研究の目的
私たちヒトが病気になるように、植物も病気になります。人の主食であるイネやジャガイモなどの伝染病は、これまでの人類の歴史で幾度となく飢饉やそれによる移民などを引き起こしており、ヒトや動物の伝染病と同じように大きな社会的インパクトがあります。
植物病理学は、そんな人と植物の病気との関係を取り扱う学問分野です。どうして植物は病気になるのでしょうか?植物は、どうやって病気から自分の体を守っているのでしょうか?作物の病気の発生や伝播を防ぐために、我々はどうしたらよいのでしょうか?このような疑問に答えるため、イネ科植物いもち病菌を対象とし、メンデル遺伝学から最先端の分子生物学の技術を駆使して日々研究を行っています。
現在主として取り組んでいるのは、コムギいもち病です。本病原菌は、1985年にブラジルで初確認され、その後南米の周辺諸国に伝播して大きな被害を引き起こしました。最近ではバングラデシュやインドに飛び火し、Pandemic Disease(世界的流行病)になりつつあります。本研究室では、この病原菌がどのようにして進化し出現したのかを解明するとともに、これに対抗すべくコムギいもち病抵抗性遺伝子の探索・同定と、その遺伝子の導入による抵抗性コムギ品種の育成に取り組んでいます。
いもち病菌の寄生性分化機構の解明
病原菌はどのようにして植物に感染しているのでしょうか?また、健全な植物体はどのようにして、病原菌の侵入から身を守っているのでしょうか? 私たちは病害に強い作物の開発に繋がる分子基盤の構築を目標に、いもち病菌の寄生性分化機構に着目し、病原菌の病原性進化機構と特にムギ類が持つ抵抗性の遺伝的機構の解明に取り組んでいます。
いもち病菌(学名:Pyricularia oryzae)は様々なイネ科植物を宿主とする植物病原糸状菌(かび)です。興味深いことに、いもち病菌は特定の宿主属に対応した寄生性分化を引き起こしています(図)。例えば、イネ属植物から分離されたいもち病菌はイネに感染できる一方、他属のイネ科植物に感染することは出来ません。このような特異性を決定づける遺伝的メカニズムを解明するために、本研究室では遺伝学と分子生物学的手法を駆使して、いもち病菌のもつ病原力遺伝子の単離と植物の抵抗性を支配する抵抗性遺伝子の単離を試みています。
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『神戸大学:Research at Kobe』
コムギいもち病抵抗性育種
大規模栽培されるコムギにとって、「抵抗性育種」は最も経済的な病害防除法の一つです。ところが、出現したばかりであるコムギいもち病菌に対して抵抗性を有するコムギ品種は、ほんのわずかです。私たちは、抵抗性育種に有用な抵抗性遺伝子源の探索、及びそれら遺伝子の単離を試みています。これまでに、世界に先駆けて本研究室から5つの抵抗性遺伝子を報告しており、現在、国内外の研究機関と協力して日本や世界各国の主要コムギ品種への抵抗性遺伝子導入を進めています。
上述の遺伝子に加え、さらなる抵抗性遺伝子源を同定するため、コムギ近縁野生種であるAegilops属植物や、エンバクやイネなどの身近なイネ科栽培植物に眠るコムギいもち病抵抗性遺伝子を探索し、それらを活用するための技術開発に取り組んでいます。
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『神戸大学農学研究科:研究成果紹介』