●開催概要
会場:OkudART (仙台市青葉区国分町1丁目6-15 奥田ビル2F)
会期:2022年9月6日(火) ~ 10月2日(日)
時間:12:00~19:00(最終入場 18:30まで)
休館日:木曜日
入場料:500円(高校生以下無料)
※臨時休館する場合、開館時間が変更になる場合があります。最新の情報をHPで確認のうえ、ご来場ください。
●みどころ
アートの始まりVol,2では、日本美術の始まりをテーマに、埴輪の美を取り上げます。
埴輪は日本独自の造形物であり、シンプルで素朴な造形に日本美術・日本的美意識の萌芽を見て取ることができます。他の考古遺物同様、埴輪も専ら歴史資料として扱われてきましたが、本展では美的視点から埴輪にアプローチし、芸術としての埴輪の魅力をご紹介します。造形的に優れた人物・動物などミュージアムクラスの埴輪、約20点を展示します。
アートとしての埴輪の魅力・価値を見出していただければ幸いです。
-はにわの美-
日本の美術・日本の伝統的美意識は世界の中でも独自なものといえるだろう。
その独自性の萌芽は縄文~古墳時代の美術にすでに見てとることができる。OkudART企画展「アートの始まり」第2弾では、日本のアートの始まりをテーマとし、埴輪の美を取り上げる。埴輪は古墳時代につくられた日本独自の造形物である。埴輪も他の考古遺物同様、専ら歴史資料・学術資料として扱われてきたが、美的視点・現代の視点から見れば芸術性を持つアートでもある。イサムノグチ、前田青邨、土門拳、鳥海青児、川端康成、小林秀雄、白洲正子など多くの芸術家たちが埴輪の美に魅了されてきた。また、海外では日本を代表する古美術のひとつとして高く評価されている。これらのことは、その証といってもよいだろう。埴輪はユニークな造形物である。対候性の低い素焼きの像にも関わらず、古墳の上や周りに団体で立て並べられていたのである。夏は暑く冬は寒い。風が吹き雨も降る。埴輪たちは大変であったろう。そんな埴輪たちが何のためにつくられたのかはハッキリ分かっていないが、美術的視点からみれば、おそらく古墳の被葬者に関わる何らかの記録性やメッセージ性を持って視覚的なプレゼンテーション機能を果たすものだったと考えられる。実用品ではなく、見せる・見られるためにつくられたのだとすれば、それはアートそのものであろう。対候性の低い素材を用いたということは、永続性やモニュメント的意味は求められなかったのかもしれない。古墳という特定の場で時限的に機能する・・・・、まるで現代のインスタレーションである。埴輪は構造的には「輪」つまり円筒であり、土器づくりの延長上にある。その制作技法や素材の制約から、造形は省略化された単純なものとなる。古墳に埴輪を立てることがブームになると需要が増したのであろう、一層その傾向は強まる。ゆる~い・シンプルな表現は、造形的にもユニークであり、世界的にも珍しい。簡素さや素材の魅力を貴ぶ日本的な美意識・日本特有の美をすでに感じさせる。OkudARTの活動は、アート活動そのものであり、新たな価値の発見・創出もそのミッションの一つである。今回の企画では、埴輪を日本美術の原点として再評価し、美的視点から収集された優品の数々を展示する。アートとしての埴輪の魅力・価値を見出していただければ幸いである。
動物埴輪
埴輪といえば人物や動物の埴輪を思い浮かべるが、実は出土する埴輪の殆どは円筒埴輪であり、人物・動物・家・器財などの形象埴輪の出土数は多くない。その中でも、動物の埴輪は特に少ない。動物埴輪には鳥、馬、猪、鹿、犬などがあるが、当時生息していた動物を自由につくったのではなく、古墳に立てられる目的・需要に沿って選択的に造形されている。造形的な基本構造は同じで、4脚動物の場合は細部で種類を区分・表現している。細部が欠損していると、犬なのか鹿なのか仔馬なのか分からない場合もあろう。
動物埴輪の中で圧倒的多数を占めるのは馬の埴輪である。裸馬の例もあるが、多くは様々な馬具で飾り立てられた造形である。おそらく当時、馬は貴重な存在で、農耕などに使うよりもステータスシンボルあるいは財産的な意味があったのだろう。造形の簡略化が進むと、口部は筒抜けの表現となる。No,6は古く、No,5は新しいタイプであることがわかる。鹿、猪の出土例は極めて少なく、犬は稀で数えるしかない。犬と猪はセットで古墳に置かれたと考えられる。狩猟の場面を表現しているのであろう。No,7の猪は簡略化が進み、2脚である。横から見て猪と分かればよかったのかもしれない。鹿は狩猟の対象ともなったであろうが、古来から神の乗り物や使いとされたことから、何らかの意味を持つ特別な存在であったとも考えられる。
人物埴輪
埴輪といえば人物を想うであろう。埴輪たちは団体で古墳に立てられた。古墳の被葬者または関係者を表していると考えられる。基本構造は同じで、みな円筒をベースに大きさや上半身の細部の表現で性別や役割を区分・表現している。土器づくりをベースにした焼物であることが見て取れよう。男は様々な立場・職掌の表現があるが、目立つのは武人姿であろう。女子は種類や変化が少ない。せいぜい所作の違いである。杯を持ったり、手を前に差し出している所作から、何らかの儀式・祭祀の場面を表象しているように思える。
家形埴輪・器財埴輪
人物や動物に先行してつくられたのが家形埴輪、太刀や盾、靫など武器や道具を表現した器財埴輪である。武器や財産・威儀を示すものを表現しているので、古墳の被葬者の権威を示すためか、あるいは被葬者をスピリチュアルに護る意味があったのではないか。造形的には原形から離れたユーモラスなものが多い。抽象彫刻のようでもある。家はムーミン谷の家のようだ。太刀は,かつて消火器形埴輪と呼ばれていた。靫も奴凧のようだが、モデルの実物は矢を入れて背負う矢筒である。土で成形し古墳に立てるという制約から生じた造形なのであろう。