Research

統計地震学

地震活動の統計的モデリング、統計的予測の手法やその社会実装を行っています。

余震活動のリアルタイム確率予測

ベイズ統計学に基づく余震活動の確率予測手法の開発:

大きな地震の後には、おびただしい数の余震が起こります。余震は通常、本震に比べると一回り小さいことがほとんどですが、それでも大きな余震は被災地に追加的な被害をもたらすことがあります。そのため、余震活動からのリスクを軽減するために、余震活動の確率予測がこれまで行われてきました。私たちは統計的な手法に基づき、迅速に精度の高い予測を行うための方法の開発を行っています。具体的には以下の(1)-(3)を参照ください。

我々の一連の研究は政府の地震調査研究推進本部がまとめた「大地震後の地震活動の見通しに関する情報のあり方」報告書においても、今後の検討課題としても言及されています。具体的な研究成果については、以下を参考にしてください。

研究成果の社会への還元:

国立研究開発法人・防災科学技術研究所と共同で、私たちの開発した方法に基づくリアルタイム予測システムの試験運用を行なってます。2018年の大阪北部地震・胆振地方地震、2019年山形県沖地震の際には、このシステムによって得られた予測結果を政府の地震調査委員会に報告しました。具体的には以下の(4)-(5)を参照ください。

日本科学未来館にて2014/02/19〜2014/09/01の間、私たちの余震活動予測に関する研究紹介が展示されていました。[未来館のホームページ]

(1) 特に本震後一日以内には強い余震が起こる確率が高いため、余震活動の予測を早期に行なうことは防災上非常に重要です。しかしながら本震直後に精度の高い予測をたてることは一般には難しいです。例えば、気象庁は典型的に、本震後一日以上経過してから、予測を行っています。これは本震直後には観測網の地震検出能力を超える数の余震が起こり、多くの余震が観測から漏れてしまうため、部分的なデータしか手に入らないからです。そこで、私たちは観測漏れのあるデータから、実際にはどの程度の数の余震が起こっていたかを推定する統計手法を構築しました。この方法と既存の予測モデル(大森・宇津則)を組み合わせることにより、本震後数時間程度から精度の高い確率予測が可能になりました。この研究成果はScientific Reportsから出版され、読売新聞日刊工業新聞にて紹介されました。

[追記]イタリアの研究グループが2015年のネパール地震(M7.8)の余震活動の予測を行った際に、この論文で提案した手法が用いられました。(https://ingvcps.wordpress.com/2015/05/02/)

(2) また上の研究では、本震後の緊急の予測のために最も単純な余震のモデルである大森・宇津則を用いました。しかしながら余震活動は二次余震などといった複雑な発生パターンを示すので、長い期間で考えると大森・宇津則は必ずしも余震活動を正しく表現しません。そのため様々なタイプの余震の長期的な予測を行うために、前の研究を大森・宇津を一般化したEpidemic Type Aftershock Sequence (ETAS) モデルを用いた方法に拡張しました。そして本震後1日間程度のデータからETASモデルがよく推定できることを明らかにしました。この研究成果はGeophysical Research Lettersから出版されました。

(3) 初期の余震データから予測モデルを推定するには大きな不確定性を伴うため、最も良いパラメータを一つ選んで予測に用いるという従来の予測手法(プラグイン予測)は実際の観測から大きく外れることがあります。そこで余震活動の予測モデルであるETASモデルの推定の不確定性を考慮した予測手法(ベイズ予測)を提案し、予測性能が優位に改善するこを示しました。この研究成果はJournal of Geophysical Research: Solid Earthから出版されました。

(4) これまでの余震活動予測の研究では、気象庁の一元化地震震源カタログのような人の手によって精査された精度の高いデータが用いられることがほとんどでした。しかしながらそのようなカタログは編集に時間がかり、リアルタイムには得ることができないため、実際的な状況下ではリアルタイムに得られるデーのみを用いて、予測を行う必要があります。しかしながらそのようなリアルタイムデータは通常の確定版のデータに比べると様々な点で質が低く、リアルタイムデータからどの程度の精度の予測が可能かどうかは今まで明らかになってきていませんでした。そこで私たちは地震観測を担っている国立研究開発法人・防災科学技術研究所と共同でHi-netの自動処理震源カタログを用いてリアルタイムデータによる余震活動の予測実験を行いました。その結果、Hi-netカタログを用いた予測は(1)日本の標準的なパラメータを用いた予測に比べると優位に予測性能が高く、(2)特に防災上重要な大きな余震の予測においては、気象庁カタログからの予測とほぼ同等の予測性能があるということを明らかにしました。この研究成果はBulletin of the Seismological Society of Americaから出版されました。

(5) 我々はこれまで大きな地震が起こった後に、できるだけ早い段階から余震活動の確率予測を行う手法の開発やその実現可能性の検証を行ってきました。それらの研究をもとに我々は2017年4月からリアルタイム余震活動予測システムの試験運用を防災科学技術研究所にて開始しました。2018年6月の大阪北部の地震(M6.2)や2018年9月の北海道胆振の地震(M6.6)の発生時に、このシステムで得られた余震活動の予測結果は政府地震調査委員会へも報告されました。この研究成果はSeismological Research Lettersから出版されました。

地震の予測最適な観測時間 ≒ 10時間

この論文では将来起こる地震を予測するのに過去の地震の発生履歴のどのような情報が有用であるかを調べました。 特にここでは、現在起こった地震から次に起こる地震までの時間間隔を、直前のある観察時間内に起こった平均発生率を用いて予測する際に、この観察時間をどのように取れば予測が最もうまくいくのか?ということを調べました。 そこで平均発生率と時間間隔との間の相互情報量を最大化するような観察時間が最適であるという基準を用いて、最適な観察時間を決めました。 右の図は様々な地域の地震データに対して、観察時間(横軸)を変えながら相互情報量(縦軸)をプロットした図です。 この図より、相互情報量が共通して約10時間という観察時間にピークを持つ、つまり予測最適な観察時間は共通して約10時間であるということが明らかになりました。この結果は Physical Review Eから出版されました。

地震発生パターンとプレートダイナミクスとの相関

この論文では世界各地の地震の発生パターンを局所変動係数Lvという指標を用いて調べました。 Lvは左上の図のようなバースティー、ランダム、レギュラーといったイベント発生の不規則性の違いを定量的に評価することを可能にします。 下の図は世界各地で起こった地震の時系列のLvを求めた図で、場所により発生パターンが異なっていることが明らかになりました。 さらに、Lvの値がプレート境界の種類に系統的に依存することも明らかにしました。New Journal of Physicsから出版されました。