当研究室は、主に生体膜を対象とする以下のプロジェクトに取り組んでいます。蛋白質工学や生化学、細胞生物学、生命情報解析等が基本的な研究アプローチですが、最近は他のグループとの共同研究ベースで、大規模データ解析や機械学習&AI、MDシミュレーションも実施しています。
[Project #1] ~ 生体膜解析ツールの開発 ~
細胞やオルガネラを構成する生体膜は、主に脂質分子と膜タンパク質から構成されています。タンパク質とは異なり脂質分子の多くは水に溶けないため、既存の解析技術の多くは生体膜から脂質成分を抽出する必要があります。そのため、生体膜を構成する脂質組成に関する詳細な情報は得られるものの、それらがどのように膜の構造を構成し、膜タンパク質と協働することで、生体膜の機能を発揮しているのかに関する情報は得られません。このような状況を打開するために、私たちのグループは現在、生体膜上に存在する脂質分子をありのままの状態で解析するためのツールを開発しています。
(関連論文) *Nishimura et al., bioRxiv, (2025)
[Project #2] ~ タンパク質-膜結合の予測技術の開発 ~
タンパク質の多くは生体膜と結合することで生理機能を発揮することが知られていますが、これらの膜結合型のタンパク質には、生体膜や脂質分子と結合する脂質結合モジュールが存在します。人工知能AIを用いたタンパク質構造予測技術の急速な進歩により、アミノ酸配列の情報のみから脂質結合モジュールの構造や特徴を予測することが可能になっていますが、それらの予測構造から膜結合能や脂質結合能を予測するレベルにまでにはまだ至っておらず、実際には実験で一つ一つ検証するというのが現状です。私たちのグループは独自の技術を駆使することで、高い精度で膜結合能 & 脂質結合能を予測することを目指しています。
(関連論文) *#Nishimura, #Lazzeri et al., Sci. Adv., 9(25), eadh1281. (2023)
[Project #3] ~ 生体膜恒常性維持機構の解明 ~
生体膜は内と外を区別し、外部環境と異なる空間を作り出すことで生命の誕生に深く関わったと考えられています。実際、地球上に存在する生物の全てが生体膜を有しており、基本的な生命現象に深く関わっています。しかしながら、これらの生体膜はずっと安定に存在している訳ではなく、栄養環境の変化や外的ストレス、老化現象などにより、これらの膜の量や構造が大きく変化することが知られています。また、生体膜の質自体も変化しているのではないかと推察されていますが、その詳細はよく分かっていません。私たちのグループは、この生体膜を介して生じる様々な生命現象を、生体膜上のナノスケールの微小な変化に焦点を当て、”脂質”という観点から理解することに取り組んでいます。
(関連論文) *Nishimura et al EMBO J., 36, 1719-1735 (2017); *Nishimura et al, Molecular Cell, 75, 1043-1057 (2019)