更新日2025/9/16
難しそうなことは、誰もやりたがりません。
そのため、簡単でおいしいコーヒーを追求しています。
当店の豆を使用した検証に基づく、おさぼ珈琲の独自の見解です。
新たな知見を得た際には、加筆や修正を行います。
コーヒーには、わからないことが多いです。
抽出方法の簡易説明画像&動画はこちら トップページ最下部→ ホーム
【目的】
コーヒー抽出が初めての方でも、低コストで簡単にご家庭でおいしいコーヒーをお楽しみいただけるようにします。
コーヒー豆の違いによる「香気成分による味(香味)」の違いを認識できるようにします。
抽出技術の差による味のブレを減らし、店舗で試飲した味を再現できるようにします。
【必要なもの】
※細挽きにするため味がしっかり出ますので、生焼けや焦げすぎていないコーヒー豆の使用してください。
① 豆から挽く場合はコーヒーミル(※香気成分は粉にすると非常に早く損なわれるので、挽きたてでの抽出をおすすめします。100均の500円ミルや電動ミルの最安価モデルで十分です)
②ケトルなどお湯を沸かせるもの
③耐熱計量カップのようなもの(500ccの計量カップなら3杯分まで対応可能です)
④竹べらやスプーンのようなもの
⑤円錐フィルター(成分の透過性が良いと感じられるので、CAFEC製をおすすめします)
⑥ 円錐ドリッパーなど、円錐フィルターを保持できるもの(ペットボトルの上部でも代用可能です)
⑦濾過したコーヒーを受けるコーヒーサーバーやコップ
⑧料理用温度計(デジタルタイプをおすすめします)
⑨タイマー(スマホのタイマーで十分です)
⑩クッキングスケールなど秤
【当店での1杯分の豆とお湯の量】
コーヒー豆:10g
お湯:120cc~130cc(完成時には100ccになります)
2杯、3杯、4杯分の場合は、それぞれ2倍、3倍、4倍の量にします。
濃くしたい場合は、コーヒー豆を1gずつ増やして調整します。
【抽出手順】
① 沸かしたお湯を耐熱計量カップなどに必要な分量注ぎます。
② お湯が冷めるのを待つ間に、コーヒー豆を細挽きにします。
・細挽きの目安:フジローヤル電動ミル設定1~2、プロペラ式電動ミルで10gを十数秒、手動ミルは最小~3クリック程度
・きな粉のようなエスプレッソ用の挽き目よりやや粗めの細挽きで十分です。
③お湯の温度が72℃~74℃程度になったら、挽いたコーヒー豆をお湯に入れます。
・温度が高いと苦味が出やすくなり、香味が早く揮発します。
・お湯を多くするとお湯が冷めにくくなるので、開始温度を低めにします。
・常温の粉での抽出を想定しているので、粉が冷えている場合は開始温度を高めにします。
ここから時間計測を開始します!
④ スプーンなどで1分間、ゆっくりと攪拌し続けます(適度に右回転と左回転を切り替えながら)。
・攪拌の目的は粉と気泡を切り離して、粉とお湯を接触させて成分の流出を促すことです。
・粉が浸ったら3~5秒で1回転程度のゆっくりな攪拌で良いです。
・抽出不足を防ぐためには、攪拌前に粉を平面にならしてください。
(https://taittsuu.com/users/sabo10dar/status/53468943)
・粉が多い場合や、気泡の発生が多い場合は、まず浮いている粉層を重点的に攪拌してください。
・粉が気泡に包まれた状態ではお湯に成分が流出しないので抽出不足なります。
・粉が吸水すると沈殿するようになります。
・沈殿した粉は成分が流出しやすい状態なので攪拌しすぎると、苦味や詰まりの原因になります。
(上層攪拌 https://taittsuu.com/users/sabo10dar/status/60901532)
・攪拌が早すぎると対流熱伝導率が高まり、粉への加熱が早くなるため、香味が飛んだり、刺激的な苦味が出ることがあります。
・粉を加熱しすぎて微粒子が流出しすぎると、濾過で詰まりの原因となり、香気成分が粉層とフィルターを透過できなくなり香味が減ります。
・攪拌が非常に少ないと、抽出不足となり酸味寄りで香味薄めになります。
⑤ 1分程度経過したら、最後に手早く2~3回転攪拌して沈殿した粉をお湯全体に巻き上げてからドリッパーに注ぎます。
