要な知識・スキルに関して、「援助の展開と結果に影響を与える4つの要因」(①援助職者要因、②クライエント要因、③所属組織要因、④制度要因)にそって解説されている。それぞれの内容は、ケアマネジャーの現状に即して具体的でわかりやすい説明がされており、自らをかえりみて考えながら実践力を高めていくことにつながる。特に第13回(2022-4)「スーパービジョン②」では、気づきの事例検討会における事例提出用紙(記録)の役割として、記録内容(書くこと)が、どのようにケアマネの成長に役立つかが説明されている。
(文責:谷義幸)
著者:渡部律子 / 出版社:中央法規出版 (2013年)
自己覚知、職業倫理、相談援助面接のプロセス、コーディネーションなど、対人援助職に必要な基本的姿勢・知識・スキルを関連づけながら解説。さらに、クライアントとクライアントの課題の理解に役立つ理論・考え方として、精神分析、家族システム、ストレスコーピングなどの知見がわかりやすく紹介されている。全編にわたり、ケアマネジャーの仕事に即した事例を交えて具体的・実際的に役立つ知識が豊富に盛り込まれており、日々の仕事や事例検討会に求められる基礎理論を学ぶための最適のテキストといえる。
※対人援助に必要な知識、気づきの事例検討会の実践に役立つ基礎理論を学べる。
(文責:谷義幸)
著者:渡部律子 / 雑誌:ケアマネジャー2022年6月号-2023年3月号(10回) / 出版社:中央法規出版 (2022年ー2023年)
職業選択の理由、自己理解、クリティカル・シンキング、人間行動理解に役立つ理論の応用、支援困難事例、学び続ける理由、など、ケアマネジャーの実践力向上に欠かせない内容について、相談援助職に求められる知識・スキルと照らし合わせながら解説されている。さまざまな具体例、自らを振り返る質問や図表などがふんだんに取り入れられ、実践力の向上に向けた学習及び利用者支援に活かすことができる内容となっている。
※対人援助に必要な知識、気づきの事例検討会の実践に役立つ基礎理論を学べる。
(文責:谷義幸)
著者:渡部律子 / 雑誌:ケアマネジャー2020年4月号-2021年3月号(12回) / 出版社:中央法規出版 (2020年ー2021年)
ケアマネジャーの実践力として欠かせないが、養成課程においては学ぶ時間があまりに少ない「相談援助」のスキルについて、自分のものにしていくための手がかりとして、ポジショニング、エコマップ、アセスメントの着眼点、利用者個人の理解、支援展開のプロセス、アウトリーチ、ストレス対処、ソーシャルサポート、利用者の語りを「聴く」意味、スーパービジョンなどをとりあげて解説されている。とりわけ、「利用者の理解」(アセスメント)に焦点をあてて詳述され、理論と実践を結びつけながら学ぶことができる内容となっている。
※対人援助に必要な知識、気づきの事例検討会の実践に役立つ基礎理論を学べる。
(文責:谷義幸)
著者:川村隆彦 / 出版社:中央法規出版 (2006年)
私は、もう長くこの仕事をしているにも関わらず、人の「尊厳」だったり、「存在の価値」を考えることが苦手です。研修で価値と倫理を学び、知識として習得する中で「尊厳を大切にするんだな」ということを理解はできるのですが、では一体、それを、自分の中でどう落とし込めばいいのか、実態のないものを触ろうとしているような不全感がありました。そんな時にこの本に出会いました。川村隆彦先生は、「人権や社会正義など、専門職の理想とするべき価値と倫理は、頭だけで理解するものではない。それはこれまでの自分の経験や価値観と共鳴させながら、自分自身の根に取り入れていくべきものである。」と書かれています。この言葉を見た時に、自分が知識や理論だけで、専門職としての価値を理解しようとしていたことに気づきました。この本の中には、著者自身が、幼い頃に両親からどのような関わりを受け、どのような価値観を育んできたのか?名作といわれる小説に出会ったときに、どのような「まなざし」に気づいたのか?など、生活の中の実体験になぞらえながら、専門職の価値と倫理に重ねて深く考えることができる本です。この本を読むと、自分自身も、家族だったり、友人、先生など、多くの温かい育みを受けてきたことを思い出します。そこに立ちかえることで、人の「尊厳」だったり「存在の価値」が腑に落ちる形で見えてくるように思いました。自分自身のことも、他の人たちのことも大切にしたくなる…そんな一冊です。
(文責:足立里江)
著者:ロルフ・デーケン(赤根洋子訳) / 出版社:文春文庫 (2003年)
20年も前の本ですが、精神分析の父ジークムント・フロイトの理論に挑戦し、その限界と誤りを明らかにした一冊です。ロルフ・デ―ケンは、フロイトの理論が20世紀の心理学や精神医学に与えた影響を評価し、その中で見逃されがちな重要な問題点を浮き彫りにしています。特に、フロイトの理論に基づく心理療法やカウンセリング技法が、実際にどのような効果や限界を持つのかに焦点を当てています。対人職者にとって、この本は重要な示唆を与えるものです。特に、クライアントとの信頼関係や治療的関係を築く上で、フロイトの理論に基づく過度な「解釈」に頼ることが問題を引き起こす可能性があることを警告します。デーケンはフロイトの心理学がどのように個人の自己理解や文化的背景を無視してきたかを批判し、現代の心理療法における多様性や個別性を重視する視点を提案しています。本書のスタンスは、「実証されたものだけを信じる」に尽きることです。対人援助職として働く人々が、より包括的で柔軟なアプローチを考える貴重な資料になり、クライアント一人ひとりの固有の背景やニーズにより敏感に対応するためのヒントとなるかと思います。
