渡良瀬遊水地について 2021.3.31
総面積3、300 ha の渡良瀬遊水地は、約半分がヨシ原に覆われ、治水や利水と環境保全の機能を持つ日本最大の遊水地です。本州以南で最大の湿地には180種以上の絶滅危惧種を含む、植物1,000種、野鳥260種、昆虫1,700種など多様な生き物が見られます。
2012年(平成24年)にはラムサール条約湿地に登録。そして2020年(令和2年)夏には、第2調節池内の人工巣塔で2羽のコウノトリが巣立ちました。これは2005年(平成17年)に兵庫県でコウノトリの野生復帰をめざし放鳥されて以来、東日本初の快挙でした。
1. 第2調節池と季節の風景
広さ500 haの第2調節池は、南を渡良瀬川、西を巴波川、東は思川に囲まれています。湿地の保全・再生が進み、ヨシ原と水辺には四季折々の豊かな自然の中で野鳥や植物が楽しめます。
さくら堤にある生井さくらづつみ公園は、ヨシ灯りが行なわれ、冬はヨシ原越しに秀麗な富士山が望める”関東冨士見百景”の1つです。2018年(平成30年)に設置された人工巣塔では、2020年(令和2年)7月にコウノトリ2羽が巣立ちました。
2. 渡良瀬遊水地の機能とはたらき
2019年(令和元年)10月の台風19号では、渡良瀬遊水地は過去最大の1.6億立方mの洪水を貯留し、利根川などの河川水位の上昇を抑え、首都圏の浸水被害を防ぎました。
谷中湖は、洪水を貯める治水機能に加え、64万人分の用水を貯め首都圏に供給する利水機能があります。またヨットやカヌーなどの水上スポーツも盛んに行なわれています。
2010年(平成22年)の湿地再生基本計画に策定された基づき、良好な環境維持と治水機能の向上を図りながら、環境悪化した場所を掘削することで、様々な実験や多様な動植物の生息場の保全・再生が進んでいます。 これまで15カ所、合計84.4 haが掘削・再生され,今後も継続されます。
3. 歴史遺産-渡良瀬遊水地
渡良瀬遊水地のある地域は、渡良瀬川に巴波川や思川などが合流する低湿な後背湿地が広がり、さらに下流の利根川の増水にも影響を受ける場所で水害が絶えない場所でした。 渡良瀬川の上流には足尾鉱山があり、明治の初めに良質な鉱脈が発見され日本一の産出量を誇る銅山として、その製品は外国にも輸出され外貨獲得に貢献しました。しかし銅の採掘により廃棄された銅成分を含む土砂・石が、洪水により渡良瀬川を流れ下る「鉱毒被害」が1887年(明治20年)頃から顕著になり、その後頻発した渡良瀬川の洪水で、下流域まで広範囲に鉱毒被害が拡大します。
鉱毒被害民達による「押し出し(請願運動)」や、田中正造による「天皇直訴」などが続き、足尾鉱毒問題が大きな社会問題となり国会で上げられました。 1902年(明治25年)、国の鉱毒調査会は渡良瀬川改修計画の中で遊水地を作ることにより水害を防ぐと共に、鉱毒被害も抑えることを報告します。 これを受け栃木県は谷中村の土地買収に着手、1907年(明治30年)には強制執行で谷中村残留民の家屋が取り壊され、最盛期に人口2,527人、377戸あった谷中村も廃村になりました。
谷中湖西側に広がる旧谷中村の家屋や神社跡地には、土盛りされた家屋の基礎部分(水屋の跡など)が残され当時の村の様子を見ることができます。
1884年(明治17年)直利橋製錬分工場として開設。当時の先端技術を導入し生産量が飛躍的に増加した。
今も渡良瀬川上流部の山々には、製錬所から排出される亜硫酸ガスなどによる煙害の跡が残されている。
4. 遊水地化・調整池化・貯水池化
渡良瀬遊水地の遊水地化は1922年(大正11年)に完成しました。 周囲は周囲提が土盛りされ、渡良瀬川の流路変更や思川の直線化などの改修工事もこの時までに完成しました。
昭和初期の台風被害や戦後のカスリーン台風の大洪水を踏まえ、遊水地の治水能力の向上のため、各河川と遊水地を仕切るい囲ぎょう提を作る調整池化事業が1963年(昭和38年)に着手されました。第1調節池は1970年(昭和45年)、第2調節池は1972年(昭和47年)、第3調節池は1997年(平成9年)に完成しました。
また洪水調節や都市部の水不足を補う多目的ダム建設事業として、谷中湖の貯水池が1990年(平成2年)に運用を開始しました。
5. 渡良瀬遊水地湿地保全・再生基本計画