・一度で注げない量の場合は、まずフィルターの満杯まで入れ、半分程度落ちたら残りを注ぎます。
・粉を巻き上げないと、早く粉が堆積してフィルターが詰まり、香味が減ります。
⑥ ドリッパーからお湯が全て落ちきるか、3分程度で抽出を終了します。
・粉が細かく、抽出時間が長すぎると、香味が薄く苦くなることがあります。粉の量を減らしたり、挽き目を少し粗くしてください。
・粉が粗く、抽出時間が短すぎると、香味が薄く酸っぱくなることがあります。攪拌(浸漬)時間を30秒長くしたり、挽き目を少し細かくしてください。
⑦ 抽出直後のコーヒーは成分が分離しているので、軽く攪拌してからお召し上がりください
・時間が経つと苦味成分は沈殿し、酸味成分は上澄みに残り、香気成分は揮発します。
・濃すぎると感じた場合は、お湯で割ったり、最初から多めのお湯を使って薄めに抽出してください。
【補足】
・開始温度、粉とお湯の量、挽きの粗さ、攪拌、浸漬時間、濾過スピードを調整することで、抽出をコントロールするという考え方です。
・粉が粗すぎたりお湯の温度が低すぎると成分の流出が遅くなり、香味が薄く、酸っぱくなります。
・粉が細かすぎたりお湯の温度が高すぎると香味の揮発が早く、フィルターも目詰まりしやすいので、香味が薄く、苦くなります。
・72℃ではちょうど飲みやすい温度のコーヒーが出来上がります。熱めがお好みの方は、カップにお湯を満杯まで注いでカップをしっかり温めるか、濃い目に抽出してお湯で割ってください。濃い目に抽出する場合は、お湯の量を減らしたり、粉を増やしたりする際、お湯の温度を少し高めにして熱量不足を補ってください。
・気温が高い場合や、お湯の量が増えると、お湯が冷めにくくなり、1杯の場合よりも高温で抽出されます。その場合は、お湯の温度を少し下げてください。完成時の温度を常に一定にするイメージです(参考:2杯の場合は71~69℃)。気温が低い場合は、お湯の温度を少し上げてください。
・攪拌に使用する計量カップなどがガラスや陶器の場合、熱伝導が良いため、冷えた状態で使用すると抽出温度が下がりやすくなります。その場合は、お湯の温度を少し上げてください。当店では耐熱プラスチックのものを使用しています。
・電動ミルで高速粉砕すると、摩擦熱により粉の温度が上がります。
・豆を冷凍や冷蔵で保管している場合、豆の温度が低くなります。お湯の開始温度を少し上げる必要があるかもしれません。
・アイスコーヒーにする場合は、氷で薄まるため、粉の量を多めにしてください。抽出後に氷を入れたカップに注ぐと、濃い状態から変化する味わいを楽しめます。72℃なら低温抽出なので、氷もそれほど溶けません。
・低温抽出のため、成分の変化が遅く、1時間経過しても問題なくおいしく飲めると思います。セラミックマグなどに入れておけば、かなり長持ちします。多めに抽出して、半分を飲んで残りを冷蔵庫でアイスコーヒーにしたり、製氷機で高濃度コーヒー氷にすることもできます。
・抽出したコーヒーに2~3%程度のゼラチンを溶かして冷蔵庫で冷やせば、豆の香りを保ったコーヒーゼリーが作れます。
・水出しの場合は、水を使って同様に攪拌した後、4~6時間冷蔵庫で放置します。その後、濾過して完成です。
・扇形ドリッパーでも抽出可能ですが、円錐ドリッパーに比べると濾過が遅い場合があります。攪拌時間を短くし、早めに濾過すると良いです。
書籍からの情報や、さまざまな抽出を試した経験則に基づいています。
コーヒーの美味しさ成分を大まかに「クロロゲン酸」「香気成分」「カラメル」「メラノイジン」と捉えています。
これらは生豆由来の成分や、焙煎中に起こる「メイラード反応」などによって作られる成分だと考えています。
焙煎の進行具合によって、それぞれの成分の含有量が異なります。
抽出とは、粉に熱を与えて成分を切り離し、濾過によって一部の成分を取り除いているにすぎないと考えています。
粉に与える熱量とフィルターの濾過能力によって、抽出液に含まれる各成分濃度が変わり、味が変わります。
【クロロゲン酸】
植物が持つポリフェノールです。
生豆に含まれるクロロゲン酸は渋味の物質で、焙煎で生じるクロロゲン酸ラクトン類はコーヒーらしい苦味の物質です。