(文責:安達眞理子)
著者:河合隼雄 / 出版社:講談社+α文庫 (1997年)
本書は1991年の上半期に読売新聞の夕刊に110回にわたり連載されたコラムがもとになっている。一つの文は見開き2ページになっていて、短くて非常に読みやすく、読むことが苦手な方でも読書に取り組む入門書になると思っている。 ただ、読みやすいから簡単明快かといえばそうでもなく、老いるということについて広くて深い捉え方を示唆してくれている。 タイトルだけを見れば老後の生き方のハウツー本のようにも感じられるが、決してそうではなく多面的に統合的に捉える視座が必要であることがうかがえる。 私は、ケアマネジャー・その他の対人援助職者、家族介護者も含めて多くの高齢者に向き合う人たちが、学問的に老いを捉え、パターン化された理解に重きを置いて高齢のクライエントを分かっていきがちだと感じている。簡単に分かり簡単に対応する方法探しに力を注いでいるように思う。 もっと広い視野を持って前向きに老いるということを感じる一助になる本だと感じている。
(文責:稲松真人)
著者:大友芳恵 / 出版社:法律文化社 (2013年)
死ぬときは果たして皆同じか?人生というプロセスに生じている不平等や不公正の存在に接近する、という問題意識のもと、「人生の終焉」のあり方について「尊厳」という観点から高齢期の生活保障を捉え直した書。都市部・地方(農村部)・介護施設の高齢者の生活現状について、本人が語る主観的世界を尊重するという立場からライフストーリー的分析手法を中心とした調査によって、低所得での生活と不平等、貧困の実態を示しながら考察している。本書から10年余り…私たちの暮らしは好転しているのか??「終活」など、逝き方までもがコーチングされるような風潮のなか、「死にゆきかた」において「尊厳」が損なわれている現実を問う本書の意味は重い。そして、本書の特徴とも言える生活調査における本人の語りは心を打つ。私たちが、利用者のアセスメントにおいて何を大事にするのか…社会的なまなざしを育む「パッション」と「インスピレーション」を与えてくれる貴重な研究成果である。
(文責:谷義幸)
著者:尾崎新 / 出版社:誠信書房 (1997年)
援助者は新たなクライアントに出会うとき、はじめにかならず「曖昧」で「多様」な状況と直面する。対人援助の仕事において、いかに援助を進めればよいか、どのようにクライアントと関わるのが適切であるか、常に正しい答えは存在しない。一人ひとりのクライアントや家族、あるいは援助者や援助職場がこうあるべきと画一化できない複雑な事情を持ち合わせているからで、常に答えは同じではないからである。問題はクライアントにのみ存在するのではない。援助者の持つ感情や援助観、偏った見方などが影響を与えたり、援助者が援助の曖昧さ、無力感を不健康に否認することで援助が混乱したり、破綻する事態をまねくこともしばしば。援助者は「どのように相手に働きかけるか」だけではなく「いかに自分に働きかけるか」も重要である。援助者としての自分に焦点をあて振り返ることができ、援助に対する構えや向き合い方、姿勢を考えさせられた。
(文責:徳弘敬章)
著者:御代田太一 / 出版社:河出書房新社 (2023年)
東京大学の授業で福祉と出会った著者が、卒業後、滋賀県の救護施設「ひのたに園」に就職し、六車由実氏の「驚きの介護民俗学」を参考に、勤務先で入居されている方から聞き取りしたエピソードをまとめた一冊。記憶を喪失し救護施設での生活がはじまった山室さん、自殺しようと山を登ったが死ぬことが出来なかった廣瀬さん夫妻、仕事が無くった日本国籍のない外国人就労者のミゲルさんなど、様々な理由で最後のセイフティーネットと言われる救護施設で暮らす方々の、個性豊かなエピソードがまとめられています。相談援助を行う中で、アセスメントを行いクライアントを理解することは非常に重要です。「ひのたに園」で生活する方のエピソードから、今のその人の生活を理解するとともに、それぞれの今に至る背景と思いを理解することがいかに重要か、自分自身のアセスメントを改めて考えさせられます。また、退所を目指す藤原さんが施設近くのアパートで生活をはじめ、支援者の予想を超えて地域の方と交流するエピソードには、利用者のストレングスの理解と自立をどう支えるかのエッセンスが・・・ 相談援助職者としての自分自身に問いかけながら読むことが出来る一冊です。
(文責:前川嘉彦)
更新日:2025年4月1日
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