本研究室では、酸化的条件下における遷移金属触媒を用いた反応に着目し、その簡便かつ効率的な有機合成反応の開発を目指し研究を行っている。
特に、金属触媒によるチイルラジカル、スルフェニルカチオンやチオラートアニオン等の活性種の発生制御を行った有機硫黄化合物の合成方法を調査している。
1.酸化的クロスカップリングによるC-S, S-N, S-S結合の形成反応
従来、ジスルフィドを用いる硫黄置換基の導入反応では、ジスルフィドの2つのスルフィド基の内片方のみしか利用できず、もう片方は無駄になっていた。我々が開発した酸化的条件下における銅触媒による方法では、両方のスルフィド基を有効に利用することができる。さらに、本方法は、ジスルフィドばかりでなく、ジセレ二ドやジテルリドを利用することもでき、加えて、ジスルフィドとアミンもしくはスルフィン酸ナトリウムとのカップリングにも応用することができ、スルフェンアミド、スルフィンアミドやチオスルホナートを合成することができる。
(1) J. Org. Chem. 2007, 72, 1241–1245. (2) Synlett 2007, 1917–1920. (3) J. Org. Chem. 2015, 80, 1764-1770.
2.酸化的条件下における不飽和炭素-炭素結合への硫黄置換基の導入反応
酸化的条件下、銅触媒を用いて、ジスルフィドやチオールを不飽和炭素-炭素結合へ導入する方法を調査している。現在までに、硫黄置換基+酸素もしくはハロゲン(2つの異なる置換基)を位置および立体選択的に付加させる方法を見出している。さらに、スルフィン酸ナトリウムを用いても同様の結果が得られる。
(1)Tetrahedron 2009, 65, 2782–2790. (2)J. Org. Chem. 2006, 71, 7874–7876. (3)Tetrahedron 2014, 70, 1984–1990.(4) J. Org. Chem. 2015, 80, 7797-7802. (5)Tetrahedron 2018, 74, 1454-1460.
3.不飽和炭化水素へのチオールの付加反応
不飽和炭化水素へのチオールの付加反応は、これまで多くの報告例がある。しかしながら、アルケンへのアレーンチオールの付加によるα-ヒドロチオ化や、アルキンへのβ-ジヒドロスルフェニル化の報告は、意外にも少ない。
これらの反応は、硫黄活性種の違いにより起こるため、チイルラジカルやチオラートアニオンの発生を制御する必要性がある。従来の反応は、これらの活性種が生じやすい基質のみで行われてきたが、我々の見出した方法では、亜鉛やニッケル触媒を用いることで、様々なチオールからチイルラジカルやチオラートアニオンの発生を制御し、これらの反応を実行することができる。
(1)Synlett 2018, 29, 2712-2716. (2) Asian J. Org. Chem. 2019, 8, 1468-1471. (3) J. Org. Chem. 2020, 85, 6528-6534. (4) Arkivoc 2021, 2021, 125-137.