クロロゲン酸ラクトン類が加水分解されると酸っぱい物質になるようです。
クロロゲン酸ラクトン類は中煎りまで増加し、深煎りに向かって減少していくようです。
【香気成分】
有機酸、脂肪酸、揮発する性質を持つ物質です。
豆、粉、抽出中、コーヒーから揮発する甘いような複雑な良い香りなどです。
水に溶けやすく、コーヒー内に存在している状態で飲むと、揮発する際に果実感、甘味、複雑な味わいを感じるようです。
味覚と嗅覚は共感覚のため、香りを味の一部として認識できていると考えています。
人間は嗅覚よりも味覚が発達しており、鼻先香よりも口中香(レトロネイザルアロマ)で感じ取ったほうが多くの情報を得られるようです。
豆よりも粉の状態や高温下では揮発が早いようです。
いわゆる蒸らしで粉が膨らんで「良い香り~」と感じるのは、香気成分が大気中に逃げている状態だと考えています。
【カラメル】【メラノイジン】
コーヒー豆の糖類などが焙煎で変化した茶褐色~黒色の物質です。
濃度が低いと香ばしく、まろやかな味わい。
濃度が高いと渋く、刺激的な苦味。
これらを流出させるには、「クロロゲン酸」や「香気成分」よりも多くの熱量が必要だと考えています。
濃度が高いと、香気成分よりも味覚が優先的に感じてしまうように思います。
時間が経つとこれらが沈殿し、上澄みには酸っぱく感じる成分が残ります。
フィルターを目詰まりさせる原因の物質とも考えています。
以上の考え方から、
クロロゲン酸の分解を抑え、香気成分の損失を最小限にし、カラメルやメラノイジンを必要な分だけ抽出したコーヒーにしたいと考えました。
そのため、以下の方法を採用しました:
・安価なミルで可能かつ抽出効率の高い細挽き
・味がわかりやすく、分解や揮発を抑える低温
・成分の流出に効率的な浸漬
・成分の流出を促し、加熱を調整する攪拌
これにより、「おさぼ抽出」が生まれました。
ドリップバックをまろやかで味のある感じに抽出するには・・・。
【手順】
①ある程度お湯を冷まします。
②ドリップバッグにお湯を注ぎます。(バッグの上からは溢れないスピードで)
③ドリップバッグがドブ漬けになったらスプーン等でバッグの中の粉をゆっくり攪拌します。(粉と気泡を切り離して、粉とお湯が触れて成分が流出する状態をつくる)
④抽出液の濃さや香りの変化を観察しながら、お好みなところで攪拌をやめてバッグを持ち上げ湯切りをします。
⑤成分が分離しているので出来上がったコーヒーは少し攪拌してからお飲みください。
【補足】
粉になっているので香気成分はほとんど存在しない状態だと考えられます。
カラメルやメラノイジンなど苦味の流出量が味のポイントになります。攪拌を多くすると苦く、攪拌を少なくするとまろやか、高温だと苦く、低温だとまろやかな傾向になるかと思います。
お湯を冷ますのが面倒な場合は、ドリップバッグを冷やしておくと低温で抽出できます。
お湯を何回かに分けて注いで粉を水流で攪拌させながら抽出することと、お湯の中で攪拌して抽出することは効率は違いますがだいたい同じです。
コーヒーの粉が受ける熱量、粉へのお湯の浸透状態、抽出液の飽和状態で成分の流出量が変わりますので「ドリップバッグが浸かるから美味しくない」とも言い切れません。浸けても浸けなくても抽出のコントロールはでき、スプーンは汚れますが浸けて混ぜたほうが簡単だと思います。
焙煎でどれだけ成分が作られたり分解されたりしているか、また、豆の組織がどれだけ膨張しているかによって、焙煎後の味と変化の早さが違うように思います。
抽出後の変化(加水分解・ステイリング)は非常に短時間で起こりますが、豆の保管における加水分解は2週間程度、酸化は意外と遅く2か月程度で味に影響が出ると言われています。
そのため、湿気を吸って加水分解による変化を遅らせることが重要だと考えています。
焙煎後の豆は水分が1%程度になっているため、直後から3日程度は吸湿しやすく、味の変化が非常に早いように感じます。この変化を遅らせることは難しいです。豆の状態にもよりますが、ある程度吸湿すると、その後の変化は緩やかになるように見えます。
