第5回(2025年10月10日(金))
講演者:角田 謙吉 氏(九州大学)
講演タイトル:粒子系に対する静的な揺らぎ
概要:非平衡定常状態は数理物理の問題として様々な文脈の中で研究されている。非平衡定常状態とはカレントは0でないが時間に対して不変な状態であり、相互作用粒子系においては系の定常測度として定義される。非平衡定常状態の解析で難しい問題点として、その明示的な具体形が知られていないことや定常測度が粒子系に対して可逆でないことなどがあげられる。そのため非平衡定常状態の解析は容易ではないが、一般的な手法として対応するdynamicsに対する解析を用いる方法がある。本講演では粒子数密度に対する揺らぎの問題について焦点を当て、境界で流入・流出のある排他過程やGlauber+Kawasaki過程に対してその手法を解説する。
第4回(2025年9月25日(木))
講演者:伊庭 滉基 氏(大阪大学)
講演タイトル:Lévy過程に対する有限局所時間処罰問題
概要:処罰問題とは、元の過程に重みをつけたものを正規化した確率過程の極限分布を考える問題である。本講演では重みとして異なる有限点に対する局所時間の指数関数を採用したレヴィ過程の処罰問題を解説する。直感的には、この重みの下での処罰問題は元の確率過程に「有限点に(局所時間の意味で)行きづらくする」という条件を課すというものとなる。
第3回(2025年6月23日(月))
講演者:北川 潤 氏(ミシガン州立大)
講演タイトル:時間周期branched輸送に関して
概要:Branched輸送問題とはGilbert-Steiner問題から発生した最適化問題であり、コスト関数が凸なモンジュ・カントロビッチ問題と違い、最適輸送経路が測地線上の輸送にならない場合があることが知られている。本講演ではこのbranched輸送問題の、需要と供給が時間周期的に変動する場合への拡張を紹介する。この時間周期branched輸送問題は例えば、植物の葉脈や交通網のモデルとして活用したい訳であるが、どちらも時間帯によって輸送される物質の需要と供給が変動するが、輸送経路自体をその都度再構成するのは非現実的という特性を持つ。よって、このような背景を考慮した上で問題の定式化の一例や解の存在を話す。本講演はC. Mikat (UCLA)との共同研究に基づく。
第2回(2025年5月7日(水))
講演者:田中 優帆 氏(大分大学)
講演タイトル:グラフ上のランダムウォークにおける期待到達時間の解析
概要:グラフ上のシンプルランダムウォークとは,ある頂点にいる粒子が,接続されている隣接頂点へ等確率で移動する離散時間確率過程である.ある頂点からランダムウォークを開始し,特定の頂点に初めて到達するまでに要するステップ数の期待値を期待到達時間という.一般のグラフ上のランダムウォークにおける期待到達時間の明示的な公式の導出は難しく,対称性の高いグラフに関しては期待到達時間の明示的な公式を与えることが可能とされている.しかし,期待到達時間の閉じた公式の導出に関する研究はそう多くない.
本講演では,主にあるCayleyグラフと車輪グラフにおける期待到達時間の研究の結果を中心に話す.ラプラシアン行列を用いた行列方程式を解く手法を用いると,スペクトルグラフ理論の知識をほとんど必要とせず,直接的に期待到達時間の公式を得ることが可能である.その計算過程における,行列方程式の計算行列の分解に用いる手法について説明し,さらに,有効抵抗や全域木との関連についても説明する.
本講演の内容は,以下の文献に基づいている:
・On the average hitting times of the squares of cycles(with Y. Doi, N. Konno, T. Nakamigawa, T. Sakuma, E. Segawa, H. Shinohara, S. Tamura and K. Toyota), Discrete Applied Mathematics 313 (2022) Pages 18-28.
・On the average hitting times of Cay($Z_N,\{+1,+2\}$), Discrete Applied Mathematics 343 (2024), Pages 269-276.
・Number of spanning trees in a wheel graph with two identified vertices via hitting times (with Shunya Tamura), https://arxiv.org/abs/2502.01965
第1回(2025年2月5日(水))
講演者:濱口 雄史 氏(京都大学)
講演タイトル:一般化カップリング法による経路依存型確率微分方程式の弱近似
概要:本講演では、経路依存型確率微分方程式(stochastic functional differential equation; SFDE)のオイラー・丸山スキームによる弱近似について得られた結果を紹介する。本研究の考察対象は、SFDEの弱解に関するDonsker型汎関数中心極限定理、およびその弱近似誤差(弱収束の速さ)のレヴィ・プロホロフ距離に関する定量評価である。本研究では非常に一般的な設定を扱っており、主結果は位相的・定量的に最適な結果である。主結果の証明は、一般化カップリング法と呼ばれる、無限次元マルコフ過程のエルゴ―ド性の研究において用いられてきたアイデアに基づく。これはS(F)DEの近似理論においてはこれまでにない新しい手法である。主結果の応用として、幅広い科学分野に現れる10個の例 (の内のいくつか) において、弱近似の収束の速さの定量評価について得られた結果を紹介する。本講演は関西大学の田口大氏との共同研究(arXiv:2412.18523)に基づく。