Abstract
Nihon University – Dental Innovation, Research, Education,
Clinical practice and Translation
Nihon University – Dental Innovation, Research, Education,
Clinical practice and Translation
☆咀嚼筋痛障害に対する新しい診断アプローチ
松本邦史 日本大学歯学部 歯科放射線学講座
「痛み」という主観的な症状は、ドクターから客観的に捉えられないことが多いです。私は画像診断を専門とする立場から、できる限り「病気を画像で説明したい」と考えています。しかし、「痛み」そのものは画像検査に直接描出されるものではありません。ただし、痛みが存在する以上、何らかの生体内変化が生じている可能性があります。顎関節痛障害においては、痛みに関連する所見がMRIで検出される場合もあります。一方で、顎関節症のうち咀嚼筋痛障害の診断に関しては、現状では画像検査(ほぼ)役に立たないというのが一般的な見解です。それでも、「見えないものは見えるように工夫し、見えても分からないものは数値化する」——これが近年の放射線学における大きな潮流です。もし、痛みのある筋とそうでない筋の間に、画像上あるいは定量的な差異を検出できるようになれば、将来的には咀嚼筋痛障害の診断においても画像診断が有用であるといえる日が来るかもしれません。これは、私自身が長く取り組み続けていきたいと考えている研究テーマです。
☆「需要喚起型社会実装戦略(DDSI)」による社会から医療への顎関節症診療の展望
臼田 頌 慶應義塾大学医学部 歯科・口腔外科学教室
―「恋は盲目」を体験したことはありますか?
このメカニズムは、「こじらせた痛み」とよく似ています.どちらも脳の“能動的な感覚制御”というしくみが関与しており、簡単に言えば“プチ洗脳”された状態です.これを解除する方法は、正しい情報を与えること.つまり、「慢性痛」や「顎関節症」に関する正しい知識の共有がとても重要なのです.「需要喚起型社会実装戦略(DDSI)」は、こうした知識を医療者にとどめず社会に広げ、“プチ洗脳”を事前に防ぐことで、「こじらせた痛み」のない未来を目指す戦略です.この仕組みを知ることは、医療だけでなく日常にも隠れている「プチ洗脳」を自覚でき,新たな気づきをもたらすはずです.ぜひ楽しく学びましょう.
☆歯科衛生士とともに行う顎関節症治療 ー 小児歯科開業医での視点から ー
和気 創 みどり小児歯科
顎関節症の治療は、医療面接、診察、検査で得られた情報をもとに診断を行い、治療計画を立案する。初期治療は運動療法やリスク因子の是正などの保存的治療が主となるため、患者が疾患について理解し、積極的に治療に参加することが重要である。そのため、十分なコミュニケーションと信頼関係の構築が治療効果に影響を及ぼす。
歯科衛生士は、患者との対話を通じて、情報収集や疾患教育、治療への動機づけ、リスク因子の是正指導など、顎関節症治療の多くの場面で重要な役割を果たすことができる。
本講演では、歯科衛生士とともに行う顎関節症治療について、小児歯科開業医に勤務する立場から小児の顎関節症の現状と展望も交えながらお話ししたい。
☆顎関節円板整位手術の適応と実際
高原楠旻 東京科学大学 歯学部顎顔面外科学分野
1980年代に顎関節内病変の画像診断が進歩し、顎関節症の多くで円板前方転位が確認された。Wilkesはこれを変形性顎関節症へ進行する疾患と報告し、円板整位手術が広く行われた。しかし、再発率の高さや、術後の画像検査で円板位置の異常が改善していない患者でも臨床症状が改善していたことから、その適応は大幅に減少した。
下顎後退症患者に対する下顎前方移動術後の進行性下顎頭吸収(PCR)は重要な課題であり、円板転位はPCRの危険因子とされる。近年、円板整位術が下顎頭の形態改善や骨格安定性の向上に寄与することが報告されており、当科では2021年より外科的関節円板整位術を導入している。適応と手術の実際について、症例を提示しながら解説する。
☆睡眠から考える顎関節治療の未来
石山 裕之 東京科学大学歯学部 咬合機能健康科学分野
顎関節症(TMD)は、咀嚼筋や顎関節構造の異常に加え、心理社会的要因や生活習慣など多様な要素が関与する疾患である。慢性化したTMD治療には、身体的評価と心理社会的評価を統合的に捉える二軸評価(Axis I・II)の活用が重要であり、その中でも近年注目されているのが睡眠の質である。睡眠の質の低下は、睡眠時および覚醒時ブラキシズムを助長し、咀嚼筋や顎関節への負荷を増大させ、症状や治療経過に影響することが報告されている。本講演では、睡眠時無呼吸の簡便なスクリーニングを含む睡眠評価の臨床応用を紹介し、睡眠や生活リズムの観点からTMDを多面的に理解し、包括的な治療へ発展させる方向性を展望する。