豆の状態であっても焙煎直後から炭酸ガス?や香気成分は揮発していきます。抽出時に気化する成分が多すぎると、粉が気泡に包まれてお湯との接触を阻害されて香味の抽出効率が悪くなるようです。焙煎後3日~1週間経過したほうが、気泡が減り、粉とお湯がしっかり接触できるようになるので香味が抽出されやすくなります。
【保管容器について】
透湿性の低い容器に入れて、できるだけ空気を抜いて保管するのが良いと考えられます。
開封ごとに容器内の空気(湿気)が抜けない瓶などでの保管は避けたほうが良いでしょう。また、紫外線の影響も良くないそうなので、遮光性の高い容器がおすすめです。
性能と使いやすさのバランスが良いのは、ジッパー付きのアルミ蒸着袋だと思います。
【冷蔵・冷凍庫での保管について】
冷蔵庫や冷凍庫での保管は、低温で加水分解や酸化を遅らせることができるため、良い方法だと考えられます。
ただし、未開封で長期間(数か月)保管する場合には有効ですが、豆が冷えた状態で開封すると、流入した空気が豆で冷やされて水滴が付着し、かえって吸湿を早めてしまう可能性があります。
冷蔵・冷凍保存する場合は、毎回常温に戻してから開封するか、小分けにしておくのが良いでしょう。そうした対応をせずに毎日飲む場合は、冷蔵・冷凍保存よりも常温保存の方が吸湿を防げるかもしれません。
そもそも、美味しく飲むのであれば長期保管には向いていませんので、1〜2週間程度で飲み切れる量を購入されることをおすすめします。
【補足】
成分の分解によって抽出できる成分は変化していきますが、好きな味は人それぞれですので、ご自身にとって面倒でない方法で管理してください。
豆の吸湿状況によって、抽出時にお湯に沈みやすいか浮くかが変わり、熱の受け方や抽出効率も変わると考えられます。豆の表面に油脂が浮いてくると、抽出で油脂を取り出しやすくなると思いますので、その時の味が好きな方は、しばらく豆を寝かせたほうが良いかもしれません。
カラメルやメラノイジンによる苦味は、時間が経っても変化しないのではないかと考えられます。
【水の選び方】
浄水器を通した水やミネラルウォーターを使うと、コーヒーの香味や口当たりが良くなるように感じます。浄水器の選び方は、人それぞれの考え方やこだわりによって異なります。
また、水の硬度によっても違いが出ます。硬水は軟水に比べて、わずかに苦味を感じるため、苦い仕上がりになる傾向があるかと思います。
【紙フィルターについて】
紙フィルターは、メーカーや商品によって厚みや目の粗さが異なり、それが香味の豊かさや、酸味、苦味の出方に大きく影響します。
目に見えてろ過スピードが変わったり、除去される成分が変わります。当店では、色々と試した結果、三洋産業(CAFEC)のフィルターが最も香味豊かに仕上がると感じました。
紙が薄く目の粗いフィルターの方が透過性が高く、香気成分が除去されにくい傾向があります。しかし、紙より目が粗い金属フィルターなどの場合は苦味物質が過剰に透過されてしまい、その味しか分からなくなるように感じます。フィルターも、お好みの味わいや抽出条件に合わせて選んでいく要素のひとつです。
【紙フィルターのタイプ(漂白・無漂白) 】
紙フィルターには、茶色い無漂白のものと、白い漂白のものがあります。
一般的に漂白フィルターは安全性が高いとされている酸素漂白が施されていて、フィルター自体の香りがほとんどないです。
無漂白フィルターは商品によっては木の香りや紙の香りが強く残っており、それがコーヒーに抽出されてしまうことがあります。フィルターを使用する前に熱湯を注いで洗い流せば、紙の香りは軽減できますが、コーヒーの香味を重視する場合は、漂白フィルターをおすすめします。
標準の「おさぼ抽出」と同じ手順で淹れても、香味が少なく、酸っぱくなる場合は、当店の挽き目より粉が粗くて抽出不足になっている(粉の中に成分が残っている)と考えられます。
その場合は、
より細かく挽いて抽出効率を高める。
粗さは変えずに、浸漬や攪拌を長くして成分の流出を増やす。
また、香味が少なく、苦くなっている場合は、微粒子でフィルターが詰まったり、堆積した粉の層を香気成分が透過できていないと考えられます。
その場合は、
より粗くしたり、フィルターを変更して成分の透過性を良くする。
粗さは変えずに、浸漬や攪拌を短くして微粒子の流出を減らす。
といった調整が必要になるかと思います。
各成分の流出量、フィルターの濾過能力、香気成分の揮発、微粒子によるフィルター目詰まりの発生を総合的考えて抽出を設計する必要があります。
【粗挽きの場合の問題】
粉を粗く挽くと、抽出不足になりやすいです。粉の内部に水分が浸透して成分を溶解・流出させるのに時間がかかるため、蒸らしや浸漬を長くする必要があります。
蒸らしの後の抽出で粉の内部の成分を残さないようにするには長時間抽出が必要です。しかし、長時間抽出すると、香気成分の揮発が進んで平凡な味になったり、粉を加熱しすぎると苦味が出すぎたりすることがあります。
成分の流出量が少ない場合は、単純に粉の量を増やす方法もありますが、粉の層が厚くなり下層はより圧縮されるので透過性が低くなります。
粗挽きで粉の大きさを均一にして抽出効率を均一にするには、高性能なコーヒーミルも必要になります。
【細挽きの場合の問題】
エスプレッソくらい(きな粉くらい)細かく挽くと、透過性が問題になってきます。
最小設定の細挽きと1段階粗くしたものをおさぼ抽出後に比較(https://taittsuu.com/users/sabo10dar/status/49344506)
細かすぎると、微細な粉の集合部分がドロドロになって水分を含んだ状態で濾過が終わり、そこに水分と共に香気成分が残ってしまうようです。粗い粉の内部に香気成分が残るのと同じで、抽出不足となり、香味が少なく感じられます。
微粒子の流出も増えて、フィルター目詰まりも発生しやすくなります。
苦味成分の流出も早くなり、それによって苦味が強すぎると味覚が香味を感じとれなくなる可能性もあります。
この場合は、一段階粗くするだけで透過性が良くなり、香味が濃くなったりします。粗くして酸っぱくなりすぎる場合は、抽出不足になっているので、蒸らしや抽出時間を長くしてください。詰まりの原因になる微細な粉を除去するという方法もありますが、粉が減るため、結果的に抽出される成分が減るかもしれません。
超細挽きの挽きたてで余すことなくしっかり香味抽出したい場合は、濾過で圧力や吸引力が働く、サイフォンやエアロプレスなどが良いかと思います。
ただし、高温抽出の場合は苦くなったり香気成分の揮発が早くなります。
【当店の挽き目と豆設計】
当店の細挽きはフジローヤルのR-440で設定1~2です。R-220みるっこでも1~2です。(エスプレッソ非対応の臼タイプ)
挽いた粉の参考タイーツ(https://taittsuu.com/users/sabo10dar/status/49083224)
当店の豆は、豆特有の香気成分を内部に残すために、加熱を最低限に抑えており、市販品のような刺激的な苦い成分を多く作っていません。そのため、細挽きにしても刺激的な苦味はすぐに出ないかと思います。(抽出不足になると酸味感を感じやすいです。)
当店は、「コーヒーの味はどこに行ってもほぼ同じ、豆によって本当に味が違うのか」という疑問が出発点なので、豆特有の香気成分を多くする方針をとっています。
コーヒーの味を安定させたい、コントロールしたい、不快な味は極力減らしたいということで、抽出をどうしたらよいのか悩まれる方も多いと思います。 何の要素が抽出に影響を与え、味が変わる原因なのかを考えます。
【抽出の要素】
粉の要素
粉の量
挽きの粗さ
粉の吸湿
粉の温度
粉に含まれる気化する成分量
これらは成分の総量と、流出する早さに影響を与えています。
粉以外の要素
気温
ポットのお湯の温度
ポットのお湯の量
お湯を注ぐ高さ
お湯を注ぐ勢い
お湯を注ぐ場所
お湯を注ぐ間隔
フィルターの粗さ
ドリッパーの形状
ドリッパーの材質
これらは、お湯の温度、対流による熱伝導、お湯との接触時間、成分を押し流す力に影響を与えています。
粉に与える熱量が変わると成分の流出量も変わり、それが濾過にも影響を与えて、カップの中のコーヒーの味が変わると考えています。 また、味の成分の一部(香気成分)は徐々に分解、揮発して無くなってしまいます。
【単調な味になる原因】
コーヒーの特徴的な香味や、多くの方が美味しいと感じるような味にするには、上記の要素を適正にして以下の問題が発生しないようにします。
