Research
生体分子マシンは、主にタンパク質で構成される巨大で複雑な分子です。このような分子が熱揺らぎの中で構造をダイナミックに変化させて正確に機能するのは、驚異的なことです。この機能発現ダイナミクスとメカニズムを、分子シミュレーションや数理モデリング手法を駆使して解明します。最終的には、解明したメカニズムに基づいて、機能を制御することを目指します。
生体分子マシンが機能する瞬間を分子シミュレーションで見る
"Seeing is believing."
生体分子マシンは、機能する際に大きく動きます。例えば、モータータンパク質は、ATP加水分解エネルギー等を用いて、レールの上を歩いたり、固定子に対して回転したりします。トランスポータータンパク質は、生体膜に対して内側に開いた構造と外側に開いた構造との間で構造変化することで、基質分子を膜の内外へ輸送しています。このような機能する瞬間の動き -機能発現ダイナミクス- を、原子・分子レベルでコンピュータ上に再現して「見る」ことで、そのメカニズムを理解したいと思っています。しかしながら、これは容易なことではありません。数十万原子数以上からなる巨大な系のミリ秒時間スケールの動きをシミュレーションするのは通常の手法では困難です。我々は、動く瞬間を切り出してシミュレーションする手法や、複数原子をまとめて粗視化する手法などを用いて、機能する瞬間の動きを捉えようとしています。
関連研究:
分子モーターF1-ATPaseの回転運動:Okazaki and Hummer PNAS (2013)
トランスポーターNa+/H+ antiporterの基質輸送ダイナミクス:Okazaki et al. Nat. Commun. (2019)
動く瞬間を切り出してシミュレーションするTransition Path Sampling手法:Jung, Okazaki and Hummer J. Chem. Phys. (2017)
Pacsin1による脂質膜曲率誘導・センシング:Mahmood, Noguchi and Okazaki Sci. Rep. (2019)
タンパク質・脂質膜系を記述する粗視化モデルGō-MARTINIの開発:Mahmood, Poma and Okazaki Front. Mol. Bio (2021)
![](https://www.google.com/images/icons/product/drive-32.png)
どの動きが重要なのか、律速過程を数理モデリングで同定する
生体分子マシンは巨大で複雑な分子なので、機能を発現する際の動きで結局どの局所的な動きが重要なのか、言い換えると、何が律速過程なのかを同定することはチャレンジングな問題です。この問題に我々は、数理モデリング手法を応用して取り組んでいます。最尤推定法や交差エントロピー最小化などを用いて反応座標を最適化する手法に基づいて、律速過程の同定を目指しています。
関連研究:
Jung, Okazaki and Hummer J. Chem. Phys. (2017)
律速過程から、機能の制御を目指す
シミュレーションで同定した律速過程に基づいて、機能の制御を目指します。実際に、トランスポーターNa+/H+ antiporterにおいて、同定した律速過程に基づいた変異を施してやることで、その基質輸送速度を向上させることに成功しました。
関連研究:
1分子実験データから数理モデリングで情報を引出す
1分子実験では、分子シミュレーションより解像度こそ落ちますが、機能発現ダイナミクスの情報が得られます。1分子実験の時系列データを用いて、その背後にあるモデル推定に取り組んでいます。例えば、分子モーターの進行方向の時系列データから、化学状態依存の自由エネルギープロファイルを推定する手法を開発しています。また、1分子実験データと分子シミュレーションを統合する試みにも興味があります。
関連研究:
分子シミュレーション技術を生かして、バイオセンサーを創る
培ってきた分子シミュレーション技術を応用して、新規バイオセンサーをデザインします。バイオセンサーは、基質結合に伴って構造変化するタンパク質に蛍光タンパク質をつなげた人工タンパク質です。分子シミュレーションを用いることで、より高性能なバイオセンサーを高効率で創ることを目指しています。
関連研究: