物理教育レクチャーシリーズの趣旨
多くの方に物理教育研究に取り組んでいただきたいという考えのもと、物理教育研究ビギナー向けの企画です。学会員の方、これから学会に入会されようとしている方に興味・関心を持っていただければと考えております。次世代形成WGで検討し、日本物理教育学会のオールスター講師陣に講演をお願いしています。また、学会のYouTubeチャンネルで発信し、広く認知してもらうこととともに、学びたいと思っている方でご家庭の都合などで研究会などに参加できない方でも、ご都合の良い時間帯にご覧いただければと考えております。
過去のアーカイブ動画のPart1と講演紹介文を以下に掲載しました。
第11回「タイトル未定」日時未定。
第1回講師 新田英雄
「物理はわからないから苦手」と言う生徒は少なくありません。なぜ,物理はわかりにくいのでしょうか。どうしたら,わかりやすい授業ができるのでしょうか。物理教育研究は,これらの切実な物理教育者の問いに,科学的に答えようとする研究分野です。物理の難しさはどこから来るのか,物理をわかってもらうためにはどうすればよいのか,「わかっている」かを評価するにはどうすればよいのかなどについて,今日までに物理教育研究が明らかにしてきたことを紹介しながら,皆さんを物理教育研究へと誘いたいと思います。
第2回講師 小河原康夫
高校現場における、非常勤講師と現任校での指導経験をあわせ、30年になろうとするこれまでを振り返ると、いくつかの大きな気づきによって方向性を変えながら物理教育を実践してきたのだと実感する。それらを、いくつかの期間に分けて、将来ある方々にご紹介したい。部分的にでも、何らかの参考にしていただけるようであれば、望外の喜びである。特に、ニューヨーク校での勤務とカリフォルニア州立大学客員研究員の経験から得たことなどは、ぜひお伝えしたい内容である。質疑応答を通して、私自身も参加者から学びを得られることを楽しみにしております。
第3回講師 右近修治
物理教育では情報を伝えたり,学生が物理の概念を獲得することを助けたりするために,図解はもちろんのこと,概念図,ベクトル図,表,グラフ等,様々な「表現」を用います。文章や数式,そして発話などもこうした「表現」の一つと捉えることもできます。また,これらが外的表現であるのに対して,「生徒にイメージを持ってもらう」などと言うときの「イメージ」は内的表現あるいは表象です。「表現」は物理教育とどう関わるのでしょうか。皆さまと共に考えたいと思います。
第4回講師 土佐幸子
授業研究は「指導案検討→授業実践・参観→協議会」を通して、授業改善を目指す教員研修形態の一つです。日本に古くからある、主に小中学校の教員を対象とする研修形態ですが、2000年代になってからレッスンスタディとして広く海外において注目され、実践されるようになりました。レッスンスタディは、教科や学校種に関わらず、教員が自分の授業実践を見直し、学習者の学びを促すための方略を見つけ出す有効な方法です。本講演では、大学物理や小中高理科の実例を基に、その特徴と具体的方法を紹介します。
第5回講師 笠潤平
私の講演は、あまりすばらしくありません。「物理教育研究を踏まえた授業づくり」はわれわれの目標ですが、少なくとも私にはわからないことだらけなので、何が必要かを考える程度で羊頭狗肉であります。内容には、アメリカのperiscopeという企画の検討を入れます。これは実際のチュートリアル型の授業中の一場面を撮影した短い動画を見て討論をすることで、インストラクターとしてのスキルや見識を豊かにしていくことを目指した教材の集成です。授業の運営、学生への姿勢に焦点を当てています。面白いです。もう一つの内容は教材づくりです。教材の仕立て直しをわれわれはすべきだろうしできるように思います。例をうまく示せたらと考えています。もう一つの重要な点は評価ですが、これは重要だというにとどまります。
第6回講師 山崎敏昭
研究会を通して物理の授業作りや新しい実験教材の開発などで多くの先輩や仲間から学び、興味のあることは何でも人に尋ね、いいものは自分でもすぐ採用して授業に取り入れてみる。研究会では何でも自由に議論しながら、得たものを共有する、そんな体験をずっとしてきました。特に、2000年に始めた「アドバンシング物理研究会」(京都・和歌山)での活動は英語教材の翻訳や生徒の集めた公開講座の実践なども含め濃密な物理教育の研究の場であり、また活動を通して全国の多くの物理教員の奮闘を知る機会も与えてくれました。今回の講演では、これら研究会で活動してきた内容を紹介すると共に、2006、09年に行った物理実験調査の結果を踏まえ、現状の物理教育が抱えている困難さを私なりに分析し、これから物理教育を担っていくみなさんの励みになるような話ができたらと思います。
第7回講師 今和泉卓也
「1人1台端末」の時代、物理ではどのような新たな授業が考えられるのだろうか。恐らく“共有しやすさ”だけにとどまっていてはいけないだろう。そもそも物理の場合、オフラインであっても、例えば多数のデータを解析するなど、端末が活躍できる場面は多い。「物理らしいアプローチ」を意識した様々な実践例を紹介したうえで、これから私たちが作り上げていくであろう「1人1台端末」授業のヒントになるような視点を系統立てて伝えられればと思っている。
第8回講師 塚本浩司
1963年に板倉聖宣によって提唱された仮説実験授業は,〈学習者がもつ日常的概念を克服するための一連の「予想-実験」〉によって構成された授業書によって具体化されている。これは1980年頃から米国を中心に台頭したPER(Physics Education Research)ベースの教育研究と類似点が多い。近年,日本でもPER研究が実践・報告されるようになったことにともない,前駆的な研究として仮説実験授業が言及されることもあるようにはなった。しかしその評価は「先駆的ではあったが今はもう古い」といったものにとどまっているように思われる。しかし私はまったくそのように考えていない。仮説実験授業とPER研究との類似点と相違点を指摘しながら,「私がなぜそのように考えているのか」について述べたい。
第9回講師 勝田仁之
物理学の理解には、問題や課題を実際に解くことが必須である。講義を聴く、教科書を読むだけでは、理解は困難であろう。一方で、問題が解けることは、必ずしも理解していることを意味しない。物理教育研究では( FCI などの)概念調査の結果、典型的な演習問題が解ける生徒や学生の多くが、「物体には運動する向きに力がはたらく」といった誤概念を抱えていることが明らかとなった。では、物理教育において、なぜ問題を扱い、どのような問題を課し、どのように問題を扱えばよいのだろうか。授業・演習・実験・宿題・自学 … 場面によっても異なるだろう。本講演では物理教育における「課題・問題」の果たす役割を改めて考え直し、具体的な授業づくりと併せて議論したい。
第10回講師 石井登志夫
小学校の理科専科を担当していた玉田泰太郎氏は,独特の学習方法を編み出し,理科教育関係者の間に大きなインパクトを与えました。1970年代のことです。私が教職に就く前に玉田氏は退職されていましたが,学生時代に手に取った月刊誌『理科教室』に掲載された実践記録を読んで衝撃を受けました。玉田氏の授業では,先生は課題を出した後は説明をせず,子どもたちが次々に発言をし,子どもたちが論点を明確にしていくのです。先生が実験を見せると,そこでも説明はせず,子どもたちはその実験からわかったことを記述します。それを子どもたちが読み上げていくのですが,その授業のねらいに肉薄する内容になっており,先生が補足する必要はほとんどないのです。どうしたらこんな授業が出来るのでしょう。教師になって玉田氏の所属していた科教協に入会したところ,幸いにして私の周辺には玉田氏に学んで実践をしている人も多く,三井澄雄氏がまとめた玉田氏の授業を理論的にまとめた冊子をいただいたりしたので,具体的に学ぶことができました。まず1時間の授業を成立させるためには,単元の授業プランの作成が重要であることが分かりました。単元の到達目標を決め,その目標に達するまでの教材構成を考え,一時間ごとの授業のねらいを設定し,そのねらいに達するための課題を準備します。課題について子どもたちが考え,発言し,論点を理解してから実験を見せれば,その結果を見ただけで子どもたちがその日の授業のねらいを理解できるようになっていなければなりません(玉田氏の授業方式を「到達目標学習課題方式」と名付けたのは三井氏です)。授業プランを作るのは大変ですが,やりがいのある作業です。もう一つ重要なのは,子どもたちに考えを書かせることです。文章で書かせることで,子どもたちが自分の脳内を整理し,発言しやすくなります。私が授業記録を読んで子どもたちが次々に発言していたと思っていたのは,書いた文章を読んでいたのだということが分かりました。自分も実践してみて,この書かせるという作業が思った以上に重要であることが分かってきました。また,ICTが授業の中で活用されることが多くなってきた昨今ですが,多くの学校でMetaMoJiだとか,ロイロノートのような授業支援アプリが使われていることと思います。「到達目標学習課題方式」はこれらのアプリの使用とも親和性が高いことが分かってきました。これからの時代,この方式の実践者はもっともっと増えていくのではないかと思っています。