抽出不足 :粉から成分が十分に流出しておらず、香味が薄く酸っぱくなります。
フィルターの目詰まり: 粉から流出した微粒子でフィルターが詰まり、成分がフィルターを透過できなくなり、香味が薄く苦くなります。
粉が熱を受けて、お湯に成分が流出していきますが、フィルターを詰まらせる微粒子の流出量も徐々に増えていきます。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」といった感じです。
この問題の簡単な対策としては以下が考えられます。
粉の量を変更して成分の総量を変える。
挽きの粗さを変更して成分が流出する早さを変える。
【気泡の影響】
粉がお湯と触れると成分の一部が急激に気化して、気泡が発生します。抽出不足は、気泡が粉とお湯との接触を阻害しても起こると考えています。
気泡の発生量は以下によって変わります。
挽きの粗さ
粉に含まれる気化する成分量
お湯の温度
焙煎直後の豆を使うと気泡も多くなりやすく、うまく抽出できないと薄く酸っぱい味になりやすいです。 焙煎後3~5日程度経過した方が、安定して香味を抽出できると思います。
【ドリッパーの影響】
円錐形ドリッパー :濾過が早く、粉とお湯の接触時間が短いです。 扇形より粉の層が厚く、狭くなります。
扇形ドリッパー :濾過が遅く、粉とお湯の接触時間が長いです。 粉の層は浅く、広くなります。
形状は大きく円錐形と扇形に分かれますが、穴の大きさや個数、注いである水量で水圧が変わるので、濾過の早さが変わります。 濾過が早すぎると抽出不足となり、遅すぎるとフィルターが目詰まりしたりします。
粉は吸水すると膨張して、粉と粉の隙間が狭くなり濾過が遅くなります。 細かい粉の層は、それ自体がお湯や成分の透過を妨げます。粉の膨張も考慮した、リブの高いドリッパーを使用すると濾過のスピードは最後まで安定するかもしれません。
濾過の流速が速い場合や粉がお湯の中で攪拌されると、対流によって熱の伝達が早くなり、成分が早く流出します。
粉は吸水すると沈みますが、粒子が小さいものほど早く吸水するので、流速が速いと粉の下層に早く移動してフィルターを詰まらせてしまうかもしれません。
使用するフィルターの厚み、目の粗さも濾過の早さに影響を与えます。
【蒸らしとは何か】
粉は内部がスポンジ状になっており、その壁面に成分が固着しています。 粉は吸水すると膨張し、内部の成分も流出させられるようになります。 抽出前に吸水させて、どこまで粉を膨張させ成分を溶解させておくのか、考え方によって蒸らし時間は変わってくると思います。 細挽きでは粉の内部まですぐにお湯が浸透するので、蒸らしは必要ないかもしれません。 粗挽きであっても、少量ずつお湯を注ぐ場合は蒸らしは必要ないかもしれません。
蒸らし時間が非常に長いと香気成分が揮発してしまう可能性もあります。
蒸らし時間や注ぐ間隔を長めに確保することで、気泡を消失させたり、粉の温度を下げることもできます。
【お湯を注ぐ】
「お湯の温度」「挽きの粗さ」「ドリッパー」はとりあえず決めたとして、どう注ぐかが悩みとなります。 お湯を注ぎ始めてから起こることは、「気泡」「粉の攪拌」「粉の温度上昇」「揮発」「詰まり」です。 抽出中のそれらの発生状況をよく観察して、出来上がったコーヒーの味から次の抽出はどうした方が良いのか、と考えていく必要があります。 何か変更する場合は、1つの要素だけにすると比較しやすいです。
当店としては、「分かりやすく単純に、粉に過剰な熱を与えすぎず、最短でしっかりお湯と触れさせる」という方針で、以下の手順を提案します。出来上がった味を見ながら要素を変更していってください。
☆お湯は3回に分けて注ぐことにします。
中央から外側に向かって、粉全体にお湯がいきわたるように少量注ぎます。
注いだ後に気泡が大量に発生します。 粉の層内部にもお湯が徐々に浸透して気化が起こって粉が膨らんでいきます。粉の膨らみがしぼみだしたら次を注ぎます。
再び中央から外側に向かって、粉全体にお湯がいきわたるように少量注ぎます。
