自分たちの研究を、どのように説明できるか
文献や史料を読む、作品を解釈する、遺物を分析する、社会を調査する。人文学には、多様な研究の実践があります。それぞれの研究は、どのような知識や理解をもたらすのでしょうか。同じ資料や対象について異なる説明や解釈が示されたとき、何を根拠にその妥当性を判断できるのでしょうか。
「人文学の哲学」研究会では、具体的な研究実践に即してこうした問いを検討し、研究方法の前提・有効性・限界を吟味します。自分たちが何を、どのような手続きと根拠によって明らかにしようとしているのかを理解し、その意義や成果について、より責任ある説明ができるようになることを目指しています。
これは、自分たちの営みそのものを理解するための探究であるとともに、人文学の今後を考えるための取組でもあります。そこで得られる知見を、自らの専門研究を進めたり、その内容を他分野の研究者や社会に伝えたりする際に生かしていきます。
「人文学の哲学」という問い
研究会の名称では、「人文学の哲学」に引用符を付けています。多様な研究を「人文学」として捉え、それらを哲学的に検討する探究は、どのような意味で成り立つのでしょうか。その問い自体を、この研究会で考えていきたいからです。
人文学にはどのような共通性があり、どのような違いがあるのか。社会科学や自然科学とは、どこで重なり、どこで異なるのか。人文学の範囲や哲学との関係も、検討すべき問いとして扱います。
各分野の実践から、共同で考える
研究方法や概念の吟味は、人文学の各分野でも行われています。例えば、歴史学で用いる「近代」という概念が、ある時代や出来事を理解する目的に適しているかを考えることも、その一例です。
本研究会では、各分野が積み重ねてきたこうした検討を持ち寄ります。知識、証拠、解釈、意味、価値といった概念をめぐる哲学の議論も参照し、研究者それぞれの判断を支える理由を明確にします。同時に、哲学の側から示される見方についても、各分野の研究実践を十分に捉えているかを問い直します。
異なる分野の研究者が対等に議論し、その知見を専門研究や教育に持ち帰る。この往復を継続するために、それぞれの分野における確かな専門性と、研究実践の多様性を大切にしています。
取り組む問い
多様な研究を「人文学」としてまとめる理由は何か。各分野の研究目的には、どのような共通点と相違点があるのか。
資料の読解や作品の解釈、調査や分析は、どのような根拠に基づいて知識や理解につながるのか。
複数の説明や解釈の妥当性を、どのように比較できるのか。成果の信頼性や研究の進展は、どのように判断されるのか。
人文学と自然科学には、目的や方法についてどのような共通点と相違点があるのか。
価値判断や政治的・社会的な関心は、研究の問いや方法、成果の評価にどのように関わるのか。研究倫理を、各分野の具体的な実践に即してどう考えられるのか。
活動
定例研究会では、Stephen R. Grimm、Rik Peels、René van Woudenbergの共著 A Philosophy of the Humanities(Oxford University Press, 2025)を出発点として、各章の議論を検討します。哲学的な用語や議論は適宜補足し、参加者がそれぞれの専門分野の経験や問題意識に照らして、著者らの提案を検討します。その提案への疑問や違和感も、議論を進める手掛かりにします。
2026年8月6日に第1回研究会を開催しました。今後も定例研究会を継続し、2027年2月または3月にはワークショップを開催する予定です。
拠点形成事業について
本研究会は、次の拠点形成事業の一環として活動しています。
課題名:人文学の方法論的研究拠点形成――「人文学の哲学」を通じた諸分野の接続
代表者:植村玄輝(岡山大学)
支援事業:2026年度岡山大学次世代研究院公募事業《C》拠点形成加速型
支援期間:2026年7月7日〜2027年3月31日
この事業を足掛かりに、人文学の目的・対象・方法をめぐって、学内外の研究者が継続的に協働する研究拠点の形成を目指しています。