主な研究内容
身近な物理現象に対する物理法則が実験事実から理解されてきた。それらを精査することにより "対称性''という概念が自然界の根底には存在することが明らかになった。この考えに基づき、4つの力(重力、電磁力、強い力、弱い力)の理論を考えると、そこには驚くほどの類似性がある。理論的には、この力の幾つかを統一的に記述することは、自然な流れで理解される。近年、加速器実験で発見されたヒッグス粒子は、この野心的な統一理論の考え方を支持している。画像の引用先
多数の粒子が強く相互作用する量子多体系には、なお多くの謎が残されている。クォークはハドロン内に閉じ込められて単独では観測されず、その機構は未解明だが、素粒子論における双対性(理論間の対応関係)を用いた理解が進んでいる。また原子核の構造・反応では、三体核力の役割が活発に研究されている。こうしたミクロな相互作用の理解は、高密度環境にある中性子星内部の状態や物質の相転移の解明にも繋がる。
宇宙は決して永久不変の存在ではなく、進化を続けている。誕生直後の宇宙は熱く、素粒子がコンパクトにぎっしりと詰まったスープ状の様相をしていたと考えられている。その後、宇宙は膨張して温度が下がり、星が形成されるようになった。星もまた進化する。重たい星は死ぬ瞬間に爆発(超新星爆発)を起こし、我々の身近に存在する多様な元素を宇宙空間にまき散らす。より重たい星はブラックホールを残して死ぬかもしれない。最近、そうしてできたブラックホール同士が合体する現象が、重力波によって観測された。アインシュタインの最後の宿題と言われていた重力波の観測がついに成し遂げられたのである。
研究キーワード
以下に研究キーワードを大まかに説明します。より詳しく知りたい学生は、直接研究室を訪問することをお勧めします。
標準模型
標準模型は自然界を記述する基礎的な理論であり、ゲージ対称性SU(3)×SU(2)×U(1)をもとに構築された理論である。このゲージ対称性は、素粒子が受ける4つの力(重力、電磁力、強い力、弱い力)のうちの重力を除いた3つの力に対応し、重力以外の素粒子の相互作用について標準模型は正しい記述を与えてくれる。2011年には、この理論の最後の鍵であるヒッグス粒子が実験的に見つかり、この理論の成功がより強固なものとなった。
大統一理論
3つの力がゲージ対称性で理解できることに触れたが、この類似性はひとつの深遠な可能性を示唆している。より大きなゲージ対称性(SU(5)やSO(10)など)の存在を仮定すると、標準模型の対称性がすべてひとつの対称性に含まれることになり、3つの力について統一的な理解が得られるのである。標準模型におけるヒッグス粒子は対称性の破れを起こし、現実の世界を記述する重要な役割を果たしている。そのアイディアを拡張し、まだ見つかっていないヒッグス粒子が存在すると仮定すると、より大きな対称性が自発的に破れ、標準模型のゲージ対称性SU(3)×SU(2)×U(1)が生じてきたと考えることができる。この3つの力の起源を統一的に記述する理論を大統一理論と呼ぶ。
超弦理論
超弦理論はアインシュタインの一般相対性理論と量子力学を両立させる量子重力理論である。この2つの要請を4次元時空の理論で実現することはまだできておらず、時空を10次元に拡張した超弦理論が唯一の候補と言われている。この理論の時空は10次元であることから余剰な6次元が存在するが、この6次元を十分小さなスケールにコンパクト化することで、実際の観測結果と矛盾することのない理論が得られる。また、この余剰な次元の振る舞いに応じて、4次元に生じる理論が異なり、その自由度を利用することで、標準模型を弦理論の枠内で構成することも可能となっている。量子化された重力理論が必要になってくるのは、極めて重力の作用が強くなるブラックホールの特異点付近や、宇宙の創生の時期である。こうした物理現象を真に理解するためには、量子化できる重力理論が必要なのである。
余剰次元・高次元ゲージ理論
超弦理論は10次元時空で定義される理論である。しかし、我々が住む宇宙は、縦・横・高さの3次元空間に時間の1次元を加えた4次元時空である。したがって、超弦理論では追加の6次元空間の存在が要請され、これらは余剰次元と呼ばれる。余剰次元の考え方は大統一理論などにも応用され、標準模型が抱える未解決問題を説明する可能性の一つとして研究されてきた。現在までに観測されているのは3次元空間であるため、余剰次元は非常に小さく折りたたまれていると考えられている。このような空間によってもたらされる幾何構造が物理現象にどのように現れるかを探ることで、「この宇宙は何次元なのか」という根本的な問いに迫ることが期待される。