粉の層内部の空洞を崩して、粉を均一に並べ直すイメージです。 気泡が少量出てくると思いますが、粉は吸水しているのであまり動かないと思います。 お湯が落ち切ったら次を注ぎます。
残りのお湯を注ぎ切ります。
お湯がドリッパーに溜まるようなら中央に注ぎ続けます。 お湯がドリッパーに溜まらず落ちるようなら、全体にまんべんなく注ぎます。
出来上がった味の傾向から、香味を濃くするには
薄く酸っぱい場合:粉を細かく、お湯の開始温度を高くする。
薄く苦い場合:粉を粗く、お湯の開始温度を低くする。
ハンドドリップ・プアオーバーで濾過の詰まりを軽減するポイントです。
フィルターに粉を入れたら、粉の偏りやダマを無くすために、ドリッパーをトントントントンと叩いたり揺すったりして振動を与えて、粉を平坦にならすと思います。
その際に過剰に振動を与えてならしすぎると、粉と粉の隙間が詰まりすぎて、濾過で詰まる原因となり、香味が薄くなる可能性があります。
粉と粉の隙間が詰まっていない状態では、粉の層内部にもお湯が浸透しやすくなります。
過剰に振動を与えてならした場合とでは、濾過のスピードに明らかな差があるので、粉の層の詰まりは大きな影響があると考えています。
【詰まらせない均し方】
豆を挽いて粉にダマがある場合は、まず粉を別の容器に入れてトントン叩いたりして振動を与えてダマを解消させます。
その後、フィルターに粉を入れたら、ドリッパーを軽くゆすったり軽く2回程度叩くだけで平坦にならします。
【挽き目を変える】
当然のことですが粗挽きより細挽きが詰まりやすいです。
粉の量が多いと粉の層自体が厚くなるだけでなく、層の下部は圧縮されるので詰まりやすいです。
粉を粗くして詰まり対策をするのも良いですが、抽出不足になっていく可能性があります。
本
旦部幸博 (2016) 『コーヒーの科学―「おいしさ」はどこで生まれるのか』 講談社.
旦部幸博 (2017) 『珈琲の世界史』 講談社.
田口護 (2003) 『田口 護の珈琲大全』 NHK出版.
田口護 (2013) 『田口 護のスペシャルティコーヒー大全 知識編』 NHK出版.
田口護 (2013) 『田口 護のスペシャルティコーヒー大全 技術・実践編』 NHK出版.
三神亮 (2022) 『Coffee Fanatic 三神のスペシャルティコーヒー攻略本―"コーヒー・ファナティクス"(概論/焙煎/抽出)』 文芸社.
ジェームズ・ホフマン (2020) 『ビジュアル スペシャルティコーヒー大辞典 2nd Edition』 日経ジオグラフィック
コロナ・ブックス (2005) 『日本の香り』 平凡社.
光田恵・一 ノ瀬昇・跡部昌彦・長谷博子 (2023) 『今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい香料の本』 日刊工業新聞社.
実業之日本社 (2023) 『知っておいしい オイル辞典』 実業之日本社.
長谷川香料株式会社 (2013) 『香料の科学』 講談社.
ミシェル・フィリポフ (2016) 『脂肪の歴史』 (服部千佳子 訳) 原書房.
ハンナ・ヴェルテン (2014) 『ミルクの歴史』(堤理華 訳) 原書房.
動画
Mill City Roasters® 『Roaster School Online』https://www.youtube.com/watch?v=mnWNIIpJVQQ&list=PLu8VqVhnMNSgPuDBPajMH18zOzieMXJJg
WEB
東邦大学 『香りがストレスを抑制する?不眠ストレスに対するコーヒーアロマの癒し効果 』 https://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/column/019258.html
日本農芸化学会 『カフェイン コーヒーと茶の機能性と新たな展望』 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/59/4/59_590401/_pdf
花王 『ポリフェノール研究1 コーヒークロロゲン酸類』 https://www.kao.com/jp/nutrition/about-cga/
Copyright © 2025 おさぼ珈琲