湿地の乾燥化や環境の単純化に対応して、渡良瀬遊水地の保全と利用の基本方針である「グランドデザイン」が2000年(平成12年)に提言されました。2010年(平成22年)には、良好な環境の保全と治水機能向上に配慮した「渡良瀬遊水地 湿地保全・再生基本計画」が策定されました。 この中で第2調節池は”自然環境と遊水地の役割の調和を考えながら、湿地や豊かな自然環境を再生する場”として、外来植物種の増加など環境悪化しているエリアの掘削が進められ、2018年(平成30年)までに約85 haの湿地が再生され、約33 haの浅い池や深い池などの多様な水面が創出されました。
第2調節池の再生された湿地の水面の近くに2018年(平成30年)に設置されたコウノトリの人工巣塔では、設置直後からコウノトリの”ひかる”が巣材を運ぶ姿が見られ、2020年(令和2年)には、鳴門市からやって来た”歌”との間にヒナ2羽が巣立ちました。
6. ラムサール条約湿地登録
ラムサール条約は、水のある豊かな湿地の環境を守るために、湿地の保全とワイズユースを進める地球規模の条約です。渡良瀬遊水地は2012年(平成24年)に条約湿地に登録されました。 日本では52カ所が登録され、世界では2、400カ所以上が登録されて貴重な湿地の環境が守られています。(2020年10月時点)
ラムサール条約では、3つの約束を守ることが求められています。1つ目は、湿地を維持し再生すること。2つ目はワイズユース(賢明な活用)、3つ目は交流・学習の場として活用することです。 この3つの約束を守る様々な活動が続けられています。
保全・再生
掘削土を運ぶダンプの列
ワイズユース
冬でも生きもの豊かなふゆみず田んぼ
交流・学習
小学生の社会科学習
7. 渡良瀬遊水地の植物
渡良瀬遊水地の植生区分を見ると、約半分は湿地特有のイネ科のヨシとオギが占めています。春先3月には広大な遊水地全体に火入れしてヨシ焼きが行なわれます。害虫を駆除し良質なヨシを育てたり、陽当たりを良くして貴重な小さな植物が育つ環境を作っています。 ヨシ焼きが終わるとすぐにヨシの新芽が焼け野原に現れ、急速に成長し5月になると背丈を越えるまでに成長し、一面緑のヨシ原に変わります。
渡良瀬遊水地には、1,000種を超える植物が確認されており、季節毎に美しい花や実を付けます。 これらの中には貴重な絶滅危惧種も64種含まれます。 春はトネハナヤスリやノウルシ、夏はハンゲショウ、タコノアシやエゾミソハギ、初秋には渡良瀬の名が付いたワタラセツリフネソウがピンクの花を付け、イヌセンブリやカンエンガヤツリなども見られます。
8. 野鳥の宝庫 渡良瀬遊水地
広大な湿地とヨシ原がある遊水地には、沢山の野鳥も集まります。 合計263種の野鳥が確認され、その中には58種の絶滅危惧種が含まれています。 春には南からオオヨシキリやコヨシキリなどがやって来て、賑やかにヨシ原で子育てします。 夏の終わりには、南に帰る大群のツバメ達がヨシ原に“ねぐら入り”し休息します。 冬にはチュウヒ、ハイイロチュウヒ、ノスリやコミミズク、池の水面には沢山のマガモ、ヨシガモ、カンムリカイツブリなどが見られます。
そしてコウノトリが第2調節池の人工巣塔で子育てします。
9. 渡良瀬遊水地の昆虫・魚類など
遊水地では約1,700種の昆虫や45種の魚も確認されています。 昆虫の中には、ワタラセハンミョウモドキ、アオヘリアオムシ、オオモノサシトンボ、オオキトンボ、タガメやミズスマシなどの絶滅危惧種62種が含まれます。空を舞うチョウ、トンボ、テントウムシ、バッタ類、地表に潜む多くの甲虫類もいます。 水中にはオオタナゴやモツゴなどの多くの在来種の魚やオオクチバスやブルーギルなどの外来種の魚もいます。
また両性類のカエルも多く確認されています。春先にはニホンアカガエルの卵塊が湿地の止水面に数多く見られます。 初夏にはトウキョウダルマガエルが目につきます。
10. コウノトリの巣立ち
2020年夏には、野田市で生まれた父”ひかる”と約600km離れた鳴門市からやって来た母”歌”のカップルの間に生まれた”わたる(♂)”と”ゆう(♀)”が巣立ちました。”ひかる”と”歌”は、仲良く力を合わせて4月の産卵から巣立ちまでの約3か月、卵を温めそして孵化後は毎日餌を運び続けました。
”歌”はその後事故で脚を骨折し亡くなり、渡良瀬遊水地コウノトリ交流館内に飾られた剥製でしかその美しい姿は見れませんが、野田市生まれの”レイ”が役割を引き継いでくれました。 これからは、ひかるファミリーを中心により多くのコウノトリが渡良瀬遊水地や周辺の空に優雅に舞う姿を見れると思います。
皆さんも応援して下さい。