素粒子論的宇宙論
観測結果から、宇宙は昔に遡るほど物質は密になり、温度は高くなり、そして宇宙は小さくなる。宇宙が誕生した直後では、量子力学的なサイズであり、それがインフレーションによって指数関数的に膨張したと理解されている。このインフレーションとその後の宇宙の発展は素粒子論と密接に関わっており、粒子がどのような結合をもち、どのような性質を持つかによって宇宙の発展が支配される。現在の宇宙には物質のみが存在し、反物質は自然には存在しないが、そのメカニズムを理解するためにも素粒子論は不可欠である。またダークマターの存在も実験から示唆されているが、その物質の素粒子論的性質も宇宙の創生を知るうえで重要である。
超弦理論的宇宙論
弦理論は、標準模型を導く、現在知られている唯一の量子重力理論である。このことから、弦理論特有の物理現象が宇宙の創生を支配していると考えることは興味深い。弦理論を完全に扱うことは非常に難解である。弦理論には紐状の物体の他にDブレーンと呼ばれる膜状の物体が存在している。こうした登場人物が初期宇宙において顕著な役割を果たすことも考えられており、そのような弦理論特有の効果を用いて初期宇宙の描像を調べることは重要である。
真空崩壊
真空崩壊とは、ポテンシャルの極小点(準安定状態)にあった系が、より低いエネルギーの状態へ量子的に遷移する現象である。本質的に単純なアイデアであるにも関わらず、宇宙論においては電弱相転移の記述に深く関わり、宇宙の歴史を理解する上で重要な役割を果たす。さらに、真空崩壊の理論を現在の安定した宇宙に適用することで、素粒子物理において無数に考えられる物理理論に制約を与える。このように、真空崩壊は複数の分野を横断する魅力的な現象であり、同時に新物理探索における有用なツールとなっている。
超対称ゲージ理論と双対性
双対性は、90年代に大きく進展した理論間の対応関係である。2つの異なる理論の間に対応関係が見つかったとすると、その関係を用いて、ひとつの理論である問題が解けなくても、もうひとつの理論でその問題を解くことが可能となる。このように、双対性は極めて強力な手法となる。一般に、双対な理論を見つけることは非常に難しい問題である。超対称性を保つ理論ではこの双対関係を調べやすく、その結果としてゲージ理論の強結合領域におけるダイナミクスや真空の相構造の理解ができるようになった。これらの結果から強結合領域では閉じ込め現象に限らず多くの興味深い相が現れることが理解された。
有効場理論
場の量子論は、素粒子の記述にだけ使われるわけではない。場の量子論のもつ普遍的な性質によって、核子のような複合粒子の低エネルギーでの相互作用も系統的に扱うことができる。有効場理論を用いれば、モデルによらない、一般的な解析を行うことができる。
三体核力
3つの核子に働く力で、二体核力の組み合わせでは記述できない。三体核力は謎だらけで、その強さや原子核の構造・反応にどのように寄与するのかが解明されていない。この謎を解くために、カイラル有効場理論によって導出された二体核力と三体核力をインプットとして、核多体計算をスーパーコンピュータ上で実行することが現在の原子核理論研究の大きな潮流である。
超新星爆発
太陽より約10倍以上重たい星は、その進化の最後に自らの質量を支えきれなくなり重力崩壊をする。その結果、超新星爆発が起こって中性子星が残されたり、ブラックホールが形成されたりすると考えられている。しかし、その全容が理論的に解明されたとは言い難いのが現状である。重力崩壊した星の中心部では非常に高密度な状態となり、原子核や素粒子といった微視的な物理過程が爆発のダイナミクスにあらわな影響を与え、同時に大量のニュートリノを宇宙空間に放出する。よって、この現象を正しく理解するためには、大型検出器によるニュートリノの観測とともに、粒子系物理学に基づく理論研究が不可欠である。
ニュートリノ天文学
超新星爆発をはじめとする種々の高エネルギー天体から放射されるニュートリノは、天体内部の情報のみならず宇宙における天体進化の歴史や、素粒子としてのニュートリノの性質についての情報をも我々にもたらす。また、過去に起こった大質量星の重力崩壊を起源とする背景ニュートリノ放射は、近い将来、検出が期待されているため、その理論モデルの構築と検出予測が重要な課